0-3.魔本を触ってみたり、存在意義を聞いてみたり
本日は三話連続更新です。(3/3)
何はともあれ――と、【アプリ:ダンジョンメイク】を起動すると、親切なことにチュートリアルのようなものが始まった。
まずは、部屋を整えてみましょう――ということで、方眼紙のような画面に切り替わる。
方眼の一マスは、約1平方メートルらしい。
あくまで目安であり、別に形を四角く整える必要はないそうだ。
――まぁ最初は線に沿っての方がいいかな?
緑色に点滅している丸いのが俺のようだ。
なので、その点を中心に、五マス(5m)四方の外枠に指先を滑らせて枠線を引いていく。
そうして、実行ボタンをタップする。
瞬間――俺のいた空間が、5メートル四方の空間に変化した。
「おお」
思わず声が出る。
魔本で設定したものが、こうも即座に現実に反映されるっていうのは、結構面白い。
画面に表示されたチュートリアルメッセージには、
《天井が低いと感じた時は、高さをイメージしながら再度実行キーをタップしてください》
……と、表示されている。
ただ、イメージしている高さがダンジョンを内包している地形の高さを超えるような場合は、可能な限り最大の高さになるようだ。
この辺は、ダンジョンマスターとしての腕が上がれば、空間歪曲設定とやらで、無視できるようになるみたいだけど。
「なぁ、ミツ。
画面に表示されてるのは平面マップだけど、立体マップとかはないのか?」
「もちろんありますよ。
今はあくまでチュートリアルですからね。まずは基本と分かりやすいところからの解説になっているのです」
「ふむ」
納得したのでひとつうなずき、俺は魔本へと目を落とす。
今はチュートリアルなので、ノーコストであれこれ設置したり、設定の更新や変更ができているけれど、本番ではDPを消費して行うようだ。
このあたりは割とお約束ともいえるので、分かりやすい。
日付が変わると、ダンジョンマスターの技量と、ダンジョンの状態に応じたDPが付与される。
またそれとは別に、一定時間ごとに僅かなDP付与が発生する。発生時間と付与量はダンジョン内の状況によって異なる。
まず、ダンジョン関係者以外の生物が滞在していると、付与速度が上昇。
またそれら生物の感情が、喜怒哀楽に関わらず高まるほどに付与される量が増える。
ダンジョン内に放置された、ダンジョン関係以外の物質――生物の死骸含む――を吸収することで、吸収した物質に応じたDPに変換できる……と。
まぁ――この辺はナナメ読みでいいな。わかんなくなったらミツに聞く。
チュートリアルの指示に従って、ダンジョンの設定やオブジェクトの設置なんかを練習する。
他にも、魔本の中のリストにないオブジェクトの作り方――みたいなのもあったので、これもしっかり練習した。
プログラミングみたいなややこしいことが必要なのかと思ったら、DPの消費とイメージの組み合わせでできるようだ。
一通りチュートリアルを楽しんだところで、ミツが声を掛けてくる。
「どうですか? ダンジョン運営――できそうでしょうか?」
「そうだな。思ってたより楽しくて、わりとワクワクしてる」
「それは何よりです」
うんうん――とうなずいているミツに、俺は少し真面目な顔を向けた。
「それでさ、ダンジョンマスター開業する前に聞いておきたいコトがあるんだけど」
「はい。私に応えられるコトであれば、何なりと」
「この世界において、ダンジョンってのはどういう位置づけなんだ?
そしてダンジョンマスターは何を目指せばいい?」
これは聞いておくべきことだと思う。
ダンジョンの立ち位置というのは、運営方針にも関係するのだから。
「創造主による人々への試練です。同時に慈悲でもあります」
「試練――ってのは何となくわかるけど、慈悲ってのは?」
「創造主曰く――この世界の住人は、進化するチカラがお世辞にも高くないそうです。
どのような世界であれ、その世界に住む生き物たちは、発見し、研究し、想像し、発明し、発展し、やがて進化する――それを繰り返します。
それこそが、世界が異なれど存在するヒューマノイドタイプの知性体……人間と称される生物の営みの、大雑把な螺旋図です」
ミツの言いたいことは分かる。
例えば――火を発見し、研究して克服し、使い方を想像し、それを形にしたものが発明されて、文明が発展し、発展の影響で環境が変化し、変化した環境に適応することで生物は進化していく。
環境が変わることで新しい発見があり、研究がされて――そうやって世界は変遷していく。
地球の歴史も、その螺旋図とやらに沿って発展と進化を繰り返している――と言われればそうだろう。
「ですがこの世界の人間は、進化に必要なパラメータが軒並み平均以下なのだそうです。
ある日、そのコトに気付いた創造主はショックのあまり三日ほど寝込んだそうです」
「うーむ……」
意外とメンタル弱そうだぞ、創造主。
「それ以来、自分には世界管理の才能が皆無なのではないかと、ずーっと落ち込んでいて、正直少々鬱陶しかったのを覚えてます」
「上司相手に辛辣だな」
信頼の上での辛辣さなのか、容赦の無い辛辣さなのか、微妙なところだけど。
「この世界が、地球のように放置してても勝手に進化していくような世界ではないと気が付いた創造主は、世界にダンジョンを創りました」
「ああ、だから試練で慈悲なのか」
「ご理解が早くて助かります」
つまりは、ダンジョンは進化という自転車に付けた補助輪というわけだ。
モンスターやトラップという試練を乗り越え、今の時代には作成不可能ながら、それでも希望の見えるような道具や技術を与える。
例えば武器。
それを見て、いずれ自分もこの領域の武器を作ってやる――とやる気になった鍛冶屋がいれば、技術発展があるかもしれないわけだ。
ダンジョンという発見の場を提供し、高めの技術を見せて研究心に火を灯し、自分が作る新しい武器を想像させ、新たなものを発明させる。
ダンジョンに発明品の使い方のヒントなども置いておけば、文化発展の後押しにもなることだろう。
「その為に、ダンジョンマスターを異世界人にしてるわけだな」
「いえ……最初は無人でした。
創造主が各地にランダムでダンジョンを発生させ、最奥にダンジョン維持の為のコアを宿した強化型モンスターを配置。コアであるモンスターを破壊すれば、ダンジョンは消滅。その代わり報酬を与える――そういうシステムだったのですが……」
「上手く行かなかったのか? 強化型モンスターが強すぎたのか?」
「いえ。システムそのものは上手く回ってました。ただ、進化の兆しがまったくなく、システムだけが世界に組み込まれてしまったのです……」
「は?」
あまりにもあまりなミツの言葉に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまうのだった。
ミツ「時に脳筋は、脳筋じゃない者の予想を超える脳筋行動を取るのです(遠い目)」
プロローグは次でラストです。
明日、これと同じくらいの時間帯に更新予定となります。