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1ー16.自覚無き諦観者

     

 いやはや、ディアリナの木の矢回収は想定外だった。

 イメージの元にしたゲームでは、そういうテクは確かにあったんだけれども。


 ついでに、見つけてくれたらラッキー程度の気持ちで仕込んだ隠し通路も、フレッドがしっかり見つけてくれた。

 元々そういうものを見つけるレベルが高かったんだろうけど、恐らくはサリトスやディアリナのような、自分の技量を信用し背中を押してくれる仲間と出会えたことが大きいんじゃないだろうか。


 うん。

 いいねいいね!


 やっぱりあの三人は最高だわ。


「でも、やっぱりあの報酬は少し高価すぎるのではないのですか?」

「僭越ながら自分もそう思います」


 ふむ。

 ミツとスケスケには説明しておいてもいいか。


「それを説明する為には、まずあの黒い封石のついた宝箱の特徴を説明する必要があるな」


 そう前置いて、俺は二人に向き直る。


「あの黒い封石のついた箱はな、☆3以上の装備確定ボックスだ。

 素材や薬などを除外した武具や装飾の、☆3以上がランダムで中に入っている。

 ちなみに、サリトスたちは気づかなかったみたいだけど、エントランスの腕輪の箱と同じように、時限復活機能がついててな。一度あけてから一週間後には中身が変わっている仕様だ。空っぽの場合は、中身は復活する」

「それはそれで豪気な気も致しますが……」

「ランダムというコトは、あの三人はご自身の運で☆5の魔具を手に入れられたのですか?」

「いや。別にサリトスたちに限らず、最初にあそこにたどり着いたチームに対しては、☆5が確定するように設定してた」


 ついでに補足すると、あの花道の宝箱は、フレイムタンのように呪文を唱えると特殊な効果を発揮する、『呪文効果付き魔具のピックアップボックス』だ。

 呪文効果のついた魔具の出現率があがっている。


「主はなぜわざわざそのような設定を?」

「最初にゲットした連中に、このダンジョンを宣伝して欲しかったからな」


 欲を言えば隠し通路のことはボカして、このダンジョンで手に入れた――とだけ言って回ってくれると嬉しい。


「なるほど、理解しました」


 ミツはポンっと手を打つ。


「最初にあの箱を見つけたチームは、今後も似たような箱に期待を寄せる。

 そして、箱からのアイテムを手にしたチームが無事に帰還し、手に入れたアイテムを自慢すれば、このダンジョンに挑戦する者が増える……」

「そういうコトだ。理想を言えば、そうして挑戦するやつらが、うちを普段の常識が通用しないところだと理解して、いろいろと頭を使ってくれるようになると嬉しい」


 とにかく、創造主からの依頼をこなすには、ダンジョンを介して、現地人の意識改革をする必要がある。

 サリトスたちがどれだけ優秀でも、この世界の住人なのだ。


 だから彼らにも、この世界の常識が根底には存在している。

 そこの認識を誤ると、サリトスたちすら先に進めない仕掛けなどを作ってしまいかねない。


 魅力的な報酬と、がんばればギリギリで届く報酬ゲット条件――くらいのバランスで、仕掛けを構築していきたいところだ。


 今回のフレッドみたいに、俺の想定を越えてく出来事も今後はあるかもしれないけれど、上方向に越えて行ってくれるなら大歓迎だ。

 下から潜り込まれて越えて行かれると、不貞寝するしかないけどな。


「個人的にはサリトスたちを楽しませる為の仕掛けを作っていくのをメインにするけど、仕事としてはこの世界の脳筋たちの意識改革をしないとダメなんだろ?

 だからまぁ、サリトスたちがいろいろ報酬を手に入れて一度帰還してくれれば、勝手に広報活動してくれるんじゃないかな、と」

「サリトス殿たちが、ダンジョンを独り占めする可能性は?」

「ない」


 スケスケの疑問を俺はバッサリと切り捨てる。


「サリトスたちは、ギルドから依頼を受けてやってきていた。

 依頼である以上は報告の義務があるはずだ。報告に多少手を加えるかもしれないけどな。

 さらに言えば、エントランスでの王国兵とのやりとりから、依頼人はペルエール王国そのものだ。

 なら、探索者(シーカー)か王国兵――最低でもそのどちらかが、一定数挑戦してくるはずだからな」


 ついでに言えば、王国兵がひっそり挑戦してても噂というのは隠せない。

 いずれは探索者(シーカー)の耳に届き、王国が一般の挑戦を禁じても勝手に挑戦するやつが増えていくことだろう。


「なんとッ! 主はそこまでお考えでありましたかッ!」

「すごいですアユム様。どこまで先を読まれているのですか?」


 なにやら賞賛してくるスケスケとミツに、ちょっと半眼になってしまう。


「あれ? 褒めているのですよ?」

「それは分かってるんだが……」


 程度の差はあれ、やっぱ変なとこが考えなしっぽいのは、この世界の住人っぽいなぁ――と、口には出さないけど。


 指示や命令を出すとき、ちょっと気を付けた方がいいかもな。


「場当たり的な対処してても限界がくる。

 なら、事前に想定できる範囲で未来を想定し、その範囲であればどう転んでもよいように種を蒔いておくというのは、大事なコトだろ?

 少なくとも、国王や領主、大店の店主とかは、そういう先読みと、先への対策の事前準備や根回しというのは常に求められるはずだ」


 情報と状況っていうのは生き物だ。

 常に成長し、あるいは退化し、あるいは進化し、あるいは暴走する。


 それらの変化に常に注意を払い、事前に気づけた範囲、事後に対処できる範囲での最善手を打つ。


「俺自身、それをどこまで実践できているかわからないけれど、ダンマスとして仕事を引き受けた責任として、それらを自分のチカラの及ぶ範囲でやるべきだと思ってる」


 そう告げると、なにやらミツはキラキラと瞳を輝かせてこちらを見てくる。

 スケスケも同様だ。いや、こいつは目がないから双眸たる空洞を向けてきてるだけだけど。うん。怖い。


「このスケスケ。生前はそれなりの商人を自負しておりましたが、主を見るとまだまだであったと実感致しますな」

「そうですねぇ……もしかしたら、我々や主がしていたコトって、本当に場当たり的で無意味な対処だったのかもしれませんね……」


 二人がしみじみと呟く言葉――特にミツに、俺は思うことがあり、彼女の頭に手を乗せた。


「アユム様?」

「確かにそうだったかもしれないけどさ、少なくとも創造主やお前たち御使いは、やれるコトをやってきたのは間違いないぞ」


 ただ、長期に渡って状況は好転せず、むしろ悪化していっているだけだ。


「上手く行ってないのに腐らずやってきたコト、その行いは無駄だったかもしれないけれど、無価値じゃないはずだ」


 そう。無価値であるはずがない。


 なぜなら――


 結果としてこの世界は滅びることはなく。

 結果として、この世界に生きとし生けるものは、守られているのだから。


 この結果を無価値だというのであれば、あまりにも救いがなさすぎる。


「ただな。お前ら御使いも、お前の主も恐らくは疲れすぎている」

「我らに疲れという概念はないはずです……」

「そうだな。肉体的には疲れはないのかもしれないな。だけどな、精神や心も疲れるんだよ。

 美味いモノを食べて嬉しくなるようなやつが、心を持ってないなんて言わせない。だから、少なくとも御使いの精神は疲弊するし、今は疲弊しきっていると判断する」


 有無を言わせず、俺は告げる。


「だからこそ、人間の意識改革に関しては少しばかり俺に任せろ。

 その為に、創造主は俺をダンマスに転生させてまで依頼してきたんだろ?

 御使いにも、創造主にも、必要な時がくればちゃんと頼る。お前らが真価を発揮できる瞬間には絶対にお願いする」


 言っていて気がついた。

 創造主はメンタルが弱かったんじゃなくて、メンタルが弱っているんじゃないかって。


 だとしたら、少しばかり、言い聞かせてやるのもいいかもしれない。

 (ねぎら)って、(いたわ)って――休むことが悪いことじゃないんだって、言ってやるべきだろう。


「休める時に休め。疲れれば疲れるほど無自覚な諦観が意識に混じるぞ。

 疲れているから、無自覚の諦観に気づかない。気づかないから『仕方ない、これしかない』なんて感情で仕事をしちまうのさ。たぶん、この世界は途中からそういう諦観だけで維持されてきたところもあるんだろ?

 頑張ってるのは分かる。頑張りすぎているのも分かる。

 なので、休め。だから、休め。休めるときにちゃんと休め。

 身体だけじゃない、心と頭も休めるんだ。この世界をどうしても守りたいと思っているのであれば、尚更だ。守る為に休め。休むコトは悪いコトじゃない」


 ミツだけでなく、創造主にも言い聞かせるように。

 ミツの頭を撫でながら、ついつい偉そうなことを口にしてしまう。


 でもなー……仕方ないだろ。

 話を聞いてると、創造主って人間でいうとこの鬱ってやつに片足つっこんでそうだったしさ。


「あ、あれ……?」


 すると、ミツの瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ始めてくる。


「わ、悪い……ミツ。別に俺は泣かせるつもりは……」

「いえ――いええ、違います。違うの……です。

 これは私の涙ではなく、たぶん主の……。創造主の感情が私に流れて……きて……ふ……ひぅ……」


 彼女は戸惑っているようだが、恐らくはミツの戸惑いを越える創造主の感情が流れてくるのだろう。

 必死に涙を拭いながら、嗚咽を堪え始める。


 だから、俺はそんなミツを抱きしめた。


「泣いとけ泣いとけ。

 ミツの感情であれ、創造主の感情であれ、神が泣ける時なんて滅多にないだろうからな。

 いつまでも上を向いて、涙を耐えてても限界ってのはあるもんさ。

 抑えきれなくなってあふれ出す前に、俯いて溜まった(もん)を吐き出せるだけ吐き出しとけ。

 抑えきれなくなって発散するより、抑えられる程度であるうちに吐き出した方が、気持ちも落ち着くだろうさ」


 強く抱きしめ、頭を撫でながらそう言うと、ミツは堰を切ったように泣き始める。

 それがミツの涙なのか、創造主の涙なのかは分からない。

 俺に必死にしがみつくように抱きつき、大声を上げて、恥も外聞も気にしないかのように泣きじゃくる。


 それを見ていたスケスケも茶化してくるようなことはしない。

 音を立てないように席を立つと、そのままこちらに会釈をして管理室から出て行く。


 いつの間にやら戻ってきていたセブンスも管理室の扉を開けるなり、状況に気づいて、軽く手を上げる挨拶だけして、中には入らず離れていった。

 


     ☆



 この日、この時、この瞬間――この世界アルク・オールでは、過去から見ても、今後の未来を見ても、歴史的に類を見ないほどの豪雨が降り注いだ。

 その雨はどこか局地的に発生するものではなく、アルク・オール全土を覆い尽くすほどのもの。


 だが、一時間もするとその雨も落ち着き。

 完全に雨の止んだ空は、雨と同じくらい類をみないほどの快晴で――


 青く、青く、青く。

 どこまでも澄み渡る青空になっていたという。


 熱心な創主教の信者たちは、あの雨を境に、世界中の空気が軽くなった気がすると口にしていたが、実際のところはどうなのか、定かではない。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 後にこの雨のことを知ったアユムは、とてつもなく慌てまくる。


「水害とか大丈夫だったの? 俺のせいでどっか国とか滅んでない? 何かやらかしちゃったみたいでゴメンッ!

 まさか、神様を泣かせるとこんなコトになるなんて、想像もしてなかったんだよッ!!」


ミツ「なんだか、泣いたらお腹が空きました」

アユム「セブンスが戻ってたからな。ラーメン作ってもらおうぜ」


 存外追い詰められていたらしい創造主とミツが想定外に泣き出してしまったので、予告詐欺になってしまいました。

 次回こそは、フロア2と3の間にあるエクストラフロアの予定です。

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