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5-32.『ナカネ:アイシクル・メロディ・スノードロップ ②』


 笑いながら躍り掛かってくるマッドスタッバーは、あの日の交差点での出来事を思い出させるに充分だった。


 怖い。恐ろしい。気持ち悪い。思い出したくない。悲しい。辛い。

 ぐるぐる巡る感情に翻弄されそうになる。けれど、あの時とは明確に違うものがある。


 人の身体を使っているとはいえ、それに立ち向かえるだけのチカラがある。


 今はタイランレクシアと戦っているとはいえ、頼りになる仲間がいる。


 そして何より、絶望して嘆くだけの自分にはなかった、勇気と覚悟がここにある。


 何より――マッドスタッバーは影であって本人でないとはいえ――、アユムのアユムらしい表情をちょっとだけ見せてもらったからかな、なんかすごいやる気がでてきたッ!


 だから――


凍陣(トウジン)樹氷壁(ジュヒョウヘキ)ッ!」


 杖の石突きで地面を叩くと、そこを中心に魔法陣が展開。その内側に無数の樹氷が生えて、絡まり、壁となる。


 樹氷はマッドスタッバーの剣を受け止めるなり、ツタを伸ばして剣に、腕に、絡みついては、凍てつかせていく。


 ――ただ謝るだけでなく、ちゃんとアユムと向き合って、(さき)を進んで行くためにッ!


砕衝(サイショウ)ッ!」


 魔法陣へとルーマを追加し、生えた樹氷のすべてを砕いて、周囲へ散弾のように解き放つ。


「くぁひゃッ!?」


 吹き飛ばされ、樹氷の欠片に身体を切り裂かれようとも気にもとめず、マッドスタッバーは起きあがる。


 だけど、それは既に想定済みで――


贖罪(しょくざい)氷十字(ひょうじゅうじ)よッ!」


 ――わたしは杖を掲げて、呪文を告げる。


 解き放つのは氷の十字架。起きあがって姿勢を整えきれてないマッドスタッバーをしっかり捉える。


 ぶつかった相手を氷の十字架に拘束するこのブレスは、もちろんただ拘束するだけで終わらせない。


 右手にルーマを集めると、十字架の中心に向けて叩きつけるッ!


凍噴磔砕衝(トウハタクサイショウ)ッ!!」


 十字架は砕け、氷の飛礫(つぶて)を伴う強烈な吹雪になった。

 為す術もなく転がるマッドスタッバー。これでも倒すに至らない。


 戦闘力はそこまで高くないのに、本当にタフだ。


 それでもそれなりにダメージはあったのか、すぐに立ち上がる気配はない。


 わたしはマッドスタッバーを見据えながら、今回の探索の前にギルドマスターのベアノフさんから聞いた話を思い出す。


 オーラ。

 デュンケルさんが発現させたという、神も想定していなかった新しいルーマの形。


 ルーマ紋。

 魂に刻まれたルーマを制御する為の刻印。

 使用可能なスキルなどもきっとここに刻まれている。

 加えて、魂に刻まれた刻印であるとするならば、わたしとコロナちゃんのルーマ紋は別だろうという推測もできる。

 ……と思う。


 それらを踏まえて、アーツやブレスに関するわたしの知識を動員する。


 恐らく、ルーマ紋は成長する。

 ルーマを使えば使っただけ成長する。

 ゲーム的に言ってしまえば、ルーマとはMPであり、ルーマ紋とは最大MPとかそういうもののはず。

 厳密にはもっと違うんだろうけど、とりあえずわたしはそう認識している。


 アーツやブレスは、技術関連のマスタリーで勝手に使えるようになると思われているけど、たぶん微妙に違う。

 剣術とか氷魔術とか鍛冶といった技術関連のマスタリーはサポートだ。多くの探索者(シーカー)たちは初期に取得した技よりもあとに取得した強い技ばかりを使っているから気づいてない可能性が高いけど、一つの技を使い続けると、マスタリーによるサポートなしでも使えるようになる。


 これに関しては、はぐれモノ関係者の多くが、無自覚に実践している。 例えばディア姉。彼女は大剣で槌技を使ったりしているけど、それは身体に定着した槌技を独自に応用・アレンジし、剣用に昇華させているんじゃないかとわたしは思ってる。

 あるいは、剣の技が身体に定着しているからこそ、槌の技を見よう見まねで再現できている可能性もある。


 わたしがブレスをある程度使えるのも、コロナちゃんの肉体に定着した技術を利用しているにすぎない。

 逆に言えば、わたしが表に出てから積極的に体術や杖術のアーツを使っているので、意識がコロナちゃんに戻った時、コロナちゃんもアーツが使えるようになってるはずだ。


 加えて、わたしがここまでアーツを使えるのは、わたし自身も知らないうちに格闘系のマスタリーのレベルがあがってたからというのがある。

 これは恐らくだけど、わたしの転生特典的なモノだ。


 ……だとすれば、肉体に依存しない技術の定着が存在していることになる。

 じゃあどこに定着するか――それはたぶん、ルーマ紋。あるいは魂。


 そのおかげで高いレベルでアーツを使いこなせてる。

 そんなアーツを、コロナちゃんの身体で使いまくってるわけだから、たぶんマスタリー持ってないはずのコロナちゃんもふつうに高いレベルのアーツを使えるようになっちゃう気がする。


 ……それについてはさておこう。


 ここまでの推測を踏まえて、じゃあオーラってなに? と考える。


 キーワードはルーマ紋。

 デュンケルさんは、無自覚にいきなり発現させたらしいけど、それを制御するのに当たっては、ルーマ紋を認識する必要があったと言う。


 アーツやブレスはルーマ紋を認識する必要なく、身体を流れるルーマを用いて使用する。

 つまり、ルーマ紋なんてものを知らなくても、利用は可能だ。


 アーツやブレスだけじゃない。

 職人が使う職人用のアーツも、肉体能力を補佐するマスタリーも――ルーマと呼ばれるチカラは、ルーマ紋なんて認識しなくても、使うことはできるし、無自覚に発現させている。


 だけど、オーラはルーマ紋の認識が必要だと言う。


 ――であれば、恐らくは肉体や武具を通さず、ルーマ紋から直接チカラを発現させるというのが、オーラなんじゃないだろうか。


 なら、ルーマ紋を認識すれば、わたしにも使えるんじゃないだろうか……と思う。


 そして、ルーマ紋とは言ってしまえば個人ステータスの塊だ。

 そこからチカラを発現させるということは、個々の歩んできた道、選び取ってきたルーマによって、差が生じる。


 オーラとは、その人の歩んできた人生がルーマの形で発露したものなんじゃないだろうか?

 そうだとすれば、『オーラ発現』という同じ括りの中にあって、同一のオーラが発現する確率はゼロだと思う。


 ……まぁここまで全部推測なので、どこかで答え合わせしたいところなんだけど、仮説としては悪くないと思う。


 あとは、実践だ。


 わたしはマッドスタッバーを見据えたまま、自分の身体の中を巡るルーマに意識を向ける。


 その流れは血液か神経か。

 ただ漠然と、似ていると感じ取った。

 それはきっと、わたしが地球人としての知識と記憶を持っているから、簡単に認識できたのかもしれない。


 だとしたら――中枢があるはずだ、と。


 もしかしたらルーマ紋の位置は人によって異なるかもしれない。

 少なくともわたしのルーマ紋は心臓の辺りにあると、認識できた。


 だからわたしは、意識をそこへと集中させる。

 アーツやブレスを使う時の要領で、ルーマ紋から直接ルーマを解き放つイメージで……。


 できた。

 心臓の辺りから、チカラが膨らんでいく感覚がある。


 本能が膨らんだチカラを解き放てと叫ぶ。

 やり方はわからない。


 だけど、何となくわかる。

 せっかくだから、アユム好みにやってみよう。うん。


 ふぅ――と息を吐き、わたしは大きな声を出す。


「オーラ、解放ッ!!」


 瞬間ッ!

 わたしの内側から膨らんだ何かが、言葉と同時に解き放たれた。

 そして、わたしは炎のように揺らめく青白いルーマをその全身に纏っていた。


 発現させてわかった。

 これは、ただルーマ紋から直接ルーマを解放するだけじゃダメだ。


 ある程度ルーマ紋が成長していること。

 マスタリーに頼らず肉体や精神を鍛え、オーラの発現に耐えうるものにしていること。


 この辺りが最低条件だ。

 ――となると、はぐれモノたちだけがたどり着ける領域にも思える。

 多くのマスタリーやアーツ、ブレスを肉体に定着させていなければ、踏み込めない領域なんだ、これは。


 そして発現させた結果、どうなったか。


 それは、感覚的に分かった。

 ゲームに例えるなら、全ステータスが大幅に底上げされている。二倍とまではいかないけど、一・五倍くらいにはなってると思う。

 加えて、きっとわたしのオーラだからこそのボーナスとして、物理攻撃力とブレス攻撃力が追加でブーストされているっぽい、と。


 足下を見ると、わたしの踏みしめた床が凍り付く――違う。霜がおりたというよりも、小さく積雪しているのかもしれない。

 そんな雪を押しのけて小さな花がささやかに顔を出す。


 雪解けを告げる花。希望という花言葉を持つ雪割りの花(スノードロップ)


 デュンケルさんは、炎耐性を無視してモンスターを焼けるオーラだと言っていた。

 だけどそれは、きっとデュンケルさんだけの固有特性。


 復讐に身を焦がしているデュンケルさんだからこそ、炎そのものすらも焼き尽くす恩讐の炎がオーラという形で顕現した――んだと、思う。たぶん。きっと。


 だとしたら、わたしにも……わたしだけの固有特性があるはずだ。

 踏みしめる床に雪がつもるのも、花が咲くのも無関係じゃないかもしれないんだけど……。


 体内を巡るルーマが徐々に減っていっている感覚がある。発動中は常時MP減少って感じ。だから長期戦は難しい。

 なら、固有特性なんて考えず、大幅上昇したステータスで、マッドスタッバーを押し切った方がラクなはず。


「ナカネ、それ!」

「やったらできちゃった」


 こちらの様子を見て驚いているディア姉にそれだけ返して、わたしは構える。


「マッドスタッバーはこれで押し切るからッ! そっちはよろしくッ!」


 ただオーラと呼ぶだけじゃ味気がない。

 せっかくだから、これもアユム好みっぽい名前をつけてみよう。


 そうだ。このわたしのオーラの名前。

 踏みしめる積雪と、小さな花の名前を付けよう。

 わたしの名前。奈花音にちなんで、音に関する言葉も添えて。


 吹雪く雪原に(アイシクル・)響け、雪割る(メロディ・ス)希望の花の歌(ノードロップ)


 うん。悪くないんじゃないかな?


「さぁ、覚悟をしてねマッドスタッバー。

 わたし自身、このオーラがどれだけの性能を持ってるか、分かってないからさ」



ミーカ

『ナカネちゃん様、オーラ発現キタ――――ー☆』


ミツ

『あの感じ、解明しちゃったんでしょうか……?』


次回、中ボス戦、決着。

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[良い点]  明日もですかッ!? ありがとうございます! でも無理は為さらないで下さいね。 [一言]  Gガン〇ムのラブ技が浮かんでしまった。  アユムもナカネも、救われて幸せになってほしいですね。…
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