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1-21.さすがにイヤかなぁと思って


「実はさぁ、モルティオのカギ――本当は、あそこでドロップさせる気なかったんだよね」


 カッコいいサリトスたちの戦いが一段落したので、そのタイミングでふとそんな話をしてみることにする。


「え? ドロップさせないって……倉庫を開けさせるつもりなかったのですか?」

「いや、そうじゃなくて――もうワンクッション、ギミックを置いておく予定だったんだ。だからモルティオを倒すと、解決のヒントが手に入る感じで」


 ポップコーンをひとつまみ口に放り込んで、俺が答えるとミツは理解できたのか、ひとつうなずいてコーラを啜る。


「主は、どうしてそれを止めてしまわれたので?」


 スケスケは熱い番茶を啜りながら訊ねてくる。

 俺は質問に答えようとして……その答えを脇に置いておきたくなるほどの特大の疑問が吹き上がった。


「それに答える前に、教えてくれスケスケ」

「はい?」

「お前それ、どーなってんだ?」


 スケスケはスケルトンだ。

 骨だ。骨そのものが動いてるようなものなのだ。


 それが番茶を啜っている――なのに、口から流れ込む番茶はどこからも落ちてこない。


「啜った番茶はどこに消えてるんだ?」

「それが自分でもよく分からなくて」

「は?」

「でも、飲めるし食べれるし、味も分かるんですよ」


 カウカクと顎の関節を鳴らしながらスケスケは笑う。


「つきましては主。お願いがございます」


 なにやらキリっと背筋を伸ばしてから、スケスケが神妙に口を開く。

 その様子にこちらの背筋も思わず伸びるが――


「御使いさまとなさっている食事会――差し支えなければ自分も加えていただけませんか?」


 その内容がこれだ。

 伸びた背筋がふんにゃり脱力するのを許してもらいたい。


「やぁ……セブンスさんの料理を試食とかさせて頂いてるんですが、どれもこれも生前に食べたものよりも美味しくてですね」


 頭を撫でながら笑うスケスケ。

 双眸はただの穴のハズなのに、そこに期待の籠もった光が宿っているようで、こちらも苦笑してしまう。


「わかった。時間が合うときは誘おう。いいよな、ミツ?」

「はい。もちろんです」

「感謝します。主、御使い様」


 そんなワケで食卓にはスケスケが加わることになったのだった。


「――さて、話を脱線させちゃったけど、モルティオのドロップアイテムの話な」


 スケスケのせいで、思わず何の話をしていたのか、忘れるところだった。


「最初はさぁ、モルティオの日記をドロップする予定だったんだ」

「日記――ですか?」


 首を傾げるミツに、俺はうなずく。


「愚痴が書かれた日記でさ、前日の倉庫掃除の担当が、カギを定位置に返さずに食堂で酔いつぶれてカギを無くしやがかったこの野郎――みたいな内容なんだ」

「それで日記をヒントに食堂へ行くと、カギが落ちてるのですね」

「そういうコトだ」


 説明を終えると、スケスケは不思議そうに小首を傾げる。


「問題があったようには思えませんが……それのどこに取り下げる要素があったのでしょう?」

「まぁ説明だけだとピンとこないかもしれないけどさ」


 モルティオを強敵化しちゃったのも原因の一つだったりするんだけどな。


「カゲオニっていう強敵と戦った後で手に入るドロップが、キーアイテムとはいえ愚痴日記ってさ――なんていうか、さすがにイヤかなぁと思って……」


「「あー……」」


 どうやら、ミツとスケスケの二人からは理解を得られたようだった。




 ――そんな雑談をしているうちに、サリトスたちは青い倉庫の前にやってきていた。


 一人がカギを開けたところで、他の二人は入れないというのをちゃんと理解してくれてるようで、扉を開ける前に、それぞれにカギを使っている。


「いくぞ」


 サリトスの言葉に二人がうなずき、ゆっくりと中へと入っていく。


 あいつらは色々警戒しているようだけど、実の所あの倉庫にめぼしいものもトラップもなにも設定はしていない。


 雑多に物が置かれた倉庫だ。

 いやまぁ――この城のダンジョンのデザインとテーマがあれなので、置かれてる雑多な品も、名称を直接口にしない方が良さそうなものも置いてあるんだけどね、うん。


「アユム様……」

「ミツやめて。そのジト目やめて」


 俺の自業自得ではあるんだけどなッ!

 ほんと、深夜のテンションで悪のりしすぎたッ!


 元々、某RPGの序盤に出てきたセクハラ趣味の裸の王様の城をモデルにあれこれいじってただけなんだけど……


 途中から――

 退廃と背徳! せっかくだから、裏テーマは淫靡! とかよく分からないノリになってました。

 そうして設置されていく、卑猥なデザインの美術品や、植栽アート。メインの仕掛けにはならないけれど、雰囲気を彩るニクい奴らは、みんなそんなノリになっていってしまったワケだ。


 どんなノリだと問われると……


 『ココにこんなのおいてあったらドン引きだよなー!』

 『大人のオモチャとか無い世界なら無造作にこういうのおいといても反応ないよな?』

 『完璧な仕事によって作られた最低なデザインの花瓶ができちまったぜ!』

 『ポールダンスしてるミロのヴィーナスっぽい石像ができてしまった……』


 ……うん、まぁそういうノリだ。



 これ、地球の地上波TVだったら倉庫内部はモザイク必須ッ!


 ……いやまぁ、うん……正直、反省している。反省しまくってる。

 でも、もう完成しちゃってるので、雰囲気の修正はしません。しないのだ……。


「うーむ……御使い様がどうして主を見つめているのかよくわかりませんな……。

 主、あの倉庫にある用途不明の武器なんだか拷問器具なんだかっぽい道具の数々は、何なのでしょうか?

 商人としましては、好き者――もとい物好きな貴族とか、娼館あたりに売ると良いお金になりそうなのですが」

「わかってるよな? スケスケ、分かってて言ってるよな?」

「え? 本当にそういう用途の道具なんですかアレ? あー……なるほど、御使い様がそのような目をする理由も分かります」

「あれ? マジで知らなかった? 俺、スケスケに答え誘導された?」

「今のは誘導されたというか、単純にアユム様のホーミング自爆かと」

「そっかー……自爆する為にスケスケ追いかけちゃったのかー……そっかー……」


 大失敗である。


「とてつもないダメージが、俺を襲うッ!」

「そのダメージの全てがキャッチしそびれたブーメランではないですか」

「今日のミツは辛辣だなッ!」

「ギミックの準備は終わったので、あとはダンジョンの装飾だけだから、先に休んでていいぞ――って、そう言って以降は、この城を見てませんでしたからね。私……」

「その結果がこれなら――確かに御使い様も怒りますねぇ」


 ズズズズズ――……っと、のんびり茶を啜るスケスケの言葉にもトゲがある気がする。

 でも泣かない。俺、男の子だからッ!


「それでアユム様。あの倉庫って、わざわざカギを隠してまで用意する理由のある場所なのですか?」


 俺が心を振るい立てていると、ミツがそんなことを聞いてきた。


「ん? まぁ見てれば分かると思うけど、宝箱があるとかそういうのじゃなくてさ……」


 画面を指さすと、そこに不自然な木製の扉が映っている。

 あの使用人小屋で考えると、あまりにも粗末な雰囲気の扉だ。


 だけど、あの扉はミツもスケスケも、サリトスたちも見覚えがあるはずだ。


 画面の中ではサリトスが、扉に触れながら訝しんでいる。


「丸太小屋の扉……?」

「そうみたいだね」

「明らかに不自然だよな」


 三人は少し悩んでから、木の扉を開く。

 そこにあるのは、丸太小屋のような雰囲気の小部屋だ。


 その小部屋の中心には、魔法陣が設置してある。

 エントランスの時と同じく、入り口から見てちょうど正面の壁に、プレートも掛けてあったりしてな。



   出口へ行く為の一方通行の転送陣です。

   上に乗り、『リターン』という呪文で起動します。



「そうか。これが出口か」

「どうする?」

「……一度、サロンに戻ろう」


 そうして、サリトスたちはサロンへと戻っていく。

 そこで、引き返すかもうちょっと探索するかを決めるのだろう。


「さて、向こうも一息つくみたいだし、こっちもつくか」

「一息も何も我々はここに座ってポップコーン食べながらコーラ飲んでいただけだと思いますけど」


 それは言わないお約束だ。

 席から立ち上がり、軽くストレッチしながら、俺はふとミツを見た。


「なぁ、ミツ」

「はい?」


 そういえば――と、気づいただけなんだけど。

 それを聞いて良いのか、聞かない方がいいのか、ちょっと判断が付いていない。


「俺の――」


 俺の――死因。

 そこの記憶がない。

 ある程度、納得して死んだという意識はあるのに、どうして死んだのかが思い出せない。


「いや、なんでもない」

「はぁ?」


 不思議そうな顔をするミツに、俺は小さく手を振った。


 向き合う必要があるものなのか。気にしなくて良いものなのか。

 まぁなんだ……向き合うにしても、今じゃない……かな?


「さんざんポップコーンやコーラを飲み食いしたあとだけど、何か作るか」

「甘いものを是非」

 

 俺が言葉を言いきる前に、ミツが被せ気味にリクエストを投げてくる。

 それに苦笑しながら、俺は了解する。


 そうして、ミツとスケスケを連れながら厨房へと向う。その途中でふと、俺は独りごちた。


「セブンスには食事担当してもらって、もう一匹くらいスイーツ担当のパティシエモンスターでも呼び出してみるかなぁ……」


 それを耳ざとく聞いていたらしい、ミツとスケスケは、俺の前へと回り込むと俺の手を取って声を揃えた。


「「是非ッ!!」」



セブンス「本命は豚骨スープですけど、他の料理も楽しいです」

アユム「そいつは何より。これからもよろしくな」


次回で一応第一章は終了の予定です。

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