4-33.閉鎖空間の戦い
===《ゲンゴールドゥクス ランクB》===
ゴーレム系。ラヴュリントス固有種。
Dr.ワライトリーが作り出したゴーレムの一種。常に群れで動き、侵入者を追い立てるゲンゴールトータスの統率個体。
ワライトリーは水生昆虫と亀をハイブリットした気になっているが、ほぼほぼ水生昆虫の見た目をしている。
下位個体が充分な情報を収集するか、かなりの苦戦を強いられている時、姿を現す。
かなりの巨体であり、下位個体のようなスピードは持ち合わせない。反面で堅牢な装甲は下位個体よりも丈夫であり、その大きな体から繰り出されるパワーも侮れない。
下位個体からの情報を常に受信しているが、ドゥクスから下位個体への情報共有は行われない。
下位個体同様に、学習レベルが高くなると、危険度のランクはBを越えることもある。
固有ルーマ:なし
ドロップ
通常:毛細状のブレード
レア:合成金属の甲羅
クラスランクルート:
特殊クラスの為、クラスランクルートはありません
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――とまぁ、そんな感じの中ボス登場ッ!
ちなみに、このエレベーターでの降下は、ボスを倒すまで止まらない。ゲームなんかだとお馴染みの仕様だ。
サリトスたちも気を改めた様子で、それぞれに構える。
「なかなか面白い趣向だとは思うがな……これ、なかなか厳しくはないか?」
「学習能力があるせいで長期戦は不利。だが、堅牢な装甲を持っている。長期戦になりやすかろう?」
「まぁそうだな。でも、水が弱点なのは相変わらずだし――何より……」
「何より?」
「確かに装甲に関しちゃ堅牢は堅牢だけど、力任せに何度も殴られると、装甲はともかく内部のパーツが悲鳴を上げると思う」
「……は?」
合金ではあるけど特殊な金属ってワケでもないから、熱してから冷やしたりすれば脆くなる。
ベースが機械だから、装甲のひび割れた隙間から水とか入ると危険だし、その水に電流流したりすれば即死するんだよな。
それに何より想定外の衝撃を受け続けると、装甲が無事でも内部パーツが悲鳴をあげて、動作不良を起こし始める可能性もある。
「何気に、脳筋戦術が有効なボスって話だな」
「ここまで頭を使わせてきておいてか?」
「おう。
俺は別に脳筋を否定してるワケじゃないしな。
それに……今はサリトスたちがトップだから上手く行ってるが、別のはぐれモノが台頭してきた時、もしかしたら脳筋否定派のはぐれモノたちが調子に乗って脳筋を見下し始める力関係の逆転の可能性だってあったワケだし……まぁ、そんな保険も兼ねてた」
必要なのは適材適所だ。
脳筋とはぐれモノ……その片方だけが特化しすぎても、この世界に蔓延する空気感は払拭できないだろう。
「我は、お主に随分と無茶ぶりをしてしまったモノだと思っていたが……お主はお主でそこまで考えてくれておったのか……」
何やら驚いているような感極まってるようなゲルダは置いておいて、モニタを見る。
コロナは即座にドゥクスへと水をぶっかけている。
すると下位種と同じように、ドゥクスは全身をピンと伸ばした。
そこへ、背中の大剣を抜きはなったディアリナがすかさず踏み込んで行く。
両手持ちによるフルスイングで、ドゥクスの頭部を強打するが、ガン! というハデな音と共に、少し凹ませるだけで終わってしまう。
『ちッ、堅いったらないねッ!』
毒づきながら、素早く飛び退く。
一瞬遅れて硬直から立ち直ったドゥクスの腕が振り下ろされる。
だが、前足が地面を叩いた時には、すでにディアリナはそこにはいない。
『そらッ!! パワードショットだッ!』
ディアリナがドゥクスへと仕掛けている横で、フレッドが限界まで弓の弦を引き絞ってから矢を放つ。
ルーマの光を纏い、空を裂く流星のように駆けていく矢は、ゲンゴールトータスを一撃で貫く。
いつもよりも時間をかけて弓を引き絞ることで、威力と貫通力を高めるアーツなんだろう。
『走牙――』
フレッドとは逆側の穴から侵入してくるゲンゴールトータスへ向けて、サリトスは走牙刃を放つ。
だが、すでにゲンゴールトータスはそれを見切っているのか、横へと跳んだ。
でもそこはサリトス。
躱されることも折り込み済みだったんだろう。
一撃目を放ったあと、すぐに二撃目の準備をしていて、跳んだゲンゴールトータスの着地のタイミングに併せて、その場で剣を突きだした。
『――瞬連墜ッ!』
普段よりも何倍も速い剣の動き。
そこから放たれた二撃目の走牙刃は、剣の動き相応の速度があった。
……つーか、見えなかった。
何か剣から放たれたかも――と、思った矢先に、ゲンゴールトータスが吹っ飛んでた。
今回は見てから撃つ方向を変えてたけど、これ同じ場所を狙った場合……ほぼ同時に着弾するタイプの技なんじゃ……。
サリトスの技に驚いているうちに、ディアリナが再びドゥクスの懐に潜り込み、剣を振るう。
『確かに堅いけどさッ、殴れば凹むんなら、何度も殴ればそのうち潰せるんだろッ!?』
清々しいまでの脳筋理論。
だけど、今回に限ってはこれが正しい。
『コロナ、水のブレスを可能な限り切らさず頼むよッ!』
『分かってるッ!』
姉に応じて、コロナが水を掛ける。
動き出そうとしたところで水を掛けるを繰り返し、動きを制している。
役割分担された綺麗な布陣だ。
サリトスとフレッドが突破されるまでは、確実に継続できるだろう。
それを見ながら、俺はゲルダにサリトスたちを示した。
「理想としちゃ、こいつら以外も……ダンジョンの外でも、こういう風に力を合わせあって欲しいんだよな」
「そうであるな。
人とは、協力しあうコトでそのポテンシャルを引き出し合う生き物よな」
脳筋同士が力を合わせることだって悪くはないんだ。
パワー+パワー=大パワーって考え方だって嫌いじゃない。
だけど、この世界ではそれすら正しく発揮されていないように思える。
「アユム……改めてお主に頼んで良かった」
「まだまだ終わらないんだ――終盤みたいな発言すんな。変なフラグが立ったらどうする?」
「いや別にそんなつもりはない。ただ我は正直に思ったコトをだな……というか、お主とのフラグなんぞ立たぬわッ!」
「いやそっちのフラグじゃねーよッ! むしろ……」
「むしろ……?」
ゲルダとバカなことを言い合ってるうちに、ディアリナが良い感じに頭部の装甲を凹ませまくり、ついにはひしゃげて隙間が現れた。
そこへ、何度目かのコロナの術が放たれる。
水がその隙間から内部へと侵入し、頭部周辺がバチバチとスパークしはじめた。
『わっ、わっ、わっ……?!』
『お姉ちゃん気をつけて!』
『分かってるッ! でもこいつは一体……?』
ディアリナが訝しんだ時、コロナが何かを閃いたようだ。
『お姉ちゃん離れてッ! あと、剣の水気は払っておいてねッ!』
そして、コロナは杖を掲げて告げる。
『雷光の鉄槌よ――ッ!!』
杖の先端から雷撃が放たれ、ドゥクスを飲み込む。
バチバチと音を立てた後、ドゥクスの装甲の隙間から煙が立ち上がりはじめる。
ややして、ガタガタを震えだし、不規則に全ての足を動かし始めた。
『なになになにーッ!?』
『コロナ?』
『……あー……ちょっと効き過ぎた?』
失敗したかも――という顔をするコロナだったが、ディアリナは不敵に笑いながら、踏み込んでいく。
『お姉ちゃん……ッ!?』
『そらあ――……ァッ!!』
突き立てるように、両手剣を装甲の隙間にねじ込み――
『せぇぇ――……のォッ!!』
――テコの要領で思い切り引っ剥がす。
『コロナッ! もう一発だよッ!! ここから最大威力をぶち込みなッ!!』
『りょーかいッ!!』
姉の言葉に力強く応じると、コロナは杖の先端をそこへと向ける。
『雷纏の穿水よッ!!』
そうして彼女が放ったのは、螺旋を描くドリルのような水の槍。
その槍は、雷を纏っていてバチバチと音を立てながら空を駆ける。
装甲をひっぺがされむき出しになった内部に突き刺さり、そこへともぐり込みながら水と雷をまき散らしていく。
「完璧なまでの特効攻撃がドゥクスに突き刺さったな」
「これで決着だな。この者たちはようやりおる」
そうして、バチバチとスパークし、あちこちを小爆発させながら、ドゥクスはゆっくりとエレベーターの外へと出て行く。
それに併せて、ゲンゴールトータスたちも慌ててエレベーターの外へと逃げ出していった。
ややして、爆音と振動がエレベーターを襲う。
そのあとに訪れるのは、静寂だ。聞こえてくるのは、エレベーターの駆動音のみ。
『何とかなったか……』
それを決着だと判断したサリトスが、安堵する。
『おっさん、冷や冷やだったぜ……』
『同感だ。ディアリナ、コロナ……良くやった』
『二人がちっこいのを相手しててくれたからさ』
『そうそう。みんなの勝利! でしょ?』
姉妹がそっくりの笑顔を浮かべたところで、エレベーターは停止する。
チンという音と共に、ドアが開くと、四人は顔を見合わせあって外にでる。
そこはエレベーターである柱以外は何も見えない真っ暗な空間だ。
クリーム色の地面がどこまでも広がっているようにも思える場所。
『これは……』
『地面に矢印が描かれてるね。どうするんだい?』
『……ここは従おう。これ以外に目印がない』
ディアリナがうなずいたところで、フレッドが二人に声を掛けた。
『二人ともこっちこっち。アドレス・クリスタルがあるよ』
エレベーターを降りて素直に矢印の上を歩いていく場合、死角になる場所に、アドレス・クリスタルを設置してある。
すぐに進まず、エレベーターである柱の脇をのぞき込んだ時だけ気づけるやつだ。
四人はそこに登録したあと、少し相談をし――
『では、この昇降する部屋で入り口に戻ろう』
『お城の絵の中の世界のコトを思うと、たぶん行けるはずだしね』
『ダメだったら頂上でアリアドネロープを使うってコトだね』
『うっしゃ。それじゃあ、本日最後の移動をはじめようぜ』
サリトスたちの想定通り、入り口への移動は可能だ。
そこから四人は外へと出ると、ラヴュリンランドの宿屋街へと戻っていく。
「あいつら、今日はここまでみたいだな」
「あの真っ暗なエリアの先に何があるのだ?」
「フロアボスのワライトリー=デッグエビル博士が待ち構えている。
倒すと次の階への行き方と鍵が貰える設定だ」
「ほう――ならこの遊園地エリアも佳境というワケだ。
次にやつらが挑戦する際には我にも声を掛けてくれ。楽しみだ」
そんなワケで俺たちも休憩に入ることにする。
「そういや、そろそろ夕飯時か……。
食堂――行くか?」
「うむ。付き合おう。むしろここの食事は楽しみでな」
「主従揃って食欲の権化か何かか? 創造神じゃなくて食神の間違いなんじゃないか?」
「失敬な。このダンジョンの料理が美味いのがいけないのだ」
俺とゲルダは席を立つと、そんなやりとりをしながら、管理室を後にするのだった。
アユム『そういや、ミツの奴……いつまで寝てるんだ?』
ゲルダ『お主のせいで生物的欲求に目覚めたようでな、食事と睡眠の楽しさを覚えてしまったようだ』
アユム『……やっぱミーカと一緒に寝てるってマズい気がすんなー……』
次回はちょっと小休止で、ダンマスサイドの食事回の予定です
本作の書籍版
『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』1~2
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