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4-42.懸念は残り、されど日々は過ぎて行く

本日二話掲載。こちらはその2話目となります。


「そうか」


 一言、俺はそう口にしてうなずいた。


 確定した。

 異常種現象は、ラヴュリントス固有の現象じゃない。

 原因は不明なれど、他のダンジョンでも起こり得る現象だ。


 ズキリと主張する治したはずの頬の傷を撫でながら、俺は小さく息を吐く。


 そのタイミングで、ヴァルトが続きを口にする。


「ラヴュリントス攻略もしている探索者(シーカー)チームが発見。

 メンバーの一人が鑑定のルーマを使ってみたところ、頭痛を伴い戦闘不能になったそうです」

「鑑定については警告しなくて申し訳なかった。俺もつい先ほど知ったんだが、あいつらは神の鑑定を無効化し、人間の鑑定には頭痛を引き起こし拒絶するみたいなんだ」

「つい先ほど……?」


 ヴァルトが訝しみ、ベアノフが目を眇める。

 まぁ、そういう反応になるよな。


「サリトスたちが、フロア8のボスを攻略した。

 だが、サリトスたちが倒したボスが突然起き上がり、暴走した」

「な……ッ!?」

「異常化フロアボスか……ゾッとしねぇな」

「さすがにサリトスたちでも対処できそうにない異常種だったからな。例外的に俺が乱入して対処はしたから安心してくれ。

 その時に、コロナが鑑定をしててな。頭痛でしばらく動けなくなってるのを見たんだ」


 どうやら二人はそんな説明で納得してくれたらしい。


「あ、そうだ。

 一応スペクタクルズで鑑定できるぞ。まともに読めたもんじゃないけどな。

 女神の腕輪の情報は、ラヴュリントスへ来てくれれば俺が勝手に読みとるから、遭遇したら可能な限りスペクタクルズをぶつけておいてくれないか?

 もちろん、命大事にの精神でやって欲しいんで、現場判断で無理だってんなら無理してやる必要はないけどな」


 文字化けしてても、あとで何とかできるかもしれないからな。

 地球には文字化け変換ツールってのがあったんだ。

 この魔本を使えば何とかなる可能性がある。


「了解だ。女神の依頼に協力してくれてる奴らには伝えておこう」

「それで、そのドーヌ鍾乳洞に出現した異常種はどうした?」

「その探索者(シーカー)チームが無事に撃破しました」

「それは何より。人気のないダンジョンとはいえ、想定外の強さを持つモンスターがふつうに彷徨(うろつ)いてるのは危険だもんな」


 人気があろうが無かろうが、事前の情報には存在しない強敵ってやべーもん。


 ゲームとかなら、生息地の平均レベルを大きく上回る強力なモンスターが徘徊していることがあります――みたいなチュートリアルがあるから、それっぽい奴を見つけても、「あれがそうか」って分かるもんだが、リアルじゃあそうも言ってられないだろう。


 それに――この世界じゃあチュートリアルしても怪しいもんな。

 だいたいの連中がボタン連打して飛ばす姿が目に浮かぶ。


「ベアノフ。ヴァルト」


 俺は少し真面目な顔を作って、二人を見る。

 二人も俺の気配に何か思うところがあったのか、真面目な顔で見つめ返してきた。


「恐らく、これは未知の現象だ。

 ゲルダ・ヌアすら想定してなかった……な」


 この二人には、軽く言っておこう。


「聞き入れる奴がいるかは知らんが、それでもギルドで警告するようにしてくれ。

 現在、各種ダンジョン内に異常種と呼ばれる超強化種が生まれるコトがあるってな」

「了解だ、アユム。どこまで聞き入れてくれるか分からんがな」

「国の上層部へも報告という形で奏上しておきます」

「ああ、頼む」


 とはいえ、どれだけ警告しても聞き入れてくれないとなると、勝手に殺されるやつが多いだろうしな……。


 あ、そうだ!


「どうしても聞き入れずに勝手に死ぬ奴が出るのは仕方ないが……一応、生き延びてくれそうな餌はあってもいいかもな。

 異常種はめちゃくちゃ強い。出会ったら逃げろ――という警告と共に、異常種には鑑定のルーマは絶対に使わず、鑑定する場合はスペクタクルズを使うようにって情報も流しておいて欲しいってのはさっき言った通りなんだが……。

 その上で、だな――女神の腕輪に異常種の情報が登録されている場合、こちらがそれを確認できた時点で、なんか報酬を出そう。

 フロア8のラヴュリンランドの商店街に、その報告を受ける施設を作っておくから」


 これなら、情報収集しつつ探索者(シーカー)たちが無駄に命を散らすこともないはずだ……たぶん。


「逆に、好奇心で探しに行く者も増えそうですが……」

「まぁその懸念はあるんだけどな。だけど、報酬が欲しいなら死ぬわけにはいかないだろ?

 俺なら倒せるってイキがる奴も、報酬があるならって妥協してくれるかもしれないし、マシかなぁと」


 とはいえ、ヴァルトの懸念ももっともなんだよな。

 この情報を流すべきかどうかは、何とも言えないところはある。


「判定施設は作るが――この情報を流すかどうかは、二人に任せるよ。

 新施設の中を見て、そこに書かれた情報を理解できるような奴は、無茶をしないだろうしな」


 二人は違いないとうなずく。

 この手が吉とでるか凶と出るかは分からないけど――


「そういや、サリトスたちがフロアボスを倒したってんなら、しばらく後にまたフロア9への入り口も出来るんだろ?」

「出来るは出来るけど、サリトスたちがフロア9に足を踏み入れてから十四日くらいは後だぞ」

「それが聞けりゃ充分だ」

「ついでに、ラヴュリンランド直通の出入り口も作る予定だ」

「直通……ですか?」


 ヴァルトが首を傾げ、俺は笑う。


「直通の出入り口を通ってきた場合は、館ダンジョンの探索者(シーカー)用エリアと、フロア9へは行けないようにするけどな。単純に、観光地にでもしようかな、と」

「一般人でも遊べるようにってコトか?」


 ベアノフの言う通りだ――と、肯定するとめちゃくちゃ苦い顔をされた。


「……それはしばらく待ってくれ。流通がめちゃくちゃになりかねない。

 探索者(シーカー)以上に、一般人は娯楽に餓えているからな……」

「同感です。

 一流の探索者(シーカー)すらハマると抜けだし辛いという娯楽の園――一般人には少々刺激が強すぎますので……」

「……そっか」


 そんなワケで、一般開放に関しては保留にすることにした。

 以前、ミツとミーカに言われた俺とこの世界の娯楽に対する感覚ズレってやつは修正しきれていないらしい……。



 それからも多少の情報交換をしたところで、ベアノフが切り上げるように呟く。


「さて、こんなもんかな」

「ですね」


 ヴァルトもうなずくので、これでお開きなのだろう。


「うちのメシを食ってかなくていいのか?」

「魅力過ぎる提案だが、仕事が多くてな」

「それは申し訳ないな」

「ま、女神の依頼だけに限らないからお前のせいじゃないさ」


 ベアノフのその苦労が滲みでる苦い笑いは、生前に見たことがある。

 仕事に疲れて顔色を悪くした社畜一歩手前の友人の笑みだ。


 ……大丈夫か、ベアノフ。


「事務作業をバカにしない従業員が早急に必要という話ですよ」

「……ああ」


 ヴァルトも似たような顔でこぼした言葉に、俺は理解を示す。

 そうか――こんな世界だもんな。事務や裏方の重要性や大変さを、従業員すら理解しきれてないのか。


「それでも、最近は多少増えてきてるんですよ。

 私みたいな事務や裏方を優先する探索者(シーカー)への理解者も」

「そうなのか?」


 不思議そうなベアノフに、ヴァルトはうなずく。


「ええ。受付で仕事をしていると、労いの言葉を掛けてくれる人が増えたような気がします。

 みな、ラヴュリントス攻略をしている者たちのようですからね。そういう意味では、やはりこのダンジョンに関わるとはぐれモノになりやすいのかもしれません」


 全員が全員ってわけじゃないですが――とは言うものの、それは少しばかり嬉しい情報だ。


「正直、前線を走ってるサリトスたち一部の探索者(シーカー)以外には、申し訳ないが期待してないところがあったんだが――そうか、そういうところでも、多少の影響があるのか。

 それは、このダンジョンを作った甲斐があるってモンだ」


 安堵するように俺がそう言うと、ベアノフとヴァルトは何だか暖かい眼差しを向けてくる。


「どうした?」

「いや……まぁお前の見た目が若いせいでな」

「ええ。がんばっている後輩が報われて良かった……みたいな感情が沸いてきまして」


 二人の言葉に、俺は思わず大袈裟に肩を竦めた。


「実際、どこまで効果があるのかって懸念とはずっと戦ってたんだよ。

 俺はダンジョンの外まで見通せるチカラを持ってないからな。

 こういう報告を聞けたのは、本当に朗報なんだ。ありがとな」


 無駄じゃなかった――本当に、それに尽きる。


「だけどよ、まだまだ足りてはいないぜ」

「分かってる。これからも色々考えながらダンジョン運営していくよ」

「では、我々探索者(シーカー)も、常に色々考えながら探索をしていかねばなりませんね」

「そうしてくれ」


 こうして、今回の会談も終わりを迎えたのだった。



 翌日――サリトスたちはフロア9に行く前の休息と作戦会議の為か、ラヴュリンランドの宿屋をチェックアウトして、ダンジョンを出て行った。


 そして、バドたちがデュンケルを加えて時計塔への挑戦を開始する。

 ……デュンケルの奴、いつの間にキーメダル集めてたんだ? まぁデュンケルだしな。気にするだけ無駄な気がするけど。


 ともあれ、あのメンツであればサリトスたちに続く攻略成功の二組目になることは間違いないだろう。

 バドたちを中心に、いつものように探索者(シーカー)の様子を伺いながら、俺はジャンクゴーレムの文字化けデータを精査していく。


 簡単に翻訳できるようなツールはなかったものの、俺の記憶と連動させてツールを作成できるそうなので、少しずつやっている。

 前世のプログラムとはまた違って、ダンジョン作成に近い作成方法だ。


 どうしてこれでツールが生まれるのかよくわからないけど、まぁ出来るのであれば、何でもいいや。



 そうして、数日が過ぎ――ようやく完成したツールで、俺はジャンクゴーレムのデータを読みとる。





 その結果を見ると同時に――


 俺は即座に、

 そこから読みとれるあらゆる状況を想定した行動を開始した。







 想定していた事態とは異なるけど、準備してた保険という手札を全て切る必要があるかもしれないな。















===《侵食迷宮のジャンクゴーレム ランク??》===

侵食迷宮のウィルスに感染して生まれた異形のコア。

すでにモンスターではなく、この世界に存在を拒絶される異形となった。

スターシスクに復活を。ヴェルナデュスに繁栄を。我がダンジョンによる繁栄を。我がダンジョン以外に衰退を。戦神に世界を。スターシスクに繁栄を。ヴェルナデュスに栄華を。我がダンジョンによる恵みを。我がダンジョン以外のダンジョンよ滅びよ。我に屈せよ。神すらも我に屈せよ。我が国に繁栄を。


固有ルーマA:侵食迷宮展開Lv??

自分をコアとして周辺の迷宮状況を塗り替える。塗り替えろ。塗り替えられて絶望に屈せ神よ。我が国にのみ慈悲を与え続けよ。我は我が国が繁栄を我がさせるのだ。栄華を。あらゆるダンジョンよ我に屈せよ礎となれ。


固有ルーマB:精神汚染Lv4

各種攻撃に『ダメージを与えた時、確率で精神を侵食するウィルスに感染させる効果』を付与。侵す犯す冒す。侵され狂え我に従え。

また、こちらに対して、神やそれに準ずる鑑定能力以外による直接鑑定を行った場合、鑑定使用者の精神にウィルスを感染させる。英知をもたらす存在を暴く者に呪いあれ。呪いで狂え。我に下るか戦に狂え。


ドロップ

通常:侵食物質。繁栄の礎となれ。ただでは砕かれぬ。呪いを。

レア:高濃度侵食物質。我に触れる栄誉を受けて狂い続けるが良い。


クラスランクルート:

我が眷属になるならばクラスランクなど不要。我が国の礎になり続けるが良い。

=====================


ミーカ(……OKマスター。保険システムの起動準備だね☆ まっかせて☆)


ミツ「ミーカさん? どうしました?」

ミーカ「ううん。なんでもないよ☆ ちょっと新しいスイーツのアイデアが出てきそうで来なかっただ・け☆」



そんなワケで、これにて四章終了です。

三章の時同様に、少しだけ閑話を挟みつつ、五章を開始する予定です。



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国!? 国なのか……うっわ厄介だなぁ
[一言] 邪神でも湧き出してたのかと思ってたが、どこぞのダンマスの反乱? だったか。 まあ、よそさまのダンジョンにちょっかい出せて浸食やらウィルスばら撒くやらできる時点で邪神と変わらない気もするけれ…
[一言]  え、『国』? え、ダンジョンのシステムを解析・支配した国がウィルス散蒔いている、と? 神vs国家勃発ゥッ?  来年もよろしくお願いします!
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