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2-22.退屈な時間とチーズケーキ

2-9話が二個あったので、修正して以降ズレてたナンバリングを直しました


 サリトスたちが脱出し、バドたちが全滅した日から一週間ほど。


 あれから両チームともに、ラヴュリントスには顔をだしていない。

 おかげでちょっと暇だったりするんだけれど。


「ほんと、アイツら以外に窓から侵入って発想がないんだなー……」


 相変わらず正面の入り口を殴ってる連中、カギか何かを探しているのか迷路の薔薇園を探索している連中、モルティオに挑んで全滅してる連中っていうのが多い。


 試すことは悪いことじゃないんだけど、入れ替わり立ち替わり違うチームが同じことしてるのを見るのは、ちょっと飽きてくるぞ。


「まぁ、バドたちが正面玄関を開放するまでの辛抱かなぁ……」

「マスター? なにが辛抱なの?」

「ん? ミーカか」

「いえーす☆ ミーカちゃんでーす☆」


 持ってきた皿をルーマで浮かせつつ、コックスーツのミーカは横ピースしながらキメポーズ。

 どんどん芸達者になっていってるのは気のせいだろうか。


「そういやミツは?」


 ケーキの乗った皿がふわりと動いて俺の前にゆっくりと降りてくるのを見ながら、ミーカに訊ねる。


「御使いサマなら、食堂でミーカちゃん渾身のスイーツを食べてビクンビクンしながら喘いだり身悶えしたりしてるよ☆」

「俺の補佐役生活を楽しんでいるようで何よりだ」


 この際、ミーカの言い回しはまるっと無視である。


「そんなワケでッ!

 マスターから教えてもらったレアチーズケーキってやつを作ってみたんだ☆」


 俺の前に降り立った皿には、ミーカが言う通りクラスト生地の上に、ぷるぷるとしたチーズクリームのフィリングが乗っているタイプのケーキがおいてある。


「お? ソースもあるのか」


 そして、ケーキに掛からないように、だけど見目よく皿の上に赤いソースで線が引かれていた。


「そうだよ☆ マスターの世界の果物じゃなくて、あえてこの世界のグリゼットって甘酸っぱい木の実で作ってみたんだ☆」

「そいつは楽しみだ。いただくよ」

「おっけー! ……って言いたいんだけど、その前に」

「ん?」


 パチンと指を馴らして服を変えると――日本の女子高生の制服姿に変化した。

 悪魔の羽に悪魔の尻尾を持った、ミニスカJKとかちょっと破壊力高すぎるので勘弁して欲しいところ。


 その姿……二十代後半の俺に、効く……。


「……服を変えるのに意味はあったのか?」

「ないけど、コックコートのままだと暑苦しいっしょ?」


 理性を総動員しつつ、素っ気なく訊ねるとなんとまったく意味がないことが判明した。

 恐るべし、ネザーサキュバス……。


「服装の件は脇に置いて、さっきの質問答えてよねー☆

 マスターってば答えてくれてないからさー☆」

「んんー?」

「ほら、バドくんたちのチームが正面玄関開けたら退屈じゃなくなるってやつ」

「ああ」


 俺はポンっと手を打って、そんな話をしていたのを思い出した。


「バドたちが正面玄関を開けると、恐らくサリトスたちが侵入方法を直接的ではない方法で流すだろうって予想してるんだ」

「サリトスくんたちは、それを教えちゃっていいの?」

「問題ないと判断すると思うぞ。

 何せ、侵入口から正面玄関開放まで、結構時間掛かるしな。

 だけど一斉にこられると、あのダンジョンの特性から兵士たちが急増しかねない――なんて考えてもいるだろうし」

「そっか。それを想定してるから、直接的ではない方法で流すんだね☆

 侵入者が少しずつ増えていく分には問題ないと考えるわけだ☆」

「そういうコト。

 もう一つが、正面玄関の前にたむろする探索者(シーカー)を散らしたいって意図もあると思う」

「あれはねー☆ 確かに、あそこを使える人からするとお邪魔だもんね☆」


 ミーカは納得してくれたようで、ケーキを食べる許可を出してくれた。

 ふと思ったんだけど、別に許可なく食べても良かったんじゃね?


 まぁ、そういうとこで合わせてやるのも、部下と円満にやっていく秘訣かもしれない。知らんけど。


「それじゃあ、いただきまーす」

「はーい、めしあがれー☆」


 俺は差し出されたフォークを受け取り、それでレアチーズケーキの先端を切ってから、刺して口に運んだ。


 なめらかな舌触りのフィリングからは、濃厚ながらクドくないチーズの爽やかな酸味と甘味が広がる。

 単体では濃すぎると感じかねないフィリングの濃厚な味は、サクサクとしたクラスト生地と一緒に口にすれば、ほどよく調和して、あとを残さず消えていく。


「すごいな。今まで食べたレアチーズケーキよりも、美味い」

「ほんと? やったね☆」

「次はソースも一緒にっと……」


 先ほどと同じように、フォークでケーキを切り、切れたとこを刺す。

 そのままツツーっと皿の上を滑らせてソースをつけてから、口に入れる。


 さっきの濃厚な風味を甘酸っぱい――やや酸味が強めな――グリゼットのソースが引き立てる。

 このソース単体だと酸味が強く感じる味だけど、チーズフィリングの味と混ざり合うと丁度良いようになっているみたいだ。


 レアチーズケーキ単体で食べるよりも、後味がサッパリして、あとを引く味になってる。


「うん。いいな、このソース。

 これの味を生かす為に、レモン――柑橘を加えない形でチーズフィリングを作ったんだな」

「そうそう。マスターから教えてもらったやつのは、柑橘を使うのと使わないのとあったからね。

 グリゼットソースの酸味を考えると、柑橘を使ったタイプはちょーっと酸味が強くなりすぎちゃうと思ったんだ☆」

「美味しい。すごいぞミーカ。日に日に上達してるよ」

「やったー☆ マスターと御使いサマとスケスケからのその言葉が嬉しくて仕方ないよー☆」


 本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、ミーカが後ろから抱きついてくる。


「うわッ、ばかッ! 食ってる途中に抱きついてくるなッ、ケーキ落としちゃうって!」

「あわー! ごめんごめん! 落としちゃうのはダメダメ☆

 ちゃんとワタシの味を味わい尽くして欲しいからね☆」


 勢いで抱きついてきたミーカが、慌てて俺から離れる。


 ネザーサキュバスとしては小ぶりでも、人間基準では平均よりやや上なそれを背中に押し当てられたものの、俺の理性は性欲より食欲が勝利した。勝利したんだと思いたい。


 無論、ドキドキはしてる。

 ――してるけど、平静を装うのである。


「マスター、マスター☆

 バドくんたち来たよー?」

「お?」


 俺は平静だ平静だ――と、無心にケーキを口に運んでいると、ミーカがモニタの一つを指差した。


 するとそこには、フロア1へと入っていくバドたちの姿があった。


「んんー?」


 俺が訝しんでいると、バドたち四人はモンスターすら無視する形で、とっとと階段を見つけてフロア2へと降りていく。

 続くフロア2では、足早に――だけど全体を見て回るように歩き、花園を囲う回廊で、足を止めた。


「サリトスたちから、花園の話を聞いたのか?」


 日付が変わるたびに形状の変化する、ローグライクエリアではあるものの、フロア2には必ず花園を囲う回廊が存在するように設定してある。

 気にしなければ何もない回廊だけど、知ってる奴からすれば、重要なポイントなのは確かだ。


 四人は慎重な足取りで花の色を確認しつつ、誰かに見られないように警戒しつつ、回廊を歩いていく。

 該当の花を見つけだすと、素早く封石を見つけ出して道を開き、四人は足早に中へと入っていった。



『綺麗な場所だとは聞いておりましたが、これほどとは』

『しかし、巧妙に隠してあったな……よくフレッドは気づいたよ』

『フレッドだから気づいたんだろ。あるいは、フレッドがサリトスたちと組めたから気づけたってところか』

『ふつうの探索者(シーカー)だったら、調べたいと言ったところで時間の無駄だと聞く耳もたんわいな』


 だいたい正解な雑談をしつつ、四人は花園の螺旋道を進んで、黄金の箱を開封した。


『おれ、☆3の腕輪だ。みんなは?』

『私は☆3の首飾りですね』

『☆4の杖だわいな』

『☆4の本だ』


 お互いの結果に、四人は少し苦笑する。


『見事にオレたちに噛み合わないな。

 まぁ杖以外は、鑑定結果次第だとは思うが』

『杖は――内容によってはコロナちゃんに売ってみてはどうでしょうか?』

『そうわいな。有効に使ってくれるならありがたいわい』

『しっかし、サリトスたちはみんな大当たりだったらしいのは、運の問題かなぁ』

『だと思います。中身がこうも一定しないのは、そういうコトなのでしょう』


 話が一段落したところで、ケーンがアリアドネロープを地面に投げる。


『花園から顔を出すところをほかの連中に見られるのもシャクだし、ここから一度脱出しようぜ』


 ケーンに対して異論は出ることなく、四人は一度ロープを使って脱出した。



「フレイムタンみたいな呪文効果持ったお宝を狙っての挑戦だったのかな?」

「ヴェルテーヌと戦うなら呪文効果のある魔具は便利だしねー☆」


 バドたちは一度全滅してるし、事前準備も兼ねたものなんだろう。


「でも、サリトスくんたちは花園の情報をケーンくんたちにあげてよかったのかな?」

「バドたちなら有効利用するだろうし、情報管理はしっかりしてると判断したんだろうさ」


 実際のところは、バドたちにとっととヴェルテーヌを倒して貰いたかったのかもしれないけどな。


「んー……サリトスくんたちにメリットあるのかな?」

「さぁな。

 ここからじゃダンジョンに来るやつらのコトしか分からないから。

 ダンジョン内のメリットではない政治的、商業的なメリットは読み切れないからな。

 とはいえ、何のメリットもなければやらないだろうし、意味はあるんだろうさ」

「それもそっか☆」


 それに、多少読めない方が、俺としても楽しめるってモンだ。




 ――バドたちが花園へと赴いた日の三日後。


 一度やられたからか、事前準備をしっかりとしてきたバドたちは見事ヴェルテーヌを撃破していた。



 その日を皮切りにして、俺の予想通り、窓から侵入してくる探索者(シーカー)たちがポツポツと出始める。





 そして――


 ようやく、窓からの侵入に気づいた探索者(シーカー)たちを横目に、


 政治的な根回しや、商業的根回しが終わったのか、サリトス、ディアリナ、フレッド、コロナの四人が、堂々と正面玄関から城の中へと入って来るのだった。


ミツ「……はぁ……♪」


アユム「あいつ、本当に幸せそうに食べてるな」

ミーカ「美味しさのあまり、服がはだけちゃう……そんなスイーツを作りたいな☆」

アユム「その瞬間には是非とも立ち会わせてくれ」



次回は、サリトスたちの視点で、城内探索後半戦スタートです。

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[一言] 食戟のミーカ、、、(おい
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