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4-13.手の早い臆病者、探索再開!

本作の書籍版

『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索を教えてやろう』の2巻は9月に発売です


 サリトスたちがコロナに説教をされた日から、一晩あけて――

 彼らはようやく目が覚めたのか、本格的に攻略する算段を始めていた。


 いつも通りのチームに分かれつつ、それぞれに攻略していくらしい。


 ベアノフは2チームと一緒に宿を出つつ、帰還した。

 帰りがけに、応接室へ木札を置いていったので、あとで確認しないとな。


 カルフ組、リーンズ組は、昨日カジノで遭遇。

 あのあと一緒に安宿へ泊まっていたので、今後は協力して探索の可能性もあるかもしれない。

 ここも興味深いけれど、今日はまだ宿から動いてなさそうだ。


「さて、サリトスたちが動き始めたならメインフォーカスはこのチームでいいか」

「ただただ楽しい――それだけで人を堕落未遂まで至らせるってマスターっすごいネ☆」

「かなり想定外だったけどな」


 いやまじで。

 ここまでサリトスたちが足止めされるとは思わなかった。


「そんな皆さんの目を覚まさせるコロナさんとベアノフさんはすごいのですね」

「どうだろうな。入園の順番が逆だったら、二人ともハマってた可能性もあるんじゃないかね」


 そこはもう考えても仕方ないところではあるけれど。


 いつものようにミツとミーカの二人と雑談しつつ、サリトスたちへをメインで映すモニタへと視線を向けた。


「さて、サリトスたちはどこへ行くのかな?」


 


 コロナが案内するように、サリトスたちがやってきたのは、水族館だ。

 地球にある水族館をベース――というかモチーフというか――にしつつ、ちょっとしたダンジョンにしてある場所だ。


『入場料に一人50リントコインが必要みたいだけど、コロナは大丈夫かい?』

『フレッドさんを倒した時の賞金としてもらってるからね』


 ニパっと笑うコロナに、何やらフレッドが苦い顔をしている。コロナはそれに気づいているようだが、スルーするようである。


『問題ないのであれば、入ろう』


 サリトスのその一言で、他の三人は気持ちを切り替えてうなずく。


『バドくん。一人で水族館や植物園って施設に挑戦してたみたいだけど、ソロだとシンドイって言ってたね』

『うん。どうにも、参加型施設と、ダンジョン型施設の二つがあるみたいだよ』


 水族館の受付でリントメダルを支払い、入り口に向かう廊下を歩きながら話をするフレッドに、コロナもうなずいた。


『参加型……闘技場、競技場、遊技場、カジノのコトか?』

『そう。リト兄が言ったやつに加えて、ここ水族館を筆頭に、植物園、知恵の館、職人工房っていう四つのダンジョン型施設あるの。これが、カギの在処だね』

『参加型の方は、ルールに従って勝利すれば景品としてもらえるけど……ダンジョン型はどうなんだい?』

『入り口から出口まで無事に越えられればいいみたいだよ』


 コロナはよく調べてるな。

 園内のあちこちにある情報を繋ぎ合わせると、そういう答えが出るようになってる。


 それをちゃんと覚えて、情報として共有可能なレベルで噛み砕けるコロナは本当にこの世界では希有な存在だろう。


「んん~?」

「どうした、ミーカ?」


 何やら眉を(しか)めてうめくミーカ。

 そんな彼女を俺は訝しみながら訊ねる。


「えーっとね? なんかサリトスくんたち☆でも、バドくんたち☆でも、リーンズくんたち☆でもない人がチラっと……」

「そりゃあボチボチこのフロアにたどり着いてる奴らもいるだろ」

「そうなんだけど、そうじゃなくてネ☆ コロナちゃんよりももっと年齢低そうな銀髪幼女が……あれ? いなくなっちゃった☆」

「何歳ぐらいだ?」

「んー……十歳以下っぽい?」


 首を傾げながら答えるミーカに、俺は複数のモニタに視線を巡らせる。

 だが、それっぽい人物はいなさそうだ。


「気のせいというにはハッキリ見えすぎてたんだけどねー☆

 まぁ、また気づいたら言うから☆」

「おう。頼む」


 ミーカを疑う気はない。

 本当に見えなくなったことを不思議に思ってる顔をしているからだ。


「銀髪の……幼女……?」

「ミツは心当たりあるのか?」

「銀髪の人物には多少……ただ、心当たりがある人物は幼女ではないので」


 なんて答えるミツだけど、その顔には何かが引っかかっていると書いてある。

 とはいえ、モニタに映ってないので、これ以上は追求しようがない。


 それに、幼女というのは珍しいが銀髪は珍しくない。

 見た目幼女の合法ロリの探索者(シーカー)って可能性もあるから、今はそこまで深刻に考えてもしかたない。


「とりあえず、今はサリトスたちを追おう。また出てきた時に考えればいい」


 俺がそう告げると、二人は納得したようにうなずいた。

 一応、心の片隅でその幼女のことは気にかけておくことにする。


 などとやりとりをしているうちに、サリトスたちは入り口のドアをくぐっていく。

 最初に出てくるのは、地下へ潜るエスカレーターだ。


『動く階段か』

『階段よりも、この光景がすごいさね』

『おっさんもびっくりだわ、これ……』

『綺麗だねぇ』


 日本人的には、そこまで珍しいものではないけれど。

 この下りエスカレーターは、水中トンネルのようになっている。

 天井や壁は水槽だ。


 水槽の中に泳いでいる魚は、この世界アルク=オールの魚介類と、水棲モンスター。

 もちろん、水槽の向こうから探索者(シーカー)たちを襲わないようにしてある。

 付け加えるならば、このガラス板も破壊不能に設定してあるので、探索者(シーカー)たちもモンスターたちも壊すようなことはないだろう。


 天井を見上げれば小魚の群。

 壁を見れば大型の魚や、モンスターが。

 その先にある岩壁なんかには、珊瑚や海草が生えている。


『水の中の世界か』

『水族館とは言ったモンだね』


 結構こだわって作ったからか、ミツやミーカからも評判がよい。

 こういうものも、この世界では珍しい光景だろうしな。


 やがて水中トンネルが終わり、通常の建物の天井へと変わっていくところでエスカレーターも終わりだ。


 薄暗い屋内に一本道。

 とはいえ、ここもちゃんと水族館らしく、壁には水槽を埋め込んであり、生き物の展示もしてある。


『すごい……展示してあるだけでなくて、ヘタな鑑定結果よりも詳しく生態が書かれてる……』


 コロナが感心して水槽を覗く。

 ただ、そのせいで完全に足を止めてしまっているので、サリトスは苦笑した。


『コロナ。お前もアユムの仕掛けた罠にハマりかけてないか?』

『おおう……』


 娯楽より知識に重きを置くタイプの奴からすると、確かにそうかもしれない。

 水族館や植物園は、未知を既知にできる良い機会だしな。


『お説教しておいてゴメン……』

『それをおっさんたちは叱れないから、気になさんな』

『そうそう。言われてすぐに正気に戻ったなら、問題ないさね』


 ギスギスしたりしないで、手の早い臆病者(ラピーデ・ラッツォ)たちは進んでいく。


 終点には扉が二つある。


『探索用順路、観覧用順路……か』

『もちろん探索用順路に行くんだろ? 一段落したら、コロナの為に観覧用順路に来るかもしれないけどね』


 そう言って笑うディアリナに、みんなが笑う。

 ちょっとだけコロナが恥ずかしそうにしてるが……ともあれ、仲が良いのはいいことだ。


 いずれは観覧用順路の方にも、人が増えて欲しいところだけど、コロナみたいな知的好奇心溢れるタイプってこの世界にどんだけいるんだか……。


『いくぞ』


 四人はうなずきあうと、サリトスが扉に手を掛けた。


『これは……』

『え? 進んで大丈夫なのかい?』


 扉を開けると、目の前には水の壁だ。扉から外へは溢れてこないようになっているものの、インパクトは絶大だろう。

 その壁の先――水底には、道を作ってある。


『開けても水がこぼれてくるようなコトはないみたいだけど……』


 コロナが恐る恐る手を伸ばす。


『あれ?』


 だけど、目の前にある水の壁は抵抗もなくその手を受け入れた。

 ゆっくり引き抜いたコロナは、その手に視線を落として瞬く。


『濡れない』

『ふむ』


 フレッドは意を決したように、中へと踏み入れていく。


『濡れないし、呼吸もできるようだわね。

 若干、身体の動きに違和感はあるけど、実際の水中ほどでもないな』


 身体を張ったフレッドの言葉に、他の三人も覚悟を決めたようで、次々に足を踏み入れていく。


『不思議な光景さね』

『ああ。水底を歩く――こんな経験、滅多にできるものではないな』


 水底の迷宮は、珊瑚の生け垣によって通路を作った。

 要所要所には岩を置いたり、草原のように背の低い海草を生やしたり……あるいは巨大な木のような珊瑚や海草なども色々と並べてあるので、ちょっとした海底樹海のようにもなっている。


 仕掛けらしい仕掛けっていうのは、特にはなくて、ちょっとしたミニ迷宮ってところか。

 サイズとしてはフロア4や5辺りの半分もない。


『可愛い……!』


 好奇心旺盛に近寄ってくるカラフルな小魚たちに、コロナは思わず目を輝かせる。そんな妹の様子に、ディアリナも目を輝かせていた。


『二人とも油断はするな。観覧用ではなく探索用と銘打つ以上、何があっても不思議ではないぞ』


 姉妹に対して、サリトスがそう告げる。その警戒は正解だ。

 大型のサメ風モンスターが一匹、サリトスたちの方へと泳いでくる。


 周囲にいた小魚たちは一斉に逃げまどう中、そのサメ型モンスター・メガロドンは大口をあけながら、四人のところへと突っ込んできた。


 四人は散開するようにそれを躱して、各々の武器を構える。


『……来るぞッ! あいつは明確な敵だッ!』


 スペクタクルズを投げつけつつ、サリトスが叫ぶ。


『普段通りの動きはしづらいから、みんな気をつけてよッ!』


 続けてフレッドがそう叫ぶのを合図に戦闘が始まった。


 メガロドンは水中だけでなく、空中も泳げるサメだ。

 ゲーム的な説明をするならば、HP、攻撃力、防御力が高く、素早さや属性防御力はそれなりといったところだ。水属性に対する耐性だけは高い。同ランク帯として見ればスペックが高水準ながら特殊能力は持たないタイプのモンスターである。

 言ってしまえば己が肉体一つで戦い抜く、いぶし銀なパワー型無能力(バニラ)だ。


 ちなみに、地球にもいる生物の名前ではあるものの、俺が創造したモンスターではなく、この世界に最初からいる生き物だということをここに記しておく。


 とはいえ、こいつのランクアップパターンが……

  ノマロドン→メガロドン→ギガロドン→テラロドン

 ……というのは、どう考えてもこの世界の創造神の手抜き感がある。絶対、地球とかそれの準ずる世界を参考にして作ったとしか思えない。


 ちなみに、どのランクであってもスペックが高いだけのバニラである。案外そういうモンスターの方が厄介だったりすることもあるけどな。

 

 そんなメガロドンだが――サリトスたちは危なげも面白味もなく、あっさりと倒していた。


『火のブレスも問題なく使えるみたい』

『そのようだな。武器に火を纏わせるタイプのアーツや、フレイムタンの使用も問題なさそうさね』


 戦いながらも、キッチリと環境を考察しているのはさすがだ。


『通常よりも身体の動きが鈍いのと、普段より高くジャンプできるコト。さらには落下速度なんかも若干遅くなってるコト。そこは注意が必要だわな』

『火や呼吸、水濡れに問題はなくとも、水中における抵抗感のようなものは完全にゼロというワケではないのだろう』


 今の一戦で色々と実験をしていたサリトスたちが、互いの考察を交換しあう。


 ほんと、安心感すらある探索風景だ。


『さて、進むとしよう』

『おっさん、ちょっと先行するぜ』


 真っ直ぐ伸びる道をフレッドが軽く先へと進む。

 開けた場所の少し手前で足を止めたフレッドは、息を殺しながらその場所を確認して、仲間の元へと戻っていった。


『この先の少し開けた場所に、マーフォークが数匹いた。

 三つ叉の槍を持ってるのが二匹と、杖を持っているのが一匹だ』

『ならば、フレッドとコロナで杖持ちを最速で倒してくれ。

 俺とディアリナは槍持ちのそれぞれを相手する。

 ディアリナ、俺たちは倒せずとも槍持ちがフレッドとコロナに向かわないように立ち回る必要があるぞ』

『まかせておきな』


 それぞれの役割を確認し、四人は広場のように開けた場所へと、足を踏み入れていった。



ミツ「そろそろお昼になりますね」

アユム「無性に刺身が食いたい……刺身定食がいいな」

ミーカ「お刺身かどうかは分からないけど、ししょーがお魚を捌いてたよ☆」


 次回は、このまま、水族館探索です

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水の中の抵抗感はあるって言ってるけど多分アイテムの投げつけや弓矢は例外処理されてるっぽいかな?
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