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1-11.『ディアリナ:特別ルール』

いつもお読み頂きありがとうございます。

2/14ですが、特に甘い話もチョコレートの出番もなくいつも通りのお話です。

     

 情報をまとめ終えた。

 食事も終わった。

 一息付いた。


 なら、あとは立ち上がるだけさね。


「サリトス、フレッド。そろそろ行けるかい?」


 あたしの言葉に二人はうなずく。

 そうしてあたしたちは、探索を再開する。


 ダンジョンマスターのアユムからもたらされた情報には驚くものも多かったけど、お宝と同じでちゃんと外へ持って帰れなければ意味がない。

 だったら、あたしらがすることなんて、脱出を目指して進むだけさ。


 立ち上がったあたしらは、ダンジョンマスターが言うところの、エクストラフロアというこの丸太小屋のようなエリアを進んでいく。


 途中、上蓋に奇妙な宝石がついた宝箱があった。

 どうやっても開かなかったんで一度諦めて先に進む。


「またページの固定された本があるな」

「変な仕掛けはないだろうから、皆で読むか」


   赤き封石に、証の赤を添えよ

   それが正しき証であれば、先に進めるだろう


「どういう意味だい?」


 あたしが首を傾げながら周囲を見渡す。

 すると、次へ進む為の廊下とは別に、部屋に扉があることに気が付いた。

 その扉の中央には赤い宝石が輝いている。


「あれか」


 サリトスは扉の前まで歩いていくと、自分の腕輪の赤い宝石部分を、扉の宝石部分に当てた。

 ……でも、何か起きる気配はない。


「なるほど。扉が消えたな」

「え? 何言ってるんだい、サリトス? 扉はふつうにあるよ?」

「俺の目には消えているように見えるのだがな……」


 そう言うと、サリトスは扉へ向かって歩いていく。

 すると、するりと扉をすり抜けて向こうへと行っちまった。


 あたしとフレッドが驚いて顔を見合わせていると、何事もなかったのようにサリトスが戻ってくる。


「どうした二人とも?」

「いや、サリトスが扉をすり抜けちまったから驚いちまったのさ」

「すり抜けた? 扉は消えているだろう?」


 どうにも話が噛み合わない。

 そこで、あたしはフレッドに頼んでみることにした。


「フレッド。アンタも扉の宝石に腕輪の宝石をぶつけてみてくれないかい?」

「おう。了解だ」


 うなずくフレッドが、宝石を合わせるなり、驚いたような声を出す。


「本当に扉が消えやがった……嬢ちゃん?」

「あたしの目には扉は消えてないね。フレッド、そこ通れるかい?」

「ほれ、この通りだ」


 まるで扉なんてないかのように、フレッドの手が扉をすり抜けている。


「あたしが触るとどうなるかなー」


 まぁ――わかってたけどね。

 やっぱりあたしの手は扉より向こうへ行ってくれない。間違いなくここに扉がある。


「こちらから見ると何もないところに手を置いているように見えるな」

「オレらが不思議そうな顔をした理由、わかるだろ?」


 そんなやりとりをしている男二人は置いておいて、あたしは自分の腕輪の宝石と扉の宝石――いや封石だったか――を重ねた。


 すると、封石は緑色へと変わり、ゆっくりと透けていくと、やがて完全に扉は消えちまった。

 まるでここに扉なんて最初からなかったみたいだ。


「凝った仕掛けをしてくるねぇアユムは……」

「まったくだ」


 あたしとフレッドが笑いあって、扉の先へ進もうとすると、サリトスが待ったをかけてくる。


「どうしたんだい?」

「さっきの宝箱だ。あれにも、赤い封石がついていた」


 確かにそうだった。

 あたしとフレッドはうなずくと、一度宝箱があった場所まで引き返す。


 そうしてサリトスが、宝箱の封石に腕輪を当てる。


「やはりか」


 あたしからすると変化は見られないけど、そう口にするなら開いたんだろう。

 上蓋に腕を突き刺し、サリトスは中から白い袋を取り出して見せた。


「なんだい、大きな箱の中にそれだけなのかい?」

「そのようだ。お前たちも試してみてくれ」


 言われて、あたしとフレッドもやってみた結果、宝箱の上蓋が先ほどの扉と同じように消え去った。

 そうして、中からあたしとフレッドも小さな袋を取り出せる。


 この場に小さな袋が三つ存在することとなった。


「……どういう仕掛けなんだろうね、これ」


 首を傾げたところで答えはでないのは分かっているんだけどね。

 でも不思議じゃないか。箱の中には白い袋が一つしか入ってなかったのに、それぞれが取り出せて、計三つもこの場にあるなんてさ。


「旦那と嬢ちゃんが手にした袋には、オレも触れるな……」


 まぁいいさね。

 人数分の小袋が手に入るってのが重要だ。

 我先にとお宝を独り占めするような輩が迷惑にならないからね。


「袋、開けてみるだろ?」

「ああ、もちろんだ」


 中から出てきたのは、片眼鏡のようなものだ。

 ちょっと凝った意匠ではあるけれど、なぜかそれが五個入っている。


「片眼鏡だけ五個ももらってもな……」


 フレッドがそう苦笑するけど、サリトスは何かに気づいたようだ。


「袋の中をよく見てみるといい。一緒にダンジョン紙の紙片が入っている」


 お、ほんとだ。

 それを取り出して広げてみると、この片眼鏡に関する内容が書いてある。



   このダンジョンで生まれたモノに鑑定のルーマはあまり効果がありません。

   ルーマの代わりに、この使い捨ての魔具『スペクタクルズ』を使用します。

   ルーマを使う要領でこの魔具にチカラを込めた後、対象にぶつけてください。



「のぞき込むんじゃないのかよッ!」


 思わずフレッドが紙片にツッコミを入れた。

 あたしも同感だとうなずきながら、続きを読み進める。



   腕輪の赤い宝石に触れながら、『鑑定結果表示』と唱えれば

   その呪文の通り、直前に鑑定したモノの鑑定結果が表示されます。


   また、このダンジョンでは『正体不明品』というアイテムが

   手に入ることがあります。

   スペクタクルズを複数個ぶつけることで、

   それらを本来の姿に変化させることが可能です。


   正体不明品は、ラヴュリントスの外へ持ち出し、

   陽光にさらすことで、その正体を明かすこともできます。



「わりと重要な魔具じゃないか」

「鑑定が使えない以上、これは必須に近い道具だが……」

「ああ、使い捨てらしいからね。何でもかんでも鑑定すればいいってわけでもなさそうだ」


 本当に、今までの常識が通用しないダンジョンだね。ここは。


「本気で力業だけじゃどうにもならないようになってるようだな」


 サリトスの言葉で、あたしの中にもその実感がはっきりと芽生えてくる。この先も、きっと常識に囚われてたら想像も付かない仕掛けが多そうだ。




 それからあたしたちはさっきの扉のところまで戻り、扉の奥へと進んでいくと、突き当たりにまた封石のついた宝箱があった。

 だが、この石は赤ではなく、青い。


「青の封石――これも同じように開くのか?」


 サリトスが試してみると、上蓋がゆっくりと開いていった。


「蓋が消え去るわけじゃないようだが……」

「あたしにも蓋が開いてる姿が見えるね」

「オレもだ」

「ふむ……」


 つまり、青い封石の場合は早いもの勝ちの箱ってことか。

 全部が全部、赤い封石ってわけじゃないんだね。


 サリトスが箱の中からとりだしたのは一振りの剣だ。

 どこにでもありそうな、ふつうの両刃剣――そのはずなのに、この剣には奇妙な気配を感じる。


「【正体不明品:直刃の剣】――か」

「どうして分かった、フレッド?」

「正体不明品かどうかって程度のコトは、ルーマの鑑定でも見れるようだぜ」


 フレッドの言葉に、サリトスは何か考えたあと、おもむろにスペクタクルズを一つ取り出して、直刃の剣に軽くぶつけた。

 瞬間、スペクタクルズは光になって崩れ落ちる。


「『鑑定結果表示』」


 サリトスが呪文を唱えると、サリトスがつけている腕輪からうっすらと光る板のようなものが生まれた。

 その板をサリトスはじっと見ている。


「完全に正体を明かすにはスペクタクルズがあと二個必要なようだ」


 恐らくは扉や宝箱と同じ原理。

 あたしやフレッドには何も書かれていない板が浮いているだけだけど、サリトスには鑑定結果が見えている。


 それから、サリトスは自分のスペクタクルズをもう二個続けて、こつんとぶつけた。

 三個目がぶつかると同時に、剣はサリトスの手の中で形状を変えていき、刀身の赤い幅広のダガーへと姿を変えた。


「鑑定結果の表示が変わったな。

 これは『フレイムタン』というダガーだそうだ。

 斬り付けると同時に、斬った場所を焼く、魔具の刃……か。

 それと――」


 動物の舌のような形状の赤い刃の切っ先を壁に向け、サリトスが呪文を口にする。


「ブリッツ!」


 すると、その切っ先から小さな火の玉が打ち出され、壁にぶつかった。


「呪文を唱えると、切っ先から火を放つ――威力はあまり高くないが、悪くない武器だ」


 ひとりサリトスはうなずくと、フレイムタンをあたしの方へと差し出してきた。


「ディアリナが持っていろ。

 お前の長剣は長さも威力も申し分ないが、懐に潜り込まれた時、取り回しが大変だろう?」

「フレッドは、あたしが持ってていいと思うかい?」

「かまわないぜ。戦略や戦術の幅が増えるのは、生存率が高まるからな」


 異論がないようなので、あたしはありがたくそれを受け取る。

 すぐに抜き放てるように、腰に帯びた。


「サリトス、あたしのスペクタクルズを一つ渡しておくよ」

「ああ、オレもだ。これで一人が一つずつ消費しただけってコトになる」

「すまないな。ありがとう」


 この後は、扉のあった部屋まで戻り、まだ行ってない廊下を進んでいく。


 その先には転移の魔法陣が設置してある場所だった。


「行くぞ」


 サリトスの言葉に、あたしとフレッドはうなずくと、三人同時に『ネクスト』と呪文を口にした。


 あたしらは魔法陣から放たれる光に包まれる。

 視界が完全に光に遮られてから数秒――フロア1の入り口がわりの丸太小屋とまったく同じような場所にいた。


 あの時と違うのは、ここには『戻れる』という旨の書かれたプレートが存在していないことか。


「準備はいいな?」


 そう訊ねてくるサリトスにあたしと、フレッドがうなずくと、彼は丸太小屋の扉を開いて外に出る。


 そこはフロア1と同じような雰囲気の森の中。

 フロア1と違うのは、要所要所に石畳や壁だったことを思わせるものが転がっている――ということくらいか。

 森に飲み込まれた廃墟の街っぽさを醸し出している。


 そして、丸太小屋の出口の正面には、看板が設置してあった。


 それをフレッドが読み上げる。



   第一層 フロア2

   ここから始まる最初の一歩は 新たなる常識と共に

 

 


アユム「ふふふふ……ユニークオークの誕生だ!」

ミツ「サリトスさんたちがエクストラフロアにいる間に完成してよかったですね」


次回、サリトスたちが、フロア2で、ユニークオークに、出会った の予定です


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