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4-39.異常な異形と迷宮の主


 ワライトリーとのバトルはお約束に従って三連戦に設定してある。

 戦闘マシン第一形態→戦闘マシン第二形態→戦闘用カプセルだ。


 だが、カプセルは活躍しなかった。

 倒されたわけじゃない。突然、ジャンクと化していたハズの戦闘マシンが動きだし、カプセルを取り込んだのだ。


 慌ててダンマス権限を使って戦闘マシンを止めようとするも止まらない。


「これは――まさか異常種になったのか……戦闘マシンがッ!?」


 流石に一緒に見ていたミツとゲルダも驚いたように目を見開く。


「話には聞いていたが、これが――」


 初めて見るゲルダに対して、すでに経験しているミツの行動は早い。


「アユム様ッ、ワライトリー戦専用の戦闘空間そのものが別のダンジョンになってますッ! こちらからの制御を受付ませんッ!」

「まじかッ!?」


 だが、その結果は俺でも驚くべきものだった。

 魔本(タブレット)を操作してみるものの、あの空間へと直接声を届けるのも難しい。


 しかし、ダンジョンマスターから配下へと送れるテレパシーのような能力は作用するのは確認できた。

 それを使って、ワライトリーへと連絡を取る。


 戦闘空間そのものがラヴュリントスから切り離された異常空間となっていて、死に戻りが作用しないこと。

 下手したら、死んでも迷神の沼の底へと無事にたどり着けない可能性があること。


 それをサリトスたちに教えておくことは重要だ。


 その間に、モニター越しに鑑定を使ってみるが、情報がおかしい。

 俺の鑑定で見れる情報は、アレが戦闘マシンの残骸であるということだけだ。


 やはり通常鑑定結果しか表示されない、か。


 ――と、まてよ。そういやサリトスの奴がスペクタクルズを投げてたな。あいつの腕輪をちょっと覗かせてもらうか。


 そうして、俺は鑑定結果をモニタに呼び出す。


「なんだ?」

「なんです、これ?」


 その結果は、ゲルダとミツが眉を顰めるのに充分な代物だ。

 大半が文字化けしてるからなぁ……。


 いや待てよ。


「二人の目にはどう見える?」

「よく分からん文字の羅列だな」

「そうですね。言葉の意味をなしてないように見えます」

「……俺の目には俺の世界の文字――漢字やカタカナの羅列に見えるんだけど、二人はどうだ?」

「いえ、この世界の文字です。色んな時代の色んな土地の文字がぐちゃぐちゃに混ざって配置されて見えます」

「ふむ。我にもミツと同じように見える。

 ……アユムだけ見え方が我らと違うのは、この世界に呼び寄せた時に付与した自動翻訳能力の影響やもしれぬ。だが、それがどうかしたのか?」


 ……なるほど。

 そうなると、これを翻訳できるかもしれないな。


 文字化け変換ツールみたいの、魔本(タブレット)の中にあればいいが――

 ……って、今はそんなことをしてる場合じゃないな。


 好奇心よりも状況の対処だ。


「文字化けに思うコトがあるが、今はそれどころじゃないな。

 ミツ、進入経路を作れるか? 俺もあそこに行く」


 俺の問いに、ミツは難しい顔をしている。

 そう簡単なことではないか――そう思ったのだが、それを見ていたゲルダが助け船を出してきた。


「ミツでは厳しかろうからな。我がやろう。

 まだ本調子ではないが、その程度のコトなら可能だ。

 我の預かり知らぬ現象――流石に気にならぬとは言えぬ」

「サンキュー、ゲルダ。

 ミツ、お前は俺とあそこに行くぞ」

「はい!」


 ミツがうなずいた時、管理室の中へとユニークスリーがやってくる。


「異常種が出た。それも俺のダンジョンの機能改竄まで行っている」


 三人が入ってくると同時にそう告げると、セブンスとスケスケはもちろん、流石のミーカも真面目な顔をした。


「俺とミツは現場で対処してくる。

 ミーカは、ほかの場所の状況確認を頼む。

 スケスケは、人格をおスケにチェンジ。セブンスと一緒にミーカの指示に従い、俺とミツが対応している以外の場所に発生している異常種が確認された場合は迅速に狩ってくれ。

 それと異常種相手に、お前たちは絶対に鑑定を使うな。スペクタクルズで見ても文字化けするし、先ほどコロナが鑑定を使ってから体調を崩している」


 言うべきことはこのくらいか。


 ちらりとモニタを見ると、ジャンクゴーレムが飛び上がり、上空から地面へ向けて大量のバラ撒き弾を撃っている。

 

 みんななんとか躱しているようだ。

 そしてジャンクゴーレムの着地に、サリトスとディアリナが強そうな攻撃を放つ。

 だが、さして効果がないどころか、二人の隙をついてジャンクゴーレムの触手が振られ吹き飛ばされている。


 予想していたが、異常種はやはりレベルが高い。

 ダメージが通ってないワケじゃないだろうが、数値で言えば1~5くらいなもんなのだろう。


 高威力のルーマを連発してもそれしか与えられないなら、削りきる前に疲弊して負ける。

 ましてや、あの空間じゃあアリアドネ・ロープも機能するか怪しい。逃げることもできないのであれば、サリトスたちが危ない。


「ゲルダッ!」

「うむ。抜かるなよ、アユム」


 流石にこんなイレギュラーでサリトスたちに死んで欲しくはないからな。


「いくぞ、ミツ」

「はいッ!」


 俺は魔本(タブレット)を左手に携えながら、ゲルダの作り出したゲートへと飛び込んだ。




 ゲートから出るなり、目に飛び込んできたのは、異常種の放つ巨大な弾を受け止めるサリトスだった。

 動けないディアリナを守る為とはいえ無茶をする。


 俺はすぐさま動き、サリトスの横で右手を掲げた。


「お前は……ッ!?」

「話はあとだ。まずは防ぐ」


 ダンマスの権限や、ゲルダやミツからもたらされているチカラは思うことがあってあまり使いたくないんだけど、今はそうも言ってられない。


守護硬迷刹(シュゴコウメイセツ)


 言葉と共に、ガラスに似たルーマの壁を作り出す。

 実際、見た目通りのものを作り出して盾にする技だが、俺はそれにダンジョンマスターとしてのチカラを用いたアレンジを加えて、破壊不可能属性を付与してある。


 ダンジョン内であればいちいちルーマとして発動する必要のない行為だが、ここは俺のダンジョンという扱いではないようだ。

 

 だからルーマと併用して、ダンマスの権限を利用する。正しく言うならダンマス権限をルーマによる能力として発動させている――が近いか。DPのルーマ化とも言えるかもしれない。


 ともあれ、そうやって作った壁で巨大な光の弾を受け止め終え、消滅を確認したところで、俺はミツの名前を呼ぶ。


「ミツ。拘束だ」

「はい」


 俺の言葉にうなずいたミツは、両手を掲げる。

 それと同時に、光輝く純白の翼がその背から現れた。まさに天使の羽だ。

 ……そういや、神の御使いなんだから、天使だったな。


 そんなどうでもよいことを考えているうちに、ミツが言葉を口にする。


咎縛神鎖(コウバクシンサ)よ、来たれ」


 すると、異常種の足下から、ミツの羽と同じ色の鎖が現れて絡め捕った。


「サリトス。ディアリナ連れて離れてろ。

 あの異常種は、お前たちじゃあ勝てない強さを持っている」

「すまない」


 サリトスは俺に頭を下げると、ディアリナを抱き抱えて離れていく。


 それを見ながら、俺は魔本(タブレット)から小太刀を呼び出し、抜刀する。鞘は魔本(タブレット)へと戻した。


「ミツ。その状態で別の技は使えるか?」

「問題ありません。何をご所望でしょうか?」

「アレを確実に倒したい」

「では、アユム様の剣――いえ剣だけでなくアユム様自身に神属性を付与しましょう。

 神以外の持つ超再生や無敵などもほぼ無視して攻撃可能になります。

 アユム様の能力も考慮すると、まさに創主様の扱う技と同質の――神域の一撃となるかと」

「んじゃあ、それで」


 ミツの説明に、俺も軽い調子で頼んではみるが――ある意味、ガチのチートスキルじゃないかなー……と思わなくもない。

 神以外で耐えられないし、再生できない攻撃ってハンパねぇな。


 だけど、今はそれがありがたい。


神気付与(しんきふよ)


 実にシンプルなミツの言葉と共に、その背の翼から羽が舞い、俺の周囲に踊る。


「どうぞ。アユム様」

「ああ」


 神の鎖に拘束された異常種に向けて、神のチカラを纏った刃を構える。


 小太刀に俺のルーマを込めていくことで、光を纏った刀身が伸びていく。

 以前ディアリナが見せてくれた必殺技を俺なりにアレンジした奴だ。


 コンセプトはドラゴンすらもぶった斬る――ってなもんで、名前もそれっぽく考えてたんだけど……困ったことに、初のお披露目はこんな鉄クズのゴーレムだ。


 だけどまぁ、確実に叩き潰すにはちょうど良い技だと思う。


 俺は左手に呼び出していた魔本(タブレット)を消して、小太刀を両手で握る。


 鎖に絡まれてもがくゴーレムを見据えて、地面を蹴った。

 異常種の身長よりも遙か高みまで飛び上がり、剣を背負うように構える。


 技自体はシンプルだ。


迷真(メイシン)竜斬剣(リュウザンケン)ッ!」


 これをッ、全力でッ、振り下ろすッ!!


「お前はッ、お呼びじゃないんだよ――……ッ!!!!」


 神のチカラを付与された光の刃は、ミツが作り出した鎖ごとゴーレムを両断する。

 さらにその切断面から純白の光が侵食するように、左右に分かれた異常種を包んでいく。


 それでも最後の悪足掻きのようにゴーレムは触手を伸ばしてくる。

 一瞬ヒヤリとしたが技後の残心をしていたことと、触手にはそれほど速度が無かったので反応が間に合った。首を傾けてギリギリ躱した。

 ほっぺたをかすめて軽く血が流れたけど、舐めときゃ治る傷だ。気にする必要はない。


 俺が躱した触手は向きを変えて、もう一度俺を襲おうとするが、それよりも先に純白の光に包まれ動きを止めた。


 完全に純白に染まった異常種は、羽毛のような光の粒子に変わって、ゆっくりと消えていく。


 俺はそれを見ながら魔本(タブレット)を取り出し周囲を確認した。

 さっきまでこちらからの干渉を受け付けなかったこの空間に干渉できるようになっている。

 今ならこの空間を取り返せそうだ。


 素早く魔本(タブレット)を操作して、異常種に乗っ取られていた空間を修復。


「何とかなったか」


 完全に元に戻ったのを確認してから、俺は大きく息を吐くのだった。


フレッド『あれが、ダンジョンマスターの戦闘力か』

サリトス『あの状況で足掻けるジャンクゴーレムも恐ろしいな……』

コロナ『ところでこれ、攻略状況としてはどうなるんだろ?』

ワライトリー『どうなるんでしょうねぇ……』


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― 新着の感想 ―
[一言] ほっぺたは自分じゃ舐められないから、誰かに舐めさせるんですね その栄誉は……セブンスの役でしょうか
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