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4-25.ネズミたちと知恵の館

書籍版2巻 9/7発売です


※今回の話にでてくるクイズ…… 指摘してくださった人もいましたが

 作成後の検証をミスってたようで、どうにも正解が複数でちゃう可能性が(テヘペロ

 ……検証しなおした上で、後日問題だけ直します……すまねぇ……orz


9/5 21:10

問題修正しました。それに伴い、本文も微修正。物語の流れは変わっておりません。

……今度こそ大丈夫な……はず……(一度ミスったので超絶不安


 リーンズたちのチームがコーンウォーカーの集落を越えたあたりで、サリトスたちも動き出していた。


 あいつらが向かったのは、『知恵の館』だ。


 水族館や植物園のような、小迷宮タイプのエリアだが、前の二つとは少々勝手が違う。


『ここも入場料を支払って進むのか』

『水族館と同じような形式みたいけど……施設の名前が気になるさね』


 ディアリナの懸念はある意味で正しい。


 まず、知恵の館ではモンスターとのエンカウントがまず発生しない。

 エンカウントがあるとすれば、固定配置されたモンスターの一体のみだ。

 その一体以外は、特定条件下でのみ出現し、探索者(シーカー)を襲うようになっている。裏を返せば、配置された一体以外とは戦う機会がゼロの場合もあるのだ。


 ちなみに、その唯一配置されたモンスターは別に倒す必要はない。倒せばレアアイテムがドロップするとかはあるが、レアドロ相応の強さを持ってる。


 JRPGで例えるなら、初遭遇の時点ではまず勝ち目がなく、ラスダン突入前にサブイベントやアイテムの取りこぼしを探して世界を巡り直す時に倒すような相手だ。


 ブラックリストとかギガントとか封印されし云々とか、そういう相手だと思って欲しい。


 なので、無視してOK。むしろ無視が推奨される。

 この知恵の館に限っていえば、腕力や暴力よりも知性や閃き、運の方が重要なのである。


『やっぱりあったわよ、二つの扉。

 キーメダルを求める場合は左。施設を楽しむ場合は右……だってさ』

『ここで右を選ぶ理由はないだろう?』

『だよねぇ』


 サリトスとフレッドはそんなやりとりをしながら、左の扉を開けて進んでいく。


『これはまた……変な雰囲気の内装だね』


 知恵の館は、少しばかりSFっぽい施設系ダンジョンのイメージだ。

 ベースとしては宇宙船とかコロニー外側の管理区画とかそんな感じ?


『窓っぽいものの外は、うろの階段の中みたいなのが広がってるみたいだね』


 コロナは窓を覗き込みながら、そう口にする。


『未知の技術満載の空間……おっさん、年甲斐もなくたぎってきちゃうわぁ……ッ!』


 その内装に一番テンションをあげているのはフレッドのようだった。

 目の輝かせ方が、ロボットなんかに憧れる少年のそれだ。


 気になる要素満載の内装ながら、いつまでも廊下で騒いでいても仕方がないとサリトスたちは歩き出す。


 廊下の一番奥の壁には、緑色の封石が付いている。

 サリトスたちは、特に何も困ることなく、その封石に自分たちの装備する女神の腕輪を近づけた。


 それに反応して、やや手前に曲線を描く扉は、上へとスライドして道を開く。


『上に開くのか』

『曲線的なのは、上へ開けやすくする為なのかな?』


 サリトスとコロナはそんなやりとりをしながら、最初の部屋へと足を踏み入れる。


 彼ら前にあらわれたのは六つの扉だ。ちょっと広い空間の正面に、扉が並んでいる。扉には1~6の番号を割り振ってある。

 部屋の真ん中には、成人男性の腰ほどの高さの細い台座があって、そこにも緑色の封石がついている。


『まずは中央の台座だね』

『だな。おっさんが見てみますかね』


 フレッドが台座に腕輪をかざすと、そこにメッセージが浮かびあがってくるようにしてある。

 内容はこんなカンジ――


《虚言を語りし唯一の扉こそが先への道。

 正しき五つの語り部には感謝を向け、偽りの語り部のみを開け放て》


『……ふむ。まずは扉を調べてみよう。

 ただし、扉を開けるようなコトはするなよ』


 フレッドの読み上げた文面を吟味するようにサリトスが告げる。

 それに、他三人は首肯すると、それぞれに動き出した。


 そう。

 わりとお馴染みの理論パズルってやつだ。


 サリトスたちが女神の腕輪を扉にかざすと、文面が現れる。

 文面の下には《この扉をあける場合は、封石を強く叩いてください》と添えてある。


 それらの確認を終えたサリトスたちは、一度全員で集まって、扉から得た情報を纏め始めた。


 率先してまとめに動くサリトスとコロナはほんと頼もしいな。


 ディアリナの持っている木札を一つ使い、そこに、全員が得た扉の言葉を書き込んでいく。


『それぞれの扉の文面はこうだ』


====================


 1 僕の隣人は嘘を言わないよ


 2 嘘つきは3~6の中にいる気がするね


 3 1と6は本当のことを言っているわよ


 4 我が隣人たちは正直者とは限らぬ


 5 1~4の中に嘘つきがいると思うんだ


 6 先に進みたければ1と4以外を選びたまえ


====================


『何なの、これ……』


 それぞれの文面を見て、ディアリナが頭を抱える。


『こんな情報だけで、何か分かるのかい?』

『さて――精査してみないコトには分からないが……』


 サリトスは少し考えたあとで、コロナへと視線を向けた。


『偽りの語り部のみを開けろというコトは、それ以外を開けるのは危険か』

『そうだね。逆に言えば、嘘を付いてる扉は一つだけ。

 一つ一つの扉を嘘と仮定しながら精査して、結果として嘘つきが複数になるものを除外してけば良いんじゃないかな』

『除外した扉は真実として扱うんだな』

『そういうコトになるね』


 ほんと、この二人は理解がはやいな。

 即座にルールに気づいて、答えの導き出し方まで理解しやがた。


『旦那、コロナちゃん。

 おっさんも嬢ちゃんもイマイチ分かってないんで、解説お願いしていい?』


 おずおずと口を挟んできたフレッドに、サリトスとコロナは顔を見合わせてから小さくうなずき合う。


『いいか、ディアリナ。フレッド。まずは台座の文言だ』


《虚言を語りし唯一の扉こそが先への道。

 正しき五つの語り部には感謝を向け、偽りの語り部のみを開け放て》


『これは、扉に腕輪をかざすと出てくる言葉のうち、嘘を付いている扉こそが、先への道だと言い表している。

 ――ここまでは良いか?』


 サリトスに問われ、ディアリナとフレッドはうなずいた。

 それを見て、コロナが説明を引き継いだ。


『虚言を語りし唯一の扉――つまり嘘つきは一つだけ。

 なら、それぞれの扉の証言を嘘だと仮定して、一つ一つ考えていこうって話』


 そうしてコロナは、扉の言葉の書かれた木札から、1番を示す。


『例えば1番目の扉の言う《僕の隣人は嘘を言わないよ》が、嘘だった場合、1番の隣人……つまり2番が嘘つきというコトになるよね』

『なるほど。そうすると、嘘の語り部が二人になっちまうから、唯一って言葉と矛盾する。だから、1番は嘘をついてないってコトになるワケね』

『はい。フレッドさん正解です』


 ルールが分かれば、フレッドもこの手のパズルにはそう苦戦しないだろう。

 問題は――


『大丈夫? ディア姉?』

『うーん……うーん……』


 唸ってる。めっちゃ唸ってる。


『いやさ、コロナ。

 二番の《気がする》とか五番の《思う》とか曖昧なやつはどうするんだい……? そんな頼りない証言、嘘か本当かなんて役に立たないだろう?』


 ディアリナの言葉に、三人は顔を見合わせて思わず天を仰いだ。


『ちょっとッ! なんだって言うのさ、三人ともッ!』


 ……これは……意外なところにハマってるなディアリナ。


『ディアリナ。この場合、語り口調は余計な枝葉だ。そこは気にするな』

『そうそう。大事なのは情報部分だけよ、嬢ちゃん』

『ディア姉――これは実際の証言を想定したものじゃなくて、必要な情報を頭の中でこねくり回すゲームなんだよ。

 盤面とかカードがないだけで、遊技場のゲームみたいなものだね。

 人柄とか言葉遣いとかは余計な情報。必要なのは中身だけなの』


 コロナの言う通り、論理パズルは頭の体操みたいなもんだ。

 特定の条件下、得た情報を論理的に考察して、正しいルートに導くもの。


 その辺りの切り替えができないと、ちょっと大変かもしれないな。


 まぁ――真面目な話。

 知恵の館に関しては、サリトスやバド、あと最近増えたところだとリーンズか。この辺りのチーム以外のクリアは想定してない。


 フロア8は、八つの試練のうち、六個クリアすれば良いとはいえ――

 闘技場と競技場はフィジカルな部分が非常にモノを言う。もしかしたら条件をクリア出来ないチームがいるかもしれない。

 遊技場でのカードゲームやボードゲームなどインテリジェンス勝負のものではなかなか勝てないチームがいるかもしれない。


 ……そういう様々な無理を想定して、最低六個にしてあるからな。

 

 戦闘のほぼない『知恵の館』や、職人スキルがモノを言う『職人工房』なんて小迷宮を用意した理由もその辺りだ。

 三つのフィジカルベースの試練と、三つのインテリベースの試練。そして二つの博物館というダンジョン。

 ……職人スキルがインテリかどうかが非常に微妙だが、まぁイメージはそういうところだ。


 ……この世界の前提を考えると意地が悪いと思われるかもしれないけど、逆にこういうとこを攻略できる奴が増えて欲しいなっていう願望も多分に含んでる。


 閑話休題。


『つまり、ディアリナ。

 お前が気にした2番であれば、《3~6の誰かが嘘つき》という情報だけを読みとればいい』


 サリトスに告げられ、そこで何とか納得したのか、ディアリナは首を傾げつつも一歩下がった。


 ……本当に理解してるのかは微妙に怪しい顔してるぞディアリナ。


『それじゃあ、ディア姉。

 2番が嘘つきだった場合、どうなると思う?』

『えーっと……3~6に嘘つきはいないコトになるから……1か2が嘘つきになるってコトでいいかい?』

『合ってる合ってる』

『1番はさっき嘘つきにした場合、矛盾が起きるっていうから1番じゃない。そうすると2番になるけど……』


 そこまで口にしてディアリナは眉を顰めた。


『2番の証言だけだと答えは絞れないから次の考え方をしようぜ、嬢ちゃん』

『次?』

『3~6が正直者であるという証明だわな。2以外が正直者だとして考えるわけよ』

『えーっと……1が正直者だと2が正直者じゃないといけないから、いきなり矛盾するさね』

『そういうコトだ。他にも4が正直者の場合、3か5が嘘つきでなければならない。これも矛盾するな。

 こういう流れで情報を精査し、矛盾なく嘘つきが一つだけになるパターンを見つけだすんだ。その嘘つきこそが、正しい扉なんだろう』


 ようやくルールを理解したらしいディアリナが顔を輝かせる。

 ヒント有りとはいえ、ちゃんと自分で考えてあそこまで答えを出せるんだから、上出来だ。


『この調子で3番といこうか。3番は1と6を名指しで正直者だと言っている。これが嘘だった場合、1と6の両方とも嘘つきとなるから、3番でもないな』


 サリトスが3番について論じると、フレッドが引き継いで4番の検証をする。


『4番が嘘の場合、隣人は怪しくない。つまり、3と5は正直者だ。

 3の証言から1と6は正直者となり、6の証言から4もまた正直者となる……ここで矛盾が発生しちゃうわね』


 次にコロナが5番を示す。


『5番が嘘の場合、5か6が嘘つきというコトになる。

 6が嘘だと1か4が嘘つきとなるから、矛盾する。すると5番本人が嘘つきってコトになる。

 逆に5を信じて見た場合、1~4が怪しいワケだけど……』

『だけど1~4はこれまでのお話で唯一の嘘つきにはなれないコトは証明されているからありえないさね。

 正直であった場合矛盾し、嘘である場合矛盾しない……つまり先へ行く扉は5番ってコトになるわけだね』


 合点が言ったという様子のディアリナに、他の三人もうなずく。


 サリトス――というか、コロナがいる時点で想定はしてたんだけど、かなりあっさり第一関門を突破されてしまった。


 しかし、知恵の館はまだまだ続くぞ!

 次以降の問題は、簡単には解けないぜッ!




 ……たぶん。


 ………………コロナ見てると自信なくなるんだよなぁ……


スケスケ『ふむ。面白い、問いかけですね』

ミーカ『よし☆ とーけた☆』

セブンス『私は……少し苦手な問題のようです』


次回もサリトスたちの探索の予定です


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[良い点] ダンジョンマスターが主人公だけれど人間に割と好意的でしかも元々から神として存在するみたいなストーリーは初めて読みました。単純に面白かったです。 [気になる点] 「この調子で3番といこうか。…
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