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1-7.『フレッド:預ける背中、預かる背中』

    

 ラヴュリントスの第一層フロア1。

 まぁダンジョン探索としては序盤も序盤だ。


 ダンジョンによっちゃ、この時点でアホみたいに手強いモンスターがわんさかいることもあるが、ここはまるで初心者向けだ。


 ジェルラビもスモールゴブリンの亜種も、オレたちからすれば雑魚も同然だしな。

 黄色い毛玉に蛇が生えたようなモンスターもちょいちょい見かけるが、基本的に寝ているようなんで、オレたちは起こさぬように立ち回っている。


 経験則だが、蛇の姿をしていたり、身体の一部が蛇のようになってるモンスターにロクなやつはいない。

 起こさなければ襲ってこないなら、こっちはスルーさせてもらうだけだ。


 ――と。


 先頭を歩いてたオレは軽く手を挙げて後ろの二人に合図する。


 廊下から部屋の中を見れば、ジェルラビとスモールゴブリンが数匹たむろっていた。

 まとめてやりあうのも面倒なので、オレは矢を(つが)えて、数発()る。


 全弾命中っと。


 生き絶えたモンスターは、黒いモヤとなって霧散していく。

 ダンジョンの外に生きるモンスターはともかく、ダンジョンで生まれたモンスターは基本的に死ぬとすぐ消えちまうのは、ここも同じようだ。


 軽く息を吐いて、背後の二人に進もうと手で合図する。

 背後の二人がうなずくのを気配で感じながら、オレは歩き始めた。


 直後――


「ヒャ――ッハ――ッ!!」


 茂みの中から奇声をあげるスモールゴブリンが飛び出してきて、オレの背中へと躍り掛かってくる。

 ビビるはビビるが、オレは特に慌てないし、サリトスもディアリナも落ち着いたものだ。


 スモールゴブリンの手にする太めの棍棒がオレの背中に届く前に、サリトスの剣が閃く。

 上下に断たれたスモールゴブリンは地面へと落ちて、黒いモヤとなり散っていった。


「毎度悪いな、二人とも。

 どうもこのスモールゴブリンの亜種は、茂みの中にいる時、気配がまったく感じられないみてぇだ」


 強さとしては大したことがなくとも、あの手の棒で背中を強打されれば危ないのは間違いない。

 幸いにして、飛び出してくる時に奇声をあげるおかげで、助かっているが、殺し屋の類だったらと思うとゾっとするぜ。


「気にするな。その背を護るくらいはさせてくれ」

「そうそう。フレッドのおかげでラクさせてもらってるしね」

「そうか? まぁ必要以上に背後を気にしなくて良いのは、オレもラクだけどな」


 即席パーティとかだと、先行して斥候したり、事前にモンスターを射って弱らせておいたり――とか、あまりさせてもらえないしな。


 獲物や手柄を横取りするなと来るもんだ。


 だけど、こいつらは絶対にそんなことはしない。

 短い付き合いだが、そう思う。


 ダンジョンでの足の引っ張り合いがどれだけ危険か、ちゃんと理解できてるやつらだ。


 冷静に一つ一つを考えていけば、当たり前だと思うような話なんだが、案外これを理解できてないやつは多い。


 ダンジョンにおいて迷神の沼に沈むのは栄誉あることだと言われている。

 まぁオレも探索者(シーカー)だ。言いたいことはわからなくもねぇ。 


 だけどそれは、最奥の化け物と差し違える――だとか、大切な仲間を逃がすための囮になって……だとか、そういう美談じみたものとセットじゃなきゃならねぇもんだと思うんだ。


 まかり間違っても足の引っ張り合いのあげくに沼に沈んだことを栄誉だなんて言っちゃいけねぇだろ。


 ――だというのに、探索者(シーカー)たちの多くは、ダンジョンで死ぬことそのものを名誉に思ってるやつが多い。

 しかも死因を気にしない。死にたがりなら余所でやれとは思うが、別に連中も死にたがってるわけじゃない。

 その矛盾したような考え方が、どうにもモヤモヤしてて仕方がなかった。



 おっと、話が逸れた。


 ようするに――こいつらは、背中を預かる、背中を預ける……その意味を理解してるから信頼できるって話だ。


「このフロアで行ってないのは、あの廊下の先だけだね」


 あたしが間違ってなければ――なんて小声で付け加えちゃいるが、オレもサリトスもほかに道があったとは思ってないんで、間違ってはいないんだろう。


「それじゃあ、ちょいと様子を見てくるぜ」


 オレは軽い調子でそう告げて、廊下の方へと歩く。

 口調と同じくらい軽い足取りで歩いていたのだが――


 唐突に何か堅いものを踏んだ。

 石か――なんて思って、足下をみると、草の隙間に巧妙に隠された何かがある。


 二人と一緒にいるのが楽しかったからだろうか……オレはどこか、油断しているところがあったらしい……。


 ダラダラと冷や汗が流れはじめるが、状況を把握する為にその踏んでいるものの様子を観察する。


 草に紛れやすい色合いの出っ張りで、その足をゆっくりとズラしていくと、緑色の宝石みたいなものがついていた。

 だが、その緑色宝石は、じょじょに色を赤へと変えていく。


 いや、オレがゆっくりだと感じてるだけで、実際に流れている時間はもっと短かったかもしれない。


 これはなんだ?

 どうするべきか?


 逡巡の答えがでるよりも早く――


 ビィィィィィィイィ! ビィィィィィィィ!!


 完全に赤くなった宝石から、けたたましい音が響きわたった。

 部屋だけでなく、フロア全体に響きわたるような音だ。


「フレッド!?」

「悪いッ、なんか踏んだッ!」


 この音に、何の意味があるかは分からない。


「どうする、サリトス?」

「周囲の警戒だ。何が起こるか分からないからな」


 やかましくて耳が痛くなる音だったが、音が止まったら止まったで、静寂で耳が痛い。


「警戒したまま先に進むぞ。

 現状脱出手段がない以上、何かあっても逃げる先は次のフロアだ」


 サリトスの言葉に、オレとディアリナはうなずく。


「悪いな」

「気にしないでいいよ、フレッド。アンタが気づかなかったんだ。あたしかサリトスが踏んでた可能性はある」

「ディアリナの言う通りだ。どうしてもミスを気にしてしまうというのなら――そう……気落ちするくらいなら、それを消せる活躍で帳消ししてくれればいい。だが、気負いすぎるな」

「ありがたい話だねぇ」


 心の底からそう思う。

 そうして、オレたちは先へと進んでいく。


「フレッド。ここの廊下では無理に先行するな。さっきのトラップのコトがある」


 あの仕掛けの正体が掴めてない以上、サリトスの言ってるのも確かだ。

 先行して様子を見に行くべきかとも思ったが、迂闊に二人から離れるのも危険か。

 

「了解」


 オレは短く返事をして、気を改める。


 そうして、通路の先の部屋に入った時、あのトラップの意味を何となく理解できた。


「黄色の毛玉連中が起きてる?」


 部屋に足を踏み入れるなり、三匹の毛玉たちが一斉にこちらを向いた。

 どうやら、蛇の姿をしている部分は尻尾だったようだ。


 起きている毛玉の見た目は、巨大なひよこだ。


「見た目可愛らしいけど、身体が鳥で尻尾が蛇って、まるでコカトリスじゃない?」


 石化毒を持つことで有名なモンスターをディアリナが口にする。


「まるで――ではなく、その通りだディアリナ。

 俺も実物は初めてみたが、連中の名前はコカヒナス。コカトリスの幼体だ。

 成体と違って毒らしい毒は持ってはいないらしいが」

「成体に比べて、随分と可愛らしいこった」


 嘯きながら、ディアリナは大剣を構える。

 目を付けられている以上は、戦闘は避けられない。


 オレも弓矢を構えようとして、背後を見た。


「廊下の方からも何か来る。挟撃になる前に、部屋の中のやつらを片づけた方がよさそうだ」

「あの耳障りな音――本当に音だけだったのかもしれないが……」

「ああ。気持ちよく寝てたヒヨコどもを叩き起こしちまったのかもね」


 剣を構えながらサリトスは部屋を見渡して、オレたちのところから見て、右手側にある廊下を示す。


「この部屋も、行き先はあれだけだ。蹴散らしながらあの先を目指す」


 オレもディアリナも異論はない。


「いくぞッ!」


 サリトスの言葉とともに、オレたちは一斉に駆けだした。

アユム「おかしい……山賊ゴブリンに奇声を上げる設定なんてしなかったハズなんだけど」

ミツ「頭部(モヒカン)の影響じゃないでしょうか?」


次回、サリトス一行が階段を発見し、降りる予定

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