2-8.ネザー☆スイーツ☆サキュバス
セブンスが作ってくれた美味しい夕食を終え、俺はかねてから考えていた新たなるネームドユニークメンバー作成の為、魔本を取り出した。
正直――セブンス、スケスケと先に召喚した二人は、人格的には男だし見た目もオークとスケルトンなので花がない。
そこで、俺が今回ベースにするモンスターはいわゆる女性型モンスターってやつだ。
吸血鬼とかラミアとかアラクネとか、そういうの。
複数ある女性型モンスターから、俺が選んだのはネザーサキュバスという種族だ。
サキュバスのランクは
【リトルメア】→【サキュバス】→【ハイサキュバス】→【ネザーサキュバス】という風に上がっていくそうで、これから召喚するネザーサキュバスっていうのは、最上位種らしい。
おかげでセブンスやスケスケと比べると、ベースコストの時点で結構なお値段がするのだが、俺には何の問題もなく払える額。
ましてや最近は常に探索者がダンジョンにいるので、DPも結構回復してるんだよな。
それでまぁ、なんでわざわざ通常種ではなく最上位種を選ぶのかって話になるんだけど、スペックの問題だったりする。
この世界のサキュバスも、基本的には生き物の精を喰らって生きているそうだ。
そしてゲーム的なスペックで見るなら、いわゆる魔法使いスペックってやつ。
俺が多少ステータスをいじれるとはいえ、特化型に近いのでセブンスやスケスケほど、安定した能力になってくれないだろう。
当然、そのスペック通り――ブレス系のルーマは得意だし、ブレス系ルーマに対する耐性は高い反面で、打たれ弱くアーツ系のルーマを苦手としている。
そうなると、高レベルのハイサキュバスでも、低レベル探索者たちが束になった時のチカラ押しに負けてしまう可能性があるわけだ。
ましてやこの世界、物理こそパワー、パワーこそジャスティスみたいなやつらが多いから尚更ね。
そしてネザーサキュバスっていうのは、その辺りの弱点をある程度克服してるようなので、これを採用した。
とはいえ、同ランクの同レベル帯スペックで見ると、やっぱり魔法使いスペックだけど。そこはまぁ仕方がない。
それでも、高レベルの魔法使いであれば、低レベルの戦士程度、杖で殴って倒せるぜ! ってなノリで一つ。
そのネザーサキュバスに与えるユニークルーマなんだけれど。
セブンスが『至高のとんこつスープマスタリー』だったので、それと対をなすように『究極のスイーツマスタリー』とする。
役目としてはセブンスと同じく、ダンジョン内で各種スイーツを売り歩いてもらって、流行を作ってもらうこと。
見た目が綺麗なスイーツなんかは、絶対に貴族の間で流行ると思うんだよね。
流行ってくれると、この世界にもパティシエという職人が生まれてくれると思うんだけど……。
何はともあれ、まずはネザーサキュバス召喚である。
魔本を操作し、地面に魔法陣を作り出す。
続けて魔本を操作して、召喚実行のボタンをタッチした。
瞬間――魔法陣が光り輝き、下からせり上がってくるかのように、光に包まれた状態で、コウモリの羽と悪魔の尻尾を持った女の子が姿を現す。魔法陣から完全に姿を見せ、光が解けて収まると、女の子はゆっくりと瞳を開く。
パチクリと数度の瞬きのあと、彼女は快活にキャハッと笑い、右手でピースを作りながら目元へ置いて、ハイテンションに口を開いた。
「いっえーい☆ アタシことネザーサキュバスちゃん! ダンジョンマスターの召喚に応じて馳せ参じたよー☆ よっろしくーぅ☆」
見た目だけなら完全に女子高生な感じの女の子が、ペロっと舌を出しあざとく可愛いポーズで挨拶してくる。
二十代半ばの俺には眩しすぎるんだけど、この娘……。
「あれ? ハズした? ミスった? ごっめーんッ☆
マスター、こういうノリは嫌いだった?」
さすがサキュバス。
申し訳なさそうにしつつも、グイグイくる。
腕に抱きついて見上げてくるけど、ちょうど開いた襟から胸の谷間が見える角度だ。
どう考えても狙ってる。サキュバスだけに無意識かもしれないけど。
「いや、嫌いじゃないから大丈夫だ。
最上位のサキュバスなんていうから、もっとお姉さん系の妖艶なタイプが出てくるかと思ってたから意表を突かれたというか……」
「サキュバス召喚のあるあるだねー☆ そういうネザーサキュバスももちろんいるから安心してね☆」
ちょっと寂しげな表情から一転、安堵しつつ明るい顔を見せてくれる。
男を誘惑する女性型モンスターってイメージがあるから、どんな仕草も疑って見ちゃうな……。
「居るには居るのか」
「むしろ、アタシが異端?」
「申し訳ないがそれには納得だ」
とはいえ、別に目の前のネザーサキュバスを否定するつもりはない。
単純にイメージと一致しなかったってだけだし。
「でもさー、しょーがないっしょ? サキュバスって言っても見た目や姿形は千差万別ってやつだしさー……その辺、人間と同じだかんね?
そんでアタシはあんま背が高くならなかったしさー、おっぱいもそれなり止まり。いくら他人の夢の中に侵入して好きな姿を取れるって言っても、元の姿がこれじゃん?」
これ――と自分を示し、その場でくるりと回って見せる。
俺の基準で見れば充分に美少女だし、ボディバランスに合いつつも気持ち大きめのバストサイズだと思うけど……
「ネザサキュ仲間から、ちんちくりん扱いだったからさー」
ネザサキュって略すんだッ!?
っていうか、この娘でちんちくりんって、ネザサキュ界隈はどーなってやがる……。
「でもさ、でもさ。
マスターに召喚された時、ちょっとマスターの記憶に触れたわけよ。あ、触っちゃったのワザとじゃないよー☆
そいでさー、記憶の中にあったJKってやつ? やばいじゃんコレ! って思ったの。めっちゃアタシ好みだし、アタシでもイケる! って☆」
JKって……俺のどの辺りの記憶に触れたのか……。
……まぁいいや。あえて何も言うまい。
どうよ? どうよ? と、自分の姿を見せびらかすように迫ってくるネザサキュちゃん。
確かに可愛いけれども。サキュバスらしい(?)、光沢のある露出度高いボディスーツの上に、ブラウスとプリーツミニとか、ちょっと反則すぎる気がするけれども。
「この格好、普段と比べると露出減ってるはずなのに、結構クる感じするよねー☆ 普段着の下にエッチな格好してるってだけで、マスターなんかイケナイ妄想しちゃいそう?」
あー……この娘、間違いなくサキュバスだ。
本人がわかってやってるんだか無自覚なんだかわかんないけど、主導権持たせちゃうと、こっちの理性が溶けていくような錯覚に襲われる。
「とりあえず、落ち着いてくれ……。こっちが全然喋れない」
「あ、ごめーん☆ ついつい、嬉しくなっちゃってさぁ! 新しい自分発見! やったー☆ ってカンジの気分……ととっと、気をつけないとまたいっぱい喋っちゃいそう」
「元気でお喋りなところは嫌いじゃないけどな。
ともかく、君にはネームドユニークになってもらいたくて召喚したからね。まずは名前をあげないとね」
「やったー☆」
うんうん。
素直に喜んで貰えると、素直に嬉しいよね。
さて、名前名前……っと。
「そうだなぁ……『ミーカ』っていうのはどうかな?」
「ミーカ……ミーカ……」
いつぞやのミツのように、彼女は何度も自分の口の中で、ミーカと繰り返し、やがて満面の笑みでうなずいた。
その笑顔はサキュバスらしい妖艶さや、コケティッシュさとは無縁の、見た目相応の、快活で愛らしい笑みだった。
「おっけー☆ ネザーサキュバスのミーカ! マスターの為にお仕事がんばるからねッ☆」
「ああ、よろしく頼むよ」
顔の前に横ピースして笑うミーカに、俺は手を差し出す。
「こちらこそー☆」
その意味を理解したミーカは、その手を両手で握ると、ぶんぶんと上下に動かした。
「ところでー、マスター?
アタシー、マスターからもらった固有ルーマのコト、よくわかってないんだけど、何コレ?」
「ああ。それに関しては、俺たちの仲間を紹介しつつ説明するよ。
サキュバスって精気以外の食事って大丈夫?」
「人間の食事ってコト? 大丈夫だよー☆ ダンジョン牛のお肉焼いたやつとか美味しいもんネー☆」
うん。焼き肉を美味しいと思ってくれるようなら、きっと大丈夫だな。
「それは良かった。
なら、食事と一緒に色々話をしよう。してもらいたい仕事とか、そのルーマのコトも」
そうして、食堂へ移動してミツたちを紹介。
それからセブンスに作っておいてもらったパンケーキを食べてもらった。
「甘いッ! 美味しいッ! やばいッ☆ やばいってコレーッ!
これを作れるの? アタシが? こういうの作るマスタリーなの?
ウソッ!? マジやばいって! やーばーいーッ! 超嬉しいッ!
けど、アタシ料理とかしたコトないし? え? セブンスさん、教えてくれる? やったー☆ じゃあ、ししょーだ! セブンスししょー!
もうなんて言うか美味しすぎ! 人間の精気より美味しいしッ! こういう可愛い美味しいの作るの人間にイタズラするより楽しそうッ☆」
その結果がご覧の通りのハイテンションなんだけど、なんかサキュバスとしてのアイデンティティを放棄し始めてない?
……まぁいいか。
「がんばってくださいね、ミーカさんッ!
アユム様の故郷である異世界にはもっと色々あるようなのですが、難しくてアユム樣には作れないようですから……ッ!」
「もっちろんッ! 任せといてッ、ミツ樣☆
一緒にマスターの世界のスイーツをいっぱい楽しんで行こーッ☆」
…………いいのかな?
ミツ・セブンス・スケスケ・ミーカ
「「「「きゃっ、きゃっ!」」」」
アユム
「あれ……? なにこの疎外感……? 頬を流れるこれは……涙……?」
そんなワケでアユムのパーティに賑やかな子が増えました。
次回は、ペルエール王国の城下街に視点を移して、ラヴュリントス出現の影響みたいな感じの話にしたいところ。