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2-4.『サリトス:賊なら賊らしく』

ブクマ、評価、コメント、レビュー ありがとうございます!


「では、攻略を再開しようか」


 フレッド、ディアリナと共に使用人小屋のサロンまで転移してきた俺は、二人へ向けてそう告げる。


「可能な限り、城へと侵入するところを他人に見られないように、だろ?」

「ま、なるようになるっしょ」


 不敵な調子のディアリナと、気楽な調子で肩を竦めるフレッドと共に、俺はサロンを出て城へと向かう。





 俺たちが最初に城を調べた時、入り口は開いていなかった。

 使用人口や、搬入口のようなものがあればそこから――とも思ったのだが、そういった入り口もない。


 その後、コロナを連れてきた時に薔薇園も見て回ったが、あそこは謎の台座とボロボロの小屋があるだけだった。

 その小屋も、扉は開く気配がなく、俺たちはどうしたものかと頭を抱えることとなる。


 だが、コロナだけは正しく答えに気づいていたようなのだ。


『リト兄。帰る前に、もう一度お城の外周を見て回りたいんだけど』


 もちろん俺たちはそれに異を唱えることはなく、彼女の希望通りに見て歩いた。

 そして、一周し終わると、コロナは満足そうに頷いたのだ。


『アジトに戻って答え合わせしよう。ここだと耳が多すぎるから』

『答えがわかったのか?』

『うんッ!』


 俺が問うと、彼女は人差し指を口元に当てて、花のように笑った。


『ヒントは、汝らは賊――だよ』






「説明されれば――なるほど、とは思う話ではあるのだがな」


 コロナを連れてきた時のことを思い返しながら、俺は苦笑する。


「何で誰も気づかなかったんだろうね」

「ここがダンジョンであるコトと、見た目がふつうの建物であるってところが、盲点なのかもね」


 フレッドの言うとおりなのだろう。


 建物の形をしたダンジョンというのは、基本的に玄関がそのままダンジョンの入り口だ。

 そしてここは、奇妙なオブジェや植木があるとはいえ、建物そのものの外観はふつうなのである。


 その結果、思いこみと常識が、正解へ至る思考の邪魔をしていたわけだ。


「答えがわかっちまうと、ほんと単純だったんだけどねぇ」


 俺たちは正面入り口から壁に沿って左側へと回る。

 生け垣と茂みを踏み越え、木や壁などのせいで、死角となっている場所へと向かう。


 こういった外から見えず、客などの目にもまず入らないような場所には、庭具などの雑貨が置き場があったりすることもある。

 この城も例外ではなかったのか、いくつもの木箱が積んであった。


 俺の膝くらいの高さの大きめの木箱たち。

 ここから少し先にも似たような木箱置き場があり、そこの物陰には宝箱などが設置されていたりした。


 だが、こちらには何もない――そう思われている場所だ。


 この箱、ダンジョンでの役目はあくまでも見た目と雰囲気づくりなのかもしれないが、実際であれば庭の草木の肥料などが入っていることだろう。

 箱はその場にあることに馴染んでいて、不自然さはない。

 城に関する知識があろうとなかろうと違和感を覚えたりすることはないだろう。


「あれか」


 そんな木箱が積んであるところを見上げ、俺はそれを見つける。


「なるほど。他の窓は板が打ち付けてあるけど、あれだけはそれがないし、他の窓よりも少し大きいね」


 そう。

 階段状に積んであるこの木箱をよじ登っていくと、二階というほど高くはない位置にある窓の前にたどり着く。


 あの窓だけには、木の板が打ち付けられていないのだ。


「いけるぜ、旦那。これが入り口だ。

 窓の近くに赤い封石が設置されてる」


 先んじてよじ登り調べていたフレッドの言葉に、俺はうなずく。


「行こうディアリナ」

「ああ。新しいエリアだ。わくわくしてくるじゃないか」


 汝らは賊――その意味は、本当にそのままの意味だったのだ。

 賊として扱われているのであれば、正面の大扉が開くわけがない。


 ならば、賊なら賊らしく忍び込めばいいのだ――コロナはそう笑っていっていた。

 外周を一周したいと口にしたコロナは、最初からこの可能性を考え、注意して周囲を見ていたのだという。


「コロナに感謝だな」

「そうしてやっておくれよ。ついでに、感謝の言葉より感謝の報酬を欲しがるはずだよ」

「そうか。ならば何かめぼしいモノが手にはいるのを祈って探索するとしよう」


 先に窓をくぐり抜けるフレッドを追うように、俺とディアリナも赤い封石に腕輪を当て、窓を開けた。


 窓から出た先は、天井の高い倉庫のような場所だった。

 そこの棚の上か何かだろう。


「ディアリナ、天井が近い。

 窓をくぐった後も、中腰のままでいろ」

「あいよ」


 やや苦しい姿勢ではあるが仕方がない。


「旦那から見て右へ進んでくれ」

「わかった」


 死角にでもいるのか、声だけでフレッドの姿が見つからない。

 だが、声を疑う必要もないので、俺たちはそれに従い、棚の上をゆっくりと進んでいく。


 棚の終端。部屋の角。

 そこに柱か何かがあった痕跡はあるが、砕けてしまってえぐれるように凹んでいる。


「そこの凹みに降りると、左手に梯子がある。そっからなら安全に降りれるぜ」


 言われるがままに俺はそこへ降りると、確かに手近な場所に梯子がある。

 元々は棚の上にあるものを取るためのものだろうが、今はありがたく利用させてもらう。


 梯子を降りきると、フレッドの姿を見つけた。

 だが――上から見下ろした時に姿の見えない位置ではない。


「ディアリナ。降りて来る前に一度、棚に戻ってくれないか?」

「ん? 構わないけど」

「凹みの縁からで構わない。その眼下の床に俺の姿は見えるか?」

「いや、見えないね……そこにいるのかい?」

「ああ」

「なら、そういう仕掛けかね。

 オレから旦那と嬢ちゃんは見えてたんだが」


 俺はフレッドにうなずく。

 ここからディアリナの姿は見えているのだが、ディアリナからは見えていないようだ。


「この城にはそういう仕掛けがある――というコトは意識しておいた方がいいかもしれないな」

「そうだね。油断するとはぐれちまいそうだ」


 ディアリナもうなずいて、こちらへと降りてきた。


「この仕掛け、二人以上いて、一人が先行しないと気づけないね」

「ああ。アユムらしい仕掛けかもしれないな」


 異なる技能による役割分担や、異なる技能を組み合わせたチームでの連携。

 ラヴュリントスはそういうことができるチームほど、攻略が楽になるようになっているのだろう。


「この部屋には特になにもなさそうだ。外に出ようぜ」

「そうさね。さて、何があるのか……」


 先を促すフレッドと、舌なめずりするディアリナに、俺は待ったをかけた。


「二人とも一つだけ意識してほしいコトがある。

 ここはダンジョンであると同時に城でもある。俺たちは城に忍び込んでいるという意識を忘れるな」


 使用人小屋や薔薇園にいた影の住人たち。

 彼らは、この場所での生活を演じさせられていると図鑑などには乗っていた。


 つまりこの城の中には兵を演じているモノも多くいるはずだ。


「そうか。ただのモンスターじゃなくて役割を演じてるモンスターだったね。兵士役の影に見つかれば、あっという間に囲まれかねないワケか」


 顎を撫でながら理解を示してくるフレッドに、俺は首肯する。


「王様役の影とかもいるのかね」

「いるだろうな」


 居ないわけがないであろう。

 影の兵士たちが守っているのは、それのはずだ。


「……王様……王様か」

「どうしたフレッド?」

「もしかして、オレたちがターゲットにすべきは、この城の王かもしれないな」

「どういうコトだい?」


 ディアリナに問われ、フレッドは下顎の無精ひげを撫でながら答える。


「薔薇園の台座にあったでしょ? 『退廃と背徳の象徴の証を捧げよ』ってやつ」

「なるほどな」


 フレッドの言いたいことを理解した俺は、彼の言葉に続く。


「国の象徴であれば、国の紋章や国宝の類かもしれない。

 だが、国ではなく『退廃と背徳の象徴』であれば、それは王というコトになるのか」

「なんで?」


 首を傾げるディアリナに、どう答えるべきかと考えていると、フレッドが先に答える。


「王様だって国の一部なのさ。

 だから王様や王家は国の代表だけど、国の象徴にはならない――あー、ならないとは違うな……なるコトが少ないが正しいかな?

 ここまではいいかな、嬢ちゃん?」

「ああ」

「だけど、国が荒れた場合は王が原因とされるコトが多い。実際のところがどうであったかは別にしてね。そういうコトにされちまうのさ」


 謀反や革命が成功すれば、そういう扱いにもなるだろう。

 話がややこしくなるだろうから、余計な口は挟まないが。


「そうしたコトを考慮にいれた時、『退廃と背徳の象徴』とは何かって考えると――国が退廃と背徳を良しとするに至った原因ってコトになる。つまりそういう風に国を変えた王様だ」

「なるほどねぇ……」


 もしかしたらコロナは、すでにそこまで考えが及んでいる可能性はあるが、本人はあまり探索者として活躍する気がなさそうなのが、勿体ないな。


 それはそれとして――


「その上で付け加えさせてくれ」


 俺はフレッドの解説に補足をする。


「『退廃と背徳の象徴』は王かもしれないが、『退廃と背徳の象徴の証』となると、恐らくは王冠だ。

 王権を次代に移す為の就任の儀式が戴冠式と呼ばれるくらいだしな。王冠こそが王の象徴と言えるだろう」

「なら、あたしたちはこの城の王様から王冠を奪って、薔薇園の台座へ持って行けばいいんだね?」

「ああ」


 やるべきことは決まった。

 この城を探索しながら、王冠を探す。


「しっかし、本当に賊になった気分だな。城に忍び込んで、王冠を盗むとか」

「本当にやらかせば犯罪だけど、そういうダンジョンだと思って楽しめばいいさね」


 フレッドとディアリナは笑いあい、こちらに視線を向けてくる。

 俺はその視線にうなずき返すと、フレッドが、部屋にある唯一のドアに手を掛けた。


 さぁ、フロア3の攻略――本格的に開始といこうか。


アユム「やっぱ、サリトスたちが先頭を行くんだな」

ミツ「楽しそうですねぇ、アユム様」


次回、城内探索開始です。

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