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間話――探索をする職人たち 4

2年前……2018年の本日1/31の23:30から、本作の連載が開始されたようです。

そんなワケで、2年目突入。これからもよろしくお願いします٩( 'ω' )و


2周年記念で2話連続更新するよ!(1/2)


「しかし、フワラビが出てくるとなると、クーリアちゃんを好きにさせておくのも危ないんでないの?」

「そうだな」


 儂がヴァルトのソーンウィップをミスリルの欠片を使って鍛え直している横で、フレッドがそんなことを口にする。

 口には出さんが、儂も似たようなことを考えていた。


「確かにジェルラビ、フロラビの感覚で相手にすると迷神の沼へ行きかねない相手だからなぁ……」


 リッチも頭を掻きながらうなずく。

 しかし、そんな二人に対してクーリアちゃんは、どことなくバツが悪そうな様子だ。


 なんというか、わざとじゃないけれど何かをやらかしてしまった顔。

 言えば怒られるけど、言わないともっと危ないかもしれないから葛藤している。そんな顔だな。


「クーリア。なにを隠している?」


 ヴァルトはその様子に気づいたようで、半眼を向けた。

 彼女はそれに対して観念したように、息を吐く。


「えーっと、戦ってたらね。くるくる回る板が地面から出てきたの」

「ふむ」


 ヴァルトが小さくうなずいて、先を促す。

 くるくる回る板って何だ――という疑問は湧いたが、ここで口を挟んでも先に進まなそうなので、儂は黙ってミスリル片を叩く。


「フロラビがそこに乗るとね、すっごい勢いでくるくるくるくる~って回ってフラフラするのが面白かったから、ついつい遊んじゃったんだけど……」


 モンスターで遊ぶとか、なかなか剛胆なことをするな。クーリアちゃん。

 そんな胸中の驚きはさておいて、何かに感づいたらしいヴァルトは小さく嘆息した。


「そうやって目を回したフロラビが、近くにいた別のフロラビを攻撃してランクアップしたのがアレか」

「……はい」


 小さい身体をもっと小さくするように、クーリアちゃんはうなずく。


「クーリア。おまえがやったコトはチームメイトを危険に晒す行為だ。それは理解しているな?」

「……うん」


 リッチに言われて、申し訳なさそうに首肯する。

 ちゃんと反省しているようだ。あれなら、ヴァルトもリッチもそこまでキツくは言わないだろう。


「ヴァルトとフレッドがいればフワラビは怖くない。

 だが、俺たちにフワラビを対処するチカラがなかったらどうなっていたか、分かるな?」

「……うん」


 ――そうでもないか。

 彼女の行為は、もしかしたら全滅に繋がっていた恐れがある。

 だからこそ、探索者(シーカー)たち三人は彼女に対して厳しく叱るようだ。


 とはいえ、反省している少女へ必要以上に怒鳴りつけるようなことはしない。むしろ諭すように、彼女が正しく理解できるように、しっかりと言いつけているようにみえる。


 たっぷりと叱られ、ちょっと涙目になっているクーリアちゃん。だが、その原因は自分自身にあると理解しているからか、涙を流さないように堪えているように見える。


 クーリアちゃんは反省し、理解した。

 なら、次は同じようなことはしないだろう。


「さて、君のやったコトは危険行為ではあるが、同時に一つの良き仮説を作り出した」


 ひとしきり叱り終えたところで、ヴァルトがそう切り出す。

 それに、フレッドが笑いながらうなずいた。


「だな。ムチを持ったヴァルトがいるなら、狙えるだろう」

「ヴァルト? フレッド? 何を言っている?」


 リッチは二人が何を言っているか分からず首を傾げている。それは儂も同じだな。


「私とクーリアでかなりの数のジェルラビとフロラビを倒した。だが、一定ランク以上の素材は手に入っていない。

 ……しかし、今のフワラビを倒した途端、ミスリルの欠片が手に入ったのだ」

「そうか。フロラビよりも上位のモンスターを倒せば、上位の素材が手に入る可能性がある」

「ああ」


 ヴァルトとフレッドの言いたいことに気づいたリッチが確認を取るように口にすると、二人は力強くうなずいた。


「この工房の中にモンスターは入ってこない。

 フロラビのエリアではなく、先のエリアで素材稼ぎするのも悪くないかもしれない」


 なるほど。

 フロラビから手に入る素材だと限度がある。より良い素材を得るのであれば、先のエリアでモンスターを倒してきた方が良いワケか。


「まずはもう一度、フワラビを生み出して実験だ。

 強さが判断しづらい先のエリアのモンスターよりも、ここで調べた方がいいだろう」


 そんな作戦会議の間に、儂の仕事は終わりだ。

 この欠片だけではムチ全体を強化できそうになかったんで、ムチの柔軟性を損なわない程度に、要所要所をミスリルで補強したわけだ。

 結果として、想定よりも使用量が少なかったので、僅かに余ってしまった。


「ヴァルト。出来たぞ」

「助かる」

「それとクーリアちゃん、その剣をちょいと貸してくれ」

「何をするの?」

「ほんの僅かだがミスリルが余った。ちょいとその剣を補強する」

「分かった」


 クーリアちゃんは素直にうなずいて、ガントレットと一体化した剣を手渡してくれる。


「ほう。思ってた以上によい仕事だな。リッチ」

「タリーチさんに褒められるのは光栄だな」

「本職が作ってコレだったらボロクソに言ってたがな」

「だろうな」


 肩を竦めて見せるリッチだが、儂はお世辞を言っていない。

 素人仕事としてみるなら、かなりデキが良いのだからな。


「では、少し実験に出てくる」

「気をつけてよ、ヴァルト」

「ああ。詰まらないマネをする気はない」


 そう言ってヴァルトは颯爽と工房エリアから出ていき、フロラビのエリアへと戻っていく。

 その背中を見ながら、リッチが何とも言えない表情を浮かべていて、儂は声を掛ける。


「どうした、リッチ?」

「いや――元チームメイトのカンなんだが……あいつ、実験中にちょいと調子に乗りすぎる予感がしてな。

 フレッド、悪いがいつでもヴァルトの支援が出来るように準備しといてくれ」

「元チームメイトのカンとなると、馬鹿に出来ないわな。りょーかい」


 一体、何をやらかすのか……。

 気になるところではあるが、気にしたところでどうにもならん。


 なので、儂はクーリアちゃんの剣を強化すべく、作業を開始するのだった。

 しばらくの間、クーリアちゃんのガントレットブレードを見ていたが、構造はおおよそ理解できたので、本格的に作業を始める。


 儂がこの剣に施すのは、ギミック部分の補強だ。

 ブレード部分は、現状では強化が難しい。だからこそ内側のバネや留め金などを補強することで、ブレードの安定感を高める。


 ブレードの安定感が高まれば、腕を振った時にチカラが逃げにくくなるはずだからな。


 そうして作業をしていると――


 ズドンという音とともに、フロラビのエリアに土煙が激しく舞った。


「やらかした?」

「やらかしたみたいだな」


 フレッドの問いに、リッチは沈痛な面もちでうなずいた。


「冷静沈着なのは間違いないんだが、時々やらかすんだよなぁアイツ」

「ヴァルトのやつにもそういう面があるんだと知って、むしろ親近感わくわぁ」


 しみじみと言葉を交わしあいながら、フレッドは弓を手に取った。


「槍――次からはレシピを仕入れておくよ?」

「最悪、素手でやるさ」


 フレッドに曰く、身内が剣と杖の使い手ばかり。自分が弓使いなせいもあって、そのあたりの武器のレシピしか仕入れてなかったそうだ。

 なので、槍系の武器の作り方が分からないと言っていた。


 まぁそういう事情なら仕方ないだろうな。

 本職であれば、知識不足を叱っていたところだが、フレッドは探索者(シーカー)と職人の二頭竜(にとうりゅう)だ。

 探索者(シーカー)としての頭を主とするのであれば、職人用の知識はその環境に合わせたものが優先されるのも当然だろう。


 とまれ――フレッドは自作の弓を携えて、フロラビのエリアへと向かっていく。


 そして、ヴァルトがもの凄い勢いで走りながら戻ってくる。


「なぁにやらかしたのよ、ヴァルト」


 気の抜けた口調で――だが大きな声でフレッドが問いかけると、ヴァルトは走りながらも至極真面目な顔で告げた。


「うむ。激レアのジェルラビ種が生まれた」

「言葉は正しく使おうぜ、ヴァルト。お前が生み出したんだろうが」

「そうとも言うな」


 リッチのツッコミに、ヴァルトはやはり真面目な顔でうなずく。

 軽口のたたき合いはそこまでらしい。


 フレッドは眼差しを鋭くして、ヴァルトの背後を見る。


 ヴァルトを追いかけているのは褐色のジェルラビだ。

 その尻尾は枯れ色のトゲ鉄球のように見える。一番近いのものは栗だろうか。


 その動きはかなり素早い。全力で駆けているヴァルトに追いつき、彼に向けて伸ばした尻尾を振り下ろす。

 それが地面に叩きつけられると、激しい打撃音と共に土煙が舞う。それが晴れると、地面がひび割れ凹んでいた。


 なんちゅー威力だ。

 ジェルラビ種とは思えん。


 攻撃の動作によって動きが止まるので、その隙にヴァルトは距離を稼ごうとするのだが、あっという間にヴァルトへと追いつく。


 攻撃力だけでなく、スピードまでも一級品ときた。

 勝てるのか……あれ……?


「足止めするぜッ!」

「頼むッ!」

「クエイカーショットッ!!」


 フレッドが褐色ジェルラビの足下へと黄色く輝く矢を射った。

 矢は地面に着弾すると同時に、地面をめくりあげ土砂を巻き上げる。


「ヴァルトッ!」


 それを見ていたリッチが叫ぶ。

 土煙を縫って、ジェルラビが飛び出してきた。


「足止めにもなんないワケッ!?」


 毒づくフレッドの横で、リッチが腕を引く。


「普段は槍で使うアーツだけどなッ!」


 そう言って腰だめに構えたリッチは腕を突き出した。


獣閃波(ジュウセンハ)ッ!」


 その腕からルーマが渦を巻くように放たれる。

 ヴァルトごと飲み込みそうなその技を、ヴァルトはギリギリで躱してみせると、ものの見事にジェルラビだけが飲み込まれる。


 ふつうのジェルラビであればこれで終わるだろう。

 だが、褐色のジェルラビはぽよんぽよんと地面を跳ねたあと、すぐに体勢を立て直して、ヴァルトを追いかけるのを再開する。


「げッ、いくら威力が落ちてるとはいえ、ふつうに起きあがってくるとか凹むぞッ!」

「お父さんとフレッドさんのアーツが効いてないのかな?」


 クーリアちゃんも不安そうにその様子を見る。


「効いてなくても、時間稼ぎは助かったッ!」


 ヴァルトはそう言うと、背後へと向き直りながら、手の中のムチを地面へ突き刺すように振るった。


空詐鞭(ディメンション)転欺(・フラウド)ッ!」


 瞬間、ムチが地面へと吸い込まれていき、直後にジェルラビの足下から無数のムチが勢いよく飛び出してきて飲み込んだ。


 本来であれば、それでズタズタに相手を引き裂く技なんだろうが、吹き飛ばされたジェルラビはそれでも平然と起きあがってみせる。


 どうする――……?


 ヴァルト、フレッド、リッチの表情が焦りに染まっている。

 どんなに攻撃しても堪えた様子のない褐色のジェルラビ。それを倒すにはどうすればいいのか。


 門外漢の儂にはさっぱり見当も付かない。

 そして、専門知識のある三人すら、すぐに手段が思いつかずにいる。


 最悪、工房へと入ってしまえばあの褐色のジェルラビも入ってはこれないだろうが、そうなるとフロラビのエリアでの素材稼ぎが難しくなる。


「ヴァルトさん! くるくる回す技ッ! あれじゃダメかな?」


 そんな中、クーリアちゃんが叫ぶ。

 それにハッとしたような顔をしたヴァルトは、素早くムチを構え、ジェルラビの顔の前で螺旋を描くようにくるくる回してみせた。


螺旋(スパイラル)幻惑鞭(・ストライク)ッ!」


 回る鞭が螺旋状の小さな衝撃波を作りだす。

 これまで見た技と比べると、地味だし威力も低そうな技だが――


 パチンという軽い音と共にその技を喰らった褐色のジェルラビは、急に目を回したようにフラフラし始める。


「効いてくれたか……」

「ナイスよ、クーリアちゃん」

「えへへー、良かった」

「立ち直る前に作戦会議するぞ!」


 そんな様子を横目に見ながら、儂はクーリアちゃんのガントレットブレードの補強を終えるのだった。



フレッド『クーリアちゃんのコト、叱れなくない?』

ヴァルト『返す言葉もないな』

リッチ『時々やらかすんだけど、そのやらかしのダメージがデカイんだよな、お前は。昔からさ』


 もうちょっと 職人探索は続きます

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[気になる点] >フレッドは探索者シーカーと職人の二頭竜にとうりゅうだ。 二刀流ではなく???
2022/12/19 21:11 退会済み
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