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2-14.『サリトス:地下牢迷宮の攻略』

引っ越し完了で、新居でようやくPCの設置も終わったので、ぼちぼち更新していきたいと思います。

まだまだ落ち着いてはいないので、スローペースになるかと思いますがよろしくお願いします。

     

 その仕掛けは、これまで挑戦ないし攻略してきたダンジョンには存在しなかったものだった。


 スイッチに触れれば扉が開く――その程度なら、多少はあった。

 だが一つ扉を開けると、他が閉まるというようなものはない。


 ましてや、そんな部屋がひたすら連なっているなど、初めて見る。


「この調子だと、そろそろ来るかなぁ……」

「コロナ? 何が来るんだ?」

「リト兄たちはみんな大丈夫なのは分かってるけど、言っておくね。

 ここから先は絶対に、勝手に封石(ふうせき)に触れないで。封石の状況が全員共通してるのならどうにでもなるけど、ちょっとズレたら、たぶんはぐれちゃうよ」


 まるで先を読んだような言い方だが、コロナがここまで強く言うのであれば、相応に何かあるのだろう。

 俺たちはそれぞれにうなずくと、ハートの3と書かれた柱の封石で鉄格子を開けると、次の部屋へと入っていく。


「フレッドさん。今入ってきた扉の柱、こちら側から調べてもらっても?」

「はいよ」


 フレッドは軽い調子で了解して、柱を調べ――やや固い声で結果を口にした。


「……ハートの3って名前は書いてあるが……封石がない……?」


 それはつまり、ここ以外の鉄格子を開けると退路が消えることを意味している。


「やっぱりねぇ……。前後どちらからも行き来できるだけじゃ、仕掛けとして意味ないもんね……」


 どうやら、コロナの言うそろそろ来るとはこういう仕掛けのことだったようだ。


「……でも、これだけじゃないだろうなぁ……」


 そう言って、縦長のこの部屋を見渡す。

 入ってきた鉄格子を合わせて、部屋の中の鉄格子は四つ。


 だが、そのうちの三つは、そもそも柱に名前が書いてあるだけで、封石がついていなかった。


「ここしか開かない……。そして、ここからが本番」


 次の部屋へと入っていくと、そこは十字路になっている。

 だが――


「コロナ……正面、開いてるよ」

「ここの鉄格子がダイヤの2だから、正面はダイヤの3じゃないかな」

「見なくてもわかるのか?」


 驚くディアリナへ、コロナが冷静に答える。

 それに、俺は正面が開いていたこと以上の驚きがあった。


「おっさん。ちょいと、見てくるぜ」


 横でそれを聞いていたフレッドが言葉の通り、正面に向かい、柱だけ見て戻ってくる。


「すごいな、コロナちゃん」


 それだけで、コロナが正解を口にしていたのだと分かった。

 しかし、どうしてコロナは見もしないで、正面の鉄格子の名前が分かったのだろうか。


「なぜだ?」


 それを俺が口にすると、何故かディアリナとフレッドが妙な顔をする。

 俺が思ったことを口にした時、二人はよくこういう顔をするのだが、なぜだろうか。


「リト兄のコトだから、その三文字に――『コロナ、なぜわかったんだ』って言葉が内包されてるんだろうけど……もうちょっと分かりやすくお願いね」

「む」


 ディアリナとフレッドがこういう顔をするようなことを俺が口にすると、コロナはいつもこういう言い回しを前置く。

 そして、だいたいディアリナやフレッドは横で何度もうなずく。


 ……俺は、そんなに分かりづらいことを言っているだろうか?


「それはそれとしてっと。

 ここの仕掛け、封石で開くのは同じ名前の鉄格子全部なんだよ」

「…………そういうコトか」


 コロナの言葉を吟味し、俺は理解を得て一つうなずく。

 だが、ディアリナとフレッドは首を傾げている。


「ハートやダイヤというのが鉄格子の名前だ。数字にはまた別の意味があるのだろう」


 俺が二人にそう説明すると、フレッドは眉を顰めながら、俺に聞き返してくる。


「つまり、ダイヤの鉄格子の封石に触れば、この地下牢にあるダイヤの鉄格子が全部開くってコトか?」

「それじゃあ、数字には何の意味があるんだい?」


 ディアリナがコロナへと視線を向けると、彼女はそれももう分かってるとばかりに笑顔を浮かべた。


「順路じゃないかな。たぶん、どれかしらの最後までたどり着ければ、出口か罠かお宝か……何かしらの用意がしてあるんだと思うよ。

 ただまぁ、仕掛けが仕掛けだから、素直に番号通りに進むのは難しいだろうけど」

「それなら、どの鉄格子を優先で進んで行くか決めておくべきではないか?」

「そうだね。それがいいと思う」


 そうして、簡単な話し合いの末、俺たちはハートの鉄格子を優先で進むことにする。

 特に理由があったわけではないが、最初の鉄格子がハートだったから、出口もハートの可能性があるかもしれない――程度のものだ。


「では、この十字路の先へ行くとしよう」


 俺が告げれば、全員がうなずく。

 この十字路の左右はハートだったが、封石がない。

 つまり、このダイヤの鉄格子を一直線に進むしかなかった。


 次の部屋は正方形の狭い部屋で、やはり前後左右全てに鉄格子がある。そしてこの部屋はどの柱にも封石があった。


「ハート優先ならこれだな」


 入ってきた場所から見て、左の鉄格子。


「なら、それで」


 特に誰からも否があがらなかったので、その鉄格子をくぐる。

 次の部屋は長方形で、入ってきた場所以外の鉄格子が五つもあった。

 そしてハートは鉄格子もない。


 だが、コロナはそこから躊躇わず、入ってきた鉄格子の並びにある一番奥のものを選んだ。


「ここが正解、かな」

「何でそう思うんだい? コロナちゃん」

「行けばわかるよ。だけど行くのはディア姉がこの部屋のマッピングを完了してからだね」


 ここへ来てからも、ディアリナはマッピングを続けている。

 女神の腕輪の機能で地図は描かれていくのだが、この地下牢では、柱のマークまではメモされない。


 ゆえにコロナは絶対に柱のマークとスイッチの有無を含めてメモしておくべきと言っていた。なので、ディアリナは素直にそれらを含めてマッピングをしている。


「よし。お待たせ、書き終えたよ」


 それを合図に、俺たちはコロナが選んだ鉄格子を開いて進む。


 次の部屋は正方形の小さい部屋だ。

 ここでもコロナは躊躇うことなく、入ってきた地点から見て左側の鉄格子へ向かっていく。


 先と同じようにディアリナがメモを終えるのを待ち、先へと進む。


 コロナが選んだ鉄格子の先にあったのは、先ほどの十字路だった。さっき通った時はダイヤだけが開いている状態だったが、今はハートだけが開いている状態になっている。


「やっぱりね」


 コロナは先にここを通った時点で、こういう形になるのを想定していたらしい。


「そうか……。

 前後どちらかにしか封石がない鉄格子がある場合は、同じ部屋であっても入ってきた場所と状況で、行き来可能な場所が変わるのか……」

「リト兄正解。だからこそ、ディア姉にしてもらってるマッピングが重要になってくるんだよ」


 言われて、なるほど――と俺はうなった。

 ディアリナの描く地図にマークと封石の有無が書いてあるのだから、一度通った場所であれば、どういうルートを通るとどこが進めるのか――というのが予測できるようになるわけだ。


「コロナちゃんはすごいな……」

「だろ。あたしの自慢の妹さ」


 十字路を進みながら、フレッドがしみじみ呟くと、ディアリナが胸を張りながら笑う。

 自信満々のディアリナに、コロナはちょっと照れくさそうだ。


「いずれは、コロナなしでもこういう場を乗り越えられるようになりたいものだ」

「そうだな……。アユムのコトだ。この先も、こういう仕掛けを色々と考えてるだろうしな……」

「下手したら分断されて、たった一人でこういう迷路を進まないと行けないとかありそうだねぇ……」


 俺の言葉に、フレッドとディアリナがそれぞれに答える。

 二人の予想は恐らく当たるだろう。俺も似たようなことを予想している。


「ディア姉たちは、そうやって自分たちでちゃんと考えられるんだから大丈夫だよ。

 きっと、ラヴュリントスを攻略していくうちに、こういう仕掛けも自力で解けるようになっていくように、ダンジョンマスターが設定してるだろうしね」

「この状況も、アユムの手のひらの上ってコトかい?」

「あの御仁……どこまで考えてるんだろうねぇ……」

「この仕掛けもまた、アユムの遊技であり、俺たち人間へのメッセージというコトか」


 創造主に頼まれ、ダンジョンマスターとなった異界の神。

 ミツカ・カインと共に何を考えているのやら……。


「漠然とだけど、アユムの――というよりも神様たちが何を考えて、どんなメッセージを伝えたいのか……は、わかるかな」

「本当かい、コロナ?」

「うん。だけど、今は口にしない。まだ予想でしかないし、確証も何にもないから」


 雑談はここまで――そんな様子で、コロナはすぐ側の柱を調べ出す。

 こちらとしても無理に聞き出そうという気はないので、それぞれにまた動き出した。




 そのまましばらくは、スムーズに進んでいたのだが、地下牢の最奥部分だと思われる壁のある凸型の部屋に到着した時に、少し困ったことになった。


「……右の部屋も左の部屋もこちら側から開く鉄格子はなく、中央のここへ戻ってきたが……」

「どこかで間違えちゃったのかな……?」


 うーん……とコロナが眉を顰める。

 そこへ、フレッドとディアリナの声が聞こえてきた。


「ディアリナ嬢ちゃん。ちょっと嬢ちゃんの描いてる地図を見せてくれ」

「いいけど、何かあるのかい?」

「……うーん、ちょっとな……」


 そうして、しばらくフレッドが地図を見、地図上のどこかを指さしながらディアリナに訊ねた。


「今、オレたちがいるのってココだよな?」

「ああ。そうだよ」

「よし」


 フレッドはそううなずくと、コロナのところへとやってくる。


「コロナちゃん。もうひと部屋戻ろう。

 この部屋に入るのに使った鉄格子、表と裏でマークが違う」

「え?」


 言われて、コロナはフレッドのいう鉄格子の柱を確認してうなずいた。


「ほんとだッ! これだったら、この部屋に来たのも間違いじゃない。むしろ正しい順路だと思うッ!」


 そうして引き返すと、直前の部屋でさっきまで通れなかった鉄格子が開いている。


「引き返すことで先に進めるようになる仕掛けかぁ。厄介だね」


 横を歩くディアリナの言葉にうなずいて、俺は補足するように続けた。


「アユムのことだ。ここは問題なく通れたが、次以降は両面でマークの違う鉄格子が増えていくのではないか」

「確かにここは知らなくても引き返そうとすれば進める形さね。最初の一回はヒント兼練習とか、そういうつもりなんだろうね」

「段階を踏ませ、考え方や進み方を発展させようとしてくれているのだろう」


 ラヴュリントスはそういう作りになっているのが、注意深く観察しているとよく分かる。


 こういう仕掛けもその一環なのだろう。


「ディア姉! 裏表のマーク違いもしっかりメモしてね。それさえあれば、わたしが絶対にみんなをゴールに導けるからッ!」


 その宣言通り、コロナの先導で俺たちは少し開けた場所へと出る。

 目の前には木製の普通の扉があり、扉の左側にはアドレス・クリスタルが、右側には立て看板と魔法陣が設置されている。


「アドレス・クリスタルがあるってことは、ここが終点か」

「扉の先には新しいエリアってコトだな」


 腕輪にアドレス・クリスタルの情報を登録してから、魔法陣を調べる。

 看板には、牢屋の入り口へ戻りやり直すのであれば『リトライ』と唱えろと書いてある。


「ハート以外の終点に行きたいなら……ってコトだよね、これ」

「確かに、金色の箱が見えてるしな。取りに行きたくはあるが」


 コロナとフレッドが鉄格子の隙間から見える黄金の箱に、嘆息をしてみせる。


「そういえば、看板に赤い封石ついてるね。触ってみる?」

「おっさんがやるよ」


 フレッドがコロナを制して看板の封石に触れる。


「色は赤から緑になったけれども……」

「何も起きない?」

「みたいなんだよなぁ……」

「なら、わたしも――と」


 続けてコロナが触り、周囲を見渡す。


「あ。あれだ!

 フレッドさん。スタート地点、分かる?」

「ん? んんー……」


 コロナが指さす方向に視線を向けて、フレッドが目を眇める。


「ああ! なんか入り口の方にも魔法陣が見えてる気がする」

「たぶん、向こうからこっちへ転移する為のものじゃないかな」

「おう。オレもそう思うわ。

 旦那とディアリア嬢ちゃんも、この看板に触っておいた方がよさげだぞ」


 言われた通りに看板の封石に触れ、俺も入り口の方を見やった。

 鉄格子の隙間からかろうじて分かる程度だが、確かに入ってきた時にはなかった魔法陣のようなものが見えた。


 この牢屋の手前と奥を転移で行き来できるようになるのはありがたい。


「さて。これでこの地下牢も終わりだろうけど……どうするんだい?

 このまま進むのか、一度戻って別の道も探索するのか」


 ディアリナに問われ、俺は少し思案する。

 肉体的な疲労や、ルーマの消耗はほとんどないのだが、精神的な疲労感は強い。


「皆が帰還せずに進んでも問題ないというのであれば、先に進みたいと思うんだが」


 俺の言葉に、フレッドは木製の扉のドアノブに手を置いた。


「おっさんは問題ないぜ」

「うん。わたしも問題ない」

「あたしも行けるよサリトス」


 三人とも、体力が有り余ってるから発散したいという雰囲気だ。


「わかった。ではもう少し先へ行ってみるコトにしよう」


 俺がそう決断すると、フレッドが慎重に扉を開けるのだった。

アユム「突破されてしまった」

ミツ「突破されてしまいましたねー」


そんなワケで次回はアユム視点で、サリトスたちの探索の続きの予定です


本日は作者の別作品 花修理の少女、ユノ も更新を再開しております。よろしければこちらもよろしくお願い致します。

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