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4-1.『コナ:解禁、第二階層』

本日より、第四章開始です。

少しの間、コナ&カルフをメインに進んで行きます。よろしくお願いします。


 《手の早い臆病者(ラピーデ・ラッツォ)》と、《掠奪烏(ポータークレーエ)》、それから即席チームの四人組が手を組み、ラヴュリントスのフロア5の階層ボスに挑んでから、二週間ほど経った。


 フロア4、5に出現する狼系モンスターたちが一斉に遠吠えを上げた瞬間が、階層ボス撃破の合図だったと多くの探索者(シーカー)が知ったのは、遠吠え騒ぎから数日経ってからだ。


 フロア3の時のパターンを思えば、もしかしたらフロア5も先へ行けるかもしれないと、探索者(シーカー)たちはにわかに期待をし始めていた。


 正直、そんなにソワソワするくらいなら、自分たちで狼たちの王を倒してくればいい――と思うのだけれど、討伐されて以降、ボス部屋の扉は開かなくなってしまったそうだしね。


「コナ……」


 探索者(シーカー)ギルドの依頼掲示板にぶら下がっている依頼木札を見ながら、周囲の探索者(シーカー)たちの様子を伺っていると、ぐったりした様子のカルフがやってきた。


「どうしたの?」


 今日の私たちは休息日だ。

 それぞれが好きに過ごしていいことになっている。

 もちろん、翌日以降の探索に影響を与えない範囲で……だけど。


 ……にもかかわらず、コイツは妙に疲れた様子だ。


「いや、ラヴュリントスにちょっと行ってたんだけどな……」

「休息日って言葉の意味知ってる?」


 思わず目を眇めると、カルフは慌てたように、背を伸ばし両手をパタパタしながら言い訳を始める。


「いや、フロア3まで行って青い扉で帰ってくるつもりだったんだよ。

 そのくらいなら、大したコトないだろ? ちょっとした身体を鈍らせない為の軽い訓練的な……な?」


 その言い分は……まぁ、わからなくもない。

 だけど、フロア3に行って帰ってくるだけなら、こんなにぐったりはしないはずだと思うけど。


「それで? 何で疲れてるの?」

「フロア3に付いた直後にな、ラヴュリントス中に響くサキュ……もが」


 ふと、直感的に私はカルフの口を塞いだ。

 見開く彼の目を見て、告げる。


「情報は大事って言ってるでしょ? 特に周囲の人が知らない情報はね」


 サキュ……その続きはおそらく、バス。

 ダンジョン内に響くサキュバスの声。

 その正体は明白だ。以前にもあったことだから。


 周囲を見渡せば、ここにいる人たちはそれを知らないのだろう。


「その声を聞いたみんなが一斉に青い扉やロープを使い始めたせいで、帰り道でもみくちゃにされたってコトでいい?」


 コクコクとうなずくカルフに、私はやっぱり……と確信を得た。

 フロア5より先――フロア6が解禁されたんだろう。


 色んなフロアで探索していた人たちが一度、外に出たあとで、一斉にフロア5のボス部屋を目指しだしたといったところかな。


「一度、二階の執務室に行くわ。

 その後、すぐにラヴュリントスに行くわよ」


 カルフに告げて口から手を離すと、私は彼に背を向ける。

 私の背中を追いかけてくるカルフの気配を感じなら、少しだけドキドキしていた。


 あっちこっちでドロップ品を集めてお金を稼ぐのも楽しいんだけど、ダンジョンの未知のエリアに向かうのもやっぱり好きみたいだ。


 ギルマスかサブマスに新エリア解禁の報告だけしたら、すぐに向かうとしましょうか。


「ギルマスたちだけでいいのか?」

「他の探索者(シーカー)たちに共有する理由がないでしょ。

 明日には知れ渡るかもしれないけど、逆に言えば今日この時に知れるのは、現地にいた人たちだけだもの」


 この間、二人と直接やりとりしてから、ギルマスたちは、ただダンジョンに潜っているだけの探索者(シーカー)には分からない色々なことをしているのだと知れた。


 それを思うと、ベアノフさんやヴァルトさんには情報提供が必要だ。


 逆に言えばギルマスたちや、私たちと仲の良い探索者(シーカー)以外に教える理由はまったくない。むしろ、足を引っ張りあう別チームが増えるだけなので、正直邪魔になる。


 私は、カウンターの人に声を掛けて、ギルマスたちに取り次いでもらいながら、フロア6がどんなところなのかと――思いを馳せた。





 お金を稼ぐ為に、あちこちのダンジョンに顔を出しつつも、私とカルフは時々ラヴュリントスにも顔を出していた。


 むしろ、他でお金を稼いだおかげで懐の余裕もあるから、良い装備・良い道具を揃えることができている。それに他のところでの戦闘経験や探索経験が増えたおかげか、以前にウッドシリーズを集めていた頃よりも全然簡単に進めるくらいだ。


 固執する理由がないのであれば、一つのダンジョンにこだわらず色々なダンジョンを経験した方が良いってコロナちゃんの助言は間違ってなかったことになる。


 そのおかげ――というわけでもないけれど、何だかんだで、私たちの女神の腕輪にも、フロア5のボス近くのアドレス・クリスタルは登録してある。


「思ったより人はいない感じなのか?」


 階層ボスの部屋の前でキョロキョロしながら、そう漏らすカルフに私は首を横に振った。


「違うわよ。ダンジョン内にいた人は、だいたいみんなフロア6に行ってるんでしょ」


 こことサンクトガーレンは、往復するのにそこまで時間が掛からない距離だ。

 それでも、カルフが解禁の声を聞いてから、だいぶ経っている。


 カルフみたいに気まぐれに一人で潜ってたりするわけじゃない限り、みんなチーム単位で潜ってるはずだし、ソロであるなら、言わずともがな、てね。

 すでに潜ってるなら、もう準備ができてるってわけだ。

 

「貴方の聞いたサキュバス――ミーカだっけ?――の声によれば、ボス部屋は通り抜けられるのよね?」

「おう。そう言ってたぜ」

「他には?」

「うーんっと……ボス部屋の先にあるアドレス登録はお早めにとかも言ってた」


 つまり、早めに登録しないとここが通り抜けられなくなる可能性がある……のかな?


 思考を巡らせながら、腰元に下げたお気に入りのアクセサリーに触れる。

 緑色の宝石を加工して作られた小さなこのトカゲは、私にとってはお守りみたいなものだ。

 これを撫でていると、少しだけ冷静になれる気がする。


「まずは通り抜けよう」

「おう」


 ボス部屋へ入る為の大きな扉を見上げると、扉の上部に数字が浮かび上がっていることに気が付いた。


 そこには13と書かれている。

 あの数字は、明らかに扉の意匠から逸脱したものだ。

 何か意味があるんだとは思うけど……。


 カルフに聞いてもどうせ気にしないだろうから、私だけ気にしておこう。


「コナ?」

「何でもない。行こう」


 扉を開けて中へ入っていくと、かなり広い。

 ここで《手の早い臆病者(ラピーデ・ラッツォ)》たちは、狼の王との死闘を繰り広げたんだろう。


 ……でも、今はモンスターの気配なんてまったくない、ただの広場のよう。


「正面の扉でいいんだよな?」

「たぶんね」


 最奥の扉を開くと、小さな部屋がある。

 その小部屋の片隅の死角にアドレス・クリスタルがあったので、私たちはそこを登録したあと、階段を降りていった。


 ……階段の方が目立ってるから、ちゃんと周囲を見渡してないと見落としそうなのも意図的なのかな?


 階段を降りた先にある魔法陣の上で、いつものようにネクストと唱えると、フロア1を思い出すような丸太小屋の中にいた。


「カルフ、準備はいいわね」

「もちろん」


 小屋の中の扉に手を掛けて、そこを開ける。


「うわぁ……」


 目の前に飛び込んできた光景は、鮮やかな赤だ。

 いや、赤だけじゃない。黄色やオレンジ――そういう色鮮やかに紅葉した森だった。

 木漏れ日ではなく、しっかりと空を見上げられる。穏やかな青は、まばらな雲が散っていて陽射(ひざ)しも優しい。


 涼しく吹き抜ける風に、木々がざぁ――っと揺れ、掌を思わせる赤い葉っぱや、扇を思わせる黄色い葉っぱがヒラヒラと舞い踊る。

 地面には木々から落ちただろう赤や黄色の葉っぱたちが絨毯のように広がっていた。


「綺麗……」


 思わず見惚れてしまうような光景だ。


 構造はフロア1や2と同じように樹海型の迷宮のようだけど、木々が視界を覆うような鬱蒼とした感じはなく、爽やかで鮮やかな迷宮だった。


 ここは小さな部屋のような場所で、目の前には廊下のように道が伸びる。


 その小道の入り口。そこの左右には、ジェルラビの石像が向き合うように並んでいる。

 左の像は口を開け、右の方は口を閉じていることになんの意味があるのかはわからない。

 さらに言うと、その通路は、朱色の丸太で組まれた小さな門のようなものが連なっている。


「まずは真っ直ぐ進むしかないみたいだな」

「そうね」


 周囲を見渡して確信するように告げるカルフに私はうなずく。


 色鮮やかな葉っぱの絨毯を踏みしめながら、私とカルフは歩き出す。


 小道の入り口には看板が設置してあり、私は思わずその看板を読み上げた。




    第二層 フロア6

      嘘と雅にまみれて戸惑う、鮮やかなる神聖の森



一方その頃……

サリトス「フロア8……なるほど、恐ろしいな、これは…」

ディアリナ「やばいね……これ、色んな意味で突破できるやつ少ないんじゃないかい?」

フレッド「おっさん、次はジェルラビに500コインね!」



次回も、コナ視点で探索を進めていく予定です。


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