5-39.『ミーカ:乱入するなら邪魔するZE☆』
ナカネちゃん様の声で、みんなの動きが変わっていく。
お供を倒せば倒すだけアユム様に攻撃が通りやすくなるっていうなら、確かに周りががんばらないとダメだもんネ☆
奮闘する探索者たちの様子を見ていると、何もないところに視線を向けながらおスケ姐さんが、呻くように呟く。
「ミーはん、ミツ様。準備をした方が良いと思いんす」
瞬間――アタシとミツ様は顔を上げた。
「何か来るの?」
「直感でありんすが」
だけど、おスケ姐さんのその直感は信用できる。
「ししょー! はかせ!」
「心得ております」
「お任せあれ」
二人とも準備はOK!
いつ何が来ても即座に動けるッ!
もちろん、このミーカちゃんもネ☆
そして、おスケ姐さんの直感は正しかった。
クレーターのはずれ。
その斜面が不自然に盛り上がり、洞窟が生まれる。
だけど、戦闘に集中している探索者たちは、視界の外れにあるだろうそれに気づけていない。
「ミツ様、転送準備。
中から出てくる相手次第では、アタシたちをあそこへ送って貰いたいかな」
「分かりました。
転送後、私はどうしましょう?」
問われて、アタシは少し考える。
ミツ様は戦力として非常にありがたい。
だけど、増援や妨害があの洞窟だけとは限らないワケで……。
それなら――
「しばらくここで様子見をお願いしちゃおうかな。第二陣とかあると困るしネ☆」
「了解です。ミーカさんたちも気をつけて」
「うん☆ お任せあれッ☆」
ミツ様は切り札だ。
相手の出方が分からない以上、伏せ札は多い方がいいもんネ。
だからといって露骨に戦力を割いてるように見られると、向こうも警戒するだろうから……。
なので、アタシたちユニーク・スリー+1は全員出撃。
総力戦っぽい空気を見せつつ、ミツ様は残しておく。
何より――アタシが動けなくなった時、次のダンジョンアドミニストレータはミツ様だ。
だからこそ、アタシとミツ様が同時に動けなくなるのはまずい。
そして、洞窟からモンスターが顔を出す。
一つ目巨人――サイクロプス系のモンスターだと思うんだけど、全身からスライムのような粘着性の液体が滴っている。
正直、キモい★
それが三体。
だけど、アイツらは……。
「マスターと……アユム様と紐付いていない。
あれはラヴュリントスとは関連のないモンスター! ミーカたちが攻撃するコトに、何の制限もかからない相手だネ☆」
告げて、ミツ様へと視線を向ければ――
「では、皆さんを送ります」
ミツ様も心得たもの。
準備万端のアタシたちを、即座に転送の魔法陣で飲み込んだ。
転送が終わり、目の前に粘着サイクロプスが立ち並ぶ場所に出る。
次の瞬間――
「キリシマ流抜刀術――白閃落首」
一歩踏み込み、おスケ姐さんの白刃が閃いた。
それはまさに一撃必殺。
サイクロプスの体表から滴る露が剣に付着しないうちに振り抜かれ、あっという間に納刀された。
剣が鞘に収まった時のチンという涼やかな音が響いた時、サイクロプスのうち一体の首がゴトリと落ちる。
その間、アタシだって黙っているワケもなく。
「ひえひえ、カチコチ、凍っておやすみ☆」
あの滴る雫に直接触るのはちょっと怖いので、氷のブレスで二匹のサイクロプスを凍結させる。
「ししょー! はかせ!」
アタシが呼びかけると、セブンスししょーは拳を、ワライトリー博士は巨大な木槌を構え――
「豚牙轟覇衝ッ!」
「ドンドコキリングハンマー!」
――それを勢いよく振り抜いた。
次の瞬間、ししょーの殴ったサイクロプスはお腹に穴が空いて砕け散り、はかせが殴ったサイクロプスは上半身が粉砕された。
「身体から垂れてた液体はなんかやばそうだから、付着してたらソッコーで拭ってネ☆」
「了解でありんす。もっとも露一つついてはいりんせん」
「こちらもミーカさんが凍らせてくれていたので問題ありませんよ」
「ワシも問題なし!」
よしよし。
みんな問題ないに越したことはないもんネ☆
ふと、探索者の方を見るとベアノフ君筆頭に数人がこちらに気づいた様子。
アタシはその人たちに手を振ってから背を向けた。
「たぶんこの洞窟から色々出てくると思うけど、アユム様の戦いは邪魔させちゃダメ」
「心得ておりんす」
そうしてアタシたちが洞窟に対して警戒していると、クレーターの縁を滑り降りてくる人影がある。
「やっぱ妨害があったか。
ミーカに頼んでおいて正解だったな」
「んー……キミはアユム様? それともマッドスタッバー?」
「マッドスタッバーだよ」
苦笑する姿はマスターにしか見えないんだけど、まぁいいか。
「そのマッドスタッバー君が何か用かな?」
「ミーカたちの手伝い、かな?
向こうのオレがもうちょっと弱ってくれないと、やるコトなくてな」
その言葉に、アタシがどうしたものかと悩んでいると、セブンスししょーが朗らかに告げる。
「ほっほっほ。ミーカさん。手伝って頂けるというのであれば、手伝って頂けば良いではありませんか。
それに、マッドスタッバーさんがアユム様の一部を模倣した存在であるならば、色々とお話も聞けそうですしね」
「特に語るべきコトなんてないんだけどな?」
マスターと同じ顔、同じ声、同じ仕草で――片目を瞑って茶目っ気たっぷりに言うもんだから、アタシの中の色々堪えているあれこれが爆発しそう。
我慢だ。我慢だぞアタシ!
これはアユム様本人じゃない。あくまで影だ。
泣いたり笑ったりは本人が助かってからでも遅くない。
「……それに、余計な口を開くとミーカの邪魔をしかねん。
あくまでも協力者だ。そのスタンスを崩す気はない。
だから、オレもミーカの指揮下に入るさ。本物のオレと向かいあう余力を残して貰えるなら、好きに使ってくれていい」
軽い調子で言ってくる言葉は明らかにアタシを慮ってくれている。
あーもー……優しいんだから、ほんとにもう……。
だけど、その言葉は確かにアタシにとってはありがたい☆
「さてお前たち。おかわりが来たようだぞ」
「ふむふむ。発明は間に合いませんでしたが、このメカニカルウッドハンマーの性能を発揮させるには良い相手であるコトでしょうぞ」
「メカなの? 木なの? 見た目ただのウッドハンマーだけど」
「メカニカルでウッドなのですぞ」
「メカニカル要素が外から分からん。中身か、中身がメカか?」
「純度百二十パーセント木製ですが?」
「やっぱただのウッドハンマーじゃねぇか!」
「ですからメカニカルウッドハンマーと言っておりますぞ!」
マッドスタッバーの言葉に、えっへんと胸を張るワライトリーはかせを見ていると、少しだけ張りつめていた気持ちが落ち着いてくる気がする。
「ミーはん、無理はせんようにな」
「がんばっているのは分かっておりますよ。
だから貴女はドーンと構えていれば良いのです」
おスケ姐さんと、センブスししょーの優しい言葉に、涙が出そうになる。
少しだけ濡れた目を、アタシは乱暴にグシグシと拭った。
「うっし! 気合い入れ直した☆」
そうして、アタシたちは洞窟から現れるモンスターを見る。
「色々と出てくるけど、どうせコイツらってば、うぞーむぞー!
誰に――いや、どこのダンジョンに喧嘩売ったのかッ、しっかり教えてやろうZE☆」
洞窟から出てきた瞬間がこいつらの最後。
ラヴュリントスの中を徘徊なんてさせないんだからッ!!
やる気になったアタシたちに、洞窟から出てくるモンスターは相手にならない。
とはいえ、無限湧きっていうのはちょっと面倒くさいよネ☆
あ。そーだ☆
「ししょー! 姐さん! 大技いくから、洞窟の入り口から離れて~☆」
二人がアタシの声に反応して場所を開けてくれた。
そこへ、アタシは両手を掲げて思いつきの大技をブッパする。
「かちこち、バリバリ、包んで、シャキーン!!」
アタシの両手から猛烈な吹雪が解き放たれて、洞窟を包み込む。
無数の雪が洞窟に、あるいはモンスターに付着するとその部分を凍結。
ガンガン氷付けのモンスターを作っていき――やがて……
「なるほど。洞窟そのものを凍らせたか。やるな」
「アタシのルーマで作った氷だから、生半な炎じゃ溶けないよ☆」
「やるじゃないか。足止めとして悪くない」
うーん。さすがはアユム様顔。
マッドスタッバーに褒められると嬉しくなっちゃうぞ☆
「わっちとしては、もうちっと切りごたえのある相手が望ましいのでありんが」
「ほっほっほ。ベーシュ諸島出身の女性剣士はみなそんな感じなのですか?」
確かに、バドくんと一緒にいるアサヒちゃんもこんなノリだよネ。
「はて――わっちはわっちしか知りんせんね」
首を傾げるおスケ姐さん。
もしかしなくとも、生前のベーシュ諸島にはマジで姐さんくらいしか、女性剣士がいなかったかもしれないネ。
ま、何はともあれ――
「当面の侵入は防げそうだな。
さて、向こうはどうだ?」
マッドスタッバーが目を細めて主戦場を見やる。
それに釣られてアタシもそちらに目を向けた。
「お? ぼちぼちアユム様に攻撃通るようになってるっぽいネ☆」
――ここからが、本当の戦いってやつかナ?
ミツ
『私もあそこに行きたいですねぇ……』





