5-16.『ミーカ:ししょーのサンドイッチ☆』
前回の後書きにも書きましたが、
しばらく忙しそうなので、連載が不定期となっております。
さておき
どんな時でもご飯は忘れてはならないのです。
……というワケで食事回。ちょっと息抜きといきましょう。
サリトス君たちは四番階段――マスターのメモには各階段に番号が振ってあるんだよね――を降りて、新しい地下通路エリアにたどり着く。
階段を降りてすぐのところにあるアドレス・クリスタルを登録して、四人は新しい地下通路を南下。
この通路も横幅は広いんだけど、さっきの通路みたいな黒いモヤの大群はない。
とはいえ黒いモヤそのものは存在していて、ふよふよと何をするでもなくさまよってる感じ☆
ただモヤとモヤの間隔はだいぶ広いから、さっきの通路みたいな誘爆に次ぐ誘爆というのは発生しづらい場所って感じだよね。
『ここも黒いモヤがいるみたいだね』
『ああ……だが、数は少ない。
戦闘になっても囲まれるようなコトはないだろう』
サリトス君たちも、その通路の光景を見て、正しく感じ取っている様子。さすがだね☆
ゆっくりと歩き始めたサリトス君たちを見ていると、管理室の扉を誰かがノックする。
アタシが「どーぞ☆」と返事をすれば、入ってきたのはセブンスししょーだった。
「失礼します。
御使い様、ミーカさん。サンドイッチの差し入れですよ」
「ありがと、ししょー☆」
「ありがとうございます、セブンスさん」
ししょーが持ってきたのは、ししょー謹製のサンドイッチ。
中身は――
チキンとハニーマスタード。
ハムとチーズ。
ベーコンとポテトサラダ。
フルーツと生クリーム。
――の四種類。
アタシ用のは小さめに、ミツ様の分は大きめに作ってるある気遣いが、ししょーらしい。
それを管理室のテーブルに置きながら、ししょーが訊ねてくる。
「どうですか、ミーカさん。
サリトスさんたちは、マスターを見つけられそうですか?」
「どーだろ? でも、今のところは順調だと思うよ☆」
「それは何よりです」
まぁ順調にマスターを見つけられたとして、そのマスターをちゃんと止めてくれるかどうかは分からないんだけど。
そこまで口にしてししょーを不安がらせちゃうのもアレだし、お口にチャックしちゃうミーカちゃんなのです☆
「我々、ユニークスリーとプラスワンは、マスターを傷つけるコトができませんからね。
不安はありますが、任せるしか無いところがもどかしいところです」
……うん、まぁ……隠すまでもなくししょーも同じ懸念を抱いていたみたいだけどね★
「でも、今のアユム様の推定戦闘力――暴走を加味しても、サリトスさんたちなら勝利の可能性はゼロではなさそうです」
サンドイッチを眺め、口の端から涎を垂らしつつも、言葉だけは真剣にミツ様が告げた。
その内容に、アタシとししょーはびっくりした顔を浮かべる。
「え? ミツ様。今のアユム様の状況とか分かるの?」
「漠然と……程度ですけど。
第一階層の緑狼王を倒したチームにベアノフさんやヴァルトさんを加えた十一人編成でなら、かなり勝ち目はあると思います」
「うーむ……」
ミツ様の感覚が事実だとして……問題は探索者さんたちがそれを是としてくれるかどうかかなー……。
まぁサリトス君たちとかは気にしないかもしれないけど……。
ベアノフ君かヴァルト君が顔を出してくれるなら、そういう話もしてみようかな?
などと考えていると、ミツ様の涎の量ががすごいことになってきているのが視界に入ってきたので、アタシは苦笑を浮かべた。
「とりあえず、ミツ様。食べるとしましょーか☆」
「はいッ!」
そりゃもう嬉しそうな顔でうなずくミツ様。
この顔で作ったものを食べてくれるもんだから、作り甲斐があるんだよねぇ……。
本当に嬉しそうにどれから食べようかと迷っているミツ様を横目に、アタシはポテトサラダサンドを手に取る。
「いただきまーす☆」
パンの内側にはそれぞれにカリカリに焼き上げられたベーコンが挟まっている。さらにそんなベーコンに挟まれたポテトサラダは、黒い粒々がはっきりと分かるほど、粗挽き黒胡椒を効かせてあるみたい。
パクリと食べれば、ベーコンの塩気ある旨味と、その油を吸ったポテトサラダが口の中で混ざり合っていく。
マヨネーズは少な目に、だけど黒胡椒とニンニクをガツンと効かせてあるポテトサラダは、ベーコンに負けない味の強さでもって、自分が主役だと主張しているみたい。
元々、ジャガイモ自体が旨味の強い品種を使ってるんだろうし、サンドイッチに挟むのに最適な荒さでマッシュしてあるからか、二枚のベーコンにも負けてないのがすごい。
ベーコンも、胡椒も、ニンニクも、マヨネーズも、全てはこのジャガイモの美味しさを引き立てる為のモノって感じ☆
さっすがししょーのサンドイッチ!
これ一つとってもサイコーに美味しい奴ッ!
「ふあああ……さすがセブンスさんのお料理です! 美味しいですッ!」
当然、食べればミツ様も大喜びする味になってよね☆
なんかすごい勢いで減ってるけど、こんだけ喜んでくれるんだから、作り手としては嬉しい限り……ってなるんだよね☆
もちろん、ポテサラサンド以外だって最高に美味しいやつ☆
チキンはどうやって処理をしたのか、親鳥並の旨味を持ちながらも雛鳥のように柔らかいものが挟まっている。
これにあわせたハニーマスタードソースが絶品。一緒に挟まってるレタスも食感のアクセントになってて美味しい☆
定番のハムとチーズも、どちらの味も互いに高める最高の組み合わせを選んでるんだと思う。
そこに、レモンっぽい感じのソースを一緒に挟んでて、しっかり旨味とコクがあるのに、後味さっぱりという感じの仕上がり。
これも、当然美味しいんだよね☆
最後に、フルーツサンド。
アタシでも唸るほどのデキの生クリームがたっぷり。しかもこの生クリーム、口当たりがすっごい軽いの☆
断面を綺麗に見せる為に、断面の部分だけは大きめのフルーツが挟まっているけど、そこ以外のフルーツは薄切りにしてある。
口当たりの軽いクリームのおかげで、フルーツの味をしっかりと味わえながらも、フルーツ特有の強めの酸味などの角は取れ、あっさりさっぱりまろやかに楽しめる。
さすが、ししょー☆ スイーツ系もお手の物だ☆
「はあああぁぁぁぁぁ……どれも美味しいです」
パクパクもぐもぐと勢いよく食べていくミツ様を見ながら、ししょーは嬉しそうにしている。
「先にお届けした創主様も喜んで頂けましたし、サンドイッチは美味くいったようですね」
「うん☆ さっすが、ししょーだね☆」
「ふふふふふ。ありがとうございますミーカさん。
ですが私もまだまだです。もっと高みを目指さなければ」
「アタシもパティシエールに復帰したら、もっと高みを目指すよ☆」
「ならば今は私はミーカさんの分までがんばらせて頂きます。高みを目指すコトではなく、このラヴュリントスの料理番として、ね」
「ちょっと大変かもだけど、よろしくね、ししょー!」
「ええ。ミーカさんも。私には計り知れない重圧があるかもしれません。ですが、我々の代表としてよろしくお願いします」
「まかされて~☆」
横ピースしながら、ししょーからの言葉を受け止める。
アタシらしく軽いノリで返したけれど、その奥にあるマジな感情はきっとししょーに伝わったハズ。
そう。
アタシにとって、マスターが完全復帰するまでの時間のすべてが正念場。
ししょーの美味しいサンドイッチを食べて感動している間も、正直あまり気が抜けない。
ミツ様が感じ取っているアユム様の強さが正しい場合――サリトスくんたちだけで挑まれると勝ち目はない可能性があるんだもん。
特に、暴走マスターに殺された探索者さんたちが、正しく死に戻りするかも怪しいワケで……。
その辺をひっくるめて一発勝負になる可能性があるから、やっぱりどこかでサリトスくんたちや、ベアノフくんたちともう一度コンタクトを取る必要があるよね。
「セブンスさん。おかわりはありますかッ!?」
「残念ですがありません。申し訳ありませんが、夕餉の時間までお待ちください」
「そんなーッ!?」
なんていう、いつものやりとりを横目にアタシは視線をサリトスくんたちに戻す。
どうやら順調に通路を進んでいるみたい。
ミツ様とのやりとりをそこそこに、お皿を片づけて管理室を出て行くししょーに手を振って見送って、アタシは小さく息を吐いた。
自分でも変な気の張り方してる自覚はあるんだけど、どーにもねぇ……。
「あ。また出てきましたね……」
ミツ様に気づかれないように嘆息した時、ミツ様がどこかうんざりしたような声を出した。
「マッドスタッバー?」
「はい」
アタシが問いかければ、ミツ様はあっさりとうなずいた。
視線を向ければ、すっかりお馴染みなったマッドスタッバーが、サリトス君たちに襲いかかっている。
ただ、今回はタイランレクシアもいなければ、黒いモヤの群れもない。
周囲のモヤに触れないようにしつつも、四人はマジでマッドスタッバーを討とうと動いている。
『いい加減ッ、大人しくなってもらいたいんだよねッ!!』
そうなっちゃえば、マッドスタッバーは正直、雑魚に近い。
フロアボスや、特定の強敵モンスターと比べると、マッドスタッバーのスペックそのものは高くないからね。
そして、今この瞬間――ディアリナちゃんの一撃は、完全にマッドスタッバーを捉えた。
「取ったッ☆」
「直撃コースですね」
アタシとミツ様から見ても、確実にマッドスタッバーを切り裂く未来しか見えない一撃。
少なくともマッドスタッバーのスペックからすれば、躱すのは不可能なタイミングで放たれた技。
だけど、どういうワケかマッドスタッバーはそれを躱した。
どう躱したのかが見ていたはずなのに分からないけど、確かに躱しちゃったんだ★
「え? え??」
『は……?』
アタシとミツ様だけじゃない。
攻撃を放ったディアリナちゃんに、あの場にいるサリトス君たちが、全員目を瞬いた。
それでも、完全には躱せなかったみたいで――
何らかのスキルだったのか、あるいはフードに隠蔽系の特殊効果で付与されていたのか。
ディアリナちゃんの剣が、マッドスタッバーの被るフードを切り裂くと、その下にあった顔がはっきりと見えるようになる。
隠蔽効果が切れたのか、その顔が正しく認識できるようになったみたい。
肌はゾンビのような土色で、
双眸は血のような淀んだ赤色で輝く狂気の光を宿しているけど、
その顔は……間違いなく……
「アユ……ム、様……?」
呆然とミツ様が呟くとおり、マスターの顔だった。
「「…………」」
『『『『…………』』』』
次回、【荒れ狂う追憶】
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