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間話――探索をする職人たち 2


「ふわぁぁぁ……」


 フロアボスの部屋に入ると、思わずといった様子でクーリアちゃんが声を上げた。

 その気持ちは儂にも分かる。


 その緑色の狼は大きかった。

 そして、ただ佇んでいるだけなのに、どこか気高さがあった。


「通してもらうぜ」


 フレッドがどこか気安い調子でそう告げると、緑狼王はうなずくような仕草を見せる。


「ヴァルト……こいつは……」

「ああ。単体でこの迫力――戦うと眷属が無限に増援で来る。かなりの強敵そうだな」


 リッチとヴァルトは真顔だ。

 引退したと口にはするが、リッチも探索者(シーカー)としての経験が疼いたりしているのかもしれないな。


「あ、あの狼さん。触ってもいいですか?」


 そんな中でマイペースなのはクーリアちゃんだ。

 恐る恐ると言った様子で、緑狼王に訊ねている。


 ……マイペースというか剛胆というか悩むがな。


 緑狼王も緑狼王で、人の言葉を理解できるのか、ペタリと伏せて見せた。


「撫でていいの?」

「わふ」


 ずいぶんと可愛らしい声でうなずく。


「ふわぁ」


 そうしてクーリアちゃんは、狼の眉間の少し上辺りを恐る恐る撫でた。


 随分と優しい目をする狼だ。

 必要な戦闘以外では、人間に対する悪意などは持ち合わせていないのかもしれない。

 あるいは、ダンマスの影響を受けてでもいるのか。


「ありがとう!」


 軽く撫でて満足したのか、クーリアちゃんはお礼を告げてペコりと頭を下げる。


「がうわう!」

「分かってる! 探索者(シーカー)としてあなたと戦う時はちゃんとまじめにやろうねッ、お互いに!」

「わふ!」


 何か通じ合うものでもあったのか、クーリアちゃんは狼とそんなやりとりをすると、手を振って奥の扉へと向かっていく。


 儂はそれを追いかける。

 ――なんというか、大物になりそうだな。この娘は。



 ボス部屋を通り過ぎ、階段のある部屋でアドレス・クリスタルを登録してフロア6へと向かう。


 注意点が色々増え、厄介なモンスターの存在を説明される。

 その上で、夜になると攻略難易度がアホほど高まるそうで、素早く抜けたいそうだ。


 夜になった時点で、儂とクーリアちゃんを守りながら進むのが難しくなるのだとか。


 ヴァルトもここからは未知の領域だそうだ。

 話は色々聞いていても、体験するのとは別だ――と、気合いを入れている。


 そうして迅速に道を進み――


「……ま、待ってくれ。うまく、進めん……」

「あははははは! これッ、楽しいッ!!」


 とある廊下で、儂とクーリアちゃんはまったく正反対の状況を迎えていた。


「ゆっくり進むんだったら、前傾気味に四つん這いになる感じがいいぞ、タリーチの旦那」

「お、おう」

「こら、クーリア。タリーチさんが進みづらくなるだろう。遊んでないですぐに渡りなさい」

「はーい」


 布を張ったような廊下。

 踏むと、ぐにょんと沈む床に苦戦する儂の横で、クーリアちゃんは床が元に戻る反動を利用し、ぴょんぴょんと飛び回っていた。


 子供とは恐ろしいな。

 初見の仕掛けでこのように動き回れるとは……。


「なるほど。クーリアのマネをするとしよう」


 そして、後ろにいたヴァルトはクーリアちゃんの動きを見て、同じように反動で飛び上がるように進んでいく。


「タリーチさん。もう少しだ。がんばりましょう」

「ああ――儂らは地道に這っていくとしよう」


 儂とリッチは、ヴァルトやクーリアちゃんのようには動けなかったので――あるいは、動き方が分からなかったというべきか――地面を這いながらゆっくりと進んでいくのだった。


 ヴァルトが反対側にたどり着くのを確認してから、殿(しんがり)のフレッドも動き始める。

 当然、フレッドもぴょんぴょんと跳ねてるので、あれが正しいこの廊下の進み方なのだろう。


 ……えーい、全くッ! 先に言ってくれ!!



 その後も、偽物の階段や、落ちてた偽アイテムを拾おうとして引っかかれたり――色々な目に遭いながら進んでいき、なんとかフロア8のラヴュリンランドとやらにたどり着いた。


「夜になる前にたどり着いてよかったな、と」

「話には聞いていたが、このような賑やかな場所がダンジョン内にあるとはな……」

「なんか、楽しそー!」

「ここが目的地、か?」

「実際に体験すると、探索もラクじゃないな」


 それぞれの感想を口にしながらフレッドの案内で、ラヴュリンランドなる街(?)の入り口へと向かう。


 中に入るには金がいるそうなのだが――


「全員分、私が払おう。

 貸しにするつもりもないので、遠慮はしないでくれ」


 そう告げると、ヴァルトは全員分をマジで払ってくれた。

 ちなみに、クーリアちゃんだけは子供価格とやらで半額だった。


「いいの?」

「ああ。まぁ先行投資のようなモノだ。

 タリーチをここへ連れてくる理由――あるのだろう?」

「まぁね」


 どうやら、フレッドにとってもこの街へ儂を連れてくることに理由があるようだ。

 まぁ構いやしないがな。ここまでの時点で結構、得られるモンも多かった。フレッドが儂を連れてきた理由とやらだって、かなり楽しめるモンだと思うからな。


「まずは中央の時計塔だ。

 あそこのアドクリを登録して今日は終了だ。

 明日になったら、タリーチの旦那とリッチさんにはがんばって貰うコトになるだろうからね」


 そうして、今日はラヴュリンランドの中にある宿屋に泊まることとなった。



 ……食事も美味いし、風呂まで付いてる!?

 下手な高級宿の半額以下なのに、ここまでサービスされていいのか!?


 快適すぎるだろう!? なんだ、この宿ッ!?

 え? 宿屋のランクで言うと、この街では中堅? これでッ!?


 ことあるごとに驚愕が訪れる宿で、儂らは一晩を過ごすことになるのだった。






 恐るべき宿で一泊し、迎えた爽やかな朝。

 サービスの朝食を堪能し、気力も充実している。


 この生活を味わったら、元の生活に戻りたくなくなるな……。


「それじゃあ、みんな準備はいいかな?

 これから向かうのは、ラヴュリンランドにある四つの探索エリアの一つ。《職人の館》ってところよ」


 ラヴュリンランドって街には八つの鍵があって、そのうち六つを手に入れると時計塔へと入れるらしい。


 フレッドのチームは、六つ揃った時点で時計塔に挑戦したのだとか。

 ただ、だからこそ、このダンジョンエリアに挑戦しなかったことが、フレッドにとっては気がかりだったそうだ。


「名前からして、職人や職人用のルーマが重要そうだからね。

 無理に挑戦するのもなぁ……って思ってたのよ。おっさんの我が侭でチームメイト困らせるのもアレだしねぇ。

 職人の仕事をしに、入り口付近はちょいちょい利用してはいるんだけども」


 知恵の館というエリアは、その名前の通り、様々な謎が用意されており、戦闘力ではなく頭脳力でもって、先へ進むような場所だったらしい。


 だからこそ、職人の館も名前の通りの仕掛けがあるだろうと想定していたそうだ。


「面白そうだな。探索者(シーカー)として調合職人として、どっちの力も必要になるなんて、今までじゃあ有り得ないコトだしな」


 フレッドの説明に、リッチはやる気を出している。

 だが、気持ちは分かる。儂だって年甲斐もなく胸が躍っているのだからな。




「ここが、職人の館?」

「おう」


 クーリアちゃんに問われて、フレッドがうなずく。

 見た目はなんかデカイが見窄らしいほったて小屋って感じだ。


 とにもかくにも、中へと足を踏み入れる。


「左は自由に使える各種職人設備がある。ダンジョンは右の扉だ」


 何度か足を運んでいるんだろう。

 フレッドは馴れた様子で説明しながら、右の扉へと向かう。


 右の扉をくぐると、このダンジョンでは当たり前の移動用の陣が設置してあった。

 だが、その手前に《警告》と目立つ文字で書かれた看板がある。


「特定の条件を満たしていない武器と盾及び一部装飾品は、腕輪の中に自動収納される――か。

 職人の館を探索している間は取り出せない……と」


 ヴァルトがそれを読み上げて、唸る。


「だが、肝心の条件が書いていないぞ」

「ああ。こればかりは、入ってみるしかないか」


 そう。リッチの言うとおり、条件が書いていない。

 武器を持ち込めないというのは、なかなかに厳しいところのようだ。


「クーリアちゃんは大丈夫なのか?」

「これまでの探索を見る限り、下手な探索者(シーカー)よりずっと頼りになるわな。

 今更、仲間外れにする理由はないって」


 気楽な調子でフレッドが言うと、クーリアちゃんは嬉しそうな顔をする。

 まぁフレッドが言うなら、良いのだがな。


「では、行くとしようか」


 ヴァルトの声に皆がうなずく。

 儂らはこうして職人の館へと足を踏み入れるのだった。


タリーチ『入り口に設置されてる施設……悪くないな』

リッチ『必要な器材なんかも一通りあるしな、面白い場所だ』

クーリア『おとうさん、タリーチさん、追いてっちゃうよー』


 次回も この続きとなります


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