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2-10.『ケーン:ドタバタ城内探索』


 オレはケーン・ハードウ。

 この国――ペルエール王国のダンジョンを中心に探索している探索者(シーカー)だ。


 今はここ最近、新しく解禁されたダンジョンであるラヴュリントスを、気の合う探索者(シーカー)仲間たちと攻略している。


 今日はそのラヴュリントス攻略の手の一つとして、バドとアサヒのコンビと手を組み、新エリアへと足を踏み入れるところだ。


「賊らしく――ってコトか。

 サリトスたち、よく気づけたなこれ……」


 積んである木箱をよじ登り、たどり着いたところにある窓近くの赤い封石に触れながら、オレは思わず苦笑する。


「だよなぁ……。

 おれたちはサリトスたちが途中で消えたってヒントがあったから見つけられたようなものだし」


 横でバドがうなずきながら、封石と自分の腕輪を重ねた。


 バドに先行して入ってもらい、続けてゼーロスのおっさん、アサヒの順に入ってもらう。オレは殿(しんがり)だ。


「天井が近い場所ですので、頭上には気をつけて」

「あいよ」


 部屋の中から声を掛けてくるアサヒに返事をして、オレも窓をくぐった。


 そこから棚の上を進み、ハデに欠けた柱と棚に備え付けられた梯子を利用して下に降りる。

 ぐるりと見渡す限り、この部屋には何もなさそうだ。


「みなさま、この部屋を出る前にお見せしたいものが」


 部屋の外に出る前に、アサヒが全員を呼び止めて、木札を一枚取り出す。それをバドに手渡した。


「アサ姉。これは?」

「このエリアへと入ったディアが怪我を負ったので、サリトス様たちは急ぎで脱出したというお話をお伺いしまして。

 昨日サリトス様たちのアジトへ、ディアのお見舞いにいってきたのですよ。

 その時、サリトス様とフレッド様が、城へと潜入に成功したら、最初の部屋を出る前に見ろ――と、こちらを」


 ディアリナが怪我をして、サリトスたちが脱出していたのは初耳だ。

 どこでそんな情報を仕入れたのか知らないが、貴重な情報でもある。


 あれだけ慎重な三人のうち一人が怪我をして脱出ってのは、結構な状況だ。


「バド。何と書いてあるんだわいな?」

「んー……」


 ゼーロスに促され、バドがその木札を読み上げる。


「城内探索の心得……」


 一、ふつうのダンジョンと異なり、自分たちが侵入者であると自覚する

 一、大きな声や物音は可能な限りださないように気をつける

 一、影の住人は役割を演じる存在 城内では倒すより隠れて避けろ

 一、影の住人に見つかったら目撃者を速やかに沈黙させる

   放っておくと恐らく制限なく増援がくる

 一、出てくるモンスターが弱いからと、油断はしないこと

 一、城の中での最終目標は 王の頭上にある王冠を奪い取ること

 一、この木札の情報は ギルドに売るようなことはしないように

 一、この木札はバドかケーンが管理すること

   必要ないのであればすぐに処分し 他の探索者(シーカー)に見せないこと


「さらっと、とんでもないコトが書いてあるんだけど」


 バドが顔をひきつらせているけど、気持ちは分かる。

 理由はわからずとも王の王冠を奪えって――かなりの重要な内容じゃないだろうか。


「サリトス様たちはこれだけの情報を私たちに渡して良かったのでしょうか?」

「良いと思ったから、アサヒちゃんに木札を渡したんだろ」


 ある意味で、オレたちを信用してくれているんだろう。

 もっとも、あの三人のことだ。こうしてオレたちに情報を流すことも、何らかの意図があるのかもしれないが。

 さすがにそこまでは読み切れないので、ありがたく情報は使わせてもらうことにする。


「バド。覚えたか?」


 オレが訊ねると、バドがうなずく。


「よし。ならその木札、燃やしておけ」

「りょーかい」


 うっかりどこかに落として、他のやつに見られても面白くないしな。

 特に、王冠をめざせってところは、知られたくない。


「それで、どうするわいな?」

「ゼーロスのおっさんと、アサヒちゃんも、木札の内容――ざっくりとは覚えただろ?

 道中で大きい声は出さない。大きな音は立てない。やむを得ずモンスターとやりあうときは、可能な限り迅速に――ってな」


 二人がしっかりとうなずいたのを確認して、オレはバドに視線を向けた。

 

「火炎の飛礫よ!」


 オレの視線のバドはうなずくと、軽く木札を放り投げ、そこに炎属性のブレスを放ち火を付ける。

 燃える木札が床に落ち、完全に灰になったのを確認してから、オレとバドは改めて部屋の中を見渡した。


「さて、そろそろ行くか。

 サリトスたちからのアドバイス、せっかくだから有り難がろうぜ」


 そうして、オレたちは慎重に部屋を出る。

 左右に伸びる廊下があって、左へいくと途中で曲がって廊下が続く。

 右に行くと、大きな扉が待ちかまえている。


 オレとバドでどっちに行こうか……なんて話をしているうちに、さっさと動き出していたゼーロスが、大きな扉に手を掛けていた。


「ちょッ、ゼーロスのおっさん。ここでは無警戒に扉を開けるのは……」


 バドの制止よりも早く、ゼーロスは扉を開け、僅かな間のあと、勢いよく扉を閉めた。


「……このドアの向こうで騎士と兵士が集まって集会をしてる最中だったようだわい」

「「おいッ!!」」


 思わず、オレとバドが声を上げる。最悪のタイミングで扉をあけてるじゃねーか!!


 直後に大きな扉を激しく叩く音が響きだした。


「やつら雪崩れ込んで来そうだわいの。何か手はないか?」

「とりあえず考えるから、おっさんはそのドア押さえとけ!」

「もちろんだわいなッ!」


 ガンガン、ガチャガチャと音を立てる扉をゼーロスが押さえつけてる。

 それを横目に、オレは周囲を見渡しながら、必死に頭を回転させていく。


 クッソ、こういう頭脳労働はできるだけサボりたいってのにッ!


 だが、四の五の言ってる場合じゃない。

 バドも同じように考えているのか、手だてを探して周囲を見渡している。


 そこへ――


「オマエタチ、ソコデナニヲシテイルッ!?」


 廊下の曲がり角から、紙ぺらみたいな身体をした兵士が顔を出してきた。


 さッ、最悪だ――ッ!!


「アサヒちゃんッ!」

「はいッ!」


 頭を掻き毟りたい衝動をこらえて、彼女の名前を口にする。

 それだけで、向こうは心得てくれたらしい。


 アサヒは紙ぺら兵士までそこそこの距離があるこの廊下で、僅か三歩で間合いを詰めた。


「エ?」


 確か――『縮地(しゅくち)』とかいう名前のルーマだ。あくまで間合いを詰めるだけのルーマゆえに、人気はほとんどないに等しい。

 だけど使い手は少ないものの、極めた者の前じゃ、距離の意味がほとんどなくなるシロモノだ。


「砕ッ!」


 そして、三歩目の踏み込みと同時に紙ぺら兵士の首を刎ねた。

 黒いもやと化した紙ぺら兵士の足下には、紙片のようなものが一枚落ちている。


 アサヒはそれを拾って腕輪にしまうと、少し曲がり角の先の廊下を見渡し、オレとバドを手招きしてみせた。


「あの、バド様。ケーン様。

 こちらの廊下にあるもの、利用できないでしょうか?」


 オレとバドは顔を見合わせて、アサヒの元へと向かう。


「卑猥な形の壷や花瓶、像などは重量がありますでしょうし、扉の前に置けば多少の阻害になるかと」

「冴えてるぜアサ姉ッ!」

「ああ。廊下の調度品、ちょいと借りるとするかッ!」


 そうして、ゼーロスが押さえていた扉が簡単に開かないように物を置き、さらにバリケードを作り終えると、ようやく一息付けた。


「すまんすまん。迷惑をかけちまったわいな」

「ほんとだぜ、ゼーロス。普段のダンジョンとは勝手がちと違うからな。あまり好きに動きすぎないでくれ」

「うむ。今ので充分理解できたからの。気を付けさせてもらうわい」


 本気で反省しているようなので、オレもバドもこれ以上は何も言わない。


「さて、本物の城に進入しているつもりだと考えると、別のルートからすぐにでも兵士たちが集まってくるはずだよな」

「どこかの部屋でやり過ごすか……可能なら安全地帯を見つけたいな」


 ゼーロスとアサヒもそれに理解を示してくれたところで、オレたちは曲がり角の先へと進むことにした。




「紙ぺら兵士に、いばらソルジャー、親方ゴブリン、ジェルフローラビ……大したモンスターは出てこないな……」


 廊下の途中にある部屋を覗くと、だいたい影の住人がいて、目が合うとモンスターの姿になって襲ってくる。


 城の外にあった使用人小屋や薔薇園と同じような感じだ。

 紙ぺら兵士だけは最初から姿を見せて歩いてるけど、まぁ怖い相手ではない。


「出てくるモンスターが弱いからと、油断はしないコト……なんてサリトスたちの木札にあったけど……」

「なら気を引き締めておくべきだわいな。

 あいつらが、意味もなくそんな話をするとは思えないからの」

「ゼーロス様のご意見に同感です。

 斬りごたえの無きモンスターばかりだと気を抜いたところを、斬りごたえあるモンスターに襲われてはたまりませんもの」


 満場一致。

 確かに、あまりの弱さに気を抜きそうになるけど、サリトスたちの警告を思えば、それが良い結果にはならないのだと想像はできる。


 それが良かったのか、二階へ上がる階段近くの部屋の中に突如現れたフロートアイも冷静に対応できた。

 目を合わせると混乱を引き起こす魔眼のルーマを持つ厄介なモンスターだ。

 不意打ちで魔眼を喰らえばパニックは必至。

 そのパニックの影響でチーム全体が浮き足だったところに、親方ゴブリンの強襲でもあると結構やばいかもしれないな。


 とはいえ、眼を合わせなければ怖い相手じゃない。


 オレたちは無事にフロートアイを倒すと、フロートアイは黒い宝箱になり、中から青いカギが出てきた。

 使用人小屋のことを思えば、これはどこかにある出口のカギなのだろう。



 部屋を出て二階へと上がり、すぐのところにあった扉の先が安全地帯だった。

 アドレス・クリスタルを腕輪に登録していると、安全地帯の部屋の中に青い扉があるのを発見。

 これで、退路は確保できた。


「順調っちゃ、順調だな」

「この部屋に戻ってくれば帰れるのだからの。もう少し、先の部屋の中でも見ていきたいところだわいな」


 ゼーロスの意見に、バドとアサヒも反対はしない。

 オレも特に反対する理由はないので、オレたちは一息ついたあと、先に進むことにした。


 一階同様に、部屋はとりあえず覗いて見て、中を確認。

 影の住人がいたらやりあって、お宝なんかがあれば回収する。


 そんな中で、何をやっても開かない扉が一つあった。

 位置としてはちょうど廊下の真ん中だろうか。


「使用人小屋の扉みたいに、条件が必要なタイプかな?」

「だろうな。場所は覚えておいて、それっぽいモノを見かけた時に、また来よう」


 バドとオレがそう判断すれば、ゼーロスとアサヒは異を唱えない。

 そうして、オレたちが先に進むべく扉に背を向けた時だ。


 ゆっくりと、開かなかったその扉が開いた。

 それに気がついたアサヒが、咄嗟に振り向いて、剣に手を掛ける。


 だけど、アサヒが動くより早く、影の住人は弾けた。

 中から何が出てくるのか――身構えてみたものの、何も出てこない。


「…………?」


 オレたちが訝しんでいると、


「下がるんじゃッ! ケーンッ!!」


 ゼーロスがオレとアサヒの間に割って入ってきた。


 瞬間――ギャギィ……ッ! という金属同士が擦れあう音が響く。



 突然何かと思って見てみれば――


 どこか焦点の合わない瞳をとろりと光らせているアサヒが振るった剣を、必死な形相のゼーロスが愛用のメイスで受け止めていた。


ミツ「え? 油断して無くても追い返す気満々の構成じゃないですか、これ?」


アユム「そりゃあな。サリトスたちもバドたちも、例え贔屓のチームだろうとも、やっぱ何度か全滅して貰わないと面白くないしな」



そんなワケで、次回は今回の続きとなります。


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