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4-29.『サリトス:いざ、時計塔へ!』


 キーメダルを揃えた翌日。

 俺たちは宿を出る。


 何やらフレッドの顔がやつれて見えるが、昨日もカジノに顔を出していたようなので放っておく。


 向かうは、時計塔。

 キーメダルを集めなければ入れない施設だ。


 こうやってフロア8を歩いていると、このフロアにもだいぶ人が集まってきているのに気づく。

 だが、雰囲気的に本格的な攻略をしているものは少なそうだ。


 やはり、最初に俺たちが陥ったように、このフロアの娯楽性の高さにやられてしまっているのだろう。

 コロナのように叱ってくれる仲間がいないと、案外攻略が難しいフロアなのかもしれないな。


 そんな話を仲間としながら時計塔へとやってくると、見慣れた人影が一つあった。


「ケーン?」

「ん? おっと、サリトスたちか。揃ったのか?」

「ああ。そちらもか?」

「いや。それがまだでなぁ……」


 困ったように後ろ髪を掻くが、表情は明るい。


「闘技場、競技場は何とかなったが、オレには遊技場とカジノが難しくてな。ついでに、水族館と植物館は何とかなったけど、知恵の館と職人の館が厳しい」


 ケーンの言葉で気づいたが、自分の得意分野だけがんばっても四つしか取れないような仕組みになっているのかもしれないな。

 少なくとも遊技場、カジノ、知恵の館の三つに関しては、一般的な探索者(シーカー)には厳しいだろう。


「バドの奴は一足早く揃えたっぽくてな。とはいえ一人だけで時計塔入ってもフロアボスがいたらどうにもならないって言って、オレたちをフォローしてくれてるんだが……ちょいと、申し訳ねぇ」

「そうか……バドは俺たちよりも早かったのか」


 思い返してみると、バドは最初からキーメダルを目指した立ち回りをしていたように思える。

 植物園も水族館も、バドの能力があればソロでもゴールできるだろう。


「ケーン、カジノだけなら何とかなるかもしれないよ」

「ほんとか、ディアリナ?」

「ああ。入園料を払う大門を無視して先へ行くと、巨大な治療院があるのは知ってるかい?」

「もちろん」

「なら、さらにその先にある小迷宮ってエリアは?」

「いや――あるのか?」

「あるのさ」


 俺たちは利用しなかったが、確かにそういう名のエリアが二つあった。

 小さな迷宮らしいが、この街に入れない――あるいは攻略が難しい人の為に用意されていると、影の治療師が言っていたな。


「一つが、果樹の彩林(さいりん)

 フロア4や5に似た場所でね。果物が採れるよ。

 出てくるモンスターも獣系が多くて、シンプルな森林系ダンジョンって感じだった。

 こっちのドロップ品は持ち帰ればお金になるから、入場料稼ぎに使う感じなんじゃないかな?」


 俺たちやケーンたちも、入場料の支払いに困るようなことはなかったから気にしなかったが、それらに困る探索者(シーカー)用に、アユムが用意したのだろう。


「もう一つが、ファイ研究所(あと)って変わった場所さ。

 白い壁に囲まれた怪しい建物の内部でね。割れた筒や、奇妙な緑色の液体がぶちまけられてたり――と、正直気味が悪い場所だったよ。

 フロア7にいたゾンビなんかがメインでね、出来損ないのレクシア種みたいなのもちょいちょい出てきて、あたしはもう入りたくないね。

 こっちのドロップ品は、フロア8の商店街でリントメダルに交換できるから、多少面倒でも地道に稼ぐ気があるなら、これでカジノのキーメダル分はいけるかもしれないよ?」


 このフロアに来たばかりの頃、二つの小迷宮を一応は覗いてみたが、次のフロアに進みたいなら探索の必要がない場所だと書かれた看板が親切にも置いてあったので、あまり深く調べなかった。


 だが、ケーンの話を聞いて、あの小迷宮の意味にディアリナは気づいたようだ。


「なるほどな……。

 ちょっと試してみるぜ。ありがとな、ディアリナ」

「どういたしましてだよ。

 正直、あたしだってサリトスやフレッドがいなかったらシンドいモノ多かったしね」

「サリトスたちも、時計塔の攻略がんばれよ」


 去っていくケーンを見送ってから、俺たちは時計塔の扉と向かい合う。


 最初に俺が持ってきたキーメダルを扉の窪みにセットする。

 すると、ガチャリという音が聞こえたので、扉を押した。


 蝶番の扉の片側が開き、俺は中へと入っていく。

 外から見ても石造りのような時計塔だったが、中もイメージ通りの石造りだった。


 そして中に入ると、いきなり正面に扉がある。

 だが、ドアノブのようなものも、鍵穴のようなものも見当たらない。


 扉の横に、上と下に向いた矢印のようなスイッチがある。

 俺はすぐには触らず、みんなが入ってくるまで待つことにする。


 その間に、俺は周囲を見渡す。

 入ってきた扉を背にした場合、右へと廊下が伸びている。

 剣を振り回すのには問題なさそうな幅の廊下だが、曲線を描いているので、恐らくは時計塔の外周に沿った形になっているのだろう。


 とはいえ、一人で先に進むわけにはいかない。

 ややして全員が中へと入ってくる。四人全員揃ったところで、俺は扉を指して皆に訊ねた。


「みんな、これをどう思う?」

「とりあえず触ってみないかい?」


 フレッドの言葉にうなずいて、俺は恐る恐る触ってみる。

 押し込めるようなので、押してみるものの、どちらのスイッチも反応しなかった。


「反応なし?」

「ああ」


 一応、扉の方も調べてみるが、どうやっても開け方はわからなかった。


「仕方ないよ。素直に廊下を進もう。

 退廃の城の時みたいに、ぐるっと回ってここに戻ってくるのかもよ?」


 コロナの推測も充分あり得る。

 俺はそれにうなずくと、みんなに廊下を進もうと声を掛けた。


 全員がそれにうなずくと、フレッドが先行して進んでいく。

 それを追うように俺たちも動き出す。


 廊下を少し進むと階段になっている。

 ゆっくりと進んでいると、フレッドが戻ってきた。


「何か、ずーっと階段だったわよ……」


 ややくたびれたように告げてくるフレッド。

 それに、少しだけ思うところが沸いた。


「もしかしたら螺旋のように頂上まで続いているのではないか?」

「確かに、リト兄の言う通り、このまま天辺まで歩かされるのかも」


 俺とコロナの推測に、ディアリナとフレッドは露骨に顔をしかめた。


「面倒だね……」

「この塔、結構高かったじゃない?」


 俺とコロナに不満を言われてもどうにもなるまい。

 そんな二人の肩を叩いて、俺は先へと上っていく。


 二人だって本気で嫌がっているわけではないだろう。


 そうしてしばらく上っていると、一段だけ赤く塗られた段がある。


「……なんだ?」


 俺が訝しむと、フレッドが前へと出た。


「慎重にな」

「分かってる」


 フレッドはうなずくと、恐る恐るそこへと近づき、そこへ投げナイフを一本放り投げた。

 だが、赤い段は特に何の反応も示さない。


 しばらく赤い段に触れたりしていたフレッドだったが、なにも起きる様子はない。


 フレッドはチラリとこちらに視線を向けて告げる。


「……踏み越えてみる。旦那たち、フォロー頼むぜ」

「ああ」


 慎重に踏み越えていくフレッド。

 だが、なにも起きないからか、俺たちにも来て大丈夫だと合図をしてくる。


 俺たちはうなずきあって、ゆっくりと赤い段を踏み越えた。


 合図をしたあとも、フレッドは先行していく。

 それを追いかけて少し上ると、先にいるフレッドが声をあげた。


「敵だッ!!」


 即座に武器を構え、フレッドと合流すべく階段を駆け上がる。


 フレッドの姿が見えた時、彼は弓を構えて矢を放っていた。

 その先にいるのは、奇妙な光のモンスター。


 赤い光の周囲に、縦長のブロックが二つ浮かんでいるようなやつだ。

 そいつは、二つのブロックを盾にして、フレッドの放った矢を受け止める。


「嬢ちゃんッ、先行しすぎちゃダメだッ!」


 即座にディアリナが前に出ると、フレッドが注意を促す。


「こいつらッ、壁に擬態してるぞッ!」


 フレッドがそう口にすると、まるで呼応するように、壁のブロックのいくつかがせり出してきた。


 壁を構成するブロックが左右からゆっくりと出てくる。

 それはそのまま空中を移動し、互いにくっつくと、その接着面から赤い粘液じみたモノがにじみ出てきて、やがて光の球体のようになる。

 球体が完成すると、二つのブロックがその球体の周囲で、まるで手足のように動き出す。


 それを見たディアリナは即座にスペクタクルズを投げつける。


===《ブロブロくん ランクC》===

特殊ゴーレム系。ラヴュリントスの固有種。

Dr.ワライトリーが作り出した防衛生物。

石壁に擬態し、近づいてきた侵入者に襲いかかる。

空中を漂い、敵と見定めた対象に体当たりで攻撃する。

攻撃方法はほぼ体当たりだけだが、その硬くて重い身体で勢いよくぶつかってくるのはそれだけで驚異の攻撃力となる。

壁から飛び出し、元の姿に戻るまでの変形に時間がかかるのが玉に瑕。

粘液にも光にも見えるコアは、メイン形態である球体時はとても脆い。

また、Dr.ワライトリーも理由を把握しきれていないのだが、特定の範囲内に同時に十四体までしか配置できないという欠点も持つ。


固有ルーマ:なし


ドロップ

通常:奇才の石材

レア:粘つく赤液(せきえき)


=================


「こいつら、やっぱり赤い球体部分がコアみたいだッ! 結構、脆いらしいよッ!」

「了解だッ!」


 ディアリナは鑑定した情報で必要な部分を即座に共有するように声をあげる。


「体当たりしかしてこないみたいだけど、それが強力らしいんで気を付けておくれッ!」


 目視出来る範囲では、四体が宙を漂っている。

 コアと石材込みでもサイズは一抱えほどだが――


「あの石材部分はかなり硬そうだ」

「確かに、あれがぶつかってきたら痛そうだよね」


 足下は階段で、最悪といって良いほどに足場は悪い。

 敵の攻撃方法が体当たりだけとはいえ、躱すのも一苦労しそうだ。


 そうは言っても、こんなところで足止めされるつもりはない。


「俺たちの目的地はこの塔の攻略ではない。このフロアの攻略だ。

 こんなところで足止めされている暇はないッ! やるぞッ!」


 そうして、俺たちは時計塔の中での初戦闘を開始した。


ゲルダ『面白いゴーレムを作るな』

アユム『RPGだけじゃなく、アクションゲームからもパロってみようと思ってな。ちなみに水系のブレスが弱点だ。泡とかで攻撃する技なら一撃で倒せるぞ』


 次回は、時計塔攻略の続きの予定です。

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