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5-38.『ナカネ:進め、己が思いを杖として』


「今度は私が冷やしてあげるから……アユムッ!!」


 告げて私が地面を蹴れば、アユムも同時に蹴ってくる。

 前世であれば、アユムとぶつかったら私に勝てる要素はない。


 だけど今は――このコロナちゃんの身体なら、アユムと正面から戦っても簡単には負けないから……ッ!


 駆ける足を止めて、少し先の地面へと杖の石突きを突き刺す。


氷聳刃(ヒョウショウジン)ッ!」


 瞬間、突き刺さった地面から斜めに筍氷(じゅんひょう)が飛び出した。

 アユムはそれを見、僅かに足を止めてから、ジャンプをして飛び越えようとする。


 ――その選択肢を選んでくれて良かった。


 私は自分で作り出した斜めに延びる氷柱を駆け上がる。

 そして、飛び上がったアユムへ向けて、冷気を纏った蹴りを放った。


氷凰尖脚(ヒョウオウセンキャク)ッ!」

迷想断壁(メイソウダンヘキ)


 咄嗟に――といった様子でアユムは障壁を作り出す。

 私の蹴りはそれに阻まれてしまうけど、空中でぶつかり合ったのは好都合。


 杖を持たない左手にルーマを集めてアユムに向かって解き放つ。

 それは亀の甲羅を想わせる形状となってアユムを障壁ごと包み込み――


氷亀甲羅割り(ヒョウキコウラワリ)ッ!」


 右手に握った杖にルーマを込めて、チカラいっぱい振り下ろす。


 原理としてはフレッドさんのテトラ・ケージに近い技。

 相手の防御系アーツごと氷の甲羅で包み込み、本命の打撃によりその防御系アーツごと氷の甲羅を粉砕する。


 杖はそのままの勢いでアユムを目指し、同時に砕けた甲羅の欠片も、アユムに向かっていく。


 杖による強打。

 アユムに直撃し、地面にたたきつける。

 一拍遅れて、氷の欠片が降り注ぐ。


 だけどそれで終わらせないッ!


 私は左手を杖の先端に添え、右手で杖の先端付近を握る。


凍覇陣(トウハジン)雪封(セップウ)ッ!」


 ルーマを込めて大きく振りかぶり、落下の勢いに任せて地面に突き刺したッ!


 瞬間――突き刺した場所を中心に、蜘蛛の巣状に水色の光が地面に走る。そして、その光の線から猛烈な吹雪が吹き荒れた。


 防御力が高いのか、何かギミックがあるのかわからない。

 だけどアユムは障壁を張ったり、パリィをしたりする以上、完全無敵というワケじゃない。


 加えて、ダメージに警戒しても体勢を崩すような技に警戒心は薄いのではないかと判断してみた。

 普段のアユムなら、その辺りはちゃんと警戒するだろうけどね。

 でも、正気を失い呻いたり叫んだりしてはいるものの、アユムの動きはどこか機械っぽい。


 だからこそ、この技を使ってみたワケだけど――


 アユムは身体の各所を動きを制す雪に固められながら、空中へと舞い上げられていく。

 どうやら狙いは間違っていなかったらしい。


「リト兄ッ!」


 叫ぶ。

 当然、リト兄だってただ見てたワケではないはずだ。


「ああッ!」

「俺も行くッ! 合わせろッ!」

「良いだろうッ!!」


 そして、デュンケルさんと共にリト兄が動く。


 デュンケルさんの炎の爪が振るわれると、続けてリト兄の斬撃がアユムを襲う。


 二人が交互に繰り出す波状攻撃。

 即席の連携とは思えないほど綺麗な連携だ。


 姿勢の崩れた状態で宙に放り出されたアユムは、それを防ぐことができずに全ての攻撃が直撃していく。


「サリトスッ、トドメはくれてやるッ!」


 やがて、デュンケルさんは最初に見せた屠叢爪櫛(ほむらつまぐし)被迫(かぶせ)という技で飛びかかり、炎を浴びせつつアユムの頭を掴むとそのまま地面に叩きつけた。


 瞬間、デュンケルさんの手が爆発する。

 ゼロ距離からの爆撃。ふつうなら十分致命傷になりうる一撃だけど、アユムは多少焦げるだけ。


 それでも、デュンケルさんは攻撃の手を緩めない。

 そのままアユムの胸ぐらを両手で掴み、天へ掲げるように持ち上げると、自分ごと火柱に包み込んだ。


「この程度で燃え尽きぬコトくらいは承知の上だッ! サリトスッ!!」

「俺とお前の連携奥義――名付けるならば走炎連刃奏(ソウエンレンジンソウ)……か」


 火柱に包まれながら応答しているデュンケルさんがちょっと面白い――とか思っちゃダメかな?


「フッ、悪くない……キメろッ!!」

「ああ!」


 ルーマを纏って光り輝く剣をリト兄が大上段に構え――


走炎連刃奏(ソウエンレンジンソウ)――これにて終曲だッ!!」


 ――全力で振り下ろした。

 完全にデュンケルさんごと潰すコースだよ、その斬撃ッ!?


 驚く私を余所に、リト兄の斬撃は火柱を両断し、一瞬遅れて大爆発を起こした。


 うあー……また派手な爆発を起こして。


 いつの間にか離脱していたのか、デュンケルさんが空中から降りてきてリト兄の横に着地する。


「悪くない連携だったぞ、サリトス」

「ああ。お前もなデュンケル」


 デュンケルさんがちょっと焦げてるんだけど、そこにツッコミは入れるべき?

 リト兄は平然とやりとりしているんだけど、ツッコミどころ全無視??


 ともあれ、私からスタートして結構な大技をドコドコ叩き込んだワケだけれど……。


「やれやれ、まだ倒れないのかい」


 ディア姉が嘆息するのも分かる。


 最後の大爆発で思い切り吹き飛ばされ、受け身も取らずに地面に落ちたっていうのに、アユムは平然と立ち上がる。


「だが、多少は効いているみたいだよ?」


 フレッドさんの言う通り……かな?

 確かに、最初のデュンケルさんの猛攻と違って、今回はちゃんと効いているっぽい。


 それでもまだ異様にタフというか堅いというか……。


 さっきと今とで何か違いがあるのかな……?


 私は周囲を見回すと――あちこちに、アユムが連れていたお供モンスターが倒れているのが見えた。


 倒れているのに、立ってみんなと戦っているモンスターの数は減っていない。むしろ増えてるし。

 倒せば倒すだけ、増援がどんどん来てる感じかな?


「クッソ、キリがないぞッ!」

「泣き言言ってないで倒しすぎずに、動きを制していけッ!

 サリトスたちがアユムに集中できるようになッ!!」


 バドさんとギルマスが叫びあうようにやりとりしている。

 つまり倒せば倒しただけ沸いてくるんだろう。


 ……いや、ちょっと待って。


 最初のデュンケルさんの猛攻と、今回の私たちの猛攻の一番の違い。

 それは、お供モンスターが倒れているかいないか……じゃない?


 デュンケルさんはいの一番にアユムを攻撃した。

 その時点ではお供モンスターは一匹も倒れてなかった。


 だけど、今回は違う。

 バドさんたちや、ギルマスたちががんばって周囲のお供を倒しまくってくれている。


「皆さんッ、悪いんだけどもうちょっとお供退治のペースあげてッ!

 そいつらが倒れれば倒れるだけ、アユムに攻撃が通りやすくなっている気がするッ!」


 私は大声でそれを告げてから、アユムへと改めて向き直る。


「聞いたか野郎どもッ!」

「女もいるんですけどッ!」

「揚げ足とってる暇あったらもっと倒しやがれッ!」

「アユムのタフさとこいつらの数が連動してるってんなら、アユムが倒れればこいつらも居なくなるだろッ!」

「やれやれ、持久戦だわいな」

「望むところです。それなり斬り甲斐もありますしねッ!」

「みんな好戦的なコトで。カルフ、まだ行けるな?」

「やってやるよッ! ここでやれなきゃコナを助けるなんて夢のまた夢なんだろッ!!」

「がんばりましょうッ、みなさん!」

「倒すのは必須とはいえ、倒しすぎて増援を溢れさせないようにしてくださいよ、みなさん」


 それぞれがめいめいに声を上げ、了解してくれている。

 

「タネが分かった以上、こっちも持久戦と行くさね」

「ナカネちゃんの予想通りだと、ちと骨が折れそうだけどね」

「デュンケル、まだいけるな?」

「無論。この程度で俺の炎は尽きはせんよ」


 どうなれば終わるかが見えてきたからだろう。

 こっちのチームのみんなも、まだまだがんばろうと奮い立つ。


 それは私も同じだ。


 アユムに伝えたいことがいっぱいあるから。

 ここで負けるわけにはいかないし、まずはアユムを助けないと。


 どんなに疲れて倒れそうになろうとも、私はこの思いを杖にして身体を支えて、諦めずに戦い抜いてやるんだからッ!!



ミーカ

『ナカネちゃん様の推測通りだったなら、

 マスターのギミック、えっぐいねぇ……』


ミツ

『このメンツ以外だと、少々厳しかったかもしれませんね』


おスケ

『…………でも、わっちらの出番も……必要になるかもしれんせんよ』


ミーカ

『おスケ姉さん?』


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