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5-15.『サリトス:永遠を偽る影法師』


 階段を昇りきったところで目に入った光景に、言葉を失う。

 だが、冷静になってみれば、ゴーレムたちは膝を付いて腰を落としたまま、動く気配はない。


「このフロアにいるゴブリンが動かすまでは、動かないんじゃないかな」


 ナカネの言葉に、俺たちは納得した。

 逆にいえば、ゴーレムを動かす前に、ゴブリンたちを倒せれば問題ないだろう。


「ならば、動かされる前にゴブリンを倒す」


 それが最適解のはずだ。

 ディアリナたちからも否定はない。


 そうして方針が決まった俺たちは動き出す。


「それにしても、影の人たちってば平然と動いてるじゃないの」

「瓦礫で塞がってる道とかにも、平気で入っていくしね。どうなってるんだろうね?」


 ゴブリンに警戒しながら周囲を見渡しているうちに気づいたのだろう。

 フレッドとディアリナはそんなやりとりをしている。


 それに対し、やや思案してからナカネが口を開いた。


「恐らくは街に染み着いた影法師とかかも。

 他のフロアにいる影の住民は、そこで生活をしている影。

 だけどこのフロアの影は、かつていた住民そのもの……みたいな?」


 ナカネも確証があるわけではないようだ。

 だが、彼女の言葉はわりと納得のいくものだった。


「このフロアの影法師にとって、街に瓦礫などないのかもしれないな。

 ただ生前の生活を続けている……そんな害のない亡霊のようなものなのだろう」

「それはそれで悲しいお話だわね」


 俺の思いつきに、フレッドは肩を竦める。


「でも……きっと、アユムの中には、そんな思いもあるのかも」


 ポツリと、ナカネがつぶやく。


「ナカネ?」


 どこか憂いを帯びたような声に、ディアリナが心配そうに見遣った。


「自分は死んだってコトを受け入れられず、この世界で神様をしていたという事実は夢。目が覚めれば、そんな事実はなくなってて、いつも通りの生活が待っている。そんな願望が、アユムの中にはあるのかもしれない」


 アユムにとって、この世界の出来事はひとときの夢だった可能性がある――か。


 だからこそ、アユムは生き生きとダンジョンマスターをしていた……ということだとしたら……。


 俺が何となく思考を巡らせていると、ナカネは少し強めの口調でもって、首を横に振る。


「だけど、わたしとアユムの地球における人生は終了した。そこに間違いはない。それは間違いなく事実であり現実。

 それを受け入れないと、きっとわたしもアユムも前には進めない――死後と考えたら、前に進む……とはちょっと違うかな?

 ともあれ、わたしはここの影法師たちのようになる気はないし、怨念こじらせたアンデッドになる気もない。アユムをそんな風にはさせたくない。

 だから、とっとと見つけて目を覚まさせてあげないとね」


 アユムはこの世界に神の権能を持つダンジョンマスターとして再誕している。

 だが、ナカネはどうなのだろうか?


 コロナの中に、もう一つの人格として生まれたようだが……。

 コロナとナカネが分離する手段が見つからなかった場合、ナカネはどうなるのだろう?


 今まで通り表に出てくるのをやめるのか……。

 あるいは、アユムに謝罪したいという生前の心残りを果たし、満足の中で逝こうとでも言うのか……。


 僅かな時間ではあるが、それでも仲間と認めた者と会えなくなるというのは――例え、想像や妄想の上でも、あまり良いものではないな……。


 これまであまり自覚はなかったのだが――俺は、両親のように、大事だと思ってたものが突然手の中から無くなってしまうのは嫌なのだろう。

 涙が流れずとも、粛々と対応できてきても、両親が迷神の沼の底へと沈んでいったことは、俺の中でかなり大きい出来事として刻まれているようだ。


 今の今まで、そんなことなど、あまり気にしていなかったのだが……。


「どうしたんだい、サリトス?」

「ん……いや……」


 黙り込んでしまった俺を、ディアリナが不思議そうな顔で覗き込んでくる。


「影法師たちの存在も、暴走するアユムの影響を受けて生まれたものなのだとしたら……と、考えていた。

 アユムにとってナカネを喪ったコトは、それだけ大きなコトだったのだろう――とな。

 そんな考えの途中、俺自身が両親を喪った時のコトを思い出してしまって、妙な気分になっていた」


 俺の答えに、ディアリナではなくフレッドが笑いながら肩を叩いてきた。


「なぁ旦那。

 旦那の両親が迷神の沼の底へと沈んだ時、旦那がどう思っていたのかは分からんがね……だが、きっと今その胸に浮かんだ妙な気分ってのは、今の旦那だからこそ感じられるようになった感情なんだと思うぜ」

「そうだね。私も今の私だから考えられるコト、思うコトっていうのはあるから。

 サリトスさんも、当時は持っていなかった経験や出来事を重ねたからこそ、当時は感じられなかった別の感情というのが湧いてくるようになったんだと思うよ」


 フレッドとナカネの言葉は不思議な実感がこもっている。

 考えてみれば、フレッドは俺よりも年上だったはずだし、ナカネもコロナの身体に宿っているから幼く見えるが、実際はアユムと同じ年齢+コロナの年齢ということで、ここでは一番の年上だ。


「ふむ。年上の言葉だけあって、含蓄がある」

「旦那ぁ……おっさんに対してはそれでいいけどさぁ……さすがに、ナカネちゃん怒るよ、それ?」

「そうだねぇ……いくらサリトスでも、さすがに今のはないね」


 何やらフレッドとディアリナに叱られた。

 一方でナカネは特に何の反応も……。


「そうかそうだよね……。

 前世の享年はサリトスさんより気持ち若い程度だし、転生先は生まれたばかりのコロナちゃんの中なんだから……あははは……眠ってるコトが多かったとはいえ……考えてみたら……あははは……アラフォーを越えちゃってるじゃない……あはははははは……」


 いや、何やらだいぶショックを受けている。


「どうしたナカネ? なぜそんなにショックを受けている?」

「サリトス。ちょっと黙っておくれよ」

「旦那はもうちょっと、女の子たちの心の機微って奴、学んだ方がいいかもねぇ……」

「?」


 うーむ……よく分からないが、どうやら俺はナカネを傷つけたようだ。


「すまんナカネ。

 お前が俺より年上であると気づいたので、年上であることに敬意を払いつつ、さらには異世界とこの世界でそれなりに生き、その年月の中で様々なモノを見てきたからこそ積み重なった含蓄を褒めたつもりだったのだが、お前を傷つけてしまったようだ」


 普段は言葉が足りないと言われるからな。

 今回は出来る限り自分の考えをまとめた上での謝罪だ。

 これならば、フレッドやディアリナも文句はないだろうし、ナカネにも伝わったことだろう。


 そう思って口にした謝罪に対して、ディアリナとフレッドが頭を抱え、なぜかナカネの瞳は潤んでいる。


 はて? 俺はどこで何を失敗した??


「ナカネ。諦めな。サリトスってそういう奴だからさ」

「分かってはいたけど、(ちょく)で味わうとなかなか……」


 ディアリナはナカネの頭を撫でながら慰めている。

 そういう奴? 直で味わう? うーむ……??


「まぁ何だ……気を取り直して、進もうぜ」


 そして、フレッドが気遣うように、先へ進むよう促してくる。

 そうだな。よく分からないが、これ以上は何をやってもドツボにはまりそうなのでそれがいいだろう。


「そうだな。行くか」



 会話を切り上げ、歩き出した俺たちはやがて地下へと降りる階段を見つける。


「ゴブリンの気配はなかったね」

「ああ。だが、ゴブリンを倒し損ねてゴーレムが動き出したら、かなり面倒な場所ではあった」


 ディアリナの感想に俺はうなずく。

 その横で、フレッドとナカネも何やら話をしている。


「フレッドさん、気づいてた?

 壁際で座ってたゴーレムたちの何体かは、その背中の向こうに道があったの」

「もちろん。これまでのラヴュリントスの作りから考えると……」

「うん。どこかでわざとゴーレムを動かさせて、道を開かせる必要がでてくるかもね」


 二人の話を聞きながら、俺は考える。


 フロア9とフロア10。


 今探索しているこの階層は――


 どこからどこまでがダンジョンマスターとしてのアユムが作り上げた仕組なのか。

 どこからどこまでが過去に囚われたアユムの嘆きなのか。

 どこからどこまでがD-ウィルスに狂わされたアユムが手を加えたのか。


 その境界線が酷く不鮮明で、通常のダンジョンとも、普段のラヴュリントスとも異なる――説明できない不気味さのようなものが、取り巻いている場所だな……と。





ミツ『今のアユム様でしたらダンマスの力を使って、永遠の命くらいなら手に入ると思いますけど……』


ミーカ『そういう意味じゃないってコトは、ミツ様だって分かってるでしょー?』


 次回も、サリトスたちの探索は続きます。



 プライベートで想定外のイベントが発生したため、8月以降は週間更新が怪しくなってきた為、しばらくは不定期連載とさせて頂きます。ご了承をば。



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― 新着の感想 ―
仕様的に対策はされてるだろうけどゴブリンに動かせるなら探検者も動かせないもんかね……?
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