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間話――探索をする職人たち 6


 ヴァルトによるクーリアちゃんへの講義が一段落したところで――


「さて、そろそろ先に進みますかね」


 フレッドがそう切り出すと、全員がうなずいた。


 正直言って、装備は心許ないところは多分にあるが、納得いくレベルまで準備をするには時間がかかりすぎる。


 それぞれ程度は低くとも必要な武器や薬は用意した。

 何のかんのと言いながら、ランクは低くてもリッチ用に槍を融合で作り出せたのだから、フレッドは才能があるのだろうな。


「目視で――だが、弓を持ったゴブリンが確認されている。各自、気を付けるように」


 確認可能範囲で厄介そうなのは、そのゴブリンだ。


「ま、そのゴブリンはオレがどうにかするさ」


 緩い調子でそう笑うフレッドが頼もしい。

 このメンバーで探索をさせてもらえるというのは、かなり幸運なのかもしれんな。




風塵烈槍(フウジンレッソウ)ッ! ぜえぇいッ!」


 剣を振りかぶる狼獣人に向けて、裂帛の気合いとともにリッチが槍を突き出した。

 ルーマによる竜巻を纏った槍が、狼獣人を貫き、その背後に控えていた別の獣人たちをも飲み込み、吹き飛ばす。


「トリプルショット、いっちゃうよ?」


 続けて、フレッドは矢を三本同時に放つ。

 それらは、獣人の群れの背後からこちらを狙うゴブリンアーチャーの眉間に突き刺さった。


疾風(ライトニ)迅雷破(ング・ブラスター)――行けッ!」


 さらに続いてヴァルトが、ルーマの変じた雷を纏ったムチを構え、小さく飛び上がりながら地面へと叩きつける。

 瞬間、飛び上がったヴァルトの頭よりやや高い位置から、無数の雷が降り注ぎ、バチバチと激しい音を立てながらスライムたちを薙ぎ払っていく。

 まるで手懐けた雷を操っているかのようなアーツだ。


「お父さんたちすごーい」

「ああ。儂らの出番はないな」


 一応、構えてはいるものの、正面からやってくるモンスターたちには苦戦せずに進めている。


「フレッドッ、スナイプイーグルとやらが来るぞッ!」

「問題ない……落とすッ!」


 スナイプイーグルというのは巨大な鳥のモンスターだ。

 普段は空中をのんびりと飛んでいるのだが、獲物に狙いを付けると、急降下で強襲してくる。


 だが、それもフレッドの腕前があれば何の脅威にもならない。

 こちらの誰かに狙いを付け、動きを止めたその一瞬――フレッドの矢がスナイプイーグルを打ち抜いているのだ。


 地面に落ち、黒いモヤとなって消えたスナイプイーグル。そこには、羽根が数枚落ちている。


「クチバシが欲しかったんだがなぁ」


 ほかの探索者(シーカー)であれば脅威だろうスナイプイーグルをあっさりと撃退し、ぼやく言葉はそれだ。かなり余裕があることが伺える。


「フレッド、お主結構すごい探索者(シーカー)だったのだな」

「だろう?」


 調子の良い返事をしてくるフレッド。

 その横で、ヴァルトが不思議そうな顔をした。


「何だ、タリーチさんは知らなかったのか? フレッドは今このラヴュリントスでもっとも最前線にいる探索者(シーカー)の一人だ」

「なんと」


 よもやそれほどの探索者(シーカー)であったか。

 いや――緑狼王の部屋を素通りできた時点で、そのくらいは察しておくべきだったかもしれんな。


「シールドゴーレムが来たぞ」

「このメンツでやるには一番面倒な相手だよなぁ、あれ」


 周囲を警戒していたリッチが声を上げる。

 それに、フレッドが面倒くさそうに反応した。


 その気持ちは分かる。

 シールドゴーレムというのは、基本的には岩で出来たゴーレムなんだが、その両手が巨大な盾で覆われているような奴だ。あと、胸部にも盾が埋まっている。

 ただでさえ岩で出来てて硬いというのに、この盾の強度も中々なのだ。


 倒せば壊れた盾が手に入ることもあるので、旨味が無いわけではないのだがな――

 硬い上に、タフで、しかも力任せに振り回される盾による攻撃も侮れない。面倒くさい相手だ。


「ヴァルトさん、眠らせたり出来ないかな?

 眠ってくれたら、倒さなくても先にいけるよね?」

「ふむ。悪くないアイデアだ。ゴーレムを眠らせるという発想は無かったが、試してみよう」


 そして、ヴァルトは先ほどチクラビを眠らせるのに使った、ケバケバしい色合いの光と衝撃波を放つ技を繰り出した。

 するとゴーレムは、だらりと腕を垂らしそのまま動きを止めた。


 頭がフラフラと動いているものの、暴れる気配はない。


「効いたみたいね」

「よし、起きる前に通り抜けちまおう」


 そうして儂らはシールドゴーレムの脇を抜けて先に進んだ。




「リビングアーマーか。

 途中で武器を調達しないと、厳しいモンスターばっか用意されてるんだから、もう」


 フレッドがぼやきながら矢を(つが)える。


 その先にいるのは、宙に浮いた鎧だ。

 フルフェイスの兜、立派な鎧、腕を覆うガントレット、右手には剣、左手には盾。

 アンクレットやブーツなどはなく、宙に浮いた鎧。


 中身は空洞。よく見れば黒い影のようなものが内側にいるようにも見えるが、まぁ見た目だけなら宙に浮かぶ空洞の装備一式といった出で立ちのモンスターだ。


「コアがあるタイプか、鎧そのものが本体のタイプか……それが問題だ」

「後者であって欲しいがな。前者だと面倒だ」


 リビングアーマーを前に、リッチとヴァルトは余裕がある。


「違いない……ピアッシング・ブラスターッ!」


 そんな二人のやりとりを背に、フレッドが矢にルーマを乗せて射った。

 光り輝く螺旋を纏った矢は、金属の塊のはずの鎧の真ん中を撃ち貫き、背中にも同じような穴を開ける。


「まじか」

「フレッドさんすごーい!」


 矢は遠くを攻撃できるが、非力故に硬い敵を前にすると役立たずなどと揶揄されることが多いが、フレッドの前ではそんなこと口が裂けても言えぬだろう。


 貫かれたリビングアーマーはチカラを失ったのか、バラバラと地面に落っこちて、そのまま黒いモヤへとなって消えていく。

 残ったのは金属片と、折れた剣だ。


「接近して切り結ぶのは面倒そうだ。

 一撃で終わるならリビングアーマーはフレッドに任せるとしよう」

「ゴブリンに鳥に鎧にって、オレの負担大きすぎないかねぇ……」


 ぼやきながら素材を拾っていたフレッドは、立ち上がって周囲を見回す。


「お? そろそろゴールかもしれないわよ」


 その時、何か気づいたらしい。

 フレッドがこちらを手招いて示すのは、レンガ作りの門だった。

 さっきまでいた職人エリアと同じようなものが、またあるらしい。


「安全地帯なのは間違いないから、一息付けそうじゃないの」


 そうして、新たなレンガ門へと向かって歩いていると、突然門の前に、牛獣人が現れた――というか空から降ってきた。


「これはまた、でっかい奴もいたもんだな……」

「ああ……」


 ズズンと大きな音を立てて着地した牛獣人は、角を含めなくてもフレッドの倍くらいの身の丈がある。

 そして、その身体のサイズで、両手持ちする巨大な斧を装備していた。


「いやぁ……職人エリアのボスなのかもだけど……ちょっと強そうじゃない?」


 フレッドが顔をひきつらせている。

 言いたいことは分かる。普段通りの装備で挑めるならいざ知らず、ここで使えるのは手作りの装備だけだ。


「言っていても仕方があるまい。来るぞッ!

 タリーチさんとクーリアは、あまり前に出てこないように」


 身構えながらこちらへと警告するヴァルトにうなずいて、儂とクーリアちゃんは牛獣人から距離を取る。


 そのついでに、クーリアちゃんはしっかりとスペクタクルズを投げている。この子はだいぶこのダンジョンに馴れてきているようだ。


===《ギガントタウロス ランクB》===

 ラヴュリントス固有種。タウロス系。

 巨大化したタウロス種。身体が大きくなったついでに何故か武器も大きくなった。

 斧を振りかざし、角を振り回し、己の肉体で暴れ回る。

 その戦い方は、元々のタウロス系と同じである。

 斧を両手持ちして渾身の力で振り下ろす必殺技も健在。その体格に見合った威力へと進化している。

 デカくて、速くて、強いが揃ったモンスターではあるが、通常種同様に属性攻撃や搦め手などには相変わらず弱い。


固有ルーマ:真・猛(ネオ・クリテ)牛剛撃斬(ィカルクラッシュ)

斧を両手持ちして振り下ろす必殺の一撃を放つ。

通常種であれば、基本攻撃力の2倍の威力だが、ギガントタウロスのそれは基本攻撃力の2.5倍の威力を誇る。

大本の基本スペックそのものが通常種よりも高くなってる為、非常に危険な威力となっている。


ドロップ

通常:ギガントタウロスの角

レア:タウロス族の斧・改


クラスランクルート:

特別な個体の為、クラスランクルートはありません。

=====================



「なんというか……チカラ任せの探索者(シーカー)そのもののようなモンスターだな」


 クーリアちゃんから聞いた鑑定結果に、儂は思わず苦笑する。


「このモンスター、ブレスに弱いのかな? 搦め手っていうのはなんだろう?」

「搦め手っていうのは、転ばせたり、目を潰したり――そういう直接的ではない攻撃手段のコトだな」

「……それって、ようするに……」


 儂とクーリアちゃんは揃ってニヤリと笑って見せた。

 そして、儂は大声で三人に呼びかける。


「そやつは、属性攻撃と搦め手に弱いらしいぞッ!」


 瞬間、三人の動きが変わった。


 横薙ぎされるだけで突風が吹くような一撃を地面に伏せて躱したフレッドは、即座に立ち上がって地面を蹴る。


「まずはこいつだッ! シャドウスナップッ!!」


 ギガントタウロスを狙わず、その影に向けて矢が放たれた。

 その矢が、影と地面を縫いつけると同時に、ギガントタウロスの動きが大きく鈍る。


「完全には縛れないか……力任せに抜け出せそうな馬鹿力だわね」

「だが、動きが鈍るのであれば好都合だ」


 そう告げて、ヴァルトはギガントタウロスの正面に立ってムチを構えた。


魔痺(ショック)天縛楼(・スクレイパー)ッ!」


 地面を力強く踏みしめ、帯電するムチを振り上げる。

 衝撃波と共に雷撃が巻き上がり、その雷撃がギガントタウロスに絡みついて行く。


 するとギガントタウロスは頭から地面に倒れ伏し、尻を天に向けながらビクビクと痙攣しはじめた。


「トドメは任せた。リッチ」

「あいよ」


 気楽な口調でリッチは答えると、槍を構えてルーマを高まる。


「じっくり時間を掛けてチカラを溜めるってのは、戦闘中には貴重な時間だよな」


 そんなことを言いながら、リッチは全身に力を込めて、踏み出した。


 その瞬間――ッ!


神槍(シンソウ)――ッ!」


 気づけば倒れたギガントタウロスに肉薄しながら、槍を突き出していた。

 強烈な突きが、情けないポーズで倒れていたモンスターを強引に吹き飛ばす。


連臥(レンガ)ッ!」


 吹き飛ばすと同時に、いつの間にかギガントタウロスの背後に回っていたリッチが、今度は下から上へと槍を振り上げた。

 それは吹き飛んでくるギガントタウロスを見事に捉え、その巨体を宙へと打ち上げる。


 だが、この技はそこで終わらないらしい。


磊落破(ライラクハ)!」


 打ち上げると同時に、今度はいつの間にやら宙にいる。

 そして飛んでくるギガントタウロスに向けて槍を構えて、突き刺しながら一気に地面へと落ちてきた。


「これでッ、仕舞いだァァァァ――……ッ!!」


 突き刺した槍ごと、ギガントタウロスを地面に叩きつけながらリッチが吼える。

 瞬間、物凄いルーマの奔流が火柱のようになってリッチもろともギガントタウロスを飲み込んだ。


 地面がめくれ上がり、土砂が巻き上げられ、大規模なブレスでも放たれたかのような突風が吹き荒れ――


 そして、そんな中から何事もないかのように、リッチがのんびり歩いて戻ってくる。


 ルーマによる衝撃が収まると、そこには完全に絶命しているギガントタウロスが、全身が黒いモヤへと変じているところだった。


「ふぅ――久々に出したぜ、我流奥義・神槍(シンソウ)連臥(レンガ)磊落破(ライラクハ)

 どうだ、クーリア。カッコ良かっただろ?」


 リッチは、ドヤァという音が聞こえてきそうな笑顔を娘に向ける。

 すると、その顔を向けられたクーリアちゃんも満面の笑みを浮かべ、


「うんッ! すごかったッ!」


 父親へと抱きついた。


 ……ただの調合職人かと思ってたが、リッチもリッチでとんでも無い奴だったようだな。


 驚く儂を横目に、ヴァルトが嘆息を漏らす。


「阿呆が。その槍で使う技ではなかっただろうに」

「あ」


 どうやら、リッチの技に槍の方が耐えられなかったらしく、その役目を終えたとばかりにボロボロと崩れ去るのだった。


「悪い、フレッド」

「いやいや。

 リッチに使ってもらって、使い手とその仲間たちを守り導く。そのお役目を果たしたってコトさ。槍も本望なんじゃない?」


 ……なるほど。

 強力すぎる技は、武器の方が耐えられないことがあるのか。勉強になった。


 ともあれ、こうして先に進めるようになったワケだ。

 儂らの意識がレンガの門へと向く。


 その時――


「お()ぇらやるじゃねぇか」


 レンガの向こうの作業エリアから、そんな声を掛けられた。


???『このエリアの攻略する探索者なんざそうそういねぇと思ってたんだがねぇ俺ァ……いやぁ、面白そうな連中が来たじゃねぇか』


 次回でタリーチさんのお話は終了の予定です。


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[一言]  ここで声を掛けてくるなんて、いったい何マサさんなんだ?
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