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4-28.『フレッド:矢印とゴーレムとキーメダル』


「あのゴーレムは無視する」


 サリトスの旦那の判断はそれだった。

 オレたちに異論はない。


 ドロップ品は気にはなるが、それ以上に先に進むことを優先した形だ。

 あと、ここで死に戻りすると、もう一回この館を進んで来なきゃいけないってぇのも、おっさん的にはとても面倒くさい。


「赤いタイルを踏むと襲ってくるのであれば、動きを見て避けていくだけだ」


 そんな旦那の宣言と共にオレたちは動き出したものの――



「意外と……神経使うね」

「本当に。床を見ておけば大丈夫だけど、そうは言っても、突然滑るように移動するから心臓に悪い……」


 嬢ちゃんとコロナちゃんたちの気持ちも分かる。

 ゴーレムの向いてる方向や進行方向とは無関係な方向へ突然移動してくるのは、本当にビビる。


 白黒が規則正しく交互に配置されてたやつも、前半と同じように徐々に崩れてくるのも、厄介だ。

 しかも、横一列同じ色で道を塞ぐ――みたいなところも出てきて、嫌でも青いタイルのある台座に行く必要が出てきてしまう。


 しかも、ゴーレムよりも先へ進んだ状態でタイルの状況を切り替えると、突然真上に浮かび上がり、すごい勢いで宙を駆け、こちらの近くへと着地する――なんてこともしてくる。


 床の状態を切り替えることが、同時にゴーレムを近くへと呼び寄せることにもなるのだから、厄介だ。


「赤いタイルさえ気にしていれば、そこまで足が速いわけでもないのは救いだな」

「向こうも矢印を完全に無視してるワケじゃないしね」


 気が気じゃなくても勝機はある。

 オレたちは神経をすり減らしつつも、冷静に矢印床の大廊下を進んでいく。


「しかし、ここであいつと戦闘になっちまったら、結構面倒だろうね」

「確かに……。単純にゴーレムもかなり強そうだが、この床が厄介だな。誰かをフォローしようにも、素直にたどり着けない可能性がある」


 旦那と嬢ちゃんのやりとりに、オレの顔はひきつる。

 そんな状態で、強敵とやりあうってのは、確かにごめん被る。


「意外と赤いタイルを踏むと、矢印消えるのかもよ?」

「それはそれで、面倒そうだねぇ……」


 戦いやすくはなるだろうが、逆に行えば向こうの動きを止める方法もなくなるわけだ。


 チラリと背後のゴーレムを見やる。

 相変わらずのんびりとした歩みだが、確実に追いかけてくる。

 とはいえ、ちょいちょい矢印に阻まれて、変な動きをしているが。


「廊下の終端が見えてきたよ」

「左側の壁だ。あそこから青タイルが連なった廊下が延びているようだ」

「あれがゴールかな?」


 だけど、ここへきて、黒と白がそれぞれに固まっているような配置がされはじめた。

 先へ行くには、ちょくちょくと青いタイルの台座へと行かなければならなそうだ。


 当然、それをするたびに、ゴーレムが宙を駆けて近寄ってくる。


「くぅ~……おっかないわぁ……」

「だが、青いタイルの上にいる限りは襲われない」


 ましてやこのゴーレムはじっとしていない。

 近くでジッと待つようなことはせず、青いタイルの周囲をのんびりと一周し続けるような感じだ。


 ただ、一周する前にだいたい矢印を踏むので、気がつくと妙に遠くまで流されたりすることはあるんだが。


「ここでタイルを切り替えるぞ」


 サリトスの旦那の合図に、全員が青いタイルに乗っているのを確認してうなずく。


 すると、やはりゴーレムが近くまで宙を駆けてきて――


「あー……」


 着地したのは矢印が大量に配置されている場所。

 そのまますごい勢いで、廊下の終端まで流されていく。


 何とも可哀想な気がするが、大変ありがたいのも確かだ。


「ゴーレムが流されてった場所に宝箱があるみたいだが、どーする旦那?」

「気にせずにゴールする。ここからなら、もう切り替えは不要だ」


 そうして、オレたちは無事に矢印に満ちた廊下を突破した。




 どうやら今の廊下が最後の仕掛けだったようだ。

 青いタイルの先にある扉を開けると、宝箱がおいてある。

 それを開けると、中からキーメダルが出てきた。


 宝箱の横には出口と書かれた案内板が設置されている。

 だが、すぐには出口に向かわず、サリトスはその場で全員に確認をとる。


「確認したい。

 俺は闘技場、競技場、遊技場、カジノ、水族館――そしてここ知恵の館でキーメダルは六個目だ。

 みんなはどうだ?」

「あたしもサリトスと同じさね」

「オレもだ」

「わたしは遊技場と水族館と知恵の館だけかなー……」


 まぁコロナちゃんはオレたちを叱りに来ただけだしねぇ……。


「ならば、コロナのキーメダルを揃えるのに協力するか」

「コロナの能力を考えると、闘技場以外の娯楽施設。それから、植物園でいいんじゃないかい?」

「コロナはどうだ?」

「うん。それでいいよ」

「なら、ここを出たら今日はカジノと競技場だな」


 そして明日は植物園に赴き、コロナちゃんがキーメダルを六個揃えたら中央の時計塔に向かおうという話になった。




 まずは競技場。

 ここでは、アームレスリングとか、短距離走(ショートラン)とか長距離走(ロングラン)とか、誰かと運動能力を競い合うものが多い。


 しかも、ルーマによる補助は禁止されているものも多いので、コロナちゃんには不利に働きやすい――とはいえ、ルーマが使える競技だって、ゼロじゃあない。


 それが、コロナちゃんがエントリーした、ラヴュリンアスレチックだ。

 この競技にはルーマ有りの部門と無しの部門がある。後者の方が報酬は美味しいんだが、すっげー難しい。

 オレと旦那と嬢ちゃんも何度か挑んでるんだが、クリアできる気がしないんだよな。


 それはさておいて、この競技についてだけどルールは簡単。

 池に浮かんだ奇妙な材質の道を駆け抜けてゴールを目指すってだけだ。


 道幅が妙に細かったり、動く棒に飛びついて反対岸へと移動しないと行けなかったり、不安定な網の上を移動したり――と、とにかく色々やらされる。


 これも、ゴールタイムが記録されてランキングされてはいるんだが、この競技に関しては、ゴールすることがキーメダル獲得の条件というのがありがたい。


 ほかの競技だと一定以上の成績を出す必要があるし、競技によっては勝ち抜き戦で上位に入る必要もある。

 そんな中で、この競技だけはゴールするだけでよいので、コロナちゃんもやれるだろう。


 実際、ひやひやする場面はあったものの、コロナちゃんは無事にゴールにたどり着いてキーメダルを得た。




 次にオレたちがやってきたのはカジノだ。

 ここでは、景品交換所にキーメダルが並んでいる。


 単純に手持ちのリントコインと交換可能なので、カジノ以外で稼いできたリントコインとの交換でも良い。

 ディアリナ嬢ちゃんは闘技場で稼いだ分で、ここのキーメダルを手に入れたらしい。


 オレと旦那はわりとバカ正直にここで稼いだ。

 ポーカーとかルーレットだとか、結構楽しかったぜ。


「じゃあ、ブラックジャックっていうのしてくるね」


 ルールを把握したから――とかいって、コロナちゃんはブラックジャックに挑戦。


 ……すごい勢いで勝利を重ねて、あっという間にリントコインを必要数集めてみせた。


「……えーっと、コロナ。あんた、すごいね」

「確率の競技だったからね。

 メモとかを使うのは禁止だし、時間をかけて計算するのもダメみたいだけど、僅かな時間で可能な限り計算する分には、むこうもイカサマだなんだって言えないみたい」


 驚くディアリナ嬢ちゃんに、コロナちゃんはあっけらかんと答えて、キーメダルを交換してきた。


「これでコロナのキーメダルは五つだな。

 明日は植物園に行き、明後日は中央時計塔に行くとするか」


 今日はこのあと自由時間にして、明日に備えるってことで解散だ。

 せっかくカジノにいるし、おっさんも少し遊んで行きますかね。




 そうして、翌日――


「サリトス、フレッドのやつどうしたんだい?」

「解散したあとポーカーで大勝ちしたらしい」

「大勝ちしたのに顔色悪いけど?」

「その後、勝ち分含めて自分の手持ちの全部をモンスターコロシアム――モンスター同士を戦わせ勝者を予想するゲーム――の大穴につぎ込み、大負けしたらしい。その結果、収支で言えばマイナスだ」


 さすがに、ジェルラビ、フロラビ、シェルラビ、ラビつむり、ラビメタルの五匹からの予想は難しかったのよ。

 でもオッズ1.1倍のラビメタルに賭けるのは面白くない……。

 だからってオッズ10倍のジェルラビに全ツッパはやりすぎだったと反省してるけどねッ!


「宿代もやばかったようで、わざわざ夜に一人でレクシア狩りをして宿代を稼いでいたようだ」


 サリトスの旦那の淡々とした説明に、コロナちゃんがとても冷たく嘆息する。


「フレッドさん、バカなの? というかバカだよね?」

「ちょっとコロナちゃんッ!? 傷つく言い方ヤメテ!?」

「そうだよ、コロナ。このおっさんに本当のコト言っちゃダメだろ?」

「嬢ちゃんもひどいッ!?」


 そんなやりとりをしながら、オレたちがやってきたのは植物園だ。


 水の中か、緑豊富な公園の中か……というような差はあるものの、園内の構造はほぼほぼ水族館と同じだった。

 生息するモンスターはまったく違うものの、デカいイソギンチャクの代わりにデカいカボチャが鎮座してたりと、仕掛けの部分も大きく差はない。


 なので、ここは大きな苦戦なんてなく、オレたちはゴールにたどり着く。


「これで俺たちは七つ、コロナは六つだな」


 全員、条件は達成した。オレたちのチームは中央の時計塔へと入ることができる。


「今日は残った時間を準備に使い、明日は朝から時計塔へと向かう。みんな、今日はこれ以上の無駄な疲労は避けるように」

「だってさ、フレッド」

「わかった? フレッドさん?」

「これいじめッ? 若者のおっさんいじめッ!?」

「自業自得だろう。カジノへ行くなとは言わないが昨日のような無駄な疲労を増やすなよ?」

「旦那までッ!?」


 ともあれ、こうしてオレたちは、植物園の外に出た。


「では解散だ。各自明日の準備を怠るなよ」


 いよいよ、明日からこのフロアの終盤だろうエリアへと足を踏み入れることになる。



 ……その前に、おっさん、ちょっとカジノでも行ってくるわ。

 ――英気ってやつを養わないとねッ!


ゲルダ『我知ってる。フレッドはアレ……ギャンブルで破産するタイプであろう?』

アユム『どうだろうなぁ……本当の意味での引き際を心得てて、何だかんだで一番楽しめるタイプにも思えるけど』


 次回はフロア8の最終エリア――中央の時計塔へ向かう予定です。


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