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5-9.『フレッド:乱戦に染み混ざる狂気』


 ランカーレギオン。

 人間を無理矢理に丸めてこねくり回したあとで、緑色に染め上げたような球体のモンスターだ。


 こいつの系統であるレギオン系のモンスターってのは、悪霊系ながらも物理攻撃が効くのはありがたい相手でもある。

 反面でほかの悪霊系よりもタフだし、その体当たりは強烈だ。顔と顔の隙間から生えた触手をムチのように振るったりと、物理的な攻撃手段を持っているのが、ほかの悪霊系とは異なる点だ。

 しかも、ブレスは使ってくるわ、触手の代わりに穴のあいた部分からは精神に作用する霧のようなものを吹き出すわと、攻撃も多彩。


 まさか愚衆たるヒトガタの中からそんなのが飛び出してくるとは思わなかったけど、四の五の言ってられんわなッ!


怨怨怨(オオオ)ォォォォ……ッ!」


 震えた声で叫びながら、ランカーレギオンについている顔のすべてが口を開く。


 そこに禍々しい赤い光が集まり――


「させるかよッ!」


 オレが矢を射るものの、ランカーレギオンは高く飛び上がってそれを躱した。


「レギオンのブレスがくるぞッ!」


 言わなくてもみんな気づいているだろうが、一応の警告を叫ぶ。

 直後、ランカーレギオンの口から一斉に赤い光が放たれる。


 デタラメな方向へ放たれたものも、空中で向きを変えて、地面へと突き刺さっていく。


 そのブレスはそこで終わりではなく、地面に刺さると同時に断末魔の叫びのような音とともに、火柱のようなルーマの柱がそびえ立つ。


 うひー……怖いったらありゃしないわ……。


 とはいえ全員回避して被害なし。

 だけど、そんなオレたちなどお構いなしにゆっくりとこっちへと進軍してくる愚衆たるヒトガタたちに舌打ちをする。


 意識がそっちに引っ張られそうになるのに気づいて、慌てて(かぶり)を振って、オレはランカーレギオンを見上げた。


「フレッド、レギオンを頼めるか」

「ま、頭上を押さえられちまってるもんな」


 こうなると、オレの出番にはなるんだが――


「また弾けやがったよッ!」


 ディアリナの言葉に、オレは視線を巡らせた。


 すると愚衆たるヒトガタのうちの一匹が、ランカーレギオンに変化した時同様に、身体を弾けさせている。

 そこから出てきたのは上のフロアでも見かけた、実験体ゾンビ――なんだけど、なんか微妙に違うッ!


 おそらくは上位種。


 このタイミングで、面倒くさい奴が……ッ!

 あのヒトガタ野郎どもめ……ッ!!


「フレッドッ! ランカーレギオンを頼むッ!」


 またしても意識がヒトガタに向かいだしてたところで、サリトスの指示が飛んでくる。

 おかげで、冷静になってきた。


 つくづく厄介だぜ、ヒトガタのその場にいるだけで他者をイライラさせるという奴は。


「ナカネッ! 温存は考えず広範囲技でヒトガタを薙払えッ!」


 続くサリトスの指示に、ナカネは返事代わりのブレスを放つ。


魔祓(まはら)いの光牙(こうが)よッ!」


 ヒトガタとゾンビ。さらには空中にいるランカーレギオンをも効果範囲に収めたそのブレスは、地面から光の刃を無数に生やし、空中からは光の刃の雨を降らせるブレスだった。


 ヒトガタにそれを(かわ)すすべもなし。

 ランカーレギオンも躱しきれずに撃ち落とされる。

 ゾンビは全身を串刺しにされているが、倒し切れてはいないようだ。


 ブレスを解き放ったナカネが大きく息を吐いているのを見るに、結構な大技だったようだ。


「ディアリナ、ゾンビをッ!」


 落ちてきたランカーレギオンに狙いを澄ましていると、サリトスの次の指示が飛ぶ。

 ディアリナは地面を蹴って、ゾンビへと肉薄していった。


 おっさんも、負けてらんないわな。


「新技ッ! ビーストインパクトッ!」


 剣に拳に盾に――手持ちの武具へとルーマを込めて、獣の形にして解き放つアーツは結構ある。


 それを弓矢でできないかと、考えた末に生まれたのがこの技だ。


 矢にルーマを込めて射るのは今まで通り。

 だけどこの技は――


 (やじり)が対象に当たると、一瞬遅れて近接戦闘で使われる獣のルーマと遜色のないものが、矢の先端から解き放たれるってワケだ。


 矢の先端から解き放たれる以上、矢が突き刺さるような柔い身体を持つ相手の場合、その体内で獣のルーマが解放される。


 だいたいの敵はそれに耐えきれるわけもなく。

 内側から、狼の形となったおっさんのルーマに食い破られるってワケ。


 ランカーレギオンも身体の後ろ半分が吹っ飛び、黒いモヤとなって消えていく。


 ディアリナも腕だけになったゾンビにトドメをさしていたので、これで何とか決着だろう。


 そう思った矢先――


「まだだ」


 サリトスの旦那が鋭く告げる。


「もう一波きそうだよ」


 それをナカネちゃんが補足した瞬間だ。

 まるで地面から生えるように、オレたちの前後に二十匹くらいずつのヒトガタが姿を見せる。


「そう何度もナカネに大技を使わせるワケにはいかないか」


 小さく独りごちた旦那は即座に頭を切り替えたのか、ディアリナへと指示を出す。


「ディアリナはナカネと一緒に正面だ。

 これで打ち止めとは限らない。温存しながら一掃してくれ。

 フレッドは俺と後方だ。

 同じように温存しながらも迅速に一掃するぞ」


 そう言って、サリトスは駆けだしていく。


「はいはい。ちゃんと援護しますよ――っと」


 旦那には当てないようによ~く狙って、矢を放つ。


 これだけで倒せるヒトガタはただのザコだ。

 中に別のモンスターが混じっているってのが厄介なんだけどもね……


 サリトスはある程度まで近づくと、広範囲に衝撃波を放つアーツを使って、ヒトガタを吹き飛ばす。


 ただ、さすがにブレスと比べるとアーツの範囲は狭いか。

 ディアリナみたいに大剣を振り回せば問題ないって考える奴も多いけど、こういう状況だとやっぱりブレスは強いって実感するぜ。


 もっとも、コロナちゃんにナカネちゃん、バドくんみたいに、ちゃんと鍛えられたブレシアスに限るけどね。

 ブレスが弱いって言うやつは強いブレスを見たこともなければ、強いブレシアスに出会ったこともないんだろうよ。


 ……と、余計な考え事に思考を逸らしてる場合じゃないわね。


 一矢一殺。

 確実にヒトガタの頭を射抜いていってはいるが、数が多い。


 旦那もがんばっちゃいるが――っと、両端にいる奴が弾けやがったか。


「サリトスの旦那ッ! 旦那から見て右の端っこッ! ゾンビになった! 左の端っこにはランカーレギオンよッ! レギオンはおっさんが狙うわよッ!」


 オレの言葉にサリトスは片手を挙げて返事をすると、右へ向かって剣を払いヒトガタをたちを斬り伏せながら動き始める。


 それに併せて、オレも左側のヒトガタとランカーレギオンを対処しようとした時だ――ゾクリと、背筋に強烈な悪寒が走った。


 本能的に、構えていた矢から手を離し、護身用に帯びていた短剣を引き抜く。

 自分のすぐ側で膨れ上がる殺気から逃れるように、直感だけを頼りに反対側へと跳ぶ。


 殺気は追いかけてくる。


 即座に視線を殺気の方へと向けると、ソイツがいた。


「オタク、どちらさんで?」


 見た目だけならボロボロの黒いローブを纏った影の住人。

 だが、ローブの下に見える服は血塗れだし、手にした包丁のようなものも血塗れだ。


 ほかの影の住人と違って、うっすらとだけど、表情も伺える。


 ……笑っている。

 背筋が寒くなるような笑み。

 こいつが強いとか弱いとか関係なしに、ヒトガタの放つ不快感を濃縮したようなものを、その笑みから感じる。


「ハハハハハハハハハハッ!」


 突如現れた奇妙な敵に、オレが訝しんでいると、そいつは気味の悪い哄笑を始めた。


 サリトスが、ディアリナが、ナカネが……こちらに気づく。


 瞬間、そいつは笑いをピタリと止め、オレに向かって包丁を突き出してくる。

 咄嗟に、逆手に構えていた短剣でそれを切り払う。


「フヒ? フヒャハハハ……フヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 とにかく笑う。

 不思議そうに笑ったかと思えば楽しそうに笑い、最後に狂ったように笑う。


 笑いながら繰り出してくる斬撃は、素人よりはマシ程度。

 本職でないおっさんでもがんばって捌ききれるレベル。


 だが――ここまで肉薄されちまうと、弓矢使いとしての強みが生かせないッ!


 サリトスかディアリナの嬢ちゃんに代わってもらいたいが、二人ともヒトガタや、そこから生まれたモンスターの対処に手がいっぱいだろう。


 狂ったように笑いながら繰り出される、狂ったような乱撃を捌きながら、オレは脳味噌をフルに回転させる。


 ……どうする?

 …………どうする?


 空回りばかりでアイデアを出してくれない脳味噌に苛立つ中、ディアリナの声が聞こえてきた。


「フレッドッ! レギオンのブレスがくるよッ!」


 ……まじかよッ!!!


 目の前で振るわれる刃は止まらない。

 だが、そんなことを言ってられねぇよなッ!!


 一瞬の隙を付いて身を丸めて、肩から相手にぶつかっていく。


「フヒャアッ、ハハハ……ッ!?」


 ソイツは笑いながら驚いて体勢を崩した。

 その隙をついて、オレはその場を離脱。


 だが、ソイツはオレを狙って踏み込んでくる。

 それを冷静に見据えながら、オレは親指でスペクタクルズを弾いて、相手の顔に当てた。


 しかし、その程度で怯むような奴じゃない。

 とはいえ、むしろそこで怯むべきだったんだよな。


 スペクタクルズを気にせずに踏み込んできちまうんだから、ランカーレギオンのブレスに貫かれ、吹き上がるルーマの奔流に打ち上げられちまうんだよッ!


「……ったく、何だったんだよ、コイツはよ……」


 オレは嘆息混じりにうめきながら、腕輪に登録された情報を見た。

 その情報に、オレはさらにうんざりとした嘆息を漏らした。


 どうやらこいつも、完全なイレギュラーみたいじゃないの。



===《マッドスタッバー ランク?》===

???型。ラヴュリントス固有種?

影。つきまとう闇。あるいは悪夢。

形のある幻。過去に出来ない過去。

死後も追いかけてくる追想。

記憶の檻の片割れ。それを開ける為の鍵。鍵にして中身。

もう一方の檻。あるいは墓標すらも穢すもの。

違う。俺じゃない。俺はこんなやつを作ってない。

作りたくもない。思い出したくもない。

何で俺はこんな奴を作ってるんだ?

ボツだボツ。封印フォルダに(ボッ)シュート!!

===================



ディアリナ『キリがないったらありゃしないッ!』

ナカネ『フレッドさんのフォローに行きたし、どうにか脱出ルートを考えたいけど……数が多すぎるッ!』


 次回、ヒトガタの群れ&マッドスタッバー戦の続きです


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http://legendnovels.jp/series/?c=1000017315#9784065163993

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[気になる点] マッドスタッバー 狂いし突き刺すモノ 笑いながら包丁を突き刺す 記憶の檻の片割れ →通り魔? それとも某セカイくんみたいなヤンデレスタブ?
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