4-9.恐れるべき刺客は享楽ってな
本作の書籍版
『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』2巻
9月に発売されますッ!
よしなに٩( 'ω' )و
朝になって……。
最初にラヴュリンランドへとやってきたのは、コナとカルフのコンビだった。
「朝イチって感じだな」
「恐らく、ラヴュリントス近くのキャンプ地で一泊したんでしょう」
ミツの話によると、王国の兵士たちが常設しているキャンプらしい。基本的には、死に戻りした探索者の保護なんだとか。
確かに、死に戻りすると、だいたい意識ないからそういうのは大事だろう。
最初はそれだけだったらしいけど、今は街まで戻るのが面倒な探索者向けにテントの貸し出しとかもしているそうだ。
ニューズのこともそうだが――
「死に戻りのケアとか気にしてなかったな……」
「結果おーらい☆ ってことにしておこう☆」
「死に戻りで充分慈悲を見せてるかと。これ以上は過保護では?」
ミーカとミツの言葉に、うなずいて、モニターへと意識を向ける。
コナとカルフは、サリトスやリーンズたちと似たようなリアクションをしながら、入り口前の道を歩く。
正面入り口で入園料の話を聞いたあと、中には入らずに道の先へと進んでいった。
その先にあるのは、現代日本風の病院だ。
入り口にちょっと太めの白衣を着た影の住民がいる。
『おや? どうなさいました?』
『えーっと、この建物はなんなの?』
『治療院ですよ――と言っても我々【影の民】のモノですので、探索者の方のご利用は申し訳ないですが、お断りしておりますが』
その説明にコナは治療院を見上げ、軽くうなずいた。
『その代わり――というワケではありませんが、簡単な治癒のブレスでよければ、おかけしますよ? こんな感じで』
そう言って、影の医師は二人に向けて手を掲げる。
同時に、緑色の柔らかな光に二人は包まれた。
『私は良くここに立ってますので、治療が必要であればお声かけください』
自分の様子を軽く確認してから、コナは小さく笑ってうなずいた。
『そうね。必要な時は利用させてもらうわ』
それから、カルフが訊ねる。
『ところでさ。病院の入り口よりも先へ道が続いてるけど、何かあるのか知ってるか?』
『ええ。入園料が足りなかったり、フロア9へ向かう条件をうまく満たせない方々向けの、小さなエリアが二つほど』
影の医師の言葉に、カルフとコナは顔を見合わせた。
『入園料が払えるのでしたら、先に入園するコトをオススメしますよ』
ちなみに、事実である。
小さなダンジョン――小迷宮は、フロア4や5の四分の一ほどの広さのエリアだ。
樹海風のものと、研究所風のものと二種類ある。
それぞれ――
・樹海は果実と入園割引券をドロップ。
・研究所は金属やガラス片と、園内通貨のメダルをドロップ。
――って感じで設定してある。
まぁほぼ救済処置みたいなもんだな。
果実や金属片などは色々と使い道はあるだろうし、そっちの利用方法もあるだろうけど、単純にフロア9目指すなら、寄り道でしかない。
『どうする、コナ?』
『素直に園内に入りましょう。1万ドゥースぐらいなら、今のわたしたちなら払えるしね』
ちなみに、このお医者さんの前で、入園する意志を見せると、ヒントをくれるように設定してある。
内容は――
『無事に入園できましたら、まずは中央の時計塔を目指してください。
そうすると、あの遊庭園で何をすべきか……わかるかもしれませんよ』
こんな感じだ。
それに、コナはうなずいた。
『ありがとう。お世話になるコトがあったらよろしく』
『じゃあな』
影の住民であっても、二人は『人』として彼を扱うらしい。
それは少しだけ、嬉しく思う。
……まぁこの医者の裏設定は、ちょっとアレなんだけど。
こっちに関してはゲームの隠しボス的な設定なので、サリトスたちでもそれを知れるかは怪しいけどな。
影の医師の話は脇へ置くとして――
コナとカルフの二人は、素直に入園料を支払って中へと入っていく。
『なんか、楽しそうなとこだな』
『そうね。賑やか――というかお祭り騒ぎというか』
実際、ゲートから中へ入ると、園内を歩き回る影の住民たちがいっぱい見えるようになる。
さらにゲートをくぐってすぐ目の前には、いつも看板も設置してある。
第二層 フロア8
手強きは八つの試練に非ず
恐れるべき刺客は立ちはだかる享楽
『いつもの看板ね……相変わらず意味深だけどよく分からないわ』
『恐れるべき刺客ってなんだ……?』
看板の前で二人は首を傾げていたものの、ややして考えていても仕方がない顔を上げた。
『とりあえず、影の先生に言われた通り、中央の時計塔を目指しましょう』
二人が歩き始めるのを見ながら、ミーカが俺に尋ねてくる。
「ねぇねぇマスター? このフロアの影はモンスターじゃないの?」
「一般人の影も一応ベースはモンスターだぞ。ただ、基本的には一般人って扱いだ。悪さをすると、警備員の影がやってきてモンスター化する。ちなみに、警備員はかなり強めにしてあるぞ」
イメージはあれだ。
三度笠の風来坊や、ちょっとおデブの商人たちのダンジョンに出てくる店主とか番犬とか、ああいうノリ。
泥棒すると襲ってくるけど、ふつうに買い物する分には何もしてこないってやつだ。
あいつら、終盤であってもこっちの装備が貧弱だと一撃で体力の五・六割を持ってくくらい強いんだよな……。
「このフロアは施設としてのダンジョンが存在してるからな。ドロップ品とか稼ぐなら、そういうところでやって欲しい。表面上は、あくまで遊園地なんだ。まぁ夜は例外としてね」
「つまり、昼間は平穏を乱さない限り、その強い警備員は牙を剥かないんですね」
「そういうコト」
ミツとミーカが納得したところで、視線をモニターに戻す。
コナとカルフはキョロキョロとしながら、中央の時計塔を目指している。
時計塔の入り口、右側にはアドレス・クリスタル。
左側には、看板が設置してある。
二人はまず、アドレス・クリスタルを腕輪に登録してから、左側の看板を見る。
そこには、お約束の文章系謎解きを書いてある。
挑むべきは八つの試練
必要なのは六つ以上の鍵
鍵を掲げし場所にこそ試練あり
看板の言葉を読んだあと、カルフは時計塔の扉に視線を向けた。
『扉にはなんか八個のくぼみがあるな』
『このくぼみに納めるモノを最低六個は持ってこいってコトかしら?』
お、コナは正しく理解してくれてるな。
『まずは試練だっていう鍵を掲げし場所っていうのを探してみましょう』
『おう』
そうして二人は園内を散策するように歩き出した。
「こうしてコナちゃんとカルフくんも、未知の娯楽の奔流に飲み込まれ、目的を忘れてしまうのであった☆」
「ミーカさん、わりとあり得そうなので、やめましょう?」
「とはいえ、実際にバドたちのチームはそんな感じだしなぁ」
そう。
このフロアでは、娯楽が待ちかまえているのだ。
待ちかまえているのは娯楽だけじゃないんだけど。
単純に言ってしまうと、八つの試練と称される施設のクリア証明であるキーメダルというのを集めるのが、このフロアの目的となる。
すっかりアサヒがハマっている闘技場の百人斬り。それも試練の一つだ。
最初は一匹ながら徐々に追加されていくモンスターと戦い続け、合計百匹倒すのを目指すというもの。
これで五十匹以上倒すことに成功すれば、キーメダルをゲットだ。
闘技場の場合、利用者が増えて行けば探索者向けのトーナメントなども開催される予定だ。そこで優勝したりしても、キーメダルはゲットできる。
ようするに、八つの施設における景品の一つがキーメダルなのだ。
ただ、キーメダルは一つの施設につき一つしか貰えない。
例えば、闘技場の百人斬りでキーメダルをゲットしている場合、闘技場のトーナメントで優勝してもキーメダルは貰えないのだ。
キーメダルを貰える施設は八つ。
それぞれの施設で条件を満たし、キーメダルを最低六つ集める必要がある――というのが、このフロアなのである。
ちなみに、八つ集めて時計塔に入ると、フロアクリア報酬である十二の武器を貰える数が増えるという仕組みだ。
キーメダル六つ → 武器一つ
キーメダル七つ → 武器二つ
キーメダル八つ → 武器三つ
これに関する情報は、特に表に出す気はないけどね。
ちなみに――ただ試練をクリアするだけなら、恐らくサリトスやバド、デュンケルたちはそこまで苦戦しないだろう。
それぞれが足止めされてしまっている理由の一つが、このラヴュリンランドの娯楽性の高さだ。
以前、ミーカやミツが言っていたように、この世界は娯楽が乏しい。
そして、キーメダルを得る為には、闘技場やカジノに挑まねばならない。
そう。嫌でも一回は娯楽体験をする必要がでるのだ。しかも、各施設それぞれで。
しかも――例えば百人斬りチャレンジの場合、五十匹賞、七十五匹賞、九十匹賞、百匹賞……などなど――達成結果次第で賞品もでるので、キーメダル以外のうまみもある。
当然、百人斬り以外のトーナメントもそうだし、カジノだってそうだ。
楽しくて、がんばれば報酬がある。しかも危険度が探索より低い。
これ、ガチで探索に対して何か思い入れや、矜持、強い動機がないとシンドイと思う。
……まぁ、ミツやミーカに力説され、サリトスたちすら、だいぶ足踏みしてるのを見て、驚いてはいるんだけど。ここまで効果的だったのか、と。
恐れるべき刺客は享楽――っていうのはダテじゃないのである。
大負けでもしない限りは、冷静になれない奴も出てくるかもしれない。
ある程度はそういう部分も考えてはいたので、第二層のテーマである光と闇という面でも申し分ないのだ。
何せ娯楽・賭博という光の裏にある依存と堕落という話なのだから。
問題は光にハマった探索者たちが裏から這いだせるかどうか。
とはいえ……マジで――君たちの冒険は堕落で終わってしまったENDとかになったらシャレにならんのだけど……
そういう兆しがあった場合は、ダンマス権限――というかダンマス顕現って感じで目を覚まさせるイベントとかやろう。うん。
「あ、ニューズちゃんたちも、病院を見てからゲートをくぐったね☆」
「コナさんたちや、リーンズさんたちは、無事に突破できるのでしょうか?」
「どうだろうな」
コナとリーンズのそれぞれのチームが、このフロアで留まってる連中に刺激を与えてくれればいいんだけどなー……。
ぼんやりと、リーンズたちを見ていると、ミーカが激しく俺の肩を叩いてきた。
「マスター! マスター!?」
「どうした?」
「なんか、すっごい☆組み合わせが、第二層に足を踏み入れて、すごい勢いで攻略してる……ッ!!」
「すごい組み合わせ……?」
「なんでしょう?」
俺とミツは訝しんで、ミーカが指さすモニターを見遣ると――
「うおッ!? マジだッ!?」
「これは……ッ!?」
思わず声を上げるほど驚いた。
「ベアノフとコロナのタッグッ!!」
ほとんどベアノフ一人でモンスターを蹴散らし、手が足りない時はコロナが援護する。
トランポリンのような足止めも、コロナがすぐに解決策や答えを見つけだし導く。
危なげがないなんてレベルじゃない。
目の覚めたベアノフと、その変化を認めてコンビを組むことを許したコロナって、やばくね?
『デュンケルさんの話が本当なら、リト兄たちは、娯楽の園であるフロア8で溺れてるってコトだよね?』
『ああ。事実ならちょっとばかし活を入れるべきだな』
地面に落ちてた剣を拾い、それがバケタローに姿を変える。
瞬間、ベアノフの拳がバケタローを消し飛ばす。
顔を引っかく暇も与えない一撃だ。
『ベアノフさん、もうアイテム拾うのやめたら?』
『そうだな。いちいち倒すのも面倒だ』
そんなやりとりをしながら、コロナは古木の階段に向かって火炎のブレスを放つ。
すると、炎に包まれた古木はバケタローの姿に戻り、焼け焦げる。
『そういう見極め方もあるんだな』
『これが完全に階段やアイテムと同じ性質化してたら無理だろうけどね』
そうやって二人はあっという間に本物の階段を見つけだす。ミーカが二人に気づいてから間もなく、ラヴュリンランドへ到達してしまった。
「あはははは☆ 頼もしいネー☆」
しかも、露骨に二人のあとを追いかける探索者チームも結構いるから、そいつらまでフロア8へと雪崩れ込んでくる。
ベアノフとコロナはそんな連中を気にかける素振りもない。
『後ろの人たち、いいの?』
『ラヴュリントスだぞ? 他力本願だけで突破できない仕掛けが絶対ある』
『それもそうだね』
その信頼感はありがたいけど……ありがたいけど……ッ!
「あははははははは☆ こんなに探索者に信頼されるダンジョンマスターっていうのも新しいよね☆」
ミーカは笑っているものの、俺の顔は若干ひきつる。
このノリで行かれると、あのコンビはフロア8とか何の苦労もなく突破しそうなんだけど……ッ!
っていうか、ベアノフッ!
おまえ、攻略から一歩退くとか言ってなかったっけッ!?
コロナと一緒に、めっちゃ良い顔しながら突き進んでるけどさッ!!
カルフ「よしッ! 腕相撲トーナメントとやらに挑戦だッ!」
キルト「三枚交換するわ。カードよろしく」
ニューズ「キルトさんがんばってください!」
コナ(やばいわね、このフロア――何も考えずに攻略してると目的忘れちゃいそう……)
リーンズ(まずいな、このフロア――何も考えずに攻略してると目的を忘れそうだ……)
次回は、久々にサリトス視点でお送りします。
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