4-26.考えるのは結構大変だったのに
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ゲルダ・ヌアをうっかり真名表記しちゃってたのを修正しました
嘘つきの扉を見つけだし、サリトスたち一行は先へと進んでいく。
その扉から延びる廊下を抜けると、扉が一つあり、その先には小さな部屋がある。
そこには、宝箱が横並びに三つ置いてあるんだが――
『お、宝箱かい?』
『ディア姉、待ってッ! この館では迂闊に触っちゃダメだよ』
ちょっとワクワクした様子で宝箱に駆け寄っていくディアリナを、コロナが待ったをかける。
実際、待ったをかけて正解だ。
あの宝箱は迂闊に触ると面倒くさいことになるだろうしな。
『三つ並ぶ宝箱……右だけ、開いているのに意味があるのか?』
『まずは、だ。宝箱には触れずに、部屋の中を調べてみようぜ』
部屋を見回して首を傾げるサリトスの肩をフレッドが叩き、部屋の中を歩き始める。
『そういうコトで、お姉ちゃん気をつけてね。
さっきの嘘つき探しもそうだけど、この館は仕掛けの意味をちゃんと理解してから動かないと、何が起こるか分からないんだから。
理解する前にあれこれ触っちゃうと、絶対面倒なコトになるんだからね』
『わかったよ』
ディアリナは渋々といった様子でうなずいているものの、コロナの言葉を理解できないわけではないのだろう。
宝箱を気にしつつも、それには触れずに部屋の中を歩き始めた。
『みんな。探しモノはこれじゃないのかい?』
そうして、ディアリナが一番最初にそれに気づく。
『ここの壁に、小さな封石がある。
嘘つき探しの時、各扉に付いてたのと同じっぽいよ』
『ならば、腕輪をかざせば……』
サリトスがみんなを代表するように腕輪をかざす。
そこにでてくる文章はこうだ。
一つの箱が動けば、隣あう箱もまた動く。
すべての箱が口を開きし時、
この部屋もまた新たなる口を開く。
『お姉ちゃん。好きな箱を一つ開けていいよ』
『本当かい?』
コロナの言葉に笑みを浮かべたディアリナは、左の箱に触れる。
『封石が付いてるから、腕輪をかざして開けるタイプだね』
ディアリナが喜々として箱に腕輪をかざすと、ガチャリと音がして箱が開く。
『なんだい……空じゃないか』
ガッカリとするディアリナ。
一瞬遅れて、真ん中の箱も開く。
『え?』
キョトンとした顔をするディアリナを無視して、口を開けた三つの宝箱から光の玉が飛び出してきて、ヒントを出す封石へと向かっていった。
封石の前にいたサリトスは慌ててそこから飛び退く。
まぁ、あれは人畜無害な光なんだけど、知らないとビビるわな。
ともあれ、光は壁の封石の中に吸い込まれると、その場所に扉を作り出す。新たに生まれた扉は上にスライドして口を開いた。
『あたし、何もしてないよ?』
『うん。ちゃんと【宝箱を開ける】をしてたから、何もしてないワケじゃないよね』
何やら慌てたようなディアリナに、コロナは苦笑する。
『旦那。分かったかい?』
『恐らく……だがな。隣りあう箱が動く……三つならまだしも、数が増えると厄介かもしれん』
サリトスの懸念は大正解だ。
この部屋はただのチュートリアル。
本番は次だ。
彼らは開いた扉から隣の部屋へと進む。
その部屋には、縦2×横2の形で宝箱が四つ並んでいて、今回はすべて口が閉じている。
『また開けていいかい?』
『ああ。だが、一つだけだ』
『りょーかい』
……なんだろう。
ギミックのせいかもしれないんだけど、ディアリナが完全に場を楽しむ方向にシフトしてる気がする。
一定レベル以上の頭脳労働は放棄するタイプなんだろうか……。
……もしかして、直前の理論パズルの時点で、脳味噌ショートしたのか?
俺がそんなことを考えているうちに、ディアリナは箱の一つを開ける。
モニターで見て右上の箱が開いたので、左上の箱と右下の箱も一緒に開く。
『やっぱこうなるわけね。
旦那、コロナちゃん、どう?』
『ん……このくらいなら……』
ギミックを理解したコロナが僅かな逡巡のあとでうなずいた。
『ディア姉。開いてない箱を開けて貰っていい?』
『任せな』
コロナの指示で、ディアリナは左下の箱を開ける。
それに連動して左上と右下の箱が閉まった。
『今度は閉まってるどちらかを開けて』
『おう』
言われるがままに、ディアリナは右下の箱を開ける。
すると、右上と左下の箱が閉まった。
『ここまでくれば分かる?』
『もちろん。これを開けるんだろ?』
『正解!』
そうして左上を開けると、右上と左下も開くので、全部の箱が口を開ける形になる。
先ほどと同じように光の玉が箱から生まれ、壁に扉を作り出す。
『面白いね。ここ』
『ああ。ふつうのダンジョンにはない楽しさがあるな』
『おっさんは、ちょっと疲れるねー……』
『あたしはもうコロナとサリトスに任せるコトにしたよ』
印象に残るくらい良い笑顔を浮かべたディアリナを先頭に、四人は次の部屋へと向かっていく。
そして縦3×横3に並ぶ閉じた宝箱を見て、ディアリナがうめいた。
『……今度は九個かい』
『これは……』
『あー……さすがに、頭の中だけじゃ難しいかも』
『だけど、やるしかないならやるだけだよ。おっさんもがんばるからさ』
そして四人は、口の閉じた九個の箱に挑み――
『なんとかなったか……』
『でもこれ、次は十六個とかだったら、少し面倒くさいかも』
少し疲れた様子のサリトスと、本当に面倒そうな顔をしたコロナ。
さっきまで楽しいとか言ってたなかったかね、キミたち?
とはいえ、安心してほしい。
さすがに俺も、この館を作ってる最中に、この流れで四問目に4×4とかどうだろう? 面倒くさくね? となったので、この仕掛けはここまでだ。
続けてサリトスたちがやってきた部屋は、またもや複数の扉がある部屋だ。
嘘つきの扉の時と同じように中央に、背の低い台座と封石がある。
『これは、嘘つきの時と同じだな』
そうして、サリトスが封石に腕輪をかざすと、それが表示される。
『なんだい? これ……?』
ディアリナが眉を顰めるのも、まぁ分からなくはないか。
そこに表示されたのは5つのアイコンの組み合わせた問題だ。
アイコンは……
交差する剣、交差する拳、交差する槍、交差する斧、盾
それらが数式のように組み合わせられている。
【双剣+双槍=双斧】
【双剣+双拳=盾】
【双拳+双槍=双剣】
【双斧+双槍=盾】
【双拳+双拳=「?」】
正しき扉は「?」の意匠と同じものである。
『五つの扉それぞれに、その問いに使われているのと同じ意匠が刻印されているようだな』
『つまり、答えはこの五つのどれか……か』
じーっと、ヒントを見つめるサリトスたち。
そんな時――ふと、何かに気づいたようなディアリナが動き始めた。
『正解、これじゃないかい?』
そうして、ディアリナが示すのは、交差する斧が描かれた扉だ。
『どうしてそう思う?』
『全部が数字に変換できるって気づいたからね』
サリトスに問われ、ディアリナはさらりと答えた。
意外と閃き力みたいなものはあるのかもしれない。
『おっさん、お手上げだわー……どうしてこれが数字になるの?』
『そっか。わかった!』
ディアリナに続いて、コロナが答えにたどり着く。
『確かに、答えは斧だね』
逆に男性陣はまだ難しい顔をしている。
『とりあえず、先に進もうよ』
『そうだな。ディアリナだけでなくコロナも同じ答えなら、間違いはないのだろう』
『あれ? 地味にあたしのコト馬鹿にした?』
『いや、そんなつもりはないのだがな』
そんなやりとりをしながら、四人は斧の扉をくぐって、先へと進む。
このまま同じノリの第二問だ。
【双剣+双槍=双斧】
【双剣+双拳=盾】
【双拳+双槍=双剣】
【双斧+双槍=盾】
【双槍+双槍=双拳】
【双拳+双拳=双斧】
【拳=「?」】
正しき扉は「?」の意匠と同じものである。
『交差せず、拳が一つだけ……か』
『……急に新しい意匠が出てきたんだけど、ディアリナ嬢ちゃん?』
『えーっと……』
『ディア姉、難しく考えないで。二つあった拳が一つになってる――つまり半分になってるだけだよ』
『ああ、そういうコトかい』
ポンと手を打つと、ジオール姉妹はためらうことなく、双槍の扉へと向かっていく。
さすがに商家の子――なんだろうか。
どの記号がどの数字を表しているのかを理解しているせいか、あっという間に答えてしまった。
そして次の部屋。
この仕掛けの最終問題だ。
【双剣+双槍=双斧】
【双剣+双拳=盾】
【双拳+双槍=双剣】
【双斧+双槍=盾】
【双槍+双槍=双拳】
【双拳+双拳=双斧】
【拳=双槍】
【双剣+槍=弓矢】
【双拳+「?」=弓矢】
『弓矢って、もう半分ですらないわよ?』
『それに扉も、交差しているものはなく、盾以外はすべて片手になっているようだが』
まだ答えを理解しきっていないらしい男性陣。
そんな二人に、コロナが笑いかける。
『剣は二本で数字の6。槍は一本だと数字の1。なので弓矢は数字の7。
それを踏まえて、扉の答えはどれでしょう?』
ここでようやくサリトスが答えに気づいたのか、一つうなずいた。
『……剣か』
『正解さね』
『おっさん、まだピンと来ないんだけど……』
ちなみに、このエリア。
最初の問題であまりにも答えが出ずに、エリア内でまごまごしていると、ヒントが出るようになっている。
その時に出るヒントが、【盾=10】だ。
正直、これが出ちゃうと、答えにたどり着ける探索者も結構出てくる気がする。
『記号がそれぞれ数字を表してるからね』
『んー……そこよ。どうやって数字を出したの?』
『あたしは計算式っぽかったから単純に数字を当てはめてみようって思っただけだよ。盾が答え側にしか書かれてなかったから、これを10だと仮定したんだ』
『あたしもディア姉に数字を表してるってヒントを貰ったから、同じように数字を仮定して計算していったの』
二人の言葉で、サリトスは首を撫で、フレッドは顎を撫でる。
『まずこれが数字を表しているのだと気づけるかどうか、か』
『そうだとしても答えにたどり着ける気がしないけどね』
『フレッドさんは難しく考えすぎなんじゃないかな?』
『そうさねぇ……』
【盾=10】と仮定すると、盾になる二つの式
【双剣+双拳=盾】
【双斧+双槍=盾】
これが、【9+1】【8+2】【7+3】【6+4】の組み合わせに絞れる。
そんな話をジオール姉妹がすると、フレッドは首を傾げた。
『5+5はないの?』
『たとえば双剣と双拳が5だったとして、その場合って【双拳+双槍=双剣】が成立しなくなっちまうだろ?』
『ああ、そうか。
となると、それが成立するパターンを考えるわけだ』
【双拳+双槍=双剣】をベースに
双拳=4、双槍=2とすると、双剣=6になる。
そうすると、【双剣6+双拳4=盾10】が成立する。
併せて、 【双斧8+双槍2=盾10】も成立する。
他にも成立するパターンはあるけど、ここまでくれば、【双拳+双拳=「?」】の答えが【双斧】になる。
二問目も難しく考えず、拳が一つなのだから、一問目で仮定した双拳の数字を半分にすればいい。
つまり、双拳=4。それが半分なのだから、拳=2。
2=双槍なのだから、答えは【双槍】となる。
ただ一問目を――上記のパターン以外で答えている場合は、拳が1や1.5となり答えがでなくなってしまう。
その場合は、仮定のしなおしが必要だ。
『……そろそろ、おっさんシンドいわぁ……』
嘆くフレッドに苦笑しながら、ジオール姉妹は三問目の解説に移る。
ここまでの時点で、双剣=6、双槍=2と判明しているし、二問目で片手だけになったアイコンの意味を理解できているわけだから、片手槍=1。
双剣=6なのだから、合計して弓矢=7。
弓矢の数字が理解出来たのであれば、双拳=4に、何を足せば弓矢が成立するのか考えればいい。
つまり「?」=3。
3を示す記号はないけれど、扉は盾を除いて全部片手仕様。
つまり、片手になった場合3になるものは、6を示す双剣。つまり答えは【剣】だ。
うん。この姉妹、数学――いや算術に強いのかな?
もっとも算術ができても、記号と数字を結びつけることに気づかないと、答えが出ない問題なワケだけど。
『…………』
『フレッド? どうした? 目がうつろになっているようだが?』
『……うん、まぁ大丈夫よ。とりあえず、進もうぜ……』
何やら意気消沈したようなフレッドが、フラフラと剣の扉へと向かっていく。
『理解はできたけど、疲れちゃった感じかなぁ、あれ』
『シンドいって言ってたしねぇ』
コロナとディアリナは顔を見合わせて笑いあう。
まぁ解いてもらう為に考えるワケだけど、考えるのも結構大変だったのに、解かれる時はあっという間に感じるなぁ……。
とりわけ、閃き算術問題は、色々と頭を捻ったから、余計に感じるぜ……。
などと、俺が感傷に浸っていると、
『なんじゃこりゃ……』
扉を開いたフレッドがうめいた。
それを追いかけて三人が扉をくぐると、その光景に、言葉を失ったようだ。
ふっふっふ……。
ダンジョンといえば、名物のこいつが必要だよな!
難しく考えた問題もいいけど、楽しく考えたギミックもあるんだぜッ!
それが、この――知恵の館の最終ギミック……ッ!
それ即ち移動床!
広い部屋の中ッ、地面に描かれた矢印の数々に翻弄されるがいい……ッ!!
唯一、モンスターが配置されているのもこの部屋だ!
運が悪いと遭遇するから要注意……ってなッ!
ミーカ『お二人ともそろそろ起きよー☆』
ゲルダ『確かに……人間換算でとても不健康な気がする。我、神だけど』
ミーカ『ほぼ明け方までゲームしてただけで充分不健康だよ☆』
ミツ『……むにゃむにゃ……』





