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間話――探索をする職人たち 1

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします


今回から、4章と5章の間のエピソード開始です。

まずはタリーチさん視点のお話です。


 (わし)の名はタリーチ。

 王都サンクトガーレンの職人街に住むタリーチ=スナーヤと言えば、知ってる奴は知っている、そんな男よ。

 なにせ、やりたくもない職人街の顔役なんてものをやらされているしなッ!


 そんな自己紹介はともかく――


 今、儂はラヴュリントスにやってきている。

 フレッドの奴が、以前に交わした約束を果たしてくれてるワケだ。


 三人以上の探索者(シーカー)ギルド加入者と共にであれば、探索者(シーカー)ギルド未加入者もダンジョンの探索ができる。

 それにご相伴預かっての探索ってワケだ。


 もっとも、フレッドと一緒にいるのは本来のチームメンバーというワケではないらしい。


「うちのメンバーはそれぞれ用事があってさ。

 今日と明日は休日みたいなモンで、まぁその自由時間にタリーチの旦那との約束を果たそうと思ったワケよ」

「わざわざスマンな」


 人の良い笑顔とも胡散臭い笑顔とも見える笑いを浮かべるフレッド。

 どこか軽いノリの男だが、信用はできると、儂は踏んでいる。


「しかし、わざわざサブマスが付き合ってくれるとは……」

「気にするな。私としてもラヴュリントスを多少は歩いておきたくてな」


 フレッドが連れてきたのは、探索者(シーカー)ギルドのサブマスター・ヴァルトだ。

 かなり多忙な男だと聞いていたが、付き合ってくれるとは思わなんだ。


「……ヴァルト。俺が付き合う必要があったのか?」

「人数が足りなくてな。お前はギルド加入者だから丁度良かった」


 そしてもう一人。


「リッチ。お前さん、加入してたのか」

「昔取った杵柄って奴ですよ、タリーチさん。

 調合職人一本に絞った時点で、個人的には引退してたつもりなんで」


 そうは言うが、リッチが手にしている槍はよく手入れがされている。引退はしても、武器の手入れは欠かしていなかったのだろうな。


「ヴァルトさん。フレッドさん。タリーチさん。今日はよろしくお願いします」


 最後に、リッチの娘のクーリアちゃんが礼儀正しくペコリとお辞儀をした。

 リッチの娘にしちゃあ、しっかりした娘さんだ。


 だがな――


「いいのか?」

「構わん。フレッドの話を聞く限り、フロア8のラヴュリンランドまでなら、クーリア程度の足手まといは問題にもならん。

 ましてや経験者のフレッドがいるからな。経験者がいるだけでフロア6、7の難易度はかなり下がるそうだ。

 それに、加入者3人に対して、未加入者は2人まで連れていけるルールだ。違反はしていない」


 やや不安な儂の胸中をバッサリと切るように、ヴァルトが答える。

 すごい自信だな――とは思うが、横にいるフレッドもそこまで気にした様子はないので、実際に足手まといなどしないように立ち回ることが出来るのだろう。


「タリーチの旦那。戦闘とかはどうなの?」

「まぁ多少の心得はあるぞ」


 フレッドに問われた儂は、そう答えて背中に背負ってる戦鎚を示す。


「最低限の自衛が出来るなら問題ないな」


 儂の答えにフレッドが問題ないと笑うと、横からクーリアちゃんが手を挙げてきた。


「わたしも練習してるんだよ!」


 そう言う彼女の右手には、その小さな手に合わせたサイズのフィンガーレスのガントレットがつけられている。

 とはいえ、ただのガントレットではなさそうだ。

 手首から肘までを覆うもので、しかも手の甲から肘にかけて不自然に膨らんでいる部分がある。


「ほう。それはライムが使っていた武器に似ているな」

「うんッ! お母さんが使ってたのと同じようなのを、お父さんが用意してくれたのッ!」


 クーリアちゃんが嬉しそうにそれを見せびらかす。

 それから、手首をクイっと動かすと手の甲あたりから(ブレード)が飛び出してきた。


 なるほど。あの不自然な膨らみ部分に刃を収納してあるのか。

 握るのではなく腕の動きそのもので振るう剣……面白いな。だが実に惜しい。


 あの不自然な膨らみはないだろう。

 リッチが誰に頼んだのか知らないが、あれで仕事をしたつもりになっているのだとしたら腹立たしいぞ。


「クーリアちゃん。今度、儂の工房に来い。もっと良い品質のソレを作ってやろう」

「嬉しいけど……でも、せっかくお父さんが作ってくれたし……」

「クーリア、悪いコトは言わない。タリーチさんに作ってもらいなさい。正直、それはいつ壊れるか分からないからな……」


 ああ、本職ではないリッチが作ったのか。

 だとしたら前言を撤回せんとな。素人仕事にしちゃあ充分なデキだ。


 とまぁ――そんな感じでわちゃわちゃしながら、儂たちはラヴュリントスへと足を踏み入れた。




「事前に聞いてはいたが、随分と親切だな」


 初めて入ると、このダンジョンのルールを教えてくれるフロアに出ると聞いていたが、実際にそこを通ると驚きの連続ではあった。

 リッチと共にそこに放り込まれるはずだから、充分に納得できるまで探索してから来いと言われたのも納得する。


「これだけの説明を受けても理解しないやつらも多いんだろう?」

「ああ。それがダンマスの悩みの種でもあるらしいぞ」


 リッチの問いに、ヴァルトが真顔でうなずく。

 このダンジョンのダンマスに会ったことがあるらしいヴァルトの言葉に、そりゃあダンマスも大変だと儂は苦笑する。


「クーリアですら理解できたコトを理解できない――いや、理解しようとしない奴らが多いというのは、探索者(シーカー)ギルドとしても頭痛の種ではあるがね」


 左手を開き、人差し指でメガネのブリッジを軽く押し上げながら、そううめくヴァルト。

 随分と実感が籠もっているのを見ると、本気で頭痛の種なんだろうよ。


「ともあれ、先へ進もう。

 クーリア。ここ――フロア1の注意点は?」

「突然でてくるスモールゴブリン! 急に後ろに出てきて大きな声を出すんだよ。どんな探索者(シーカー)さんでも声が聞こえるまで気づけないから、気をつけないといけないんだよねッ!」

「その通りだ。

 タリーチさんは、スモールゴブリンの雄叫びが背後から聞こえたら、クーリアと共に即座にその場でしゃがんで欲しい」


 了解の意志を込めてうなずく。

 雄叫びにさえビビらなければ、すぐに動けるだろうさ。


 しかし、どんな探索者(シーカー)も雄叫びが聞こえるまでその存在に気づけないなんて、やばい能力を持ったゴブリンもいるもんだな。



 ともあれ、そんな感じでヴァルトとフレッド、そしてこのダンジョンに馴れてきたリッチのおかげでサクサクと進んでいく。


「フロア3は教育に大変悪い。

 最速で、庭を抜けて井戸へと向かう」

「同感だ。いっそクーリアちゃんには目を瞑ってて欲しいね」

「?」


 フロア3へ向かう階段を降りながら、ヴァルトとフレッドがそんな話をする。


「なんだそりゃ?」


 リッチは首を傾げるが――儂も同じだ。意味がわからない。

 だが、儂らはそのフロアに足を踏み入れた瞬間に二人の言葉の意味を理解した。


「ここは特定のエリアにしかモンスターは出現しない。

 庭を突っ切るだけなら、戦闘は無いわよ」


 のんびりとした調子で口にするフレッドに、リッチとヴァルトと儂は顔を見合わせてうなずき会う。


「クーリア」

「なに? お父さん?」

「今からお前を抱き抱える。

 良いと言うまで目を瞑れ」

「え? いいけど……」

「よし。フレッド。道案内を頼む」

「ほい来た」


 そんなワケでフレッドの案内で、庭の隅っこにある井戸に到達。

 そこは一人一人やらないといけない仕掛けがあったんで、フレッドとヴァルトが先に行きつつ、三番目にクーリアちゃんが挑戦する。


 まぁ看板に触って井戸に飛び込むだけなんだがな。

 クーリアちゃんには、なかなか難しかったみたいだ。

 井戸の梯子を降りるのも、結構怖かったみたいだしな。


 ともあれ、フロア4に到着だ。

 ここも、フレッドはすでに地図を作っていたようで、サクサクと進んでいく。


 フレッドがやばいと警告してくる赤と黄色の熊。

 一部の木に集っているフラフラフライ。

 樹上から襲ってくるリーフヴォルフ。


 こいつらに気をつけつつも、熊以外の道中に出現するモンスターに関しては、フレッドとヴァルトが見敵必殺。

 見つけると同時に、だいたい二人のどっちかが倒し終えている。

 二人が倒しそびれても、だいたいは直後にリッチが攻撃を仕掛けて終了。


 儂とクーリアちゃんの安全は常に気にかけてくれているようだ。


「そういえば、このダンジョンのモンスターが落とすアイテムは、変なのが多いな?」

「まぁね。でもさ、リッチさんと、タリーチの旦那からすると馬鹿にできないわよ。

 何せ、素材だ。何の素材かっていやぁ、職人用の作成素材だからね。

 落ちてるモンを素材に調合やら融合やらが出来るのよ」


 フレッドの言葉に、儂とリッチは顔を見合わせた。


「動物の毛や植物の類は鍛冶に使いづらいだろうけどね。

 でも、折れた剣や、ゴーレム系モンスターの破片とかなら、話は違うっしょ?

 まだ出会ったコトのないモンスターや、もしかしたらなかなかドロップしないモンとかあるだろうからね。

 ラヴュリントスってのは、職人向けのダンジョンでもあるわけよ」


 その説明で、フレッドがわざわざ儂を連れてきてくれた理由が分かった。

 暇があるなら儂に見せたいというのもあったのだろう。

 このダンジョンの特性を。


「金にならないダンジョンってのは間違いなのよな。

 このダンジョンのドロップ品は単純に金になるものの方が少ない。大事なのは、どう金にするか。どうすれば金になるか、なのよ。

 その観点でみれば、金になるダンジョンだと、オレは思うワケ」


 職人としては見習いレベルだが、フレッドも融合を嗜んでいる。

 その視点で見れば確かにこのダンジョンは金になることだろう。


「よし、そろそろ階段だな。

 階段の前に、ちと厄介な仕掛けがあるんだけどな」


 雑談混じりの探索なのに、恐ろしい速度で進んでいく。


 フレッドがすでに攻略済みの探索者(シーカー)というのもあるのだろうが、ヴァルトとリッチの腕前もかなり高いからなのだろう。


 厄介な仕掛けとやらの前までやってくる。

 途中に子猫が出てきてクーリアちゃんが追いかけそうになったが、フレッドがすごい必死に止めていた。


 ……フレッド、あの子猫になにかされたのか?


 ともあれ、件の仕掛けだ。

 これはフロア内を徘徊する熊を使って、倒木で作られたバリケードを壊すというものだった。


 攻略済みのフレッドがいなければ、かなりの足止めをくらいそうな仕掛けだろうな。


 力押し一辺倒じゃあ絶対に攻略できないダンジョン……。

 定期的に出現する、このダンジョンを解説するようなフロア。


 ……親切なのは確かだが、それ以上にこのダンジョンは……


「ヴァルト。このダンジョン、探索者(シーカー)の成長を期待しているようじゃないか?」

「実際、ダンマスには少なからずそういう意図があるそうだ」

「そうか」


 儂の質問に、ヴァルトが小声で答えてくれた。

 小声で――ということは、あまり周知したくないということか?



 ともあれ、フロア4もあっという間に終了し、フロア5へと踏み入れる。


 フロア5は熊を利用して先に進む。

 これもフレッドがすでに経験済みだったので、あっという間に先へと進んでいく。


 気がつけばフロアボスの部屋の前だ。


「あれ? この扉に緑色の封石なんて付いてたっけ?」

「封石? 私には見えないが」


 フレッドが首を傾げるが、そもそもヴァルト同様に儂の目にもそれらしいものはない。


 リッチとクーリアちゃんも同じようだ。


「なるほどなるほど。

 ラヴュリントス名物の人によって見えるものが違う仕掛けか。

 オレの目には見える理由はなんだ……?」


 少し思案するフレッドに、ヴァルトが答える。


「一番の違いは攻略済みかどうかだろう。

 恐らく、一度ボスを倒しているコトが見える条件では?」

「それだな。ちょいと、触ってみる」


 視線で少し下がるように言われて、儂らは素直に下がった。


「ふむ。どうやら緑狼王は復活しているようだけど……すでに攻略済みの探索者(シーカー)は素通りOKみたいね」


 ボス部屋の扉についている封石とやらに触りながら、フレッドは何かを読むように呟く。


「お? 同行者も素通りさせるコトもできるのね。

 おーけー、おーけー。理解したわ」


 フレッドだけが読めるような何かを読み終わったのか、彼は振り返る。


「みんな、ちょいと扉の前に来て。

 合図をしたら、自分の腕輪を扉に当てて欲しいんだわ。

 それで未攻略の奴でも、オレの同行者ってコトにして先に進めるらしいのよ」


 その説明を理解した儂らは、フレッドの合図に併せて扉に腕輪を当てた。


「さすがにフロアボスはこのメンツで戦える気がしなかったからね。ラッキーだわね」

「まったくだ。狼の王が率いる群れが相手なのだろう?」

「ああ。王を倒せば終わるんだけどね。眷属たちは無制限に増えてくからさ。厄介なのよ。もちろん、王サマは強いのよ?」


 聞くだけでうんざりしてくるようなボスなのだな。ここのは。

 ともあれ、フレッドのおかげで戦わずに済むらしいボス部屋の扉が、ゆっくりと開かれるのだった。


クーリア「えいっ! やぁ! ていっ!」

タリーチ「見掛けに寄らずやるもんだ」

クーリア「ふふん。ラヴュリントスは二度目だから!」

ヴァルト「一度目は、フロア2までだろう。あまり調子に乗るものではない」

クーリア「はーい」

リッチ「……クーリアは俺の娘だからな?」

ヴァルト「知っているが?」


 次回は、この続きとなります。


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