0-2.ダンジョンマスターになりました
本日は三話連続投稿です。(2/3)
さっきまでのは夢だったのだろう。
そういう実感を抱いたまま、俺こと荒谷 逢由武は目を覚ます。
だけど、その目覚めは決して爽快と呼べるものではなく。
自分の内側で小さくなっていた何かが、突然膨張したような――
あるいは、小さくなっていた自分の身体そのものが、突然元に戻るような――
そんな内側から強引に叩き起こされたかのような目覚めだった。
目は完全に開かず、藪睨みのまま周囲を見渡す。
暗い――暗い――どことも知れぬ闇の中。
……何でこんなとこにいるんだ?
記憶の整理が付かず訝しんでいると――銀髪赤目の少女が声を掛けてくる。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
それに反射的に返事をしたところで、ようやくハッキリと目が覚めた気がする。
「……あれ? さっきの?」
「はい。先ほどのやりとりは夢ではありません」
なるほど。つまりこの闇はダンジョンの中というわけだ。
俺が一人で納得していると、向こうもこちらが理解できたのだと、思ったらしい。
「改めまして。
この世界の創造主――その御使いにございます。人間でいうところの名というものは持ちませんので、好きにお呼びください」
ペコリと丁寧にお辞儀する御使いに対して、俺も何となく背筋が伸びる。
「自己紹介するまでもなく知ってるかもしれないけど……荒谷 逢由武だ。この世界だと、アユム=アラタニの方がいいのかな?」
「そうですね。名乗る必要がある場合はその方がよいかと」
そうして互いに自己紹介しあったところで、ふと気づいた。
御使いは、なにやらソワソワしている。
相変わらず無表情っぽいんだけれど、明らかに何かを期待する素振りだ。
「……もしかして、命名待ち?」
「……はい」
何で少し照れながらなのかは分からないけれど、そういうことなら、考えてあげないとな。
「……っていうか、俺が付けて良いの?」
「もちろんです――って、そうですね。説明してませんでした。
話が前後してしまって申し訳有りません」
そう言ってから、彼女は改めて自分を示した。
「本日付けで私はダンジョンマスター・アユム様の補佐官に任命されました。よろしくお願いいたします。
つきましては、我らが上司との契約を兼ね、私に命名をして頂きたく思います」
「結構重要なコトをサラっと忘れてたな、アンタ」
「……その、命名が楽しみで……つい……」
軽く目を逸らしながら、小さくつぶやく彼女は、結構可愛い。
まぁ美人の補佐官を付けてくれたってことは、創造主とやらに感謝しておくべきなのかもな。
「それじゃあ――『ミツ』でどうだ?」
「安易ですね」
「うるせ」
軽く口を尖らせながらも、何度も「ミツ……ミツ……」と繰り返してるので、満更でもないだとは思う。
「ダンジョンマスターには必ず、我らが補佐に付き、その際に契約者様より名を頂くわけですが……時々、日本語で言うところの『ああああ』とか『みつかい』とか命名されるコトを思えば、とても良い名を頂けたと思いましょう。ありがとうございます」
「誉めてんのか貶してんのか嬉しいのか……どれだよ」
クールぶっているようで、どこか締まりのない気配がするので、たぶん嬉しいんだろうけど。
基本的に無表情なのに、割と感情豊かっぽいな、こいつ。
「それで――御使いに名前を付けると契約完了なんだろ?
この後、どうすればいいんだ?」
俺が声を掛けると、ハッとしたような反応をしてから、さも何もありませんでした――という表情で、一つうなずく。
「こちらを」
手渡されたのは、タブレットみたいなやつだ。
ファンタジーな世界のはずなのに、いきなり神の関係者が世界観を壊してくるのは頂けない。
とはいえ、受け取らなければ話にならないようなので、素直に受け取った。
「これは?」
「地球で言うところのタブレットのようなものです。
タブレットちっくに、タブレットな感じで、タブレットっぽく操作して頂ければ、タブレットな使い心地を味わえる、神の関係者しか使えない伝説の本――正しくは本の姿をした魔具……いわゆるマジックアイテムです」
「つまりはタブレットだな」
「魔具の本。つまりは魔本です」
「でもタブレットなんだよな?」
「タブレットちっくなだけで、魔本です」
なかなか頑ななやつだ。
「まぁ、なんでもいいけど」
俺はそれを受け取って、軽く画面を撫でてみる。
すると、ホーム画面に、【ダンジョンメイク】というアイコンだけが表示された。
「ダンジョンを弄くる時はこれを使えってコトか」
「はい。詳細な使い方は、都度お教えしますし、気になるコトがあれば、質問して頂ければ答えます。
何はともあれ、まずはアプリを起動して、操作してみてください」
「わかった」
うなずきながらも、俺は少し首を傾げた。
「アンタ、今……アプリって口にしたよな?」
「しましたが何か?」
「やっぱタブレットじゃねーか」
「魔本ですッ!!」
ミツ「タブレットではなく魔本です。間違えないようにお願いしますッ!」