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4-31.『ディアリナ:忍ばぬシノビを突破せよ!』


 背後に一匹だけ現れたブロブロくんのコアを切り裂いて、あたしはすぐに視線を正面へと移す。

 そこでは、サリトスが人型モンスターに完璧なタイミングで絶剣衝破(ゼッケンショウハ)をぶちかましてるところだった。


 人型モンスターは上下に両断され――だけど、直後にポンっという小気味の良い音とともに煙に包まれると、その煙の中からは顔の部分に「ハズレ」と描かれた人形が両断されて姿を見せた。


「チッ」


 サリトスが舌打ちする。

 その直後に、サリトスの影の中から先のモンスターが姿を見せる。


 だけど、それは同時にあたしの目の前に出現することを意味しているわけだ。


 モンスターはサリトスの方へと向いている。

 このあたしの目の前で、背中を見せるとはよい度胸だ。


 そう思ったのは、すでに左の拳で殴った直後だ。

 サリトスの影から姿を見せた時点で、あたしは咄嗟にルーマを込めた拳を振るっていた。

 大剣を振るうには、ちょいと間合いが近すぎたからね。


 ともあれ、あたしの拳はモンスターの脇腹にねじ込まれる。そして、そのまま思い切り振り抜いた。


「GuA……ッ!?」


 くぐもった声をあげながら、人型モンスターは吹き飛び、壁にぶつかる。


「ナイスよ、嬢ちゃんッ!」


 フレッドはそう言って、素早く矢を放つ。


「スパークバーストッ!」


 光を纏った矢は、壁にたたきつけられ悶えているモンスターに突き刺さり、一瞬遅れて炸裂する。

 モンスターはすぐに黒いモヤに変わると、顔につけていた金属の仮面だけ残して消滅した。


「今のが身代わりを作り出すルーマか」

「厄介な技だったわねぇ……」


 嘆息するサリトスに、フレッドがぐったりとうめく。

 それから、サリトスはこちらに向き直った。


「――ディアリナ、助かった」

「いいってコトさね。何せ偶然だ」


 実際、モンスターの移動先が、あたしの目の前だったってだけだしね。


「イガニン……。この廊下にいるのがあいつだけとは思えん」

「同感だ旦那。ブロブロくんと両方相手にしながら進むのは、結構シンドいかもね」

「だけど、行くしかないんでしょ?」


 コロナがそう言うと、サリトスは真面目な顔でうなずく。

 実際、あたしたちは引き返す気などない。


「影に潜んでくる可能性がある。

 そして円影という丸い影の状態でいる時は、物理的な攻撃が効かないそうだ」

「出現するまで叩けないのは面倒だね」


 ブロブロくんといい、イガニンといい、何とも面倒なモンスターのいる階段だ。


「……フレッドさん。一緒に前に立っていいかな?

 物理攻撃が効かないだけなら、何とかなるかも」

「……なるほど」


 コロナの思いつきに、わずかに逡巡したフレッドはすぐにうなずく。


「でも、それで行くと旦那と嬢ちゃんがブロブロくんの相手をするコトになるよ?」

「構わないぞ。それで探索がラクになるなら、それに越したコトはない」

「あたしもサリトスと同意見さね。頼むよ、二人とも」


 何か作戦があるっていうなら、頼もしい限りだ。

 イガニンにしろブロブロくんにしろ、まともにやり合ってると消耗が激しい相手だしね。


 そうして、隊列を変えたあたしたちは、この廊下の攻略を開始した。




 正直言うと、この隊列変更以降はとにかくラクだった。


 フレッドがイガニンに気づいて指を差す。

 その場所へ向けて、コロナが氷結のブレスを放つ。


 円影状態のまま凍り付いたイガニンは放置して、先へと進んでく。

 イガニンを的確に処理できれば、ブロブロくんが一緒に出現してもコアが露出するよりも早く先へ進めるわけさね。


 結果、階段を上ってきた時と同様に、ブロブロくんはほぼ無視した状態で廊下を駆け抜けていくことになる。


 そして、廊下をぐるりと回って上り階段の前までやってくる。


「緑の段は見あたらないね」

「ならば急いで上るしかないだろう」


 フレッドとコロナは嫌な顔をしているが、そんなことを言っている場合ではないからね。


 少し上ると、イガニンそっくりの――だが、色が赤基調になっているモンスターが立ちふさがる。よく見ると、頭巾と仮面の隙間から覗く瞳は一つ目のようだね。


 さておき、そいつの少し先に緑のラインが見えた。


「倒して進むしかないか……!」

「フレッドさんは下からくる敵をッ! ディア姉とリト兄は正面のやつを気をつけながらお願いッ!」


 コロナが下した判断に、異論なく全員が構える。



===《ジョーニン ランクC》===

ニンジャ系。ラヴュリントス固有種。

ベーシュ諸島で暗殺や間諜を担う職:シノビの伝統衣装に身を包んだモンスター。シノビの厳しい修行への不満がニンジャ系のシノビ型モンスターを生み出したと言われている。

そのため、不満を晴らすように持ち前の技術の全てを無関係な人へと振る舞う。

ジョーニンは、コーガニンの中でも突出したクナイ投げ技術を持った者の不満が形になったモンスター。

クナイ投げに特化しすぎてほかの技術が見習いより低いことがあるのをバカにされた為、意地になってクナイ投げに固執している。

その為、クナイ投げ以外の能力は、固有ルーマぐらいしか使えないモンスターとなっている。


固有ルーマ:円影(えんえい)移動の術

丸い影の中に潜り移動する。この状態での移動中は物理攻撃を無効化できる。

明らかに不自然な影の為、明るい場所では見破られやすいが、暗い場所や影が多いときなどは、それらに紛れられる。夜や薄暗い場所などで真価を発揮する能力。


ドロップ

通常:ジョーニンのクナイ

レア:ジョーニンの単眼


クラスランクルート:

特殊クラスの為、クラスランクルートはありません


=================


「あれはジョーニン。ナイフの投擲に特化した個体らしい。気をつけろよ、ディアリナ」

「いつの間にスペクタクルズを投げたんだい……?」


 サリトスの早業に苦笑しつつ、あたしはサーベルを構える。

 投げナイフに特化した相手だからね。振り回してるとどうしても隙の生じやすい大剣より、こっちの方がいいと思うんだ。


 こちらが一段、階段をあがると、それに反応したジョーニンがその場で垂直にジャンプし、左右の手から一本ずつナイフを投げてくる。


 あたしとサリトスはそれを弾いて階段をさらに上ると、着地と同時に指の隙間に三本ずつナイフを挟み、それぞれを投げつけてくる。


「チッ」


 舌打ちしつつ、足を止めて三本とも切り払う。

 横ではサリトスも同じように足を止めて捌いていた。


 またも両手に三本づつナイフを用意したジョーニンは、その場でジャンプし――


「コロナッ、フレッドッ!」


 あたしとサリトスの頭上を越えて、フレッドとコロナを狙って投擲する。


 二人の名前を呼びながら、あたしは数段下がり、ナイフを切り払った。


「クソッ! うざったいッ!!」


 思わず毒づくと、上を陣取ったジョーニンはこちらへナイフを一つ投げつけてくる。


 それを払いながら、あたしはジョーニンを睨む。


「ブロブロくんが出てきたぜ」

「しまった。凍らせそびれたイガニンが姿を見せちゃった」


 すると、背後を警戒していたフレッドとコロナから報告が届く。


「ディアリナ。時間を掛ければ掛けただけ、不利だ」

「分かってる。ちょいと無茶のしどきさね」


 サリトスに答えて、あたしはフレイムタンを引き抜く。

 

「あたし狙い以外のナイフは任せていいかい?」

「了解した。頼む」


 右手にサーベル、左手にフレイムタンを持って、あたしは階段を駆け上る。


「ブリッツ! ブリッツ! ブリッツ!」


 フレイムタンの切っ先から火球を放つ。

 見え見えの攻撃が当たるとは思っちゃいない。


 だけど、当たらないようにする為には動くしかないんだ。


 ジョーニンはジャンプをしてナイフを複数投げてくる。

 だからどうしたッ!


 あたし狙いのものだけを弾いて、さらに進む。


「ブリッツ! ブリッツ! ブリッツ!」


 大雑把な狙いで、フレイムタンから火球を放つ。

 それを躱しながら、ジョーニンは取り出した八本のナイフを全てあたしに投げつけてきた。


 全てを弾いたり躱したりするのは不可能――ならさ……ッ!


 あたしはサーベルを投げ捨て、切り払わずに、八本のナイフへと向かっていく。

 致命傷だけを避けたいので右腕で受け止めるッ!


 ブスブス突き刺さって痛いけど、死なないんなら問題はないッ!

 それ以外は躱せる範囲で躱して一気に距離を縮めるだけさッ!


 最後の踏み込み――フレイムタンの斬撃間合いに入る。


 さすがのジョーニンも、ナイフを投げるのをやめて身構える。


 フレイムタンを構えたあたしは、振りかぶるフリをしてジョーニンの脇をすり抜けて背後に回り――


「そらッ!」


 ジョーニンへ向けて回し蹴りを放った。

 それを躱すべく、ジョーニンは下の段へと跳び――


斬空走牙刃(ザンクウソウガジン)


 そこを待ちかまえていたサリトスが、逆袈裟を放つ。

 ジョーニンの背中を切り裂き、続けざまに出した突きで、垂直に吹き飛ばす。

 それを追いかけるように、地面を蹴ったサリトスは、空中で数度ジョーニンを斬りつけたあと、大上段からの振り下ろしを放った。


 先のイガニンと違い、身代わりを使う余裕がなかったのか、ジョーニンは地面に叩きつけられるなり黒いモヤへと代わり、そこにナイフだけが残された。


「何とかなったな。大丈夫か?」

「何とかね。傷を診たいから、とっとと上がりたいさね」


 あたしがそう言うと、コロナが呪文を叫ぶ。


「そびえ立つ焔塞(えんさい)よッ!」


 すると、コロナの目の前に道を塞ぐような炎の壁が生み出された。


「時間稼ぎくらいにしかならないブレスだけど」

「充分だ。コロナちゃん」


 フレッドがコロナの肩を叩き、二人は階段を上り出す。


「すぐそこに緑の段がある。そこでディアリナの治療をしよう」


 サリトスのその言葉を聞きながら、あたしは右腕に刺さったナイフを抜いて、階段の片隅に放り投げた。


 こんなのが続くんだとしたら、なかなか骨さ。

 まぁ、楽しいは楽しいんだけどね。



ゲルダ『ジョーニンって、上忍が元ネタなのかの?』

アユム『いや、ブロブロくんと同じ物語がモデルだな。その中に出てくるスナイパーだったりヘリのパイロットだったりする一つ目の戦闘員的なやつだ』


次回も駆け上がる予定です。


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