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2-13.ワインセラーと地下牢

  

「おー……サリトスたち。一階の廊下を選んだか」


 それぞれの道の先の様子を伺っていた四人は、最終的に一階に降りた。


 降りた先の廊下は城の北側に位置する使用人用通路で、東棟と西棟を繋ぐ道だ。

 その廊下はすぐ脇に食料庫とワインセラーへ降りる為の階段がある。

 もっとも、そこはモンスターとお宝があるだけの行き止まりだ。


 ちなみにせっかくなので――と、ワインセラーの宝箱は黄金だ。


『む? 何もないワインセラーかと思ったが、こんな物陰に金の箱か』

『良いねぇ……金の箱はだいたいそれなりに高価もんがでてくるしね』


 ☆2~4ワイン専用ガチャボックス。

 赤、白、ロゼ、スパークリングなどなど……。

 地球のスーパーとかで買える安物ワインがメインだけど、ランダムで二本手に入るようになっている。

 このガチャは開けてから七日経つと再び開けられるような仕様だ。


 ちなみに、ワインのパッケージ(エチケット)だけは全部この城仕様の絵柄になっている――というか、酒飲みながら設定してたら、勢いでやっちまった。


 まぁ鑑定されるとラベルもちゃんと元に戻るんだけど。


『金の箱って、何がでてくるかわからないんだよね?』

『おう。だが、方向性は決まってそうなカンジはあるな』


 コロナの問いかけに、フレッドがうなずいた。

 フレッドは方向性があることに気づいているのか。


『サリトス、何が入ってたんだい?』

『これなんだが……』


 箱を開けて中身を取り出したサリトスが、微妙な顔をして三人にそれを見せる。


『ラベルもラベルだけど、色もすごいな……』

『瓶に詰められているから何かの薬とかかな……?』


 サリトスが取り出したのは、挑発的なポーズをした金髪女性の裸婦が描かれたボトルだ。液体のいろは、なんというか――どどめ色?


『見た目はともかく、まずは鑑定しようっと』


 そんな中でも、コロナだけは冷静にボトルに鑑定を掛ける。


===《金髪女性のボトルワイン 稀少度☆☆☆☆》=== 

正体不明のワイン。

真の姿を見るには、封を切るかスペクタクルズが4個必要なようだ。

==========================


『みんな、これワインみたい。

 液体の色は、正体が判明するとちゃんとした色になるんじゃないかな』


 コロナの鑑定結果に、サリトスとディアリナとフレッドは顔を見合わせた。


『二本入ってたんだが……こちらは銀髪の男か……。ラベルの絵柄が違うな』

『つまり二種類ってコトかい。

 自分で飲むにしろ、売って金にするにしろ、どっちも美味しそうな品じゃないか』


 そうして――

 ディアリナは『妖艶な幼女のボトル』と『銀髪女性のボトル』を。

 フレッドは『褐色王子のボトル』と『老練な騎士団長のボトル』を。

 コロナは『銀髪の男のラベル』と『はじらうオネェのボトル』を。


 それぞれが、ゲットした。

 ちなみに全部裸の絵だし、どれもこれも、おおよそワインとは思えないどぎつい色をしている。

 ランダム設定とはいえ、そういう絵と色がでるように設定したのは自分ながら、わりとドン引きだ。


『ダンナとコロナちゃんは同じ絵柄がでたな……これは、鑑定結果は同じになるのか?』

『たぶんそうだと思う。

 実際に同じだったら、このボトルは味見に使うのもいいかもしれないよね』


 コロナの提案に大人たちは笑顔を浮かべる。

 ありゃ、完全に酒飲みの顔だな。


 そんなこんなで、四人はホクホクした顔でワインセラーを出て、一階の廊下に戻ると先へと進む。


 廊下にある扉を一つ一つあけ、中を調べたりモンスターを倒したりする

いつもの光景が続く。


「アユム様、良いのですか? 黄金の箱を大盤振る舞いしてるように見えますけど」

「そりゃ、サリトスたちが今のところ黄金の箱回収率100%だからだろ。

 秘密の花園に、リトルメアの部屋――どちらも何も考えずに入れる場所じゃない」


 そういう意味では、このワインの箱が初めての黄金箱になる探索者(シーカー)も少なくないはずだ。


「それにこの箱も、三つあるルートのうち一階へ降りるルートを取った上で、ワインセラーに寄り道したときだけ見つけるコトができるんだから、必ず全ての探索者(シーカー)が見つけるものでもない」


 とはいえ、情報が共有化されちゃえば、みんな狙いにくるだろうことは予想がつくけどな。


「そう言われると、確かにそうですね。

 本当にアユム様は色々と考えられているのですねぇ……」


 ミツはしみじみとそう呟くけど、俺は完全にゲーム感覚なだけなんだよなー……。


 人気シリーズはもちろん、単発作品でも名作と呼ばれたりするゲームっていうのは、とにかく丁寧な作りなことが多い。

 操作性や各種デザインなどはもちろん、ダンジョンなんかも形やトラップ、モンスターに関するアレコレに、宝箱の配置が計算されているわけだ。

 なら、それをリスペクトするような配置を心がければ、必然こういう形にもなるってもんよ。


 ……ミツには言わないけどな。


「確かにマスターの配置って絶妙ってところあるよね☆

 なんて言うか、危険な目にあったあと、その恐怖感や危機感みたいなのが完全になくなる直前とかに黄金箱あったりするから、探索者(シーカー)のみんなは苦労が報われたって感じちゃうんじゃないかな☆

 こんな配置でお宝を繰り返し供給されてたら、危険=乗り越えればおトクってカンジが染み着いて、みんな嬉々として危機に挑んじゃうかもネ☆」


 ミーカの言葉に、俺は思わず天井を仰ぐ。

 危機と苦難は輝く未来へ向かうために乗り越えるべきものかもしれないけれど、輝く未来に続かない苦難もあるしな……。


「……そういう条件反射が刷り込まれるのは可能な限り避けたいな……」


 何せ、この世界のダンジョンはラヴュリントスだけじゃないんだしな。

 底意地の悪い迷宮とかでてきた時に、探索者(シーカー)が片っ端から迷沼へと沈まれたら困る。


「どこかに一度延々とトラップの続いた上に、最後に強敵が待ち受けてるだけの袋小路でも作るか」

「マスターってばおにちくー☆」


 この世界の連中って単純なのが多いから、そういう刷り込みが多発すると、それが常識になっちゃいそうなんだよな。

 それを逆手にとって、ラヴュリントスの挑戦者に常に考えることを刷り込めれば御の字なんだけど……。


「あ、サリトスさんたち。廊下の最奥にたどり着きましたね」


 ミツの声で、思案に沈んでいた意識が浮上する。


「たどり着いたな。西への最短ルートにして、西への最難関ルートであるこのルートの真骨頂」


 サリトスたちがどういう反応するのか楽しみだ。




『この扉の向こうはメインの廊下になるのだろうが、開かないな』

『なら、この階段を下りて地下に行かないとダメってコトか』


 四人はしばらく扉とその周辺を調べてたけど、結局は封石なども見つからなかったので下へ行くことを決定する。


 降りて行くにつれて、周辺の雰囲気はどんどんと暗くなっていく。


 それもそのハズだ。

 階段の先は地下牢をイメージしたエリアだからな。


 ちなみに、いわゆる拷問器具なんかをオブジェクトとして設置してあるので不気味さがすごい。


 鉄の処女は勿論、三角木馬とか、血を讃えたバスタブとか、オブジェクトとして白骨死体とかも置いてある。

 ……はい。調子に乗ってやりすぎました。もはや雰囲気がハンガリーの某夫人の地下拷問室である。


 ともあれ、ここを越えると東棟の地下に出る。

 出てすぐのところには、スケスケが待機している安全地帯とアドレス・クリスタルがあるので、ここを突破さえできれば、攻略が大幅にすすむことになる。


 もっとも、ここはこの世界――アルク・オールの住民たちには馴染みのない仕掛けで構成されたギミックメイズだ。

 攻略されないことが前提だから、わざわざ別ルートを作った。


 どれだけショートカットになろうとも、モンスターではなくパズルが立ち塞がるわけだから、この世界の住民にはシンドイはずである。




『ここは牢屋かい?』

『そのようだな。かなり拷問趣味な雰囲気だが――道の先は鉄格子か。進めないのか……?』

『一応、あの鉄格子のあるところまで行ってみようよ』

『モンスターやトラップの気配はまったくないけど、油断だけはしないでくれよ』


 四人がゆっくりと、奥の鉄格子のところへと近づいていく。


『鉄格子の先は随分と広いみたいだけど、先に行けないんじゃね……』

『ディア姉、そうでもないみたいだよ』


 どうやらコロナはすぐに気が付いたようだ。鉄格子の右側にある柱に設定してある赤い封石に。


『ハートの1……? どういう意味だ?』


 柱の赤い封石を見、サリトスとフレッドは訝しむ。

 だけど、根はわりとシンプルなディアリナは気にしないことにしたらしい。


『まずは触ってみればいいさね。このタイミングで致死トラップなんてコト、アユムならありえないだろ』


 ディアリナが赤い封石に自分の腕輪を当てると、石の色は緑へと代わり鉄格子が天井へと上がっていき道が開く。


『うん。鉄格子、開いたみたいだよ』

『ディア姉……いくらダンジョンマスターを信用してるっていっても、不用心じゃないかな?』


 コロナは苦笑しながらも、自分の腕輪を石に当てる。

 サリトスとフレッドもそれに続いた。


 四人がそうして進んでいくと、同じような袋小路が姿を見せる。

 今度は、正面だけでなく左右にも鉄格子があるわけだ。


『鉄格子が三つ。それぞれの右側の柱に赤い封石……か』

『左から、ダイヤの1、スペードの1、クラブの1って名前が付いてるみたいだな』

『リト兄、スペードを触ってきてもらっていい?』


 コロナに頼まれて、サリトスはうなずくと、言われた通りにスペードの石に触れた。


『正面の鉄格子が開いた。だが入ってきた鉄格子は閉じたな』

『その閉じた鉄格子の右側にもハートの1って石があるね』

『なら、帰りたいならそれに触れるべきか』

『そうだと思うけど……リト兄。もういちど、スペードに触ってみて』

『スペードの鉄格子が閉まった。だが、ハートは開いてないな』


 そのやりとりを見ながら、俺は思わず感心する。


「ディアリナの妹――コロナはすごいな。彼女がいるなら、この鉄格子の迷路を突破するかもしれない」

「え? 今のやりとりで、そんなコトも?」


 驚くミツに、俺はうなずいた。


「開いたところへと闇雲に突き進むんじゃなく、現状で手に入る情報を可能な限り収集しようとしてるだろ。

 ああやって、鉄格子の開閉のルールを探ってるんだ。そのルールを理解してるか否かで、難易度が大幅に変わるからな」


 サリトスたちならもしかして――とは思ってたけど、こういうパズルを解くための柔軟で理論的な思考の持ち主がそこに加わったんなら、突破できる可能性がかなりあがる。


「アユム様、地下牢の地図というか設計図というか――そういうのってあります?」

「ん? あるぞ」


 魔本から地図を呼び出し、仕掛けのアイコンを表示したものをミツに渡す。


「実際の仕掛けの具合も確認したかったから、指でなぞれば地図上の鉄格子が動くぞ」

「へー……」


 興味深そうに、ミツが指を動かし始めると、それをミーカが横からのぞき込む。


「うーん、ここ開けるとこっちにいけなくなっちゃって……でも、こっちを閉めると道がなくなっちゃって……。うまく行かない……。

 なるほど、開閉のルールを把握しないと、これ進めませんね……」


 地図を見ているうちに、自分でも解きたくなってきたんだろう。指でなぞりながら、あれこれやっているけど、解けないらしくどんどん眉間に皺が寄っていく。


 一方で、横からのぞき込んでいたミーカの指が、タブレットに触れない位置で滑らかに動いていた。


「こーして、ここあけてから、一度こっちに戻って……それからこう行って、北の突き当たりで……ああ、こっちだね。それから……」


 なかなかのハイペースで指が動いていき、最後には問題なくゴールにたどり着く。


「よしッ、安全地帯に到着っと☆

 結構楽しいネ☆ スイーツ作りほどじゃないけど、こういうの好きー☆」

「おお! ミーカさん、すごいッ!

「ミーカ……お前、なかなかにハイスペックだな」

「そうだよ☆ ハイスペックネザーサキュバスミーカちゃんって呼んでね☆」


 いつもの横ピース付きでそう告げたミーカに、ミツが目を輝かせながらうなずいた。


「わかりましたッ! ハイスペックネザーサキュバスミーカちゃんさん!」

「マスターッ! 御使い様の天然越えた純粋な瞳がつらいよーッ!!」

「仲良きことは美しきかなっと」

「マスターってばすっごい投げやりーッ!? ウケる! いやウケないしッ!!」


 じゃれてる二人を横目に、俺はモニターに視線を戻す。

 コロナの考察が終わったのか、サリトスたち四人はダイヤの1の鉄格子をあけて、進み出していた。



セブンス「ハイスペックネザーサキュバスミーカちゃんさん」

スケスケ「ハイスペックネザーサキュバスミーカちゃん殿」


ミーカ「あ、待って。お願い待って。二人からそう呼ばれるの、わざとだと分かっててもちょっとシンドイなーってッ!」



次回はサリトスたち視点で、地下牢パズルの攻略の予定です。

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