6-6.悪堕ちビジュアルしてるこの連中はなんなんだ?
サリトスたちが漠然とゴールドラッシュタウンのギミックに気づき、グレイムル狩りを始めた頃――
第三層に、バドのチームと、リーンズのチームに、デュンケルを加えた混成部隊もやってくる。
とはいえ、D-ウィルスにやられた俺を倒すための混成部隊だった時と異なり、それぞれのチームとデュンケルは完全に別行動だ。
同じタイミングで入ってきただけなのだろう。
……まぁデュンケルのやらかしに、それぞれのチームが巻き込まれて団結してる辺りは、何とも言えないんだけど。
あいつらに関しては放置してても、問題なくゴールドラッシュタウンに辿り着くだろう。
最前線以外を見ると、そこそこできるチームは、ラヴュリンランドに到達しはじめている。
D-ウィルスが解消されたことで、無茶苦茶な脳筋プレイが減ったのか、第一層の突破者がどんどん増えてるんだよな。
ただ一方で、新規に入ってきた面々の中には気になる連中がいる。
「この黒系の怪しい格好している連中、なんなんだろうな?」
それこそ、退廃の城がお似合いの格好をしている連中だ。
男女問わず妙に、黒系の……どこか悪堕ちしてる感ある装備の数々。
男の――特に戦士タイプは、それでいて自慢の筋肉を見せびらかすかのようなデザインの装備になっている。
女の方も露出度が高めだ。
こっちは、前衛後衛問わずに露出度が高めで、やっぱり悪堕ちフェチが喜びそうな装備に見える。
全体的にフード付きローブや仮面を付けているのも怪しさに拍車を掛けているんだよなぁ……。
しかも、その攻略方法は強引だ。
いつかのベアノフを思い出すくらい、無茶苦茶である。
自分たち以外の探索者の迷惑とかは考えず、とりあえず壁をぶっ壊して先に進もうとする。
他にもカギを持ってる別の探索者がいたりすると、それを無理矢理奪おうとすらするんだよな。俺のダンジョンでは他人からカギを奪ったところで、使えないワケなんだが。
あんま気持ちの良い連中とはいえないが、さりとてそれを理由に排除するのも違う品しなぁ……。
結局、様子を見るしかできねぇワケなんだが……。
「おやおや。ふむふむ。やはり現れたようですねぇ」
「スケスケ?」
「セブンス殿がおやつを作ったので持ってきたのですが、画面に映っている者たちの噂については、探索者たちから聞いておりましたので」
言いながら、スケスケはテーブルに持ってきたドーナツとお茶を置いた。
「いただくぜー」
「どうぞどうぞ。あ、横の椅子失礼しますね」
「おう」
俺に断って横に座ってから、スケスケは画面を指差す。
「最近、巷で広まっている新興宗教があるそうです」
「新興宗教ねぇ……」
お茶で喉を湿しながら、俺はモニタを見やる。
「邪神崇拝系だったりする?」
どうみたって真っ当な宗教に思えないなんだよな。
いくらなんでも、あの悪堕ちコスチュームをきてる連中がまともとは思えないぞ。
「さて、あくまで探索者の方相手に商いをしている時に聞いた話でして。
その正体までは分かりませんが、D-ウィルスの蔓延と同時に、急に台頭してきた――という噂があるくらいです。怪しいと思いません?」
「怪しさしかねぇな」
噂とはいえ、そういうのが立ち上がっちまうあたり、うさんくささがすごい。
「頭痛に悩んでる人たちに声を掛け、結構な数の人たちが入信したようなんですよね」
「……つまり、今ここでラヴュリントスを攻略してる連中は、入信した探索者か?」
「可能性は大いにあり得ます」
俺はドーナツを一口囓る。
うん。オールドファッションはシンプルながらやっぱり旨いよな。
「何が目的なんだかな……」
「わかりません。宗教団体がダンジョンを攻略する理由は薄いですからね」
新しい厄介事の気配がするが――
「あ。そういえば、連中の名前ってわかる?」
「探索者の――ではなく宗教の、ですよね?」
「それそれ」
「ええ、存じ上げておりますよ。彼らは『戦神教』と名乗っております。
創主様に伺ったところ、戦神やそれに類する神や御使いはこの世界にはおらず、人間たちが創り出した神話においても、それらしい存在はいないそうです」
「はーん……じゃあ、どっから生まれたんだよ、その名前……」
そう口にして、ふと何かが引っかかった。
「アユム様?」
「いや。ちょっと気になるコトがあるが、まだ曖昧だからな。口にはしないでおく」
「そうですか。わかりました」
とはいえ、戦神教か。
「スケスケ。今後も探索者たちから、情報収集を頼んでいいか?」
「ええ、構いませんよ。最近はあちこちで探索者さんたちと会えるおかげで、忙しくも充実した日々を過ごさせてもらってますからねぇ」
カラカラとスケスケは笑うと立ち上がる。
「情報はこんなところで良いでしょうか?」
「ああ。助かった。おやつと一緒に良いモンを持ってきてくれてありがとな」
「いえいえ。どういたしまして。では失礼しますね」
そうして部屋を出て行くスケスケの背中を見送ってから、モニタへと視線を戻す。
「戦神教……」
ギルマスとデュンケルの婚約者が攻略したダンジョンもそんな名前じゃなかったか?
「戦神、戦神……ね」
しかしまぁ、神と来たか。
ゲルダが認知していない神の関与を疑っているここで聞くとなると、余計怪しく感じるよなぁ。
しばらく様子を見ていると――
「おー……森の熊さんにやられて死に戻りしてるのがいるな……。
入り込んで好き勝手やって、死に戻りって……完全に初期のころを思い出すな」
戦神教の連中、ほんと解消した問題をぶり返してやがる。
「……って、死に戻りか」
ダンジョン近くのキャンプの方の様子を伺ってみれば、正気に戻っているのが伺えた。
「正気に戻って、自分の格好に唖然としているのは、少しばかり憐れか……」
苦笑するしかない。
まぁでも、正気に戻っただけ由ってことにしとこう。
「とはいえだ……全員が死に戻るワケでもないもんな。無茶はすれど、元々探索者だった連中だろうし、引き際くらいは心得てるようだ」
手強いというか面倒って方が強いか。
なんであれ。こいつらがゴールドラッシュタウンにくるまえに、やること終わらせておかないとな。
死に戻りした元教徒(女性)
「……な、な、な……ず、冷静になってみると……。
わたし、なんで……なんでこんな格好を……!!」
駐在兵
「え? 趣味とか、性能が良いとかで来てたのではないのですか?」
元教徒
「なんか、えっと……ノリで?
頭痛が酷くて、勧誘してきた宗教に縋るように入って……これ着てると、本当に頭痛がなくなったような……」
駐在兵
「……! あの――今、着替え用意するんで着替えてみてください」
元教徒
「是非、お願いします!!」
なお、兵士の用意した、一般的な平民服を着ても頭痛はなかった模様