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1-17.腕輪の機能、ちゃんと役立ててくれよ

     

 ミツも泣きやみ、戻ってきていたセブンスにラーメンを作ってもらい一息つく。


 さっきまで泣いていたとは思えないほど、いつも通りのクールな顔に戻っているミツだったが、どこかスッキリとした空気を纏っている。


 創造主だけでなく、その影響を受けていたミツも、もしかしたら溜まっていたストレスを解消できたのかもしれない。


「さて、サリトスたちの様子を見に戻るか」

「はい!」


 ミツを伴い管理室へ戻ると、サリトスたちがちょうど、フロア2と3の間にあるエクストラフロアへと到着したところだった。


 これも初めてここまでたどり着くと自動的に転送されるフロアだ。

 ようするに、チュートリアルエリア。


 ここで教えられるのは、女神の腕輪の中でもかなり上位に入るだろう価値ある機能だ。


「アユム様、どうしてゲームのようなメニュー画面をつけたのですか?」

「グラフィカルな情報っていうのは、初見でも取っつきやすいのさ。デザインにもよるけどな」


 そう。

 女神の腕輪の赤い宝石部分に手を当てて、『オープン』と唱えると、メニュー画面が表示されるようになっている。


 虚空に現れるいわゆるホロウィンドウってやつだ。

 もちろん、『クローズ』と唱えれば閉じるぞ。


 そこに描かれている内容は、可能な限りシンプルになるようにしてある。

 俺のイメージのベースは、某国民的RPGの黒地に白枠のウィンドウだ。


「サリトスさんたちも驚いているようですが、結構いろいろと試しているようですね」

「あいつらは好奇心が強いからな。

 慎重なやつらではあるが、安全だと判断したものに対しては結構グイグイいくんじゃないかな」


 メニューに描かれているのは


 ・アイテム

 ・マップ

 ・状態

 ・図鑑

 ・鑑定ログ

 ・コンフィグ


 以上の六種。


 アイテムに関しては、最大で二十種類のアイテムをサイズや質量関係なく収納できるシロモノよ。一種類につき最大で20個まで収納できるぞ。


 チートの基本、収納魔法をあの腕輪に再現しているわけだ。


 ちなみに、収納は一部を除いてラヴュリントス内でしか使えない。

 出納であれば、いつでも可能だ。

 ダンジョンの外でもできる。


 この価値の途方もなさ――サリトスたちなら今すぐにでなくとも、いずれは理解できるはずだ。


 実際、そのすごさの一端くらいは即座に理解したのか、サリトスたちは効果を確認しながらしきりに感心している。


「かさばる正体不明品も腕輪の中に入れられるのか。便利だな」

「ラヴュリントス内でしか収納できないってコトは、陽光に当てて正体を暴いた後は仕舞えないってワケかい」

「そこは仕方がないっしょ。密かに持ち運びたければラヴュリントス内で完結させろってことだろうな」


 ほんと、サリトスたちは理解が早くて助かるぜ。

 腕輪に収納できないものは、いつも通り手で運ぶしかないが、ダンジョン内で手に入れたかさばるお宝を腕輪の中へ収納できるのは大きいはずだ。


「スペクタクルズや、一部のアイテムだけは別枠で保存できるようだな」

「確かにスペクタクルズも20個までとかだと困るものね」


 そうそう。

 俺も作ってて「しまった!」って思ったからな。後付けだけどそういうことにしたんだ。

 扉のカギとかの為にも、大事なモノ枠作っておいた方がいいかなーって感じで。


「マップ機能……歩いた場所が勝手に描かれていくのは便利だけど複雑さね」

「確かに便利だが、可能ならばディアリナには通常のマッピングも続けてもらいたい」


 お。サリトスは何か気づいたかな?


「これはあくまで予想だが――この腕輪もダンジョンの一部だと考えた時、アユムが何かしらの仕掛けをしていないとも限らない」

「もしかして旦那、マップが記録されないエリアや、マップ情報が消去されるトラップとか考えてる?」


 フレッドの言葉に、サリトスがうなずいた。


「あ、アユム様ッ!? バレてますよッ!?」

「うん。バレてるな。すごいぜサリトス。理解があるぜフレッド」

「何で笑っているのですか?」

「実際楽しいじゃないかッ! あいつらならギリギリ解けそうなギミックを考えるのはワクワクする」


 JRPGにおいても結構な高難易度ギミックみたいのを仕込んでも、あいつらなら何とかしてくれるかもしれない。


「とはいえな、ミツ。今はあいつらしかラヴュリントスに挑戦してないから誤解しちまうがな――一般的な探索者(シーカー)がそこまで考えられるもんでもないだろ」


 あいつらは本当にデキる奴らだ。

 臆病者だと罵られても、自分のやり方を貫き、研鑽してきた。

 ラヴュリントスはそれが報われるダンジョンだと思われている。

 ならば、あいつらは、それまでの研鑽の全てを賭してでも俺に会いにこようとするだろう。


 だから礼儀として、俺も全力で受けて立つ。

 まだ完全に完成してない下の階層は、サリトスたちに合わせて調整を加えていく予定だしな。


 とはいえ、サリトスたちを基準にしちゃいけない。あの王国の調査隊の件を忘れてはいないぜ。


「この状態って項目は、あたしらの今の状況を数字なんかで表示したもんだね。各種ルーマのレベルとかも見られるなんて、便利じゃないか」


 ミツに聞いた話だけど、ルーマのレベルっていうのは、特定の場所でしか確認できないらしいんだ。

 それを、この腕輪であればその場で確認できるのだから、これも結構便利な機能だろう。


「鑑定ログというのは過去に鑑定した情報を見直せるわけか。助かるな」

「コンフィグっていうのは……ああ、この情報を表示してる変な板――ウィンドウっていうの? の色やデザインを変更する機能か……いるのか、これ?」

「自分が使いやすい色や見た目にできるんだし、便利じゃないか?」


 コンフィグに関してはディアリナとフレッドで意見が分かれている。

 まぁウィンドウのデザインやカラーを変えるのって、地球でもやる人とやらない人がハッキリ別れるしな。


 そんなワケで、これらが腕輪の機能なわけだ。


「挑戦者全員にこんな腕輪を寄越すなんて、アユムは太っ腹だね」

「逆に言えば――最終報酬をこの腕輪にするだけのコトはあるとも言える」

「もしかしなくても、報酬って外でも収納が利用できるようになるんじゃないのか?」


 フレッド正解。

 最奥にいる俺に会えたやつの腕輪は改造して、ラヴュリントスの外でもその機能を十全に使えるようにするつもりだ。


 ほかにも地味な機能はあるんだけど、こういうのは一気に放出しすぎると理解が追いつかないことも多いからな。

 次のチュートリアルは、少し先だ。


「このフロアは、前回の丸太小屋フロアと違ってこれだけか」


 三人は周囲を確認しあって、先に進んでいく。

 終端にある魔法陣を見つけると、ためらうこともなく『ネクスト』と唱えた。


 そうして、フロア3へと足を踏み入れた三人は、驚愕と戸惑いがまぜこぜになった顔をする。


 そうりゃそうだろう。

 俺が三人の立場でもああいう顔をすると思う。

 そういう顔をして欲しくて設定したフロアだ。


「個人的には結構悪趣味だと思います」

「作りながら自分でもそう思った」


 ミツの言葉に苦笑しながら、モニターへと視線を戻す。

 ただまぁ、その悪趣味全開の雰囲気を作るのが楽しくてノリノリだったのも事実だったりして。


 ともあれフロア3も森だ。

 正しくは森に囲まれたお城だ。


 だけど、ただ城があるだけならば、三人は驚かないだろう。

 三人が驚いているのは、そのフロアの雰囲気だ。俺が特に理由もなく、色彩をちょっと変更したからな。


 赤と黒のマーブル模様のような奇っ怪な空。

 森の木々や草花は、形はそのままなのに、花や実だけでなく葉すらも紫やピンクで色彩設定してある。


「急に雰囲気がかわりやがったな……」

「ピンクや紫ってのは、もっと可愛い色だと思ってたんだけど、組み合わせや見せ方でこんな不気味になるんだね……」

「……どうやら、城へ行く以外の道はなさそうだな」


 三人はゆっくりと歩き始める。


 開け放たれている門を、三人は警戒しながら入っていく。


「この庭の芝ふつうに緑なんだね」


 ……あ、ピンクにし忘れてた。


「人の気配はなさそうだな」


 庭はそんなに広く設定はしていない。

 門から城の入り口までは百メートルほどだ。


 その道程には、ちょっとえっちな植栽(しょくさい)アートが並んでいる。


「すごいな……この木……どのように世話をすれば、このように裸の女の形に成長するんだ?」

「好奇心が湧くのはいいんだけど、その手の木をまじまじと見るのはやめとくれ」


 真面目な顔をして、触ったりつついたりしているサリトスに、ディアリナが何とも言えない顔でうめく。


「アユムの趣味なのかね、これ」

「恐らくだが――少し違うだろうな」


 ディアリナの不名誉な疑問に、フレッドが首を横に振る。


「単純にこの城を作ったあとで、こういうのが似合う雰囲気になったから、雰囲気作りに増やしたんじゃないか?」

「フレッド正解」

「うおっと。聞かれてたか」


 思わず、割り込んでしまった。

 割り込んでしまったのは仕方が無いので、そのまま言い訳をさせてもらおう。


「いやぁ、退廃と背徳の城をテーマにあれこれイジってたんだけど、色彩だけだとインパクト足りなくてさぁ……ついつい植栽アートを植えちゃったんだよね」

「植栽アートというのか、これは」

「食いつくのそこかい、サリトス」


 俺の言葉に反応したサリトスに、ディアリナが苦笑している。


「俺の出身世界じゃ、わりと有名なものだな。

 植えた木を――そういう下世話なものだけじゃなく――動物の形や、庭にあったデザインに剪定していく職人がいたんだ」

「人の手で作れるものなのだな……」


 感心したように、サリトスはえろ植栽アートを撫でる。


「他意がないのはわかってるんだけど、やめとくれサリトス。

 絵面的に女の尻を愛おしそうに撫でてるように見えるよ」

「そんなつもりはないんだが……」


 む――と困り顔をして、撫でるのをやめるサリトス。

 それを見ながらフレッドが人の悪そうな顔をして、ディアリナの肩をちょんちょんとつついた。


「なんだ、嬢ちゃん? 植木でできた女に嫉妬しちまってるのか?」

「ちょいなーッ!!」

「ぐぉばッ!?」


 そのあまりに迂闊な言動に、ディアリナの拳が振るわれフレッドの顔面を捉える。


「仲がいいな、おまえら……」


 それを見ながら思わず俺は呟く。

 仲良きことは美しきかな。


 そういや、うっかり俺の出身世界とか口にしちまったけど――まぁいいか。


「ともあれ、フロア3の攻略がんばってくれ」

「ああ」


 サリトスがそううなずいてから、少し真面目な顔をして訊ねてくる。


「アユム、俺たちはお前を楽しませてやれているか?」

「もちろん。最初の挑戦者がお前らでよかったと思っている」

「そうか。ならばいい」


 何を思ってサリトスがそう口にしたのかわからないけど、楽しませてもらっていることは間違いない。


「フレッド起きろ。そろそろ先に進むぞ」

「おう……」


 サリトスに手を差し伸べられた手を握り、立ち上がるフレッドを見ながら俺はひとつ思い立ったことがあり、ディアリナへと声をかける。


「ディアリナ。最初に謝っておくすまん」

「なんだい、アユム?」

「こう――ダンジョンを作ってる時、かなり気分が高揚しててな……」

「?」

「城の内装は、この庭のノリで察してくれ……」


 ほんと、女から見るとセクハラレベルで悪趣味なデザインにしちゃった気がするんだよなッ!


「く、くくくく……」


 俺の謝罪に、だけどディアリナは笑い始める。


「ダンジョンのデザインを挑戦者に詫びるマスターがいるなんてねぇ!

 ほんと、面白いマスターだよ、アユムはッ!」


 ディアリナは気にするなと笑い飛ばし、不敵に告げる。


「お宝さえあれば、ダンジョンの姿形は関係ないさね。

 気分の問題はあるけどさ、アンタの性格を知ってるから、悪趣味とは思ってもアンタの趣味とは思わないよッ!」

「それは嬉しい言葉だなディアリナ」

「そうかい?」


 ディアリナのやりとりに、サリトスとフレッドも笑っているのを見れば、まぁ俺が阿呆なことを言ったのは間違いないだろう。


「話しかけられたワケでもないのに、こちらから声を掛けるのは些か無粋だったかもな。すまん。

 俺の作ったダンジョン――存分に堪能してもらえればと思う。ではな」


 そうして、俺は自分のマイクのスイッチを切ると小さく息を吐く。

 横ではミツもなにやら笑っている。


「なんだよ?」

「いえ、こんなに挑戦者と距離の近いマスターも珍しいと思いまして」

「……そうか? いや、それもそうか……」


 なんかやらかしてしまった気分になって、俺は思わず嘆息する。

 別に問題が発生しているわけじゃないから、良いんだろうけどさ。


 モニターに映るサリトスたちは、庭を進み、やがて途中にある使用人の小屋の前で足を止めた。

 門と城の入り口のちょうど中間にあるその小屋の前には、いつもの看板が設置してある。


 そして、それをサリトスが読み上げた。


 

   第一層 フロア3

   汝らは賊、戸惑いを越えた先にこそ道示す王冠あり 

 

ミツ「色彩って結構、潜在意識に影響与えたりしますよね?」

アユム「だからってノクターンやミッドナイトに行くような展開にはならんからな?」


次回は、使用人小屋の探索です。

なお明日の更新はお休みします。

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