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4-30.『サリトス:螺旋の塔を駆け上がれッ!』


「はッ!」

「そらッ!」


 俺が左から、ディアリナが右から。

 一匹のブロブロくんなるふざけた名前のモンスターへ向けて斬撃を放つ。


 ブロブロくんは素早く二本の石腕でそれを防ぐが、そうなれば防御に使える手はなくなる。


 そこへ――


穿孔(せんこう)氷槍(ひょうそう)よッ!」


 コロナがブレスで作り出した氷の槍が、ブロブロくんのコアを打ち抜いた。


「確かにコアは脆い……ッ!」


 コアの崩壊と同時に、石腕も砕け散る。

 これなら行ける――と思いたいが、一匹倒すと、すぐに次が生まれてきた。


「みんな走れッ!

 どれだけ数がいるか分からないが、壁の石材全てがコイツらだった場合、キリがないッ!」


 幸いにして、擬態を解いて本来の姿に戻るまでに時間がかかる。

 その間に、ここを駆け抜けた方が良いだろう。


「了解だッ!」

「まじかよ……がんばるけれどもッ!」

「途中で倒れたらゴメンねッ!」


 威勢の良いのはディアリナだけで、フレッドとコロナは不安になるような声を上げてから走り出す。


 ……気持ちは分からなくもないがな。


 いつまで続くとも分からない螺旋階段を駆け上がるというのは、体力的に精神力的にもシンドいモノがあるのは間違いない。

 ともあれ、途中で体力が尽きないことを祈りながら、俺たちは走り出す。


 走っている間にも、左右からゆっくりとせり出すように出現するブロブロくんたち。

 このゆっくりせり出すというのがクセモノで、コアが露出する前のその動きが、走ってる俺たちにとって嫌な位置にあったりして身体をぶつけることもあるのだ。


 さっき、ディアリナが頭をハデにぶつけて涙目になっている。


「ディア姉、大丈夫?」

「寝ぼけて家具の角に頭ぶつけたくらいには痛い……」


 それはなかなかに痛そうだ。


 ただ、そうしたディアリナの尊い犠牲のおかげで、俺たちはより慎重に駆け上がることができる。

 しばらく駆け上がり、コロナがだいぶ辛そうになってきた頃、緑色に塗られた段が現れた。


「コロナ、がんばってくれッ!

 あの緑のラインを越えるんだッ!」


 なんの根拠もないが、明確な目標が現れれば、もうひと踏ん張りくらいはできるだろう。

 実際、コロナは言葉なく首肯して、必死に階段を駆け上がり、緑の段を踏み越えた。


「サリトス。緑の段に何か意味があるのかい?」

「恐らくは、ブロブロくん出現地帯の区切りだろう」


 ディアリナの疑問に答えつつ、フレッドに視線を向ける。

 その視線の意味に気づいたフレッドは、一つうなずいて、少し階段を下りていった。


「コロナ。もうしばらくは立っていてくれ」

「……う、うん……」


 肩で息をしながらも、状況は把握しているのだろう。

 ブレスの準備をしながら、フレッドの背中に目を向けている。


「きたきたきたきた~ッ!」


 少しして、そんな声を上げながらフレッドが階段を駆け上がってくる。

 三匹のブロブロくんに追われたフレッドは、勢いよく緑の段を踏み越えた。


 そして案の定、ブロブロくんたちは、この緑色の段を越えようとはしてこない。


 しばらくこちらを見つめたあと、石腕がコアを挟みながらせばまっていき、それに併せてコアも球体から液状に変化していく。

 やがてピタっとくっついた石腕に粘液は吸い込まれるように消えていくと、それらは二手に別れ、左右の壁の中に消えていった。


「ふむ。ここなら、一息つけるだろう。

 コロナ、警戒を解いていいぞ」

「ふひ~……ほんと、疲れたぁ……」

「どんだけ長くてどんな奴が出てくるか分からないから、ルーマを無駄にできないのはシンドいわぁ……」

「そうさねぇ……。肉体強化や体力温存の為にルーマに頼ってたら、いざ戦闘となった時、ルーマが不足してるなんてコトは困るしね」


 そう。

 この螺旋階段の辛さはそこにある。


 外から見た限り、かなりの高さのあった塔だ。

 その外壁の内側についた階段を延々と上っていくとしても、果てがいまいち掴めないのだ。


 それに加えて、ブロブロくんの存在。

 この先も似たようなエリアがあり、ブロブロくんが襲ってくるのであれば、対応できるように警戒する必要がある。


 ブロブロくんでなくても、何らかのモンスターの襲撃の可能性だってあるのだ。


「ただ階段を上るだけながら、ここまで脅威に感じるとはな……」


 思わず俺が漏らすと、みんなもそれにうなずいた。


 森や遺跡、城内など様々なダンジョンを経験しているが、同じ景色が延々と続き、物陰などが存在せず、それでいて壁に擬態したモンスターが襲ってくるかもしれないというのが、想像以上に厳しいものだと身を持って体験している状態だ。


 階段を上るのに体力が――

 常に気を張り続ける警戒に精神が――


 おかげで、普段の倍以上に消耗しているような気がしてくる。


「足場の悪さも、シンドいのに拍車を掛けてると思わないかい?」

「同感だ、嬢ちゃん」


 階段での立ち回りは足を踏み外さないようにと神経を使う。

 それに加えて、坂道以上に間合いを計りづらいところもある。

 ディアリナにしろフレッドにしろ、やりづらいのだろう。


 無論、俺もかなりやりづらいと感じている。


「よしッ、落ち着いた。みんなお待たせ」

「無理はするなよ」

「うん」


 コロナが回復したところで、俺たちは再び階段を上る。


 少し上っていくと、ようやく平坦になっている場所に出た。

 カーブした廊下のようだ。この廊下の曲がり具合からして、ぐるっと一周ほどして今の位置の背面あたりまでいくと、また階段が始まるのだろうが――


「最後の一段が赤い……か」

「この廊下、またブロブロくんが出てくるのかね?」

「分からないけど、何が来てもいいように歩こう」

「ディアリナ嬢ちゃん、殿(しんがり)の警戒頼んだ」


 フレッドの言葉にディアリナがうなずいてから、俺たちは赤いラインを踏み越えていく。


 踏み越えてすぐに何かが出てくるわけではないのは、先ほどと同じだ。


 だが、何も出てこないわけがない。


 この廊下は天井の形のせいか、左右の壁際に円形の影のようなものが等間隔で存在している。

 それもまた、怪しいと感じてしまう。


「旦那……正面の床だ。違和感がある」

「…………」


 言われて、俺は目を凝らす。

 フレッドの言う違和感とは――


 その時、円形の影の一つが意志を持ったように動き出した。


「正面ッ、出たぞッ!」


 俺は即座にそれを敵だと断定する。

 その直後、少し遅れてディアリナも声を上げた。


「背後ッ! ブロブロくんが出てきたよッ!」


 挟撃――ッ!!

 やはり、アユムのダンジョンだ。一筋縄ではいかんかッ!


 正面の動く穴は、俺たちの目の前で人が一人入れる程度に広がると、中から人間型のモンスターが飛び出してくる。


 黒い頭巾に、黒い長袖、黒いズボン。それらの要所要所を金属で留めた人型。黒い鉄甲と具足。頭巾から覗く顔には目から下を覆う金属の仮面をつけている。


 両手にはそれぞれ、刀身を黒く塗った短剣を持っており、その姿は、闇夜に紛れる暗殺者を思わせた。


 姿を見せる時、すでにスペクタクルズを投げつけている。


「フレッドッ! 正面のやつを斬り伏せるッ! 援護をッ!」

「任せろッ!」


「背後はあたしらが相手するよッ! コロナッ!」

「うんッ!」


 全員が臨戦態勢。


「恐らくここも制限がない可能性が高いッ!

 ほどほどに相手にしつつ切り抜けるぞッ!」


 俺はそう叫ぶと、自分の腕輪をチラリとみた。



===《イガニン ランクC》===

ニンジャ系。

ベーシュ諸島で暗殺や間諜を担う職シノビの伝統衣装に身を包んだモンスター。シノビの厳しい修行への不満が、ニンジャ系のシノビ型モンスターを生み出したと言われている。

そのため、不満を晴らすように持ち前の技術の全てを無関係な人へと振る舞う。

イガニンは見習いを脱し一人前に認められたばかりのシノビの不満より生まれたと言われており、能力は一人前になったばかりの駆け出し。

それでも二本の短刀による素早い連撃を行うアーツや、自分の受けたダメージを人形に肩代わりさせる身代わりの術に、火を放つ火遁というブレス、クナイと称される投げナイフの投擲など、多彩な攻撃をそれなりに使いこなす。

追いつめられると自爆するクセがあるので中途半端なダメージでの放置は危険。


固有ルーマ:円影(えんえい)移動の術

丸い影の中に潜り移動する。この状態での移動中は物理攻撃を無効化できる。

明らかに不自然な影の為、明るい場所では見破られやすいが、暗い場所や影が多いときなどは、それらに紛れられる。夜や薄暗い場所などで真価を発揮する能力。


ドロップ

通常:イガのメンポ

レア:イガのクナイ


クラスランクルート:

ニンジャ → イガニン → ??? → ???


=================


 目を通す限り、面倒そうな相手だが、やるしかないだろう。


「フレッド、様々なブレスやアーツを使ってくるらしいぞ」

「了解だ。可能な限りの援護は任せろ」


 頼もしい返答に背中を押されるように、俺はイガニンへと踏み込んでいく。


走牙刃(ソウガジン)


 剣の切っ先で地面をこすりなら振り上げる。

 ルーマの乗った刃は、振り上げの剣圧とともに解き放たれ、廊下を滑って突き進む。


 イガニンはそれを垂直ジャンプして飛び越えると、空中で小さな刃を三つほど取り出し、それをこちらへ向かって投げつけてくる。

 あれがクナイという短剣なのだろう。


護光防陣(ゴコウボウジン)ッ!」


 俺は素早く剣を床に突き立て、そこを中心に防御結界を展開する。

 クナイが俺の作り出した防護膜に弾かれるのを確認すると同時に、俺はそれを解除した。


 直後に、準備をしていたフレッドが矢を放つ。


「スパイラルショットッ! くらいなッ!」


 螺旋のようなルーマを纏った矢が、空中から降りてくるイガニンへ向けて突き進む。


 直撃コースだ!


 イガニンは身をよじるものの、左脇腹をガッツリと抉られた。


「悪いが頂く――ッ!!」


 フレッドの一撃がトドメに至らずとも、ダメージとともに動きを止めてくれたのが幸いした。


絶剣衝破(ゼッケンショウハ)ッ!」


 俺が放つのは衝撃波を纏った刃による逆袈裟気味の横薙ぎ。

 その技は刃の部分でしっかりとイガニンを捉え、両断した。



アユム『ところでさ、ゲルダ。ニンジャ系のクラスランク……イガニン→コーガニン→フーマニンって、この系統の連中の名前は』

ゲルダ『うむ。お主の国のモノから取った。よい名であろう?』

アユム『いやまぁいいけどさ』


 次回も螺旋階段を上っていきます。



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