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4-18.『キーラ:これは本当に現実なのか?』

夏休み特別企画 連続更新四日目!

明日も更新予定です!


「答える前に、俺からも一つ問いたい」

「何でしょうか?」


 真っ直ぐにこちらを見据えてくるアユムに、俺は平静に返す。


「お前は商人なんだろ? こっちがそれを受け入れた場合の代価(メリット)は用意してあるのか?」

「それは……」


 だがアユムの口から問われた言葉に、俺は声を詰まらせた。


「商人としてツメが甘いな。いや――相手が神だからと、漫然とした考えだったのか? 俺が願いを受け入れるかどうかは別にしても、何か用意しておくべきだっただろう?」

「返す言葉もありません」


 実際に、返す言葉がない。

 全く持って彼の言う通りなのだ。


 話の分かるダンマスだから。

 さらに言えばただのダンマスではなく、神が相手だから――そんな漠然とした考えでここへ来ていた。何より神相手に代価を支払うということを考えてもいなかった。


 それに今しがた言われて代価を考えてみたものの、そうそう思いつくものはない。


 何せ相手は神の一柱(ひとはしら)

 水とグラスだけで、こちらを圧倒してくるような相手に支払えるものなど何もない。


 とはいえ、アユムの指摘は本当にもっともだ。

 人間に置き換えても、俺はやってはいけないことをやってしまっている。


 誰でも謁見できる気安い王とて、個人の願いを容易に叶えるわけがないのだ。それは神とて同じなのだろう。

 気安く会うことができ、気安く会話を交わすことができても、気安く願いを叶えてくれるわけではない。


 アユムを王に例えるならば、俺は直訴しにきた貧しい村の村民のようなもなのだ。金も作物もないから、自分の村を助けて欲しいと相談しにきたしがない村人。

 だが、実際のところ王から見れば、さんざん対策と政策をしてくれていたではないだろうか?


 先ほどのグラスの時の話がそうだった。

 種は蒔いたと言っていた。だが、その種の世話をしなかったのは我々人間なのだ。


 ちゃんと世話をしていれば食うに困らない作物が育ったかもしれないのに、我々は何もしてこなかった。

 今になって困ったから助けてくれというのも、虫の良い話というものだろう。


「その顔は、自らが何を口にしたかを理解した顔だと判断しても?」

「ええ」


 うなずく以外にできない。

 横を見ればベアノフが、だから言っただろ――という顔をしている。


「キーラ、ベアノフ。お前たちも上に立つ者であるなら、覚えておくといいぞ。『甘い』と『優しい』は似てるようで違うってコトにな」

「重ね重ね、返す言葉もない」


 俺は――自身が思っていた以上に『甘かった』んだろう……。

 ベアノフからも言われてはいたんだ。気安いダンマスだが、気安いだけではないと。


 ……どうにも、自分らしくない焦り方をしていたかもしれないな。


「さて、説教はともかく……そちらの事情は理解した。

 現地の人間の性質を教えてもらっていながら、そこに思い至らなかったこちらにも落ち度はある」


 こちらを咎めながらも、彼は自分にも非があると口にする。


「なので、こちらとしても、何とかしてやりたくあるが――」


 アユムは難しい顔をして手元の板のようなものに目を落とした。

 その板を指で撫でながら、これはダメだこれもダメだと、小さく口にしている。


 先ほどから何度か手にしていたが……。

 あれは、神の石版――とでもいうべきものなのだろうか?

 何が書いてあり、どう扱っているのか、非常に興味はあるが……。

 覗き込むのはさすがにまずいだろう。


 そのまましばらく時間がすぎる。

 手段を考えてくれているアユムの邪魔を出来ず、俺とベアノフは黙ってグラスを傾け水を飲む。


 美味い。

 ……清々しい味の水だ。

 この国で飲める水の最高級品ですら、この水の足下にも及ばない。


 だが、これは神の水なのではなく、我々の世界で飲もうと思えば飲めるものだという。


「ダンジョンを探索するだけが、探索者(シーカー)じゃねぇのかもな」


 恐らくは独り言。

 だが、ベアノフのその呟きは、はっきりと俺の耳に届き、そして心に残った。


 アユムが板を撫でる音と、我々が水を飲む音だけがしばらく続いた時――


「すまぬが、アユム。

 その者らの相談……安易な手を打ってはならぬぞ」


 沈黙を破ったのは、背後から聞こえたどこか舌足らずにも聞こえる幼い娘の声だった。


 後ろを振り返ると、銀髪の美しい女性と、恐らく声の主であろう少女がいた。その少女は灯りを浴びると虹色に輝く銀髪を持ち、色白の肌と朱金に輝く双眸を光らせる恐ろしく美しい幼女だ。


 それを見てアユムが驚いたような苦笑するような、なんとも言えない顔をした。


「直接会うのは初めて――だな。来るなら一言欲しかったな。ミツ経由でもいいからさ」

「ミツは叱らんでやってくれ。これは我の我が儘よ」

「叱らねぇよ。アンタの我が儘なら、ミツは逆らえないだろ」


 ミツ――というのは、銀髪の女性のことだろう。

 愛称だとすれば――たぶんだが――彼女がこの腕輪の由来となった女神……ミツカ・カインだ。


 彼女がアユムの近くにいるというのはベアノフから聞いていたが……

 今一緒にやってきたミツカ・カインが逆らえない幼女は何者なのだろうか。


「改めて名乗っとく。アユム・アラタニだ。よろしくな――ゲルダ、でいいか?」


 ゲル、ダ……? いや、まさか……


「ふむ。そう呼ばれるのも悪くはないな。人間もこの場にいるコトだ。我もそれに乗ろう。こちらこそ改めて始めましてだな、アユム。今更名乗る必要もないだろうが、我こそがゲルダ・ヌアだ。

 此度は、()()より、我が呼びかけに応じ、ダンジョンマスターを引き受けてくれたコト、礼を言う」


 ……ゲルダ……ゲルダ・ヌアッ!?!?!?!?


 二人の挨拶が交わされた瞬間、俺はどんな顔をしていたのか。

 横にいたベアノフも、見たこともないような驚愕を浮かべていたので、きっと俺も似たような顔をしていたことだろう。


 言葉が出ない。

 出しようがない。


 ミツカ・カインはゲルダ・ヌアから一歩引いた場所に立っている。その姿はまるで、貴族に仕える従者のようだ。

 先ほどのやりとり含めて考えれば、ミツカ・カインの立場はゲルダ・ヌアよりも下なのだろう。


 ……だが、ならばアユムはどうなのだ?


 ゲルダ・ヌアと言えばこの世界を作り出した創造主。

 この世界の神々の王とも言われている存在だ。そう思えば、ミツカ・カインの様子は納得がいく。


 しかし、アユムはあまりにもゲルダ・ヌアに気安い。

 それにゲルダ・ヌアは何と言っていた?

 ()()より呼びかけに答えた者――のようなことを言っていた。


 それはどういう意味なのだろうか……


「さて、今の話ではあるが。アユムよ。

 ドロップ品の追加やダンジョンそのものの追加による救済は厳禁だ」

「ま、そうなるよな」


 アユムはそう言われるのが分かっていたかのように、肩を竦める。


「ここの近隣にはブリュード鋼窟やサウザントタワーがあるしな。

 これ以上を求めるは確かに贅沢だ。ラヴュリントスで全てを賄おうってのもまぁ良くないな」

「その通りだ。それにの。

 状況は違えど、その者の願いは、力任せの探索者(シーカー)たちと同じコトよな」


 ゲルダ・ヌアに言われて、俺はハッとした。

 確かに、安易な方へ楽な方へという考え方としてはそうかもしれない。


 状況を打開する手段を、あまりに安易に考えすぎていた。

 打開策が思いつかず、焦っていた部分も確かにあるが……少しばかり、らしくなさすぎた。


「楽をするなとは言わぬ。生き物とは怠惰に流れるもの。

 だからこそ、激流の中で可能な限り気楽に優雅に泳ぐ手段を模索する。そのコトを悪いとは言わぬ。むしろそうやって新しい泳ぎ方を編み出して欲しいというのが我が願いよ。それであればアユムが多少手を貸すのを黙認してやるつもりではあった。

 だが、激流から外れ、緩やかな流れの場所でただ口を開けていたいなどという願いは叶えるわけにはいかぬのよ。

 それは、この世界を創り出した我が願いから外れてしまうのだからな」


 ああ――そうか。

 サリトスの感じていたことは間違っていなかったのか。


 神は、アユムは、ゲルダ・ヌアは――

 緩やかな流れの場所でただ口を開け続けていた人間に、激流の泳ぎ方を思い出してもらいたかったのだ。


 探索者(シーカー)より先にそれを知ってしまったのは申し訳ないとは思う。

 だが、人の上に立つものとして、国を預かるものとして、それを知れたのは大きい。


 これはきっと、我が人生の転機なのだろう。


「ゲルダ。ちょっと、喋りすぎてないか?」


 アユムがどこからともなく椅子を生み出し、そこにゲルダ・ヌアにすすめている。

 ミツカ・カインの分を創り出さないところを見ると、力関係としてはアユムの方が上なのだろうか。


「おぬしのおかげでこうして復活できたからな。少し調子に乗ってしまったのかもしれぬ」

「よもや、(あるじ)がアユム様よりもお喋りだったとは……」

「そう思っていたら止めぬか、ミツよッ!」

「えー。だって主のコトを止めるなんて出来ませんよ」

「えー、とか。以前のお前なら言わんかったことだな。しかも妙に仕草が可愛くなっておるではないか。いや、悪くはない。むしろ良いとは思うが」


 まるで人間のようなやりとりをしている神々。

 その姿を見ると、神々とて意志と人格をもった存在なのだと実感する。


 ……いや、ちょっと待て。


「復活?」


 聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、思わず口に出してしまう。

 それに対して、ゲルダ・ヌアが何かを答えてくれようとし、アユムがそれを制した。


「ゲルダ」

「む」

「俺が説明するよ。人間に開示できる情報を制限してるお前が、率先して破っていきそうだしな」

「確かにな。うむ。任せた」

「……とはいえ、俺もちょいと不安なので……」


 ゲルダ・ヌアがうなずき、アユムはやや逡巡し、ミツカ・カインを手招きする。

 そして、手元の石版を見せた。


「ここまで言って平気か? こういう意図があるんだが」

「……その意図込みだとしても、随分と開示するようですけど……」

「この二人なら大丈夫だろ。根拠はないが。

 それに、気にするなと言ってもゲルダを目の前にまでして納得せんだろう」

「アユム様がそう言うのでしたら……意図も理解しましたので、構いません」


 そんな相談をしばらくしてから、アユムは改めてこちらに向き直った。


「待たせた。ちょいとぶっちゃけた話をするとしよう」


 そして軽く息を吐き、話し始める。


「ゲルダ・ヌアは弱っていたんだ。そして、アルク=オールの管理破棄を考えていた」

「待てアユム。管理破棄ってのはどういう……」


 さすがのベアノフも慌てた様子で、アユムに問いかける。


「そのままの意味だ。

 まずは全世界のダンジョンの完全消滅。やがて世界そのものの消滅。そうなる可能性があったわけだ」


 世界の消滅!? 世界の……外の存在……!?

 もはや、スケールが大きくなりすぎて、私の頭では想像もできない話だ。


「詳細は省くが、ゲルダが弱っていた原因は、アルク=オールの在り方のせいだ。

 創造神ってのは、自分が創り出した世界の在り方に影響されるらしいからな」


 ……聞かない方が良かったのではないか。この話は……。いや、今更遅いか……。


「そんな世界への救済手段の一つとして、俺が呼ばれたワケだ」

「世界の危機とあなたが呼ばれたという繋がりがよくわかりませんが……」

「そのあたりは気にするな。人間が知ると絶望マシマシになるぞ。

 特にお前さんやベアノフみたいな、『はぐれモノ』タイプの人間は特にな」


 …………………………。


「補足いたしますと、アユム様の活躍により、主に復活の兆しが生まれました。

 そしてその復活の兆しそのものは人間界に影響を与えました」


 唐突に、ミツカ・カインがそう口にする。

 該当するような出来事など、何かあっただろうか……?


 俺の考えている横で、その出来事に気づいたベアノフが叫ぶ。


「ゲルダ・ヌアの涙日(るいじつ)かッ!」

「ベアノフさん正解です」


 あの大雨が、ゲルダ・ヌア復活の兆しだった……とッ!?


「そうか。人間たちの中ではそんな大層な名前が付いてたのか」

「くっくっく……アユムは、大雨降らせたコトを気に病んでいたからの」

「お前が泣いたからだろうが」

「泣かせたのはおぬしであろう?」


 アユムが困っている様子に対し、ゲルダ・ヌアは実に楽しそうに笑う。

 神であると知らなければ、仲の良い者同士のやりとりにしか見えない。


「さて、楽しい話題は尽きぬが……最初の話に戻すぞ。

 アユムよ。こやつらの願い、どうするのかの?」


 た、ただ……相談しに来ただけなのに、なんだか大変なことになってないか……ッ!?

 ……というか、これは本当に現実に起きていることなのかッ!?


キーラ&ベアノフ

(((((゜△ ゜|||))))))


アユムとキーラの会談はもうちょっとだけ続きます


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