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5-29.『サリトス:探索再開、深部を目指す』


 前回登録したアドレス・クリスタルを使い、俺たちは探索を再開する。

 登録された場所の名前は『地下喫茶店跡』となっていた。


 その安全地帯になっていた喫茶店から出て、俺たちは先を目指す。


「前回は向こうから歩いて来たから、進むならこっちだね」


 ディアリナは自分でマッピングしていた地図を取り出して、指を差した。

 それに俺たちはうなずいて動き出した。


 広い廊下はすぐに突き当たりになったが、左手方向へと道が続いて――


「ありゃ……完全に廊下が潰れてるね、こりゃ」


 慎重に様子を見ていたフレッドが、こちらに振り返って肩を竦める。


「あそこにアドレス・クリスタルがある以上は、道が間違ってるってワケでもないと思うけど」


 そんなフレッドに答えるのは、ナカネだった。

 だが、ナカネの言葉の意味が分からず俺は聞き返す。


「どういう意味だ?」

「んー……ダンジョン構築におけるテンプレの話?」

「テンプレ?」

「どう説明したらいいのかな……えーっと、ね……」


 ナカネが住んでいた世界では、ダンジョン探索が娯楽として存在していたらしい。


 この世界のダンジョンと異なり、娯楽であるナカネの世界のダンジョンには必ずスタートとゴールが存在している。

 アドレス・クリスタルのようなモノも存在していたようで、自分たちの世界のダンジョン構造を参考にしているというのであれば、無意味な配置にはしないのではないか――とのことだ。


 基本的に中間地点や、エリアやフロアのボス。特殊なギミックの手前。そういう重要な地点に設置されるのが、当たり前になっているのだとか。


 そんな知識を踏まえ、ダンジョンそのもののルールを無視して、制作者の意図を読んだモノの考え方をメタ読みと言うらしい。


 本来はかなりルール違反というか、使い方を間違えると面白さをダメにする考え方らしいが、今回の場合ぐらいは良いだろう――というのがナカネの弁だ。


「そんなワケで――アユムの性格や前世の娯楽ダンジョンをベースにメタ読みするなら、ここにも必ず道があるはずだよ」


 ……そう言われると確かに探索の面白味が半減しそうな、モノの考え方ではあるな。


 ただ、最近の俺たちがしていた「アユムだから大丈夫」だとか「アユムだからやってくれるハズ」みたいな思考もメタ読みになるのではないだろうか?


 それをナカネに問いかけると、彼女は難しい顔をする。


「まぁ一種のメタ読みではあるかもだけど……。

 それはリト兄とアユムの……探索者(シーカー)とダンマスの一種の信頼感でもあるから、お互いがお互いを楽しませる為のモノなら、問題はないんじゃないかな。

 それで仕掛けや隠し通路の場所がすぐに分かったりするわけじゃないでしょ?」


 ふむ。

 一種の信頼感か……。

 確かに、このダンマスを助けようなんて話も、信頼があってこそ、か。


「面白い話だ」


 探索者(シーカー)とダンマスの信頼感など、これまでには無かった考え方だしな。


「端で聞いてると何も面白くないから、行けるならとっとと行きたいんだけど?」


 言葉の通りつまらなそうな顔で(うそぶく)くディアリナに軽く詫びて、ナカネに視線を向ける。


「それで、道は分かるのか?」

「もう見つけてる。

 フレッドさんも気づいてるでしょ?」

「まぁね。廊下は崩れて塞がってるけど、その瓦礫が廊下を崩して階段になってるんだろ?」

「正解」


 確かに瓦礫を視線で追っていくと、それを伝って下の階へと降りれそうな形につながっていた。


「オレが最初、次はナカネちゃん。旦那で、殿(しんがり)に嬢ちゃんってコトでいいかい?」

「ああ」


 フレッドの提案にうなずいて、俺は足下を確認しながら、ゆっくりと瓦礫を伝ってしたに降りていく。

 飛び出した鉄の棒や、砕けて鋭く尖った石材なども多くて、油断するとひっかけて怪我をしそうだ。


「ナカネ。気を付けるんだよ」

「うん」


 ディアリナの注意に返事をしながら、ナカネは下へと降りていく。


 下まで降りると、四本の鉄の棒のようなものがどこまでも伸びているような場所だった。

 とはいえ、先へと続いているだろう場所は、たった今階段代わりに使ってきた瓦礫で埋まってしまっている。


 反対側へと視線を向けると、何か巨大な箱のようなものが複数横たわっていた。


「これは……?」


 その箱には窓のようなものも付いているが、のぞき込んでも住居のようには見えない。

 むしろ巨大な乗り合い馬車と言われればしっくるくるようなものだ。


「電車っていう乗り物。

 このレールっていう鉄の道の上だけを走れるんだけど、停車する場所が決まってて、必ず時間になるとやってくる定期便なんだ。

 私たちの世界の遠方への移動手段の一つだよ」

「デンシャ……か」


 レールとやらに視線を向けると、デンシャの向こう側へと繋がっているようだが――


「デンシャとやらが横転して奥へ行く道を塞いでるね……。

 かといって背後は瓦礫で埋まってて……これ、どうするんだい?」


 ディアリナの疑問はもっともだ。

 横たわるデンシャを動かすのは現実的ではないだろう。


「ナカネ。何か分からないか?」

「うーん……ここは駅と駅の間くらいの場所かな……?

 ホームとかはなさそうだけど……あ、でも作業員用の通路はあるかも?」


 周囲を見回しながら、ナカネはぶつぶつと口にする。


「……あれだ」


 そして、何かを見つけたようだ。


「フレッドさん」

「あいよ」


 ナカネが名前を呼ぶと、フレッドは軽快な調子で返事をした。


「あそこの緑色のランプが付いている場所、あるでしょ?

 たぶん、あの辺りに作業員用とか緊急用とかの扉があると思うの」

「了解。おっさんに様子を見て来て欲しいってワケね」

「うん」

「任せな」

「暗いから気をつけて」


 行ってくる――と、フレッドは口にすると、軽い足取りでナカネが示す場所へと向かっていく。


 ややして、フレッドは戻ってきた。


「正解だったみたいよ。ナカネちゃん。

 扉はあったし、鍵は掛かってなかった。扉の先は細長い廊下だったわよ」

「リト兄」


 呼ばれて、俺はうなずいて、ディアリナを見た。

 ディアリナもこちらにうなずいたので、進むことに異論はなさそうだ。


「行こう」




 フレッドの言う通り、扉の先は人がすれ違うのがやっと程度の細く薄暗い廊下が延々と続いていた。


「ナカネ、ここは何なんだい?」

「さっきも言ったけど、作業用あるいは緊急用の通路だと思う。

 電車が故障して途中で止まった時とか、電車が走ってない時、レールに歪みがないかの点検だとか、そういう時に利用する通路。

 一般のお客さんは基本的に使うコトはなくて、電車の管理ギルドとか、この建物や地下道の管理ギルドとかのメンバーだけが使ってるようなところだよ」


 言われて、納得する。

 城などにある使用人用通路のようなものなのだろう。


 それであれば、上にあったような広い廊下である必要はない。

 この通路は大勢の人間が通ることを想定していないのだから。


「すごい文明があっても、それを管理する奴はいるって話か」

「それはそうだよ。人も文化文明も、それによって作られた道具も……あるいはこの世界に存在するありとあらゆる存在で、壊れないモノなんて無いんだから」


 どこか諦観の交じったナカネの言葉。

 それを感じ取ったのだろう。ディアリナは彼女の頭に手を乗せた。


「だからせめて、大切なモンだけでも壊れないようにって、人間は――生き物は足掻くのさね。それは世界が違えど文化文明は違えど、さ。

 あたしがそうなんだ。ナカネもそうなんだろ?」


 ディアリナの言葉をすぐには理解できなかったのか、ナカネはキョトンとした顔をする。

 だが、ややして理解したのか、明るい表情を浮かべてうなずいた。


「お? 明かりが見えてきたな。

 あの明かりの下に扉がありそうだぜ」


 長い長い廊下を進み、突き当たりにあった扉を開ける。

 そこは、アドレス・クリスタルのあった喫茶店前の広い廊下と似たような場所だった。


 ただ四方が完全に瓦礫に埋まっていて、かろうじて潰れなかった空間のようだ。

 そんな場所に、上りの階段だけは崩れず生きている。


「選択肢はないな。上るぞ」


 周囲を見渡すも瓦礫以外になにもない場所だ。

 他に道はなく、俺たちは互いにうなずきあうと、その階段へと足をかける。



 階段を上りきると、また街中にでるのは予想通りだったのだが……。



 上りきってすぐの右手。

 そこには、今まで見てきた中で一番、倒壊の激しい建物が連なっていた。

 だが、そのおかげでその先が見える。


 その先は瓦礫すら存在しない土むき出しの空間だ。


「何があったら街の中に、こんなえぐれた穴ができるんだい?」

「元の世界だと技術的には可能だけど……」

「可能なとこが怖いわー……」


 ナカネ曰く、こういうすり鉢状に抉れた穴のことをクレーターと呼ぶらしい。

 超が付くほど強力な爆弾でも爆発したのではないかと、推測していた。


 瓦礫の隙間に身を躍らせれば乗り越えられそうだが、ラヴュリントスではそれはできない。

 ここからクレーターへと踏み込めないのであれば、侵入ルートを見つけるしかないだろう……。 


「……ん? あれは……?」


 目を凝らし、クレーターを観察していると、俺はあるものに気づいた。


「クレーターの中心だ。人影がある」


 フードをしていないマッドスタッバー……。

 一見すれば、そうとしか見えない存在だ。


 それは、あぐらをかき、目を瞑ったまま微動だにしない。


 あの人影に繋がれているのか、あるいは人影を繋いでいるのか……その周囲には鎖で繋がった魔獣が二匹いる。


 下半身が車輪の付いた壷となっている前足が四本ある馬。

 下半身が蜘蛛のような足の生えた壷で、上半身が筋肉質の男。


 気持ちの悪い魔獣だが、そんなものはどうでもいい。

 俺たちにとって重要なのはその中心にいる人影だけだ。


「ようやく見つけたな」

「まだまだ道は長そうだけどね」

「ナカネ、冷静にね」

「分かってる」


 その人影は、我々がずっと探していた存在。

 なぜかダンジョンの管理サイドが見つけることができなかった存在。


 このラヴュリントスを管理する変わり者のダンジョンマスター、アユムで間違いなかった。



マッドスタッバー

『バドかサリトスか……どこかでもう一度、顔を出さないとな』


次回もサリトスたちの探索の続きの予定です


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