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1-10.目には見えない武具もある

     

「いやー……なかなか有意義だったな」


 サリトスたちとの交流は、ミツ以外に話し相手がいなかった俺からするとすこぶる楽しい時間だった。


「ミツのツッコミのタイミングも的確だったしな。

 うまかったぞ、割り込んで叱る演技」

「いえその……実際、思ってたコトだったので」

「そうか」


 つまり、半分ぐらいは素だったのか。


「情報、流しすぎではないのですか?」

「いいんだよ。あれはあれで。サリトスたちを試してるんだから」

「試す、ですか?」

「情報の取り扱い方をだよ。情報ってのは目に見えない武器であり、防具だからな」

「ダンジョンのフロア情報や、脱出情報以外も、ですか?」

「おう」


 サリトスたちがどこまで情報を流すのかは分からない。

 それをどこまで流すのか――というのを三人は意見交換しはじめているので、こっそり聞き耳を立てている。


 ふむ――情報屋か何かだろうサリトスの兄に託すのは、ミツカ・カインやダンジョンの意味なんかの話。

 まぁサリトスたちからしてみれば、創主神話が現代に地続きになってるような気分だろうからな。一介の探索者(シーカー)として判断に困る話ではあるんだろう。


 ダンジョンのエクストラフロアの話と、出口の配置はヒミツ。自分たちだけが有利に使うつもりらしい。

 それもまた情報の使い方の一つだ。

 サリトスたちからしてみれば、散々バカにしてきた連中へ素直に情報を流す気もない――ってカンジかもしれないけど。


 でもアリアドネ・ロープの話はギルドに報告するのか。

 脱出手段を提示しといてくれるのは助かるな。

 脱出できるか分からない――よりも入ると出てこれないが脱出の仕方が存在する……という方が、挑戦する方も気楽だろう。


「ふむ――サリトスの兄貴次第だな」

「何が、ですか?」

「ダンジョン依存症の解消も頼みたい――とそう言ってきたのはミツだろ?」

「え? はい……言いましたが……」

「上手く行くかは分からないけど、とりあえず一手目としての種は蒔いたぞ」

「えッ!?」

「あんまり、期待はしないでくれよ。

 ダンジョンマスターは外界へ出られないから、基本的には間接的な手段しか取れないんだからな」


 だけど、情報屋らしき存在がいると知れたのは大きい。

 少なくとも脳筋ばかりの社会の中でも、情報が武器にも防具にもなると知っている人間がいるということだ。


 ただ、仕入れた情報を受け取る側の存在がよく分からない。

 ミツに聞くのが手っ取り早いかなぁ……。


 何でもかんでもミツに聞いちゃうのはよろしくない気もするけど。


「なぁミツ……嬉しそうな顔で硬直してるところ悪いんだけど」

「ふぁい!?」

「サリトスの兄貴は情報屋らしいんだが、その情報を買う側ってどんな奴がいるか分かるか?」


 俺の問いに、ミツは少し眉を顰めて難しい顔をする。


「そもそも情報屋が存在していたコトに驚きですけど……そうですね」

「驚きなのかよ」

「少なくとも探索者(シーカー)たちはあまり利用しないと思います」


 サリトスたちがどれだけ特異か分かる話だな、おい……。


「情報屋の情報の売り先は、恐らく――商人と貴族でしょう」

「まぁ王国がある以上はいると思ってたけど、大丈夫なのかこの世界の商人や貴族って」

「少なくともペルエール王国内における貴族や商人の興りは、サリトスさんたちのような特異性を持ちつつも、探索者(シーカー)以外の道を模索した人たちによるものですからね」

「なるほど、完全に進化できてないワケでもないのか」

「ただ、平民や探索者(シーカー)たちから見ると、貴族は口うるさく、商人は小狡い――と、あまり好かれてはおりませんね。

 ダンジョンを探索せず利益を得るズルい人たち……くらいの印象でしょうか」

「うーむ……」


 住民全員が総ダンジョン狂いというワケでもないのか。

 少なくともペルエール王国の貴族と商人は、ダンジョンからの出土品を買い取ったりすることで、土地の管理や治安の維持、出土品などの流通を取り仕切ったりしてるんだと思う。


「これは本当に、もしかしたらもしかするな……」


 サリトスたち兄弟は、救国――いや救界の英雄になりうるのかもしれない。


「――と、いいますと?」

「サリトスの兄貴の動き次第で、少なくともペルエール王国はダンジョンに対する認識が変わるかも知れないぞ。もちろん、すぐにどうこうってワケじゃないけどさ」

「…………」


 何やらミツがじーっと見つめてくる。


「どうした、ミツ?」

「いえ、口では無理だの何だの言いながら、何だかんだと動いてくださるんだな……と」

「そういう依頼だろ? 達成できる保証はないけど、依頼を受けた以上やれるコトはやっておくさ」


 サリトスたちは、干し肉と堅パンを取り出して食べ始めている。

 肉とパンをナイフで削って口に含み、水を呷る。

 恐らくああやって、口の中でふやかしながら咀嚼していくのだろう。


「見てたら腹が減ってきたな」


 あまり美味しそうじゃねぇけどな。


「ダンジョンマスターに空腹はないはずですが」

「気分の問題さ。元人間だから、尚更な」


 そうして、俺は管理室の椅子から立ち上がった。


「ミツも食べるだろ?」

「いただけるのでしたら」


 コクリといつもの感情のなさそうな顔でうなずくものの、瞳は輝いているし、存在しないはずの犬の尻尾がぶんぶん揺れてるのが幻視えるので、楽しみにしているようだ。


「食事……食事か」


 キッチンへ向かいながら、俺はふと思うことがあって足を止める。


「どうしました?」

「いや――ちょっと思いついたコトがあってな。

 メシを食い終わったら、名持固有種(ネームドユニーク)のモンスターを作りたい。手伝ってもらえるか?」

「もちろんです!」




 そんなワケで、キッチンなう。


「今日は何を作るんですか?」

「そんな凝ったもんを作る気はないよ」


 何より、凝ったもんなんて作れないしな。

 俺に作れるもんなんて一人暮らしの男料理みたいなもんだけだ。


「ブートンのバラ肉と、長ネギ……だけでいいかな。あとニンニクか」


 ブートンというのはモンスターの名前で、別名ダンジョン豚とも呼ばれるやつだ。凶暴な魔物ながら肉が美味しいので重宝されてるんだとか。


 その名前と二つ名の通り、見た目はブタだ。猪じゃなくてブタ。

 ただ地球のブタと比べると可愛らしさをみじんも感じない姿だけど。

 

 珍しい個体でもなく、いろんなダンジョンに生息しているらしい。

 ダンジョンごとに差違はあるらしいけど、共通しているのは、他のモンスターと違い、こいつは黒いモヤとなって消滅しないことだ。

 なので、ありがたく肉をいただけるモンスターである。


 もちろんラヴュリントスにもポップするようにしてあるぞ。

 出てくるのは第一層のフロア4からなので、サリトスたちにはもうちょっとがんばって欲しいところだ。


 ちなみに料理に使うブートンは、DPを消費することで、肉だけ召喚してる。

 いちいち戦って倒すなんて面倒はしないのだ。


「さて、ご飯はもう炊いてあるので……」


 長ネギは斜めにザク切り。

 ニンニクはみじん切りだ。


 フライパンを熱してごま油を敷いて、ニンニクのみじん切りを入れる。

 ニンニクの香りが立ってきたら、豚バラ肉とネギを入れる。

 肉に火が通り、ネギがしんなりしてきたら、醤油、酒、みりん、砂糖を加えてひと炒め。

 アルコールが飛び、味が馴染んだところで、火を止める。最後に水溶き片栗粉を回し入れ、とろみをつければ完成だ。


 炊き立てご飯を丼に盛って、今作った豚炒めを乗っけてやる。

 上から黒ごまをパラりと散らし、紅ショウガを添えて完成っと。


 ネギが好きならここに、山盛り白髪ネギや、小口ネギを乗せても美味しかったりする。

 白髪ネギに少量のごま油と黒胡椒を混ぜたやつを乗せるの結構好きだ。


 でも今日は用意してないので、オプションはなし。これで充分おいしいので問題はないと思う。


「ほれ、ミツの分な」

「ありがとうございます」


 キッチン横のテーブルに丼を置き、俺の分には箸を、ミツの分にはスプーンとフォークを用意する。


「いただきます」

「いただきます」


 手を合わせて俺が口にすると、ミツもマネして口にする。

 最初は食前の祈りが短いのでは――とミツに不思議がられたんだけど、この言葉の中には、

 ・糧となる食材(いのち)への感謝

 ・それを育てた自然、あるいは育て収穫した農家や狩人への感謝

 ・食材を売買し、流通に乗せ食卓へ届ける商人への感謝

 ・食べられる形へと調理した料理人への感謝

  ……などなど――そういうのを『いただきます』の一言に集約しているのだという話をしたら、ミツが偉く感動していた。


 神から自立した人間の極地のような言葉だとかなんとか。

 よく分からないけど、感動に水を差す気もないので、あの時は放っておいた。


 何はともあれ、本日のメニューは豚バラ丼だ。

 上品に食べる必要はない。肉とネギとご飯まとめてかき込む。


 ……我ながら美味くできた。

 ブートンのバラ肉のうま味、ネギの風味、お米の甘さ、それらをとろりとした醤油ダレが包み込む。


 ちらりとミツを見れば、スプーンで小さく掬いながらチマチマ食べているものの、割とハイペースで食べているので、どうやらお気に召してくれたようだ。


 この料理、ネギとかニンニクとか明らかにこの世界のモノじゃない食材を使ってるんだけど、それは俺が召喚したものだ。

 この世界の食材ももちろん召喚できるんだけど、味が物足りないんだよね。地球で品種改良された野菜や果物のうま味の強さには恐れいる。

 DP消費は大きいんだけど、手持ちのDPを考えれば誤差レベル。

 なら、美味しいのがいいよね、ってコトで。


「ミツ、食べながらでいいんだけどさ」


 ハムスターかリスみたいにほっぺたを膨らませたミツが、こくりと首を傾げた。丁寧に食べてるようで、思い切り頬張っていたらしい。ある意味で器用だ。

 ミツの口元にはご飯粒ついてるけど、あえて指摘はせずに、俺は続ける。


「こういう方向の進化というか進歩もありか?」


 丼を指さしながら俺がそう言うと、ミツはこくん――と、口の中のものを嚥下してから訊ねてくる。


「こういう方向とは?」

「ダンジョン内で美味しいモノを食ったら、ダンジョンの外でも食いたくなって、料理研究とか始まらないかな……と」


 何せ食欲は三大欲求の一つだ。

 そこに直結するなら、本能が先へ進むことを求める気がするんだよな。


「成功するかどうかはともかく、アプローチ手段はいくつあっても良いだろ?」

「そうですね。料理の発展を起点に、他の文化が発展していく可能性もありますしね」


 そうして、俺たちは食事が終わった後、名持固有種(ネームドユニーク)の作成を開始するのだった。


 名持固有種(ネームドユニーク)っていうのは、その名称通り、いわゆるネームドモンスターってやつだ。

 名前を与えられた唯一種。

 そのダンジョンどころか基本的に世界で一匹しかいないモンスターのことだ。


 ちなみに、ただの固有種(ユニーク)だけだと、うちでいうところの山賊ゴブリンみたいな、ダンジョン固有種のことになる。

 

 ネームドの最大の特徴は、自我がはっきりしていることだ。

 基本的にダンジョンマスターを主とし、命令に従う。だけど自我があるということは性格が存在しているということでもある。

 扱い方を間違えると、下剋上されることもあるそうだ。


「実際に、過去のダンマスでされちゃった方いますしね」


 ――とは、ミツの談。


 ただまぁ逆に言えば、ちゃんと待遇を考えてあげれば、裏切られることはまずないというワケだ。

 ネームドは死んでしまうと、それまでだ。

 いや――実際は、召喚コストの十倍のDPを払えば再生できる。

 やられた記憶などもしっかり経験として残っているので、成長することもあるそうだ。


「アユム様はどのようなネームドをお作りに?」

「ベースは、豚魔人ことオークだな」


 ファンタジーでは定番のモンスター。

 この世界でも例外ではなく、ダンジョンの外に生息しているタイプのオークは他種族のメスに無理矢理種付けをして子供を増やすそうだ。

 知性もそれなりにあり、武器くらいは扱えるとか。


 もっともDPで召喚するオークは、生殖本能が薄まってるのでただの乱暴者程度のモンスターのようだけど。


「スペックは下手なコアモンスターよりも強くする。

 サリトスたちが三人がかりで挑んで、三人とも差し違えれば倒せるかどうかくらいのスペックだ」

「強すぎませんか?」

「いいんだよ。別に挑戦者と戦わせるわけじゃないからな」

「……それはどういう……?」

「ふふふふふ。それはあとのお楽しみというコトで」


 設定が間に合いそうなら、早速フロア2に配置して、サリトスたちの反応がみたいところである。

ミツ「もぐもぐもぐもぐもぐ……」

アユム(嬉しそうに黙々と食べてるな……)


次回は、サリトスたちのエクストラフロア探索の続きです




昨日は更新できず申し訳ないです。

PCがポメラを認識してくれなくて、データが取り出せず更新できませんでした。

USBのカードリーダーを買ってきたので、ポメラのSDカードをこれで読ませれば………

………あれ、今日は普通にポメラを認識しますね……

まぁ何はともあれ今後は普通に更新できるハズです

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