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5-22.『バド:いつもとは違う探索状況』


 フロアボスが居たり、特殊な鍵のついた扉などで次のフロアへとすぐには迎えないエリアにおいて、最初に攻略した連中が次のフロアに降りた十日後に、誰もが次のフロアへと向かう手段が手に入る。


 それはこのラヴュリントス特有のルールだ。


 もちろん、次のフロア解禁前に、続いて攻略できれば、最初に攻略した連中が次のフロアへと向かったあとで、行けるようになる。


 もっとも公平性ってやつを保つ為か、最初の攻略者と次の攻略者の、攻略達成時の時間差は発生するんだけどな。


 ようするに、おれたち――おれ、アサ姉、ケーン、ゼーロスのおっさんに、略奪烏デュンケルを加えた五人――は、サリトスたちが時計塔を突破してから、三日後に時計塔を突破したので、フロア9への挑戦権も、サリトスたちがフロア9へ初めて突入したタイミングから三日後に解禁されるワケだ。


 だけど、今回は挑戦する前にギルマスから声を掛けられたので、解禁と同時に突入とはいかなくなった。


 とはいえ、だ。

 ギルマスからの話を思えば、とっとと突入しなくて良かったとも思っている。




 ギルマスに呼ばれ、ギルマスの執務室での話が終わった後、おれたちは近くの店に入り、軽くお茶をしながら相談することにした。


「D-ウィルス……か」

「状況改善の為にダンマスを見つける必要があるらしいな」


 おれとケーンはダンマスの話に危機感を覚えた。

 そんな病気が広まったところで、最初から馬鹿だったのか、病気で馬鹿になってるのか、見知らぬ相手ならば判断が付かないところだ。


 だが――


「ですが、ディアが私にわざわざ地図をくれた理由も分かりました。

 街の為にも、コロナちゃんの為にも、ダンマスの解放が最優先なのでしょう」


 そうなのだ。

 サリトスたちの話だと、コロナが感染しちまってるって話で、悠長に構えてられなくなった。


 元々コロナちゃんは二重人格みたいな奴だったらしくて、普段は表に出てこない人格が表にでることで病気の進行を抑えてるらしいけど、このままだとおれたちが良く知るコロナちゃんの人格の方が消えてしまう可能性があるらしい。


「最終的には緑狼王(りょくろうおう)の時と同じように、共同戦線となるわいな」

「それはそれで構わないだろ」


 ゼーロスの言葉に、ケーンは問題ないと笑う。

 その上で、ケーンは少し表情を引き締めて言葉を付け加えた。


「だけど、この病気が広まるのは正直言って面白くない」


 おれも、ただ力任せに攻略する奴が多いことに辟易していたのは事実だ。

 だけどその攻略方法を自らの意志で選んでいるのなら問題はない。


 でも、この病気に感染すると無自覚にそれしか選ばなくなる上に、さも自分で選んだ気になっていっちまうことが許せない。


 意志を塗り替えられる? 人格が歪み出す?


 元の人間がどんな人間であれ、それはそいつの人生の否定そのものじゃないか。


 しかもそんな無茶する人間ばかりが増えたら、世の中は面白くなくなっちまう。何より、それを面白くないと感じる感覚そのものが消えちまいそうで恐ろしい。


「そういえば、デュンケル。お前さん、ギルマスの話を聞いてからこっち、大人しいわいな」

「……いや、少し思うコトがあってな」


 いつになく珍しい顔をするデュンケル。


 普段の暴走癖や高笑いで忘れそうになるが、色白のその顔はかなり良い方だ。右手を口ごと顔の下半分を覆うようにして思案するその様子は、絵になっている。


 ……普段の言動やノリを知らなければ、女にモテそうではあるんだよな。


「バド」

「ん?」

「もし許してくれるのであれば、ダンマス解放まで、お前たちのチームと行動を共にしたい。

 どうしてもダンマスに確認したいコトができた。ソロにこだわる理由はそれなりにあるのだが、そのこだわりの為にダンマスへと確認を取りたい故、な」


 完全シリアスモードのデュンケルの言葉に、おれは周囲を見回した。

 アサ姉も、ケーンも、ゼーロスのおっさんも反対する気はないようだ。


「いいぜ。

 ……っていうか、おれってこのメンツのリーダーだったの?」

「今更だわいな」

「今更ですね」

「今更だよなぁ」

「まじかよ」


 どうやら、おれはこのメンツのリーダーだったらしい。


「感謝する」


 まるで貴族を思わせるような優雅な仕草で、デュンケルは一礼してきた。


「互いの利害が一致するなら、一時的にでも背中を預け合う。

 探索者(シーカー)ってのはそういうモンだろ?」

「フッ、そうだったな」


 実際、緑狼王の時はそうだったワケだしな。


 それにしても、デュンケルのこだわり――か。

 茶化す気がおきない程度には、真面目なこだわりなんだろうさ。


 そんなやりとりをしていると、食事にでも来たのかサブマスのヴァルトさんが声を掛けてきた。


「おや? これはちょうど良い場所で出会えたな」

「ヴァルト様? どうかなさいましたか?」

「実は君たちに頼みがあってな。探そうと思っていた」

「頼み?」


 おれたちが首を傾げると、ヴァルトさんが告げる。


「申し訳ないが、フロア9への突入を明後日まで待ってもらえないか?

 とあるチームと共に、私とベアノフさんも時計塔のボスを倒してくる」


 その答えに、おれとケーン、デュンケルはますます深く首を傾けた。


「サブマス。理由になっていない。

 攻略したければ勝手にすれば良いではないか。我々が歩みを止める理由にはならん」


 デュンケルの言う通りだ。

 それに、おれたちと一緒に行動したいのだとしても、時間の制限が存在する。


「もっともな疑問だ。なので素直に答えさせて貰う。

 フロア9に入る為の待ち時間に関しては問題ない。些か反則ではあるが、ラヴュリントス側からの許可を取った」

「許可? 何の許可を取ったんだわいな?」

「ダンジョン側が認めたチームに限り、時計塔攻略時点からフロア9への挑戦権解禁というモノだな」


 おれは思わず瞠目する。

 ダンジョンから許可を取ったってどういうことだ?


「我々人間のギルド同様に、ダンジョンにもダンジョンマスターとそれを補佐するサブマスがいる。

 それに元々ラヴュリントスのダンマスは人間に対して友好的だからな。ラヴュリントスで最前線を走らないという条件で、時折お茶などを飲み交わしていたんだ。主にベアノフさんが、だがね」

「ああ、だからベアノフのおっさんがやたらとダンジョンとD-ウィルスについて詳しく知ってたのか」


 ケーンが納得したように口にすると、ヴァルトさんは首肯する。


「ダンジョンマスターのD-ウィルス感染は、ダンジョン管理において重大な危機なのだそうだ……ダンマスの解放に協力してくれるコトを大前提として、制限を解除してくれた。

 ……バドたちにはかなり申し訳なく思うがな」


 まぁこれが平時だったら不公平というか、ムカつきぐらいは感じたんだけどな。


 話を聞く限り、あまり時間もかけられそうにないのも事実だ。

 つーか、ダンマスまで感染しちまってるって、ほんとヤバそうな話だよな。


「……それについての考えや思いはそれぞれの胸の中ってコトしておこうぜ」


 だから、おれは全員に思ったことを飲み込めと告げることにした。

 それで納得できるかどうかはそれぞれ次第だし、今はそんなことを言っている場合じゃなさそうだ。


 わざわざギルマスやサブマスまでもが動き出すっていうのは、おれが思っている以上にD-ウィルスは深刻な状態になっているのかもしれない。


「おれはサブマスの話に乗って、探索開始を遅らせてもいいと思っているし、サブマスたちが連れてくるチームとの共同戦線を拒否する気はない。みんなはどうだ?」


 おれの問いかけに、四人とも拒否することはなかった。

 アサ姉とゼーロスは少しばかり難しい顔をしてたけど、おれやケーン、デュンケルの様子から、ここは拒否しないのが正解だと判断したんだろう。


「……助かる。無茶を言っているのは重々承知だったからな、受け入れてくれ助かる」


 安堵するヴァルトさん。

 だけど、気になることもあるんだよな。


 そう思っていると、同じ疑問をゼーロスがヴァルトさんに投げた。


「ところで、サリトスたちはどうするんわいな?」

「彼らはだいぶ先へと進んでいるようだからな、彼らは彼らで攻略を進めて貰う。

 だが今回の相手はダンマス。フロアボス程度まで戦闘力が落ちているという話ではあるが、念には念を入れる必要がある。なので、ダンマス戦を行う際は、こちらが追いつくのを待つそうだ。

 時間が逼迫している場合、こちらの攻略も手伝うと言っていた」

「本気で普段の探索とは違うな。

 先行するチームが、後ろにいる余所のチームの攻略を手伝うとか、平時であれはあり得ないもんな」


 ケーンの言う通りだ。


「ですがそれだけ危険な案件であると言うコトなのでしょう」

「それを危険な案件であると理解できないチームと、時計塔を突破する実力のないチームは、関わらせるワケにはいかない、と」


 アサ姉とデュンケルはそれぞれに納得していく。

 本気でそれだけやばいことになってんだろうな。


「マッドスタッバーなる妙なモンスターも出現しているそうで、探索も通常通りとは行かないとサリトスたちが言っていた。

 それらを踏まえ、ギルドはギルド側が把握している『はぐれモノ』及び『はぐれモノ候補』の探索者(シーカー)のうち、その最前線にいる者たちによる共同戦線が必要であると判断したのだと思ってくれて構わない」


 いつも以上に真面目な顔でそう告げるヴァルトさん。

 だから、おれたちもそれ以上のことは言えなくなる。


「了解した。明後日からよろしく頼む」


 みんなを代表して、おれがそう告げると、ヴァルトさんは幾分か和らいだ顔をしてうなずくのだった。


デュンケル

(……ギルマスとサブマスが同時に動く……か。

 正式な依頼でなくとも、国からギルドへの依頼が出ている可能性がある、か……。

 国を巻き込むダンジョン騒動……チッ、いやなコトが脳裏に過ぎる……他国だろうと気に入った国の危機は見たくもないのだが……。

 それでも、俺には優先するべきコトはある。見捨てたとして、悪く思うな……)


 次回は舞台がラヴュリントスに戻る予定です。




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― 新着の感想 ―
[一言] どんどん重い展開になっていますが、早くダンマス正常化されますように。
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