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5-41.決着、荒れ狂う追憶の果て

レビュー頂きました٩( 'ω' )وありがとうございます

更新頻度が下がってしまっていて申し訳ないです


 冷たい焦熱のオーラと、温かい氷雪のオーラが混ざり合って、マーブル模様の炎となった。

 俺はそれに飲み込まれる。


 そこで、自分が自分だとぼんやりと自覚する。そして眠る。


 何度でも悪夢をみる。

 俺は追憶に囚われている。


 …

 ……

 ………

 …………


 腹部から夥しい量の血が溢れている。

 両手で押さえたところで無駄なのに、俺はそんな自分の腹部を押さえながら――


 ナカネが、殺されるところを見ている。


『ムダな怪我したなぁ……お前ががんばったのに、女はお前をムダ死にさせた』

『恨めばいいじゃないか。女を。お前をムダ死にさせた女を』


 ――いやだ。俺はナカネを恨まない。恨む気なんてない。


『なら女を殺したのはお前だな、お前が倒れなきゃ、女は駆け寄って来なかった』


 ――俺が、ナカネを殺した……。


『そうだ。お前がもっと粘れば、女は死なずにすんだのになぁ?』


 ――俺が、ナカネを殺した……。


『いいぞ。お前は俺と同じだ。殺人者なんだよ』


 ――俺が、ナカネを殺s…


『はーっははっはっははははははははははッ!!』


 唐突に、追憶の中に聞き覚えのある高笑いが響く。


『何もかもが間違っているぞアユムッ!!』


 俺の右手に紫色の炎が灯る。

 熱くない。だが恩讐を熱に変えろと訴えてくる。


『貴様は男として女を守ろうとしたッ! 尊き行いだッ!

 眼前の男はチカラなき者どもを無差別に切り裂いたッ! 外道の行いだッ!』


 炎の灯る右手が勝手に動く。

 通り魔に向けて、真っ直ぐ。


『貴様を刺したのは通り魔だッ! 女を殺したのは通り魔だッ!

 お前が恨むべきは己ではないッ! 貴様の恩讐はッ、貴様らの運命を台無しにしたッ、その通り魔に向けるべきだッ!!』


 右手に灯る炎が剣になる。

 俺はそれを掲げて通り魔に向ける。


『そうだッ、それでいいッ! 燃やせッ、潰せッ、殺せッ!

 その恩讐の念が尽きぬともッ、その根元を焦がして己の思いにケジメをつけろッ!』


 通り魔はニヤニヤしたままだ。

 当たり前だ。目の前にいるのは本物じゃあない。

 俺の記憶の中にいる、俺の追憶を支配する、ただの幻影なのだから。


『お前の行いはムダだったッ! ああ確かにそうだッ! お前は倒れ、女は守れず――それは事実だッ!

 だがッ! 女を守ろうと自分を奮い立てた勇気ッ、その覚悟ッ、それは間違いなどではないッ! それは決して無意味などではないッ!』


 その行いは決して無意味などではなかった――その言葉に、気持ちが沸き立つ。


『とっとと決着をつけろアユムッ! (おの)が双眸見開きッ、追憶の闇の先の現実(いま)を見よッ! 耳を傾け怨唆(えんさ)に混じるお前を思う(いのり)を聞けッ! お前はまだオレと違って取り返せる場所にいるッ!』


 次の瞬間、左腕が雪に包まれる。

 不思議と暖かく、懐かしく、愛おしく感じる雪。


 これは……なんなのだろうか?


『――お願いアユムッ、目を覚ましてッ!』


 …………ッ!!

 誰の声か分からない。

 なのに、不思議と涙が溢れてくる。

 この声の主に会いたいという思いが次から次へと湧いてでる。


『ならばとっとと終わらせるがいい。

 輝かしき記憶も、忌まわしき記憶も、それは全てお前が歩んできたお前の血肉。

 一片たりとも、見ず知らずの存在に奪われてはならない。

 お前の絶望を取り戻しッ、今の希望を確かめろッ! その為に――』


 分かっているさ、デュンケルッ!

 お節介な復讐鬼ッ! お前の恩讐の炎を借りてやるッ!


 絶望を取り戻し、今の希望を確かめる。その為に――


「消え失せろD-ウィルスッ!

 この荒れ狂う追憶もッ、色なき絶望も俺のモノだッ!

 いつまでもッ、通り魔(トラウマ)の姿を模してんじゃねぇッ!!」


 ――俺は、炎の刃を一閃する。


 その刃は通り魔ごとハリボテの交差点を切り裂いて、影法師の摩天楼を燃やしていく。


 映画のセットのような町並みが燃える。

 思い出の全てが燃えていくような気がするけど、きっとそれは錯覚だ。


 左手の雪が、愛らしい雪だるまの姿に変わっている。

 俺は、無意識にそれを天に掲げた。


 雪だるまは吹雪に変わり、柔らかな冷気で町を包む。

 偽りの記憶は無残に焼けただれ、正しき記憶だけが優しく冷え固まっていく。


『そうだそれでいい。あとは貴様が目を覚ますだけだ』

『待ってるからね、アユム』


 聞こえてくる少女の声はコロナのもの。

 だけど、どうしてだろう。それはとても懐かしく大切な声にも聞こえた。


「ああ、今行くよ。

 デュンケル、コロナ……いや、ナカネ」


 確信はなく確証もなく、だけどコロナの声を借りたナカネの言葉にうなずいて、俺はゆっくりと意識を覚醒させていく……。


 …………

 ………

 ……

 …



 目が覚めると、俺は膝を付いていた。


 えーっと……。

 場所は、第三層のクレーターか。


 どうやら、ミーカとサリトスたちが上手くやってくれたようだ。


 とはいえ――まだ身体にウィルスは残ってる感じがするな。


「よう、本体(おれ)。目は覚めたか?」


 俺が顔を覗き込んでくる。

 その正体が何であるかに気づき、俺はにへらと訊ねた。


「マッドスタッバーか。上手くいったようだな」

「たぶんな」


 苦笑するマッドスタッバーの手を借りて、俺は立ち上がる。


「マスター!」

「アユム様ッ!」


 背後からのミーカとミツの呼びかけに軽く手を挙げて応える。


「ミーカ、まだアドミニ権限は戻すな。

 俺の死に戻り(リスポーン)設定をマスタールームではなく、探索者同様に外へ設定してくれ」

「おーけー☆ 変☆更!」

「みんな、もうしばらくココを頼む」


 みんなに指示を出してから、俺はマッドスタッバーと向かい合う。


「あとは任せろ本体(おれ)

「おう。あとは任せるぜ、幻影(おれ)


 そうして、マッドスタッバーは手にしている包丁を俺の心臓に突き立てた。


 …………

    ↑↓

     …………


 本体(おれ)が死に戻る。

 光の粒子になってその姿を消し、しばらくしたら探索者たち同様にラヴュリントスの外に放り出されることだろう。


 俺は上着の裾をさばきながら、サリトスたちに振り返った。

 何か言いたげな彼らに向かって、そしてナカネの不安そうな様子を解消するように、つとめて明るく告げる。


「さぁ、最後の仕上げといこうぜッ!

 今ので本体が抱えているD-ウィルスは消滅するはずだ。そのうちここに戻ってくるだろうさ。

 だが、俺の中にはまだ残っている! そして俺のウィルスはアユムの悪夢そのものだ。だから――」

「なるほど。最後の仕上げか」


 こちらの言葉の意味を理解して、サリトスが剣を構える。


「徹底的に頼むぜ。もっとも、俺も全力で抵抗させて貰うが……」

「いや、抵抗などさせないさ……フレッドッ!」

「あいよッ!」


 俺が包丁を構えるまもなく、フレッドが光り輝く矢を放つ。


「ちょッ、ズルくね……ッ!?」

「油断しているお前が悪い」


 躱すまもなく光の矢は俺を貫く。

 痛みはないが――これは、動きを制限する類のデバフ技だ。


「もう一発ッ!」


 分析している間に、フレッドが二射目を放つ。

 矢はJを描くような軌道で、俺を下から上にすくい上げるように浮かび上がらせた。


「いくぞディアリナッ!」

「ああ、ハデに行こうかッ!」


 サリトスとディアリナが剣を構える。


 あーあ……ったく。

 ロクに活躍できないまま終わりかよ。


 だが、悪い気はしない。

 本体(おれ)の感情も、俺には流れてきているから。


 ナカネもいるし、本体からウィルスも除去された。

 だから、もう大丈夫だ。


「アユムッ!」


 コロナの姿をしたナカネがこちらを見上げて叫ぶ。


「俺はマッドスタッバー……ただの幻影だ」

「それでもアユムだったッ! だからちゃんと挨拶しないとって!」


 まったくさぁ……ナカネにも困ったもんだ。

 これから、おっかない剣士二人にやられるっていうのに、笑顔になっちまうじゃないか。


「またね! アユムの影なら、どこかでまた会えるでしょ?」


 ああ――本当に、もう。ナカネなんだからさぁ……。


「サリトス、ディアリナ……来いッ!」


 俺はナカネに応えず、二人に告げる。

 そして、二人は膨大なルーマを湛えた剣を俺に向かって突き出して、それを解き放つ。


双龍(ソウリュウ)ッ!」

十衝覇(ジュウショウハ)ッ!」


 二人の剣先から放たれたルーマが龍と化し、(あぎと)を開いて左右から俺に食らいつく。


 龍は俺を中心に交差しエックスを描くと、その姿を輝かせて炸裂する。


 いいダメージだ。

 これなら十分だろう。


 爆風が晴れる中、俺は空中で身体をくの字に曲げたまま静止する。


「ダメかい?」

「いや、動きは止まっているが……」


 訝しむサリトスたち。

 そこへ、俺は俺を中心に強烈なフラッシュを焚いた。


 ぴか! ぴか! とだいたい二回。


「あー……たぶん、大丈夫。終わったよ」


 ナカネの呆れた声が聞こえる。

 いいじゃないかよー! やりたいんだからー!


 ゴゴゴゴゴゴゴ……という音とともに俺の身体は小刻みに震え、足下からゆっくりと塵になっていく。


「変な演出している暇があったら、とっとと消えろー!」


 勿体つけて消えていく俺に痺れを切らしたナカネは、思い切り石を投げてきた。

 当たらなかったというか当てるつもりはないんだろうけど、それはそれとしてヒドいじゃないか!


ミーカ

「マッドスタッバーというかマスター?

 鬱憤たまってそうだねー☆」


セブンス

「あの消え方、我々にも実装して欲しくはありませんか?」


Dr&ホネ&ミーカ

「わかる!」


ミツ

「まったく分からないんですけど」


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