5-14.『ディアリナ:混戦の地下通路』
あたしたちは一斉に走る。
それぞれの足の速さとかもあるので、それぞれが余り距離を離さないように意識しながらだ。
そんな中で、フレッドが少し先行して進んでいく。
一人、突き当たり近くまで進んでいくと、左右を見渡し、右側を示した。
「全員ッ、右だッ! 左は瓦礫で道が塞がれているッ!」
あたしたちはそれぞれにうなずいて、右へと曲がる。
「ここは、黒いモヤは無いようだね」
「だが、油断は禁物だッ!」
「途中に階段があるみたいだけど、どうする?」
ナカネが示す階段。
その左右には、通路の奥へと行く道も見えているんだけど――
チラリとサリトスを見やる。
僅かな逡巡のあと、サリトスはすぐさま口を開いた。
「階段だ。
通路の奥まで行って行き止まりだった場合、目も当てられない」
「それもそうだね」
満場一致。
あとは、この通路の半ばにある階段までたどり着けばいい。
「やばい数のモンスターが追ってくるわよーッ!」
わざわざ道を示した後、殿を勤めてくれているフレッドが叫ぶ。
言われなくても分かっちゃいるんだけど、改めて言われるとゾッとするさね。
その直後、フレッドの鋭い声が、通路を切り裂くように響いた。
「旦那たちッ、少し先ッ、左手の壁ッ! 警戒ッ!!」
走りながら、フレッドの示す場所を目で探す。
……あれだねッ!
縦に長い楕円状のあからさまなヒビが、その壁にある。
あのヒビと同じサイズの穴が開いた場合、人が余裕で通れるだろうね。
そして、フレッドの警告は正しかったッ!
あたしたちがそのヒビの入った壁を通り過ぎた直後だ。
ハデな音を立てて、そこが砕け散り、開いた穴から人影が出てくる。
出てきたのは灰色の男。
そういう格好をしているワケじゃなくて、頭からつま先まで毛が一本もない。しかもマッパ。
わざわざ灰色の男だってあたしが思ったのは、そいつの肌が灰色だからだ。
ちなみに股間のアレは付いてない。
でも、その姿は背の高い成人男性って感じだ。
筋肉の付き方とかは、ケーンに近いのかな?
細身ながらしっかりとした筋肉の付いたスマートな感じ。
ただ右腕の肘から先が異様に肥大化してて、手としては機能してない感じだ。デタラメに刃の付けられたメイス――あるいはモーニングスターのトゲ鉄球のが近いか――のようになっている。
逆に行えば、そこ以外は人間そっくりでかえって不気味さね。
「恐らくレクシア種だッ! 相手にしている暇はないぞッ!」
サリトスがそう告げながら、灰色の男に向けてスペクタクルズを投げつけている。
確かに、腕が引きずらないといけないくらい大きいレクシアがいたね。
あれの完成系だと言われれば、そう見えなくもない。
灰色の男はこちらを見据えると、地面を蹴る。
――速いッ!?
想定以上の速度で走ってくる。
狙いはナカネみたいだけど……させるワケにはいかないねッ!!
あたしはナカネをかばうように動いて、振り下ろされる右腕を大剣で受け止めた。
「ディアリナッ!」
「先に行ってよサリトスッ!
フレッドッ、殿を交代だよッ!」
灰色の男の腕を払って、素早く構え直した剣を振り抜く。
だけど、灰色の男は後ろに飛び退いてそれを躱した。
倒せるとは思ってなかったけど、あんな勢いよく後ろに飛んで躱されるとは思わなかったね。
「ディアリナ。タイランレクシアは倒す必要はないからな」
「分かってるってサリトス。適当に相手をしつつ、階段を目指せばいいんだろ?」
とはいえ、灰色の男――どうやらタイランレクシアって名前らしい――より向こうからは、モンスターの群れも近づいてきてるからね。
適当に相手をするっていっても、時間を掛けてはいられない。
あたしは大剣を構える。
タイランレクシアも右腕を構える。
は――一丁前に、睨み合いに付き合ってくれるじゃないか。
人間みたいでやりづらいね。
だけど、いつまでも動かないわけにはいかないさ。
ちょいとばかり、こっちは急いでるんだしねッ!
私が踏み出せば、向こうも踏み出してくる。
向こうのメイスのような腕と、あたしの大剣がぶつかりあった。
次の瞬間ッ!
「ディアリナッァァァァァッ!!」
突然、サリトスがあたしの名前を叫びながら踏み込んでくる。
「左へ跳べぇぇぇぇッ!!」
切羽詰まったその声に、あたしはタイランレクシアの腕を弾いて、左へ飛ぶ。
事情は分からないが、それを気にするより先に動くべきだという判断。
そして、それは正しかったッ!
「ヒャハハハハハハハハッ!!!!!!」
さっきまであたしがいたところに、いつの間にか天井にでも張り付いていたらしいマッドスタッバーが逆手に持ったナイフを振り下ろしてきたところだった。
そのマッドスタッバーの着地に合わせ、サリトスはルーマを乗せた剣を左から右へ一閃する。
「扇波ッ!」
ルーマと衝撃波を纏った斬撃が閃光を伴って振り抜かれる。
だけどこの技はそこで終わらず、横薙ぎの残光に重ねるように、縦一文字の同じような斬撃が放たれた。
「十字翔ッ!」
十字の形に放たれる閃光の衝撃は、マッドスタッバーを飲み込み吹き飛ばす。
吹っ飛んできたマッドスタッバーに巻き込まれる形で、タイランレクシアも地面を転がった。
「今だッ!」
サリトスの声にうなずいて、あたしはサリトスと共にその場から離脱する。
だが、素早く起きあがったタイランレクシアはこちらに狙いを付け、地面を蹴り――
だけど、駆け出すことはなかった。
「アヒャ? ヒャハハハハハ!」
横からマッドスタッバーがタイランレクシアに切りかかったからだ。
「仲間割れかい?」
「仲間ではないのかもしれないな」
あたしの呟きにサリトスが反応したけど、あたしには意味がサッパリだ。
仲間じゃないってのはどういうことなんだろうね?
「ともあれ、勝手にやりあってくれるなら好都合だ」
「ああ。行こうサリトス。階段は目の前だ」
ナカネとフレッドはすでに階段に足を掛けている。
あそこなら、モンスターは襲ってこないだろうからね。
あたしとサリトスもすぐに合流すべく走り出し――
「旦那、嬢ちゃんッ! 後ろだッ!」
「ちッ」
フレッドの言葉に、あたしたちは舌打ちしながら反応する。
振り返ればそこには、右腕を振り上げたタイランレクシアがいた。
当然、その攻撃を受けるわけにはいかないので、あたしらは素早く動いて、それを躱した。
「ずいぶんと速い到着だな。タイランレクシア」
サリトスが苦々しく口にする。
その直後――
「ヒャハハハハッハ!!」
狂ったような笑い声と共に、マッドスタッバーがタイランレクシアの背後から強襲。
でも、タイランレクシアがそれを躱したせいで、マッドスタッバーの狂刃は、あたしに迫ってくる。
「あーッ、もうッ!!」
勘弁しておくれよッ!!
毒づきながらも受け止めて、マッドスタッバーの土手っ腹に蹴りをかましてやった。
不格好ながらも体重を乗せた前蹴りだ。結構キくだろッ!
吹き飛んでいくマッドスタッバーとその背後にいるタイランレクシアを見据えながら、あたしは大剣を右手一本で握り、振り上げる。
「真牙閃崩弾ッ!」
振り上げた剣に、ルーマで作り出した光の球を纏わせて、踏み込みながら剣の重みに任せて振り下ろすッ!
地面を叩く刃が衝撃波を放ち、一瞬遅れて、剣が纏っていた球が周囲に飛び散り着弾した場所に、攻撃力をもった閃光による柱が立つ。
「倒せるとは思ってないけど、多少は効いて欲しいもんだ」
「ディアリナ」
「ああ、分かってるさね」
マッドスタッバーとタイランレクシアを閃光が飲み込むところだけ見て、その結果は気にせずに、あたしたちは再び走り出す。
何とか階段にたどり着き、ナカネとフレッドと合流したあたしとサリトスは、そのまま後ろに振り返ることなく、階段を駆け上がっていった。
階段の半ばまで登ったところで、あたしたちは駆け足を止めた。
ここなら、襲われる心配はないだろうからね。一息つける。
「あー……シンドい地下通路だったね……」
「マッドスタッバー……何なんだろうね、あれ」
あたしがうめくと、それにフレッドが重ねてこぼす。
それに答えてくれたのは、ナカネだ。
「あれは、私とアユムにとっての悪夢そのもの……かな。
アユムが意図して作ったとは思えないから、たぶん……アユムを助けるまで、執拗に色んな場所で襲いかかってくるかもしれない」
きっと、真にあれが狙っている相手は自分だ――と、ナカネは告げる。
目を伏せるナカネの頭にあたしが手を乗せてポンポンと叩いてやれば、ナカネは不思議そうに顔を上げた。
「それならそれでいいさね。
その都度、あたしらがナカネを守る。そうだろ?」
あたしがサリトスとフレッドに振れば、二人も力強くうなずく。
ほんと、頼りがいのある仲間たちだよ。
そうして、階段を上りきり、再びフロア9へと戻ってきたあたしたちの目に飛び込んできたのは――
「マシン……ゴーレムッ!」
地下に降りる前に遭遇した緑色のものと、似たような形状の赤色のものの二機。
そんなニ機が、道幅の広い場所で、膝を抱えて座っている姿がそこにはあった。
サリトス「チカラ押しでは難しいが、チカラ無くして進めぬ地下通路だったな」
フレッド「闇雲に戦ってても消耗するだけだけど、戦わないで進む方法もみつからないからねぇ……」
ディアリナ「――で、がんばって地下から逃げてくれば、これかぁ……」
ナカネ「緑に、赤……? もしかしてムチ装備の青と背中に盾の背負った薙刀装備型も出てくる……?」
次回もサリトスたちの探索は続きます
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