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5-30.『ディアリナ:瓦礫を縫って』


 アユムの姿が見えたところで、直接あそこへと向かうことができないんなら、あたしらがやるべきことは一つ。進むことだけだ。


 そう思ったのは、あたしだけじゃなく、サリトスもフレッドもナカネも同じ。


 そうしてあたしたちは、大量の瓦礫が転がる街の中を進んでいく。

 瓦礫の周りをソトバって奴が囲んでるんだけど、あれって確か墓石を飾り付ける為のものだってナカネが言ってたよね?


 そんなもので瓦礫を囲むなんて……と思いはするけど、そもそもちょいとおかしくなりはじめた頃のアユムが創っていたエリアなんだとしたら、そういうこともあるのかもしれないね。


 ま、実害がないなら良いさね。


 物陰からヒトガタたちが飛び出してくることもあったけど、さすがにあたしたちも慣れたもの。一見必中。見かけた瞬間に倒してとっとと先に進んでいく。


 こいつらは、この階層にやってくるなりしてやられたからね。さすがに対応できるようにはなってるさ。


 ある程度歩いていくと、少しばかり開けたところにでた。


 ほんの僅かな段差があって、低くなっている。

 いや、少し先は同じくらいの段差があって高くなってるから、目の前は浅い溝みたいになってるんだろうね。


 そして、こちらと向こう――双方の溝の縁に対して平行に、白い線が一本ずつ延びている。


 あたしは気にせずにそこを降りようとして、サリトスに手を捕まれた。


「待てディアリナ」

「どうしたのさ」

「思い出せ。俺たちはすでに似たようなモノを知っているはずだ」


 急に何を言ってるんだい、コイツは……?

 ――と思いはしたけど、サリトスはあまり意味のないことは言わない奴だ。


 あたしは溝から降りるのを止めて、周囲を見回す。

 すると、左手に少し行ったところに、白い格子模様が描かれている地面があった。


 ……なるほど。確かに、あたしたちは一度あれの説明を受けている。


 こんな瓦礫だらけのところに馬車みたいなモンが通るなんて……と思うけど、通るのはたぶん影法師だ。

 その影法師だって、ふつうの人型は触っても問題ないみたいだけど、ここを走る馬車の影がどうなるかは分からない、か。


「信号、だったっけ?」

「そうそう。赤は止まれで緑は進め。それ以外のところ横断するのは危険行為って、少し前にナカネちゃんから教えてもらったでしょ?」


 そういや、そうだったね。

 あたしとしたことが、ちょいと迂闊だったよ。


 サリトスたちに一言ごめんと告げて、この横断歩道ってやつのルールに従い、信号の元で少し待つ。


 正面の信号ってやつが緑色になったのを確認して、縞模様の上を歩いて行けば、特に何もなく反対側にわたれてしまった。


「なんか、拍子抜けするほどあっさり渡れちまったじゃないか」

「んー……たぶん、ルールを守らずに渡ろうとすると、何かが起こるんじゃないかな」

「わざわざ実験して足止めされるのも馬鹿らしいから、実験はしないぞ」


 ナカネの解説と、サリトスの言葉に、あたしは苦笑混じりにうなずいた。

 まぁ気にならないといえば嘘になるけど、ルールを守れば何も起きない場所でわざわざルールを破った場合を確認するものアホらしいといえばアホらしい。

 それで全滅でもしようものなら、笑いものだ。


 そこからまた瓦礫を縫うように先へと進むと、やがてまた地下へと降りる階段が現れる。


「上へ下へと面倒な階層さね」

「瓦礫がなければ、あちこちに通じてるから、慣れちゃうと便利なんだけどね」


 まぁ確かに。

 瓦礫がなければわざわざ、上へ下へと移動しないで、さっさと先に進めそうなのは間違いない。


「だがそれを差し引いても複雑な構造をしていると思うがな。特に地下は」

「まぁねぇ……複雑すぎてダンジョン扱いされてる場所とかもあったりはしたけどね」


 改築によって通れない道があったり、改築が終わって今までと通路のつながりが変わってて……どこかの改築が終わればどこかの改築が始まって……と繰り返しているせいで、ロクに道が覚えられない大型の建物や地下通路なんかもあったんだとさ。


 ……それって、そこを利用している連中が、困ったりしないのかね?


 なんて軽い雑談をしつつ、あたしたちは新しく見つけた階段を降りる。


 降りた先は、結構広い空間だったと思われる場所だ。

 崩れた天井が周囲を囲んでいるとはいえ、それでもかなりの広さがある。


「ここは地下の商店街だったのかもね。

 見る影もないけど、いろんなお店が軒を連ねてたんじゃないかな」


 周囲をぐるりと見回しながらナカネはそんなことを口にする。

 だとすれば、ここはきっと賑わってた場所なんだろうね。だけど、崩れた瓦礫で見る影もない。


 残ったのは瓦礫に囲まれた寂しくも広い空間だけ。


 実際にここに街があったわけじゃなく、廃墟風のダンジョンだって分かってはいても、何ともやりきれないモノを感じてしまう。

 それはきっと、街に息づく歴史や足跡のようなものが――例え作り物の、創られた歴史であっても――感じられるような風景だからだろうね。


「見覚えのある黒いモヤが多少ふらついてはいるが、数は多くない。

 接触しないように気をつけながら、周辺を探ろう」


 サリトスの言葉にあたしたちはうなずきあって、階段を背にして前へと進み出す。


 進めば進むほど瓦礫で道が細くなり、やがて進めなくなってしまった。

 だけど、その細まったところの影に宝箱があったので、開けて中身を回収する。


 だがあったのは宝箱だけだ。


「こっちは行き止まりだったか」

「さっき降りてきた階段の裏側にも空間が広がってるみたいだわね」

「多少狭そうだが、脇を通って向こうを覗きにいうとしよう」


 引き返し、階段を通り過ぎてその先に広がる場所へとやってくると――


「あー……あからさまだなぁ、アユムも」


 言いたいことは分かる。

 右側には横幅が広い上り階段だ。

 とはいっても、地上へ出るようなものじゃない。上の通路に続いているような奴さね。


 ただその手前。

 瓦礫が積みあがって出来た柱のような場所の周辺に、アドレス・クリスタルと骸骨商店が配置されているんだ。


「階段の上は、なんか黄色い布に黒い文字で通行止めって描かれた帯で、これでもかってくらい塞がれてたわよー」

「ならば進めないのか?」

「中央に封石あったから、たぶん腕輪で触れれば開くやつだわな」


 サリトスとフレッドのやりとりを聞きながら、あたしは訊ねる。


「階層ボスってやつかね?」

「いや、それにしちゃあ場所が中途半端だ」


 フレッドが首を振ったところで、ナカネがおずおずと手を挙げながら告げた。


「ここがたぶん折り返し地点なんだと思う。

 言うならば中ボスって奴かな。退廃の城にいた女性の絵みたいな、さ」


 なるほど、とあたしたちはうなずく。


 となれば――


「どうするサリトス?

 退くかい、行くかい?」


 ポーションなどは在庫に余裕があるし、武具も問題はないから、今この場で骸骨商店を利用する理由はない。


 となれば、このまま進むか一度退くかの選択だけだ。


 あたしたちはリーダーであるサリトスにその判断を委ね――


「みんな、体力やルーマに余裕は?」


 三人揃って問題なしと答えれば、サリトスは力強くうなずいた。


「分かった。行こう」


 そうして、あたしたちは階段に足を掛け、黄色い布を張り巡らされた廊下元へと上っていく。


「キープアウトのテープを雑に張り巡らせてる感じはらしいっちゃらしいかなぁ」


 何やら思うことがあるのか、ナカネは苦笑している。

 そのキープアウトのテープとやらが張り巡らされて壁となっているそこの中央に、見慣れた封石が浮いていた。


 見た目はただの布なんだし、隙間を抜けられそうなんだけど……。封石に触れないと先へ行けないっていうのは、不思議な感じさね。

 ま、ラヴュリトスじゃあいつものことだけどさ。


 サリトスに続いてあたしが封石に触れると、石がゆっくりとしたに落ちていく。

 カツンと音を立てて地面に転がると石は消え去り、キープアウトテープが中央から縦に裂けて、力なくだらりと地面に落ちた。


 それを踏み越えて廊下に出る。


「……キープアウトテープとやらが再生したな。

 立ち入り禁止ではなく脱出厳禁という文字に変わっているが」

「ようするに、いつものボスってコトさね。倒すまで出れないよってやつだろ?」


 違いないとサリトスが肩をすくめたところで、フレッドとナカネも入ってくる。


「ここは……ああ、線路の上を通ってる橋みたいなものなんだ」


 そして周囲を見回して、ナカネが一人で納得している。

 ナカネのマネをして周囲を見てみれば、この橋の左右は壁ではなく透明なガラスになっているようだった。


 そこから下を覗き込むと、デンシャって奴が転がっているのが見える。


 そのままの高さで通路を作るとデンシャの通り道とぶつかるから、こうやって高いところに通路があるらしい。


「しっかし、広々としてるじゃないの。

 立ち入り禁止だなんてハデにやってたわりには、別に崩れた様子もないし」


 確かにそうだ。

 結構広いが真っ直ぐな道で、反対側の下り階段も見えるほどに、何もない。


 でも、これだけの広さがあると、大剣を振り回せるから助かるね。


「だが、わざわざ封石で道を塞いだ上に、中へ入ったら脱出厳禁となるような場所だ。何がくるのか分からんぞ」


 サリトスの言うとおりでもあるさね。

 何もないからといって、これから何も起きないわけじゃない。


 そうして、道の半分くらいまで進んだ時だ。


「みんなストップだ」

「フレッド?」


 フレッドがあたしたちを制止した。その瞬間――


 ガラスの割れる派手な音とともに、左手のガラス壁を割りながら、一度見たことのある顔が飛び出してきた。


 青白い肌をして、筋肉質。頭の天辺から爪先にいたるまで、毛の一つもない全裸の男。

 股間のアレもないけれど、その身体は間違いなく男のもの。


 片腕だけ肥大化し、トゲ付きのハンマーかメイスを思わせるモンスター。


「タイランレクシアだったっかな?」

「マッドスタッバーと三つ巴になったやつかッ!」

「こいつがボスだっていうなら、倒すだけさね」

「いくぞッ!」


 ハデな音でちょいとビックリはしたけれど、こちらは既に臨戦態勢ッ!


 向こうだってやる気満々みたいだしねッ!

 さぁ、暴れてやろうじゃないかッ!!

 


 

ミーカ

『ミツ様、ポップコーンとコーラいる?』


ミツ

『う……く……!』

(そういうおちゃらけた状況じゃないと、

 分かってるはいるから、はしゃぐ気は

 ないんだけど、それはそれとして、

 飲み食いはしたいという葛藤)



 次回はバトル開始の予定です


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[一言] ほかの有名作品にも引けを取らないくらい面白いです。 5章に入ってアユムにも直接影響が出る大きな出来事によって、新鮮で且つ話の盛り上がりになっているのが素晴らしいです。
[一言] ①まぁ気にならないといえば嘘になるけど、ルールを守れば何も起きない場所でわざわざルールを破った場合を確認するものアホらしいといえばアホらしい。 それで全滅でもしようものなら、笑いのものだ。…
[一言]  更新ありがとうございます!  マッドスタッバーは、デュンケル(笑いの神に愛された男)のとこにいったのかな?(笑)
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