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2-12.明るく楽しく朗らかに物騒な

ちょっといつもの時間より遅刻気味ですがアップです。


 バドたちが撤退してから四日が経った。


 あれ以降、誰も城内探索をしていないところを見ると、サリトスたちもバドたちも、情報を公開しない方を選んだようだ。


「サリトスさんたちも、バドさんたちも来ませんねぇ」

「反省会だったり、互いのチームの情報交換だったりとかをしてるんだろうな」


 管理室でモニタを眺めながら、ミツがあまり面白くなさそうに口を尖らせている。

 まぁ確かに、あの2チーム以外に目立ったチームがなくて、あまり面白くないのは確かだけどな。


「サリトスたちは政治にも関わってるみたいだし、今回の一件を外に知らせるかどうかで、色々根回ししてるんだろうさ」


 個人的にはどちらかのチームがある程度王冠に手が届くところに進むまでは公表しないだろうと踏んでいるけど。

 城内が狭いから、大量のチームがこぞって侵入すると邪魔だっていうのもあるんだろうし。


 どちらであれ、サリトスたちは有象無象に足を引っ張られる状況は作りたくないから、自分らの攻略が進んでからにしたいハズだと、俺は推測している。


 例外があるとすれば、ことあるごとに話題になる、今のギルドマスターの介入か。


「ところで、バドさんたちも結局は中に入るコトがなかったですけど、あのリトルメアが出てくる扉の先ってどうなってるんですか?」

「宝箱があるぞ。それも黄金のやつ」

「え? わりと簡単に入れそうですけど、あそこ」


 驚くミツの横で、俺はモニターを操作して、該当の扉を表示する。


「この扉はさ、『一度調べて、カギが掛かってるコトを確認する』コトがカギになってるんだ」

「ん、んー? ちょっとよく分かりません」

「まぁ最後まで聞けって」


 眉を顰めて首を傾げるミツに苦笑して、俺は扉の先の部屋を映し出す。


「調べた上で廊下の先へ一定距離進むと、中からリトルメアが出ててきて背後から襲いかかってくるっていう仕掛けだ」

「見てて正直、悪辣だなーとは思いましたけど」

「そしてリトルメアが扉を開けてから、五分間だけはカギが開いた状態になるわけだ」

「リトルメアの能力を考えると、意外と難しいですね」

「だろ?」


 実際、仲間が襲いかかってくるシチュエーションっていうのは、結構焦ると思うんだ。

 バドたちの時、ゼーロスはよくあそこまで冷静にアサヒの剣を受け止められたって感心する。


「五分経っても内側からは開くから、誰かが中に入れれば問題はないんだけどな」

「開けないまま五分経ってしまった場合は、もう入れないんですか?」

「そんなコトないぞ。しばらくすればまた室内にリトルメアがポップする。リトルメアがポップしている限り、同じ方法でまた扉を開けて貰える」

「うーん……一度痛い目にあってしまってるバドさんたちは、次のチャレンジの時にスルーしてしまうんじゃ……」

「じゃあお宝は手に入らない。それだけだよ。別に無理して開けてもらう必要もないし。

 危険に手を出さないのだって、充分に探索者(シーカー)として必要な判断だ。リスクを背負ってでも扉の奥を確認しようとするのも必要な判断。どっちが良い悪いってワケじゃないからな」

 

 ちなみに、あそこの黄金の箱は、腕輪限定ガチャだ。

 レアリティ☆1~☆5までの腕輪系魔具がランダムで手に入る。

 一度箱を開けても、二週間後には復活してるので、そのことに気づければそこそこ稼げるかもしれないやつだ。

 まぁ、☆5が出る確率は1%ほどだし、☆5も一種類じゃないので、狙った☆5が欲しい場合は、1%未満の確率に縋ることになるけどな。

 単発ガチャで狙うには厳しいと思う。

 出ればラッキー程度の感覚が、健全な探索者(シーカー)に必要な感覚である。欲のかきすぎよくない。


「宝箱も良いのですけれど……」


 俺とミツのやりとりの横で、熱い番茶を啜りながら、スケスケがしみじみと漏らす。


「そろそろ侵入口である西棟を越えて、東棟の地下にある安全地帯へ誰でも良いから来てくれないものですかねぇ……。

 私、ずっと待ってるんですけど」

「サリトスさんたちの侵入からこっち、スケスケさんはあそこで待機してますしねぇ……」


 そうなんだよなー。

 実は、俺としてもフロートアイのところで、サリトスたちが一時離脱を選択するっていうの想定外だったんだよ。


 バドたちもそうだ。

 あいつらなら、リトルメアの強襲にも対応できると思ってたんだけど。


「今までと勝手の違うダンジョンというコトで、普段の注意力が発揮しきれてないのかもしれませんな」

「なるほど。そこまで考慮してなかったな」


 スケスケの言葉に、俺はうなずく。

 通常のダンジョンと違って、城の中は注意するべきことも多い。


 馴れないルールと、あまり強くないモンスターが相まって、らしくない油断なんかもしちゃうのかもしれないな。




 ――なんてやりとりをした翌日。




 サリトスたちが再び挑戦しにやってきた。

 ディアリナの妹であるコロナも一緒にいるので、改めて窓から入ってくる。


「さすがに一度経験してると、危なげなくどんどん進みますね」

「そりゃあな」


 ミツと一緒にモニターを見ていると、サリトスたちはとっととフロートアイを倒して、コロナも青いカギを手に入れた。


 コロナにアドレス・クリスタルを登録させてから、四人はさらに先へと進む。

 バドたちが撤退した扉の前までやってくると、サリトスがそれを調べ、開かないのを確認すると、先へと進みだす。


「お?」

「あら? ディアリナさんだけ別行動ですか?」


 外開きで左側に蝶番が付いた扉だ。

 ドアの左側の壁にひっついていると、開けた時、リトルメアからは完全に死角になる位置がある。

 ディアリナはそこの壁に背を当て、息を潜める。


 ゆっくりと扉が開き、黒騎士がその姿を見せた時、ディアリナは背後から黒騎士の首にフレイムタンをつきたて、刺さった状態で火を放つ。

 ぐらりと傾き、正体を見せぬまま黒騎士は倒れて黒いモヤになった。


『コロナの言うとおりだったね。

 さて、中に入ってみようか』


 ディアリナがリトルメアを倒し終えると、三人を呼んだ。


「サリトスたち……というか、コロナがすごいのかな、これは……」

「バドさんたちから聞いた情報だけで、この攻略法を思いついたんですかね……?」


 そして、それを実行する鮮やかなディアリナの手腕。

 どれも感嘆に値する仕事だと思う。


 宝箱から出てくる各種腕輪に一喜一憂しているサリトスたちを見ていると、管理室に賑やかな人物がやってきた。


 普段と違い、メイクもネイルもしておらず、作業の邪魔になるようなアクセサリも全部ハズしたコックコート姿のミーカだ。


 普段はともかく、可愛いスイーツを作るのにそういうのは邪魔だから――だそうで、わりと徹底している気がする。

 背中のコウモリの翼と尻尾はご愛敬だそうだ。


「あーゆーできる女の子に夢の中でイケナイコトを教え込んでー、夢とリアルの境界を徐々に曖昧にしていってー……最終的に人生台無しになってくサマをみるのって楽しいんだよー☆」

「明るく楽しく朗らかに物騒な」

「だってそういう種族だしぃ☆」


 怖い。ネザーサキュバス怖い。


「ま、今はそんなコトより楽しいことをマスターから教えてもらってるから、基本的にはやらないよー☆」

「ラヴュリントス内では、その他人生介入崩壊(ライフ・ハック)芸やめてくれよ」

「もっちっろっん☆ 他人生介入崩壊(ライフ・ハッキング)より楽しいMy人生質向上(ライフ・ハック)を得たしねー☆」


 そのライフハックが、スイーツを極めることだそうだ。

 健全で良いことかもしれないけど、サキュバス的にそれでいいのかって気がしないでもない。

 いや、そんなルーマを与えたのは俺なんだけどもさ。


「そんなワケで、マスターのレシピを元に、ししょー監修のサキュバスイーツ一品目☆ 味見して欲しいな☆」


 そう言ってミーカが指を鳴らすと、俺とミツの目の前に、お皿に盛りつけられたパンケーキが姿を見せた。


「ほわぁぁっぁ……」


 そのパンケーキは、ミツが感極まったような声をあげるほどに、可愛いらしく盛りつけてある。


「すごいすごい。前世で見た有名店のパンケーキみたいだ」


 いわゆるスフレパンケーキってやつで、分厚くふわふわなやつが皿の真ん中にデンと鎮座している。

 その上にはいわゆるパンケーキアートでミーカの自画像だと思われるデフォルメされた女の子の絵が書いてあり、髪のところにはリボンの代わりにミントがおいてあった。


 ……スフレタイプでこれをやるの、結構な難易度な気がするけど、まぁルーマのおかげ……かな?


 パンケーキの周辺にはホイップクリームが盛ってあり、皿の余白を埋めるようにカットされたイチゴやバナナ、ブルーベリーなどを散らしてある。


「バターと蜂蜜も用意してあるから、熱々のうちに割って、お好みで中に入れてみてね☆」

「はいッ!」


 ぶんぶんと首を激しく上下に振るミツの姿は、おあずけのまま許可を貰えない犬のようだ。

 相変わらず、表情そのものの変化は乏しいんだけど、それを補ってあまりあるほどのテンション。


 ミツといいミーカといい、女性はスイーツでここまで変貌してしまうのかと思うと、恐ろしい。


 ま、それはそれとして――


「それじゃまぁ、味見するか」

「はいぃただきます」


 うなずく声と、食前の挨拶をフュージョンさせながら、ミツはナイフでパンケーキを切り、ひとかけ口に運んでいく。


「ん~~~…………♪」


 感動をかみしめるように、味わうように、ミツが声を漏らす。

 声を噛みしめるようにジタバタしているので、それだけ美味しいんだろう。


 それを横目に、俺もまずはプレーンで――と切り取ったひとかけらを口に入れる。

 

 柔らかなパンのようなふわふわとした口当たり。スフレのようなしゅわしゅわと溶けていくような舌触り。

 口の中でそれらが同時に歌い合い、そこに卵と小麦粉のまろやかな風味が歌に合わせて踊り出す。


 うん。

 初めて作ったにしては、すでに前世で食べたことのあるスフレパンケーキの味を余裕で上回ってるぞこれ。


「はふー……これだけで、完全にとろけ(スイーツ)る囁き(ウィスパー)に心くすぐられているような気分です……。

 ミーカさん、お菓子作りながら魅了のブレスを混ぜ込んだりしてませんか……?」

「ひどいな御使いサマってば。そんなつまらないマネはしてないってばー☆

 そんなので魅了したって意味ないっしょ。やっぱスイーツそのものの可愛さと美味しさで、口にしてくれた人をメロメロにしないとネ☆」


 志はとてつもなく立派である。

 セブンスもそうだけど、ちょっと名前とルーマを与えただけで、このハマリっぷりはなんなのだろうか。


「二人を見る限り、上出来そうだネ☆ よかったー」


 嬉しさ以上に安堵を滲ませるミーカ。

 確かに、初めて誰かに食べてもらうって言うのは、ルーマがあろうとなかろうと緊張するものかもしれないな。


「いずれは、可愛いスイーツで、探索者(シーカー)たちをメロメロにしてくれるんだろ?」

「まっかせてー!」


 俺が訊ねると、ミーカは顔の前で横ピースしながら、力強く答える。


「ししょーと一緒に、一口食べたら食べた探索者(シーカー)さんたちの人生変わっちゃうくらいなやつ、がんばって作るからッ☆」

「おう。よろしく頼むぞ」


 その頼もしさに、俺は笑いながらうなずき、ホイップクリームを乗せたパンケーキを口に運ぶ。


 ――うん、美味い。



 もぐもぐしながら、モニターに目をやると、サリトスたちがちょうど別れ道にたどり着いていた。


 サリトスたちから見て右の通路は、使用人用廊下からメインの廊下へ出るための道。

 そこを無視してまっすぐ進めば、突き当たりには三階へ上がる階段と、一階へ降りる階段がある。


 この城はあくまでもダンジョンだから、住居性とか利便性とかは考えてない。

 だからサリトスたちが探している王様のいる玉座の間へは、一度東棟を経由する以外にルートはない。


 だけど、その東棟へ行く道は、今回サリトスたちの前で待ちかまえている三択のどれを選んでも、たどり着けたりする。


 そして、それぞれ難易度は違うし、ギミックも違うし、設置してあるお宝も違う。


「さて、サリトスたちは最初にどのルートに行くのかな?」


 




ミツ「もきゅもきゅもきゅ……」←幸せそうに咀嚼している気配

ミツ「……こくん……」←飲み込んだ瞬間、幸せが消え去ったような気配

ミツ「……………」←でも目の前にケーキが残ってるのに気づいて一転

ミツ「もきゅもきゅもきゅ……」←再び幸せそうな気配を放ち出す

以下ループ



ミーカ「ちょっとあの御使いサマ、可愛すぎッ☆」

アユム「うむうむ」

ミーカ「あれだと食べきった直後、次がないと気づいた瞬間のギャップ表情も楽みだね☆」

アユム「うーむ……」



リトルメア以降の道のりは、面白味もなにもない普通の道中なので割愛。


次回はサリトスたち視点で選んだルートの探索予定です。


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― 新着の感想 ―
これスイーツ好きにならなかったら……サキュバスって下剋上の成功率高そうだなぁ
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