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5-42.ゴージャスに行こうぜ


 どこかのテントの中で目を覚ます。


「おや、お目覚めになりましたか?」


 俺の顔をのぞき込んでいるのは、見知らぬ顔だが見知った姿。

 ペルエール王国の兵士の格好だ。 


 ラヴュリントスのリスポーンポイントに常駐している兵士だろる。


「どのくらい寝てた?」

「まだ一時間も経ってないかと」

「正確には?」

「三十分を越えたくらい……ですかね」

「そんなにか」


 思わずうめき、独りごちた。


「うーむ、気絶してしまうのは想定外だったな」

「はい?」


 こちらの言葉に首を傾げる兵士。

 彼には申し訳ないが、とっとと動かなければ。


「急いで戻らないと」

「あ、あの! 全滅の心配は大丈夫かと! あなたの後に誰も戻ってきてないので!」

「なるほど、お前さんは優しい人みたいだが、ちょっと認識が甘いな」

「え?」

「それなら急いで駆けつければ戦力としてまた加入できるだろ?」

「あ」

「何より、俺がいた場所は俺以外が死に戻り出来ないエリアの可能性があるからな」

「え? それはどういう?」


 俺はベッドから飛び降りて、左腕についている腕輪に触れる。

 探索者たちが使っている女神の腕輪に見えるかもしれないが、これは俺専用の腕輪だ。


 死ぬ瞬間にはついてなかったから、死に戻りの際にミーカがつけてくれたモノだろう。


「世話になった。ダンジョンに戻る」

「あの……死に戻りは、傷とかは回復しますけど、体力とかはまだ……」

「大丈夫だ。体力はむしろ有り余っている」


 告げて、腕輪に触れてマントを呼び出してそれを羽織る。


「何より好き勝手やられまくるのもシャクだしな」


 腕輪から小太刀を呼び出し、ベルトの左側に差す。


「気にかけてくれてありがとう」


 そう告げて、救護テントから外に出ると、そこには見知った男がいた。


「おや、どうして貴方が救護テントから?」

「久しぶりだなキーラ」

「ええ、お久しぶりです」

「まぁ色々あってな。俺が権限を抱えていると危険な可能性が高かったから、一時的に部下に全権を預けてたんだ」

「その為、ダンジョン内で命を落とし、死に戻りで外に出た……と?」

「ああ。実験も兼ねてたんだけどな」

「実験ですか?」


 キーラが興味深そうに目を眇める。

 彼になら教えても問題ないだろうな。


「D-ウィルス感染者の体内からウィルスを取り除く実験」

「では、あなたも?」

「ああ。自覚と同時に部下に全権渡したのは正解だったぜ」

「判断力と胆力が恐ろしいですね……必要に迫られても、私はためらってしまいそうです」

「ためらいが無かったかと言えば嘘になるが、やらなきゃもっとマズいコトになりそうだと思ったしな。あとは部下を信じるしかない」

「そのまま全権を返してくれない可能性も込み……ですよね」

「そりゃあな。奪い返すのは不可能に近いし」

「…………」


 実際のところ、ミーカなら大丈夫だという確信はあった。理由なんて特にないカンに近いモノだが。

 何より、頼んだ注文を完全にこなせるのはミーカだけだっただろう。


 ミツでも良かったんだが……神様ともども何か隠してる感じだしな。

 それに、信用云々はさておいても、俺の語らない部分もしっかり理解して、頼んだことを完璧にやりきれるかどうか……という点に関してはやや不安が残る。


 最近こそ感情豊かになってきているが、元々はその辺りはわりとフラットな相棒だ。

 感情の機微を利用したようなネタは、うまく乗り切れない可能性はあった。


「自分に置き換えて考えてみましたが、やはり決断力がすごいとしか言えませんね」

「不安はなかった――と言えば嘘になるけどな。

 でも、そんだけ追いつめられてたんだ。精神的にもボロボロだったし……賭けにでも出なきゃもっとヤバいコトになってたかもしれないしな」


 実際、あれは感染しないと分からないだろう。

 結構やっかいな病原菌だ。


「……っと、すまん。急いで戻らなきゃならないんだ。これで失礼するぜ」

「いえ、こちらこそ呼び止めてすみません。最後に一つだけいいですか?」

「なんだ?」

「ウィルスに対する実験とやらは正否は?」


 その問いに、俺は口の端を吊り上げてニヤリを笑って返した。


「ダンジョン内の問題が片づいたら、速攻で作るさ」

「何をですか?」

「実験結果に基づいた専用エリアをな」

「……ッ!」


 瞬間、キーラの目が驚いたような嬉しいような様子で見開かれる。


「だからダンジョン内の問題を解決に戻る。

 サリトスかギルマスか……その辺りを経由してキーラにも伝えるさ。

 人間の感染者をどうするかは、人間に任せる形になるが……」

「むろんです。連絡をくださればすぐにでも動かせる範囲で動かします」

「頼むぜ」

「はい」


 そうして、俺はラヴュリントスのエントランスへと向かう。


 その背後で、俺を看てくれていた兵士がキーラに話しかけている。


「あの……あの方は一体……」

「ダンジョンマスターさ」

「え?」

「実験を兼ねてわざと自分を死に戻りさせたらしいよ」

「え?」

「君も私も、近々忙しくなるかもしれないぞ」





 ――さてさて、エントランスから転移ゲートにアクセスして……。


「さすが、ミーカ。俺の行動は最初から計算済みか」


 しっかりとクレーターの近くに転移出来るようになっている。


「しかし行き先はボス部屋か……。

 転移した矢先に、ギロチン・ウィングに斬られたりしないよな?」


 まぁミーカがそういうのもちゃんと制限しててくれているだろうけど。

 ちなみに、ギロチン・ウィングというのは、この第ニ層のフロアボスの名前だ。


 個体というよりも、ニ体一組のユニット名。

 ゾンビアイドルの二人組。


 和風アイドルコスをした女剣士のゾンビ『ウィングソード』。

 ロックなアイドルコスした槍士のゾンビ『ウィングランサー』。


 二人そろって処刑アイドル『ギロチン・ウィング』というワケだ。


 まぁ細かい設定とかは後日語るとして……。

 二人が待機しているボス部屋へと、とりあえず転移しますかね。


 ちょっとだけドキドキしながら転移すると、目の前にギロチン台があった。


「……うん。自分で設置しておいてなんだけど、目の前に急に出てくるとビビるな」


 ここは廃ビルと墓地に囲まれたステージだ。

 モチーフというかイメージというかは野外のライブステージ。まぁ観客はみんなアンデッドなワケなんだけれども。


 そのステージの上には、絞首台とギロチン台が置かれている。

 演出の一環だったんだけど、こうやって遭遇するとちょっと怖いな。


「おや? マスターではありませんか」


 畏まった声が聞こえて振り返ると、小柄ながらもスラっとしたアスリート体型の美少女ゾンビ、ウィングセイバーがいた。

 肌が土色である以外にゾンビ要素の少ないやつである。強いて言えば意図してないのに妙に礼儀正しいところがある。しかもなんか武人的な礼儀正しさだ。個性ってやつかもしれない。


「……管理権限をミーカに譲渡している俺をそう呼んでくれるのか?」


 思わずそう答えると、ウイングセイバーは苦笑した。


「他のダンジョンはどうかは知りませんが、ラヴュリントスにおいては、あなたに創造されたり召喚されたりしたモンスターで、あなたに敬意がない者は少ないですよ」

「そうなのか?」


 理由はよく分からないが、いきなりウイングセイバーに斬られる心配はなさそうで安心だ。


 そこに新たなる声がやってくる。


「むしろ、旦那のD-ウィルスからの快復と、近々の現場への復帰をお祝いしたいところさ」


 セイバーよりも背の高く肉付きの良い、だけのアスリート体型な美女ゾンビ、ウィングランサーも来たようだ。


 こちらはなんというか、ヤンキー上がりって感じだ。

 それでいて、セイバーと仲良くやれているようなので、態度や言葉遣いとは裏腹に、人の良さみたいなのがあるんじゃないだろうか。


 この辺りも設定した覚えがないので、個性ってやつなのかもしれない。


「そうか。ありがとうな。お前たちや、ここのゾンビたちはD-ウィルス感染は大丈夫そうか?」

「今のところは問題ねぇな。何匹か混ざり込んだコトはあったが、ミーカ姐さんが何とかしてくれたぜ」

「ランサーの言う通りです。連絡すればすぐにミツ様やユニーク・スリーの皆さんが対処してくれましたから。安心して仕事ができます」

「まぁ侵入者が全然来ねぇから、歌と踊りの練習ばっか楽しんでるけどな!」


 そりゃまぁ、深層のボスほどそうだよなぁ……。

 出番……出番か。


 よし。


「なあ二人とも、ちょいと手伝ってくれないか?」

「手伝い……ですか? マスターからの頼みであれば断る理由もありませんが……」

「アタシも構わないぜ」


 二人が快諾してくれたので、俺は笑みを浮かべる。


「限定的にこの部屋から出られるようにしてやるから、俺の供をしてくれ。

 上の階で、ユニーク・スリーや探索者たちが戦っている、ラヴュリントスにとっての異物を排除、駆逐する」

「そういうコトでしたらッ、我らギロチン・ウィングッ!」

「心の底から喜んで請け負ってやるぜッ!」

「頼むぜ。戦力は多い方がいいしな」


 それに何より――


「ついでに、お前たち二人と一緒なら、復活をハデに盛り上げられそうだしな」


 つまりはそういうことだ。

 アイドル二人を侍らせて登場するなんて、最高にゴージャスだと思わね?


「それじゃあ、行こうぜッ!」

「この身、今は一振りの刃に変え、マスターの復活の為、尽力します!」

「一番槍じゃねーのはシャクだが、マスターの復活のお手伝いっていうなら文句はねぇッ! 邪魔な奴を貫くのは任せておきなッ!」


 この宣言の瞬間、エリア内の観客席にいるおっかけゾンビたちが一斉に騒ぎ、大層な盛り上がった。


 その盛り上がりの中を出陣するのは、そう悪い気分じゃなかったな。うん。



ゲルダ

『アユムの復活は喜ばしいが――くッ……あの観客席のゾンビどもと一緒に盛り上がってみたい! この衝動はなんなのだ……ッ!?』



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