5-25.『ゲルダ:無駄ではなかった』
だいぶ遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
私事がだいぶ立て込んできてるので、更新が滞っております。
3月からは余裕が生まれると信じたいところなので、今後ともよろしく。
『いくぞ』
可視化され、紫色の炎のような姿となったルーマを身に纏ったデュンケルは、無造作な動きで火球を放つ。
青いバーニングファイター――長ったらしいので、ブルーファイターと呼ぶことにする――は、かなりの速度で打ち出されたソレを、ゆったりとした動作で余裕を持って躱してみせた。
ここまでの流れは別に驚く攻防ではないな。
まぁそもそも、非常識デュンケルと創定外ブルーファイターの時点で、もう充分に驚いておるのだが……。
ともあれ、そんな胡乱げな我なのだが、すぐさまそれを吹き飛ばす現象が、起こりおった。
燃えているのだ。
デュンケルの放った火球に巻き込まれたブラストパンチャーが。
紫色の炎に包まれて、そのまま炭と化して消滅していく。
『我らが種が持つ炎吸収特性を上回る火力……ですか』
それを見、ブルーファイターはうめくが、すぐさまに首を横に振ってみせた。
別の結論に行き着いたのであろうな。
『いや……違う。我らが種族特性を無視して燃やしたのではッ!?』
顔を上げてデュンケルを見る。
当のデュンケルも自分が行った現象が不思議なのか、指先に炎を灯しながら首を傾げていた。
『ふむ……どうやらこの炎のようなルーマを纏っている間は、そうなるようだな。
どうやって発動したのかは分からぬが……まぁ俺も天才であるが故な、そういうコトもあるだろう! はーっはっはっはっは』
哄笑して良い気分になっているようだが、分かってて発動したのではないんかいッ!
思わせっぽいこといいながら発動してただろ、さっきッ!!
『なるほど……では、その炎を耐えきり、貴方にこの拳、届かせて見せましょうッ!』
『良いだろう――来るがいいッ!!』
いや、良くないわッ!
今のお主等が暴れ回ったら、あの地下通路耐えられないだろ、絶対!!
なんじゃ、あの種族特性である炎耐性を無視して敵を焼く炎ってッ!
もしかせんでもアレか? ブレス等で付与した炎耐性とかも無視するんじゃあるまいなッ!?
だとしたら、ますますあの地下通路で戦わせるワケにはいかなんだろ。
余波で灰になって崩れ落ちるんじゃないのかッ!?
そんな心配をしたのは我だけではなっかのだろう。
デュンケルとブルーファイター。
にらみ合う両者の中央――その空間に突如ヒビが入ると、ガラスが割れるような音ともに穴が開き、そこからミツとミーカが姿を現した。
『はい、そこまでー☆』
『両者のこれ以上の戦いを、この空間においては看過するワケにはいかないので、乱入させて頂きます』
本来、ダンジョンの管理者は、探索者と魔獣の戦いに乱入などしないのだが、さすがにイレギュラーが重なりすぎておるからな。
『バーニングファイター・ブルーくん☆』
『はい』
ミーカに名前(?)を呼ばれたブルーファイターは、恭しくその場に膝を付く。
さながら、誇り高き騎士のような流麗な動作だ。
……なんで、あんな動き知ってるのだろうなぁ……?
『理由は分からないけど、ユニーク進化おめでとう☆
今後はミーカたちと一緒に管理室で遊ぼうね☆』
なるほど。
ミーカとミツはそう判断したか。
まぁ、妥当であろうな。あのままブルーを放置するわけにもいかないだろうからな。
『待て、ミーカと……ミツカ・カイン。
我々の戦いの邪魔をするのか?』
『したくはありませんでしたが、放置するワケにもいきませんでしたので』
納得した様子のないデュンケルに、ミツはミツらしい無表情な淡々とした様子で答える。
『このままではラヴュリントスが崩壊しかねませんでしたので。
そのチカラは、今まで想定されていなかったもの。
……もしかしたらアユム様は想定されていたかもしれませんが』
なんとッ!?
アユムはその可能性を想定しておったのか!?
『ところで、そのチカラを解かなくて良いのですか?
今の貴方は、常にルーマを垂れ流している状態なのですが。
そのままだと、すぐに倒れてしまいますよ?』
ミツに言われ、デュンケルは自分を見下ろすような動きをしてから、困ったような顔をした。
『うむ。どうやって解除すれば良いかわからん。
問題がないようであれば、教えろミツカ・カイン』
『教えを請う態度ではありませんが……まぁデュンケルさんですしね』
はぁ――と嘆息してから、ミツはデュンケルを見つめる。
『アーツやブレスのように、その身に纏うルーマを認識できますか?』
『……ふむ。まったく気にならなかったが、意識すると確かにアーツやブレスの発動寸前の感覚が常時全身を巡っているようにも感じるな』
『ではその体内を巡っているルーマの中心点を探ってください』
『……ふむ。あるな、中心点のようなモノが……』
『それがルーマ紋。生き物がルーマを扱う上で欠かせない器官のようなものです』
『ルーマ紋……』
話を聞いているのはなにもデュンケルだけではない。
いや、もしかしたら一番熱心に聞いているのはバドかもしれん。
次いでアサヒのようだが……。
ちなみに、ミツとミーカが出現した時点で、魔獣たちは全員、モヤへと戻っていた。
まぁうじゃうじゃといると邪魔だからな。
『今のデュンケルさんはそのルーマ紋の弁……まぁ扉とか、箱だとか何でも良いのですが、そういうものが開きっぱなしになっている状態です』
『それを閉じる……か』
『感覚的な説明ではそうです。出来そうですか?』
『やらねば、倒れるだけであろう?』
『死にはしませんよ。単に意識を失うだけで。意識を失えばルーマ紋は勝手に閉じるでしょうから、それでも問題はありません』
淡々と告げるミツに、疑問を投げかけたのは話を聞いていたヴァルトだ。
『ではなぜ、制御の仕方をデュンケルに教えているのですか?』
それに答えたのはミツではなくミーカだった。
『んー……ご祝儀?』
『めでたいコトなのか?』
ベアノフが首を傾げると、ミーカもミツも大きくうなずいた。
『そりゃあ、神様の想定を上回った……そう、神の影響を受けず人間の自力によってたどり着いた場所の一つだからね、デュンケルくんのあのチカラって☆』
『言ってしまえば、人類の進化の一歩です。
ダンジョン産のモンスターが……それこそバーニングパンチャーが炎を浴びることでランクアップしたような……そういう現象です。
ルールに従えば必ずランクアップできるモンスターたちではなく、我らが創主も想定をしていなかった人間が独自のチカラでランクアップといえる領域にたどり着いたワケですから』
進化……。
そうか。あれは進化の一つか。
我が諦めかけていた……。
停滞していたこの世界で起きた、人類の進化の一歩。
その目に見える形のモノ。
無駄ではなかった。
諦めかけていたが、諦めずにこの世界を見守り続けていたことは、無意味ではなかったのだな……。
我が預かり知らぬ出来事だ。
なれどD-ウィルスなどとは異なる。
デュンケルの引き起こした現象の正体が、こんなにも嬉しい出来事であったとは。
『デュンケルくんがやらかした現象はね――そう、名付けるならばオーラってカンジかな☆』
『オーラ?』
『アーツでもブレスでもない☆
常時影響型――アユム様曰くのパッシブルーマでもない☆
言うなれば、新しいルーマの形態だよ☆』
オーラ。新しいルーマの形態。
ミーカの言葉が我が脳に染み込むにつれて、じわじわと感情が沸き上がる。
『そしてこれは我らが創主の想定から外れたルーマ。
仕組みこそある程度は理解しておりますが、どのようなチカラを持ち、どのような影響を与えるようなモノかは、我ら神や神に仕える者すら想定できません。
オーラは人間たち自らが理解し解き明かし、使いこなしていくべきもの。精々、精進するコトです』
しかし何だ……オーラに関する感動とは別にだがな――何というかミツが御使いらしい態度でいるのが新鮮だな。
アユムやアユムに仕えるユニークたちの影響か、随分と人間界の住民っぽくなっておったが……。
ちゃんと、御使いムーブもできるではないか。
『まぁそんなトンデモスキルをいきなりノリだけで発動しちゃったのはビックリだけど……まぁデュンケルくんだしねぇ★』
デュンケルだしね――その言葉に、あの場にいる全員が苦笑している。
ふむ……そうか、それで済んでしまうような人物であるか。
『まぁサリトスくんたちや、この場にいる面々ならたどり着ける領域だとは思うから、がんばってねー』
『では、失礼いたします。
ご祝儀――というワケではありませんが、今回限りこの地下通路で戦闘は起きないようにしておきます』
『じゃあねー☆』
『失礼いたします』
動のミーカというべき賑やかさ。
静のミツというべき静謐さ。
その二つを徹頭徹尾保ったまま、二人はブルーを連れてその姿が周囲に溶けるように消えていった。
ん? そうやって消えられるなら、あの空間が割れる演出っていらなくなかった?
まぁ人間たちの注意を引くって意味があったのかもしれんがな。
そうしてミツ、ミーカ、ブルーの三人がいなくなった地下通路に静寂が戻る。
『デュンケル、大丈夫だわいな?』
『ああ……オーラとやら、無事に解除できた』
ゼーロスにそう答えてから、デュンケルは小さく息を吐き、目を伏せた。
『デュンケル?』
『……すまない、少し時間をくれ』
そうしてデュンケルは、瞑想でもするように目を伏せ、静かな呼吸を繰り返してたかと思うと、顔を上げた。
頭の上で腕を交差させ、大きく息を吸うと――
『はぁッ!』
鋭い呼気と共に、両腕を振り下ろすように開いた。
瞬間、先ほどのオーラが発動する。
『なるほど……。
ルーマ紋とやらは、一度オーラを発動させると、扉の開閉の制御がしやすくなるようだな』
オーラを纏う自分をしばらく見てから、デュンケルはふぅー……と大きく息を吐く。
すると、制御がしやすくなった――という言葉通り、オーラはしぼんでゆっくりと消えていった。
『ルーマ紋……ルーマ紋か……』
『バド?』
『なぁデュンケル……ルーマ紋を感じ取るって、ふつうにアーツやブレスを使ったりする時でも感じられそうか?』
バドの問いに、デュンケルはうなずきながら、右手に炎を灯す。
『俺は一度その存在を認識したからな。
こうやってルーマを使えば、感じ取れるようになった。
……むしろ、ルーマ紋の存在を認識したせいか、より精度をあげて制御できるようになった気さえする』
デュンケルの答えに、バドは『そうか』とだけ呟くと、何やら考え込みはじめおった。
『デュンケル、オーラに関してはサリトスたちと共有がしたい。
どこかで今回の探索を切り上げたあと、つきあってもらっていいか?』
『問いの形をしているが、有無言わせる気のない威圧を出しているぞベアノフ。
まぁいい。オーラに関しては、信用おける者たちで共有しておくべき知識だとは思うからな』
そうしてデュンケルたちは、地下通路でしばらくの話合いをしたのち、先へと進み出すのだった。
……人類の進化。
閉じかけていた扉をこじ開けてくれたアユムに礼を言いたいのだがな……。
まったく、その本人がどこでなにをしているのか分からん。
とっとと見つけだして、何とかして欲しいものだ。
依頼はこれで達成したも同然だぞ。
想定以上に早い段階でことが起きたのだ。お前に追加報酬でも払わなければ義理を欠くというものだ。
……だから、早く戻ってこい。アユム。
ゲルダ
『なるほど、オーラとはこういう仕組みか。
……となると、やはりあの領域に足を踏み入れられるのは、はぐれ者たちが候補になるであろうよ』
次回は、再びアユムの追憶の予定です。





