2-2.様子を見てたら増えてました
本日は二話連続更新です。2/2
最初にゼーロスとケーンを見つけてから、さらに二週間ほど。
今日も今日とてゼーロスとケーンはコンビを組んでラヴュリントスを歩いている。
ちなみにこの二人、何度もフロア3へと辿り着いてはいるんだけど、いつもフロア1からスタートしている。
理由としては単純で、二人は腕輪にサロンを登録してないからだ。
もちろん、倉庫のカギも見つけることが出来ていない。なので、常にフロア1から攻略しているわけで――
それなのに死に戻りは一度もしてないのが恐ろしいところ。
「ま、そういう奴らが絶対出てくるとは思っていたしな……」
「アユム様の先読みと、用意周到さはすごいですね」
「そうだろう。そうだろう。もっと褒めてくれていいぞ?」
なんて、調子に乗ってはみたものの、別に大したことはしてないんだけどな。
単純に薔薇園にでてくるモンスターの中に、アリアドネロープをドロップするやつを混ぜておいただけだ。
影の庭師は基本的に十人に設定してある。
それを下回った場合、薔薇園の中でもっとも探索者の密度が薄い場所に新しい影の庭師がポップするわけだ。
つまり、影の庭師は基本的に減らない。
だから何度でも戦闘ができる。
他の探索者からアリアドネロープをドロップすることを教えてもらい、影の庭師はいくら倒しても減らないと気付いた二人は、帰還の為に延々と庭師たちを叩きのめしているわけだ。
アリアドネロープをドロップするまで……
「さすがに、いばらソルジャーが庭師の中から顔を出すなりゼーロスさんに一刀両断される姿を見るのも悲しくなってきましたね……」
そのいばらソルジャーってモンスターこそが、アリアドネロープを落とすモンスターだ。
茨が絡み合って人の形をし、竹槍を構えているようなやつで、その全身トゲトゲっぷりは格闘メインのケーンとは相性が悪いはずなんだけど、一緒にいるゼーロスが片手斧を縦一文字に振り下ろし瞬殺する。
いばらソルジャーを倒すと、ソルジャーのトゲと、ソルジャーのツタ、そして時々アリアドネロープをドロップするわけだ。
あの二人はそうして脱出すると、フロア1から挑戦を再開する――というのを繰り返している。
今日も今日とて、フロア1からズンズンと進んできているわけだ。
『酔いどれ鳥の肉はなかなか旨いからな……もう少し狩って行きたいところだわい』
『腕輪に入り切らなくなる二十個くらいやるか?』
『おう。いつもの酒場に持ってって焼いてもらうかッ!』
二人は余裕綽々に、酔いどれ鳥をサーチ&デストロイ。
『血抜きする手間がないのは本当に助かるわい』
『それな。ほんと、面倒くさいしなぁ、あれ』
おっと?
一応、血抜きできる探索者もいるのか。
特に話題にはでてなかっただけで、サリトスたちもできそうだ。
『ぬ? すまんケーン。ちょいと離れておれ。何か踏んでしもうたわい』
ゼーロスがそう口にするなり、どこからともなく丸太が一本飛んでくる。
即座にメイスから斧に武器を持ち替えたゼーロスは、その片手斧にルーマを込めて吼えた。
『うおおおおおおッ、豪激斬ッ!』
飛んでくる丸太に対して、振り上げた片手斧を振り下ろすッ!
チカラこそパワーを体言するかのような一刀両断。
丸太は縦に割れながら地面へと叩きつけられ、その勢いでひしゃげた。
ややして、モンスターと同じように黒いモヤとなって消えていく。
『うおおおおおおおおおお――……ッ!!』
片手斧を天に掲げ、ゼーロスが勝ち鬨をあげる。
……待て、今の雄叫びあげるときの足の動き、スイッチ踏み直してるように見えたぞ……?
『おーッ! すげーすげー! さすがゼーロス!』
その横で、ケーンが素直に賞賛しながら拍手していると――二本目の丸太が飛んできてゼーロスを吹き飛ばしていった。
『えッ!? ちょッ、ゼェェェロォォォォォスッ!?』
「あのー……アユム様、今のは?」
「勝利の雄叫びをあげたときに、地面のスイッチをもう一回踏み直す形になってたな」
丸太に吹き飛ばされ、部屋の隅の茂みに頭から突っ込んだゼーロスに、ケーンが駆け寄っていく。
『ゼーロス? 生きてるかー?』
『ああ……問題ないわい』
結構な勢いで丸太に吹き飛ばされたのに、ケロリと立ち上がってるぞあのバイキング顔。相当タフらしい。
『うう~っむ……完全に油断していたわい。二段構えだったとはな』
いや、ふつうは一発だけなんだけどな。
別に二段構えの仕掛けなんてないぞ?
『ま、無事ならいいや。
腹減ってきたし、酔いどれ鳥を狩りながらセブンス探そうぜ』
『おう。あの旨さは食べるともりもりチカラが湧くからの、下へ行く前の腹ごなしするとしよう』
どうやらこの二人もセブンスのラーメンにハマってくれたようだ。
サリトスたちみたいに、上手いことセブンスから、料理のレシピをもらったりしないかね……?
ゼーロスとケーンは置いておくとして――
俺はモニターに目を通していく。
今のところ、第一層のフロア3までが最高到達階だ。
みんな、城へ入るための方法が思いつかないらしく、薔薇園の探索を中心にやっている。
もっとも、あそこは中心に台座と、最奥にオンボロな庭師小屋があるだけなんだけどな。
確かに、ちょっとした小迷宮にはなっているし、宝箱も数個は置いてありはするけれど……。
『この台座に、退廃と背徳の象徴の証を捧げよ――ってどういう意味だ?』
『ここの城の名前が退廃と背徳の城って言うらしいよ?』
『その象徴の証……? 屋上の旗とかか?』
『なるほど。じゃあ、どうやって取りに行く?』
台座の前で、何人かの探索者たちが知恵を出し合っている。
まったくもって見当違いの方向に話が進んではいるけど、ああいう知恵の出し合いや相談は見ているとニヤニヤしてくる。
こちらとしては答えと仕掛けの分かってる問題だけど、その問題を出題された側が、どんどん見当違いの考えに突き進んでいくのは、ちょっと面白い。
「相談してるだけ、かなりマシな部類なのですよね」
「まぁな。みんなもっとああやって活発に意見交換をして欲しいところだ」
こうして見ていると、やっぱり探索者には二種類いるように思える。
ゼーロスやケーン。あるいは今、薔薇園の台座の前で相談をしている連中みたいに、発想や考え方が脳筋的とはいえ、ちゃんと探索者をしてる連中。
もう一方は、この前、セブンスにボコられていたような探索者という仕事を勘違いして結構ナメた態度を取っている連中。
最初こそは後者が多かったものの、最近は前者のタイプの方が増えていっているように思える。
これは良い傾向だ。
俺が意図的にやってることではあるけれど、うちのダンジョンって、寄生や割り込み、お宝強奪……その手のタチの悪い漁夫の利は取りづらいシステムになっている。
だからこそ、これまでどういう立ち回りをしていたのか――実力的な意味ではなく、探索者としての矜持的な意味で――を問われるわけだ。
「例えへっぽこ探索者でも、探索者としての矜持をそれなりに抱いているんなら、うちのダンジョンはそこそこ先に進めるしな」
「腕輪で探索者ごとの進行状況を管理して、通れる扉と通れない扉を探索者ごとに変える――こんなコト、ふつうは思いつきませんが……」
「そこはまぁ俺が地球人だからってコトで。MMORPGなんかの、フラグ管理を参考にしてみただけだしな」
さらに、うちのダンジョン内では死んでも蘇生してダンジョンの外で目覚める。
それらを複合すると、いわゆる新人狩りが発生しづらい環境となっているわけだ。
さらに言えば、フロア1~2までは、多少の脳筋プレイもできるように設定してある。
駆け出し探索者の鍛錬にもってこいの設定だと思うんだ。
「駆け出しがうちで鍛錬すれば、考える頭が鍛えられるだろうから、今後の脳筋探索者比率は多少減ると思う。減るといいな。減って欲しいな……」
「なんでどんどん弱気になってるのですか……」
「ゼーロスみたいなタイプって意外とカリスマあったりするからさぁ……。
あれに憧れちゃうタイプは矯正不可能かなぁ……って」
それが悪いわけじゃないんだけどね。
全員が全員、そういう方向になっちゃうと、俺のやってることが無駄になっちゃうから、勘弁願いたいなー……とは思う。
「と、ところでアユム様。最近、サリトスさんたちを見かけないと思いません?」
そんな俺の胸中に気づいているのかいないのか、ミツが話題を転換してくる。
「最近どころか、一般解禁直後に数度来て以降は一度も来てないぞ」
その辺の理由も政治的なものとかありそうなんだけど、こっちからだと伺いようがないんだよなぁ……。
ちなみにそのうち一回は、ディアリナの妹のコロナを連れてフロア1から挑戦していた。
たぶん、コロナの腕輪にサロンを登録するのが目的だったんだろう。
「ま、ここまで城への進入方法に気付くやつがいないとなると、あの三人に期待はしたくなるけどな」
そんなやりとりをしながら、俺が各種モニターに目を走らせていると、影鬼モルティオと戦っているコンビを見つけた。
小柄の男性の術者がバド=ワイルザーム。
巫女服のような白い上着と赤い袴を来ている居合い系剣士の女性がアサヒ=ミツコシだったかな。
「この二人も結構がんばってるよな」
「アサヒさんの方がちょっと……斬りごたえがあればなんでも良い人っぽいですけどね。
以前に私が見てた時、寄らば斬る。寄ってこないなら寄って斬る――とか言ってましたよ」
「なんだその物騒美人……」
考えようによってはディアリナと気が合いそうだけど。
『正直、そろそろ限界だアサ姉ッ!
次のチャンスで、落とせるかッ?』
『そのような言い方をされては、出来ないなどとは答えられないではないですかッ!』
アサヒが持っているのは日本刀型の剣。
この世界での正式名称はしらないので、とりあえずふつうに刀って呼ぶけど。
それを手にしているアサヒが大きく飛び退き、影鬼との間合いを開いた直後、手を掲げていたバドの声が響く。
『氷結の飛礫よッ!』
掲げられた手の先から無数に放たれる小さな氷の飛礫が、影鬼の足下に襲いかかる。
影鬼の足下が凍り付く。だけど影鬼はそれがどうしたと無理矢理に地面から足を引っ剥がす。
ふつうであれば、きっとそこで驚愕があったのかもしれない。
だが、彼女にはその一瞬だけで充分だったようだ。
『肢閃抜刀――落陽閃ッ!』
――白刃一閃ッ!
踏み込み、その勢いを乗せた鞘走りとともに、刀が抜き放たれる。
閃く刃はモニター越しでは目に見えない。
気がつけば、アサヒは刃をゆっくりと納刀していた。
直後、夕日が水平線に沈むように、胴から切り離された影鬼の首が、ゆっくりと背面へと落ちていく。
『なんとかなったかぁ……』
そんな影鬼を見て安堵するバドに、アサヒはどこか不満そうに口を尖らせる。
『もう少し斬りごたえがあってもよかったと思いますが』
『これ以上とか勘弁しろッ!』
よほど疲れたのか安堵とともに地面に座り込んでいたバドが、不満げなアサヒに声を荒げて抗議した。
「これで青いカギを手に入れたチームは二組目ですね」
「まだ二組目なコトが別の意味で恐ろしいけどな。けどまぁ、ここから一気に増えると思うぞ」
「え?」
首を傾げるミツに、俺は小さく苦笑する。
「さっきも言っただろ?
こんなのは最初に解決したやつらが出た時点で、秘密も何もないんだよ。
サリトスたちが黙ってたから到達者がでなかっただけで、サリトスたち以外の到達者がでた時点で、もうこの仕掛けは他のやつらに通じないさ」
そういうつもりのギミックでもあったしな。
「城への入り方も、それが判明すれば、すぐに広まると思うぞ」
別にそれで構わない。
前世のゲームだってそうだったしな。
先行したプレイヤーたちが攻略サイトを作ってくれていた。
それを見ながら攻略すれば、謎解きも何もあったものじゃない。
ネットがそれほどでもなかった時代でさえ、口コミやゲーム情報雑誌の攻略情報に頼ってる人も多かったそうだし、こういう仕掛けっていうのはそういうものなんだろうさ。
「まぁ、そのうち先行している探索者の攻略情報に頼れない仕掛けとかも考えておくから、今はこれでいいんだよ」
アユム「サリトスたちがいないと退屈かと思ってたけど、そうでもなさそうだな」
ミツ「はい! ぜひ色んな人に挑戦してもらって、意識改革されてほしいものです」
次回は、王都にて、サリトスたちの日常を少し、お送りする予定です。