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閑話――彼女はカッコいい探索者に憧れる 3

今回でクーリア編は終わりと言ったな……アレはウソだ……(遠い目

プロット上での予定より文章量が4倍を超えてきてしまったので、さらにさらに分割です



 コナ=ウェイビッグとカルフ=シネブリーは、サブギルドマスターに言われた通り、クーリアという少女を連れて、探索者ギルドのサブマスの部屋へと赴いた。


 コナがノックをし、入室の許可を貰うと、三人は中へと入っていく。


「……ギルマスッ!?」


 中にはいると、ヴァルトと共にお茶を飲んでいるギルドマスター・ベアノフの姿があり、カルフは思わず声をあげる。


「おう。まぁ座れ座れ」


 そんなカルフの態度に対して気にした風もなく、ベアノフは部屋にあるソファを示す。

 自分の知ってるベアノフとはどこか違う様子にコナが訝しんでいると、クーリアがコナの服の裾をクイクイと引っ張った。


「おねえさん、座らないの?」

「そうね。座りましょうか」


 クーリアの言うとおり、このまま立ってても仕方がない。


 コナとカルフの真ん中にクーリアを座らせて、ギルマスとサブマスのコンビへと向かい合った。


 ヴァルトは手元のカップの残りをクイっと一気に呷ったあと、カルフとコナを真っ直ぐに見つめる。


「単刀直入に言おう。コナ、カルフ。ギルドから君たちへの指名依頼だ。カルーア高原に行ってもらいたい。

 私の古い知人からの依頼でな。元探索者で今は職人だ。ここ最近、市場に素材が余りにも出回らない為に、緊急依頼がこなせないと泣きついてきた」

「元探索者だったら、自分で行きゃいいんじゃね?」


 説明を聞いていたカルフがそう口にすると、その脳天にコナの拳骨が落っこちてきた。


「またコロナちゃんに、二度と職人に依頼をしないでくださいって怒られるわよ」

「もうすでにコナに怒られてるんだけどッ!」


 頭を押さえ、涙目で抗議するカルフを無視して、コナはヴァルトに視線を向けた。


「その職人さんへの依頼人さんが、むしろ指名依頼までして急ぐ理由ですね?」

「ほう」


 コナの問いに、横で聞いていたベアノフが面白そうに感嘆を漏らした。


「こりゃ、有能な嬢ちゃんじゃねぇか」

「だから言ったではないですか」


 どうやら自分の預かり知らぬところで、評価がされていたらしいと気づき、コナは居心地悪そうに身動(みじろ)ぎする。

 少し落ち着かない気分になるが、腰元に付けているお気に入りの小物――緑色の宝石で作られた小さなトカゲだ――を軽く撫でて、気を落ち着かせた。


「詳細は伏せる。だが、急いで来て欲しい。

 付け加えるのであれば、そのついでにいくつかの依頼も果たしてきてもらいたいのだ」

「追加の依頼内容次第ですね」

「ふむ。ちゃんと交渉の仕方が身につき始めているな。実に頼もしい」


 うむうむ――とうなずくサブマスを見ていると、コナは色々と不安になってくるが、それを表に出さずに、答えを待つ。


「別口の依頼で高品質のルオナ草を求められている。

 高原でモウカウのミルクを採取したら、南下してミヤーゾ森林で摘んできてくれ。ダンジョンである森緑帯(しんりょくたい)に入る必要はない。特別な群生地があるので、あとで地図を渡す。

 だがこれは、とある職人の持つ秘密情報だ。私か、私が信用している探索者にしか見せてはいけないと言われている。

 その地図情報の流出は、同時に私の築き上げてきた信用と信頼の失墜に他ならない。取り扱いに気をつけろ。流出を確認した際は、相応の仕置きをするからな」


 話を聞きながら、コナの顔がひきつる。

 自分がそんな仕事をしていいのだろうか――と。


「たかが地図くらいで大袈裟だよなぁ……なぁ、コナ?」

「…………」


 カルフから話を振られ、コナは真っ青な顔をしながらカルフを見返す。


「アンタ――本気で言ってる?」

「え?」


 首を傾げるカルフに、コナは思わず両手で顔を覆って俯いた。


 そんなコナの肩を、クーリアが慰めるようにポンポンと叩く。


「え? 何でそんな反応するんだ?」

「おにいさん、サブマスさんのお話をちゃんと聞いてた?」


 幼女に半眼を向けられて、ようやくカルフも何かやばいことを口にしたと自覚したようだ。


 それを見て、コナは思わずクーリアを抱きしめた。


「クーリアちゃんッ! いい子ッ!」

「ほんとッ!?」

「ほんと、ほんと!」

「えへへー……」


 褒められながら撫でられるのが嬉しいのか、クーリアは嬉しそうにはにかんだ。


「それに比べて、カルフと来たら……」

「な、なんだよー……。

 儲けられるのは助かってるけど、最近のコナは難しいコトばっか言ってて意味わからねぇんだよ……」

「分からないなら分からないなりに、依頼人や相手が求めてるコトを理解しようとする素振りくらいは見せなさいよ」


 そんなコナたち様子を、ベアノフはニヤニヤと見守る。


「あのね、おねえちゃん……」

「なに?」

「おねえちゃんが、カルーア高原とミヤーゾ森林に行くなら、わたしの分のモウカウミルクと高品質のルオナ草を取ってきてもらいたいの……ダメかな?」


 クーリアがコナを見上げながらそう言うと、コナは困ったような視線をヴァルトに向けた。


「君がしたいと思うのならばすればいい。

 採取依頼の時は少し多めに採取してくる探索者は多いだろう? 多めに納品して報酬に色を付けてもらうもよし、多めに採取し必要量だけ納品して残りを自分のものにするのもよし、だ。

 自分のものにした採取物を君がどう扱おうと、君の自由のはずだが?」


 依頼を正しくこなせるのであれば、それ以外は不問だと言うヴァルトの言葉に、コナはうなずき、クーリアの目を見つめた。


「わかった。お姉ちゃんが、採ってきてあげるよ」

「ほんとッ!」

「うん」


 コナはクーリアを安心させるようにうなずき、もう一度彼女の頭を撫でたあと、ヴァルトへと向き直った。


「そういうワケですので、依頼は引き受けさせてもらいます。ギルドの直接指名依頼なんですから、報酬はちゃんと出るはずですよね?

 出なかったら、ヴァルトさんだけじゃなく、ベアノフさんや先人たちが築き上げたギルドの信頼感がなくなっちゃうかと思いますけど」

「そういう脅しを掛けてこなくても、ちゃんと払うつもりだ。だが、悪くない。こちらがわざと報酬の話をしなかったコトにちゃんと気づいたな」

「私たちを試したいんですか? 依頼をしたいんですか?」

「両方だ」


 コナが目を眇めると、ヴァルトは即答する。


「うし。ヴァルト。俺もコナたちと一緒に行くぞ。

 コナの心配はしてねぇんだが、カルフには不安を覚えるからな」

「私も今日明日は少し出かける予定だったんですが……ギルドに責任者が誰もいなくなりますよ?」

「何言ってやがる。責任者になりてぇやつらなんざ、ギルド内に一杯いるだろうが。

 何せ、お前は臆病者で役立たずなサブマスなんだからよ。お前がいなくてもギルドはちゃんと回るハズだぜ。そうでなけりゃ、お前を役立たずのお飾りサブマスだなんて笑えねぇはずだしな」


 多分に含みを持たせてニヤリと笑うギルマスの意図を汲み取ったヴァルトは、手を軽く開き人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げなあら、ひとつうなずいた。


「そういうコトでしたら安心ですね」


 微塵も安心できない――と、コナは心の中で叫ぶものの、敢えて表に出すことはしない。


 カルフもギルマスとサブマスのやりとりに思うことがあったのか、コナの耳元で訊ねてくる。


「……なぁ、コナ……あの二人、機嫌悪いのか……?」

「機嫌が悪いというか、いい加減我慢の限界が来た……が正しいのかも?」

「ギルマスさんやサブマスさんのお仕事も大変なんだねぇ……」


 コナとカルフの間でクーリアが呑気な感想を漏らす。探索者たちはアクの強いものが多いから、大変なのは間違いないだろう。


「それよりカルフ。今回の仕事にはギルマスも一緒に来るみたいだから、余計なコトしないでよ」

「任せろ。ギルマスに認められるくらいカッコ良く活躍するぜッ」

「ほんと……勘弁して……」


 グッと親指を立てるカルフに猛烈な不安を感じて、コナは手を額に当てながら天を仰いだ。



「クーリア」


 ヴァルトはコナとカルフのやりとりに苦笑しながら、二人の間に挟まれているクーリアを呼んだ。


「君は、私と一緒にダンジョンに来てもらう」

「え?」


 言いながらヴァルトが差し出してきたのは、一つの腕輪だった。


「利き手はどっちだ?」

「右です」

「なら、その腕輪は左に付けろ」


 一見するとブカブカだったその腕輪は、クーリアが付けると、ちょうど良いサイズに形を変える。


「相変わらずすごい腕輪よね」

「これ、外せる……?」

「おう。外したいって思いながら動かせばいいんだ」

「あ、はずれた!」


 楽しそうに付けたり外したりを繰り返すクーリアをしばらく見ていたヴァルトだったが、ややしてから声をかけ直す。


「クーリア。私が君を連れていくダンジョンには、その腕輪がないと入れない。

 そして、その腕輪は最初に身につけた者以外は、身につけるコトができなくなるモノだ。大切に扱え」


 コクコクと神妙な顔をしてうなずくクーリアに、ヴァルトは微かに笑った。


「大事な話を素直に聞き入れるのは美徳だな。将来的にはコナのように、聞き入れて良い話かどうかの分別が付くようになるのが理想だが」

「がんばるッ」

「ははははッ、このやる気は買いだなッ!」


 気合いを入れてうなずくと、何故かギルマスは楽しそうに笑った。

 そんなベアノフに、ヴァルトもうなずく。


「そのダンジョンで試してみたいコトがある。副産物としてフワラビの尻尾が手に入るかもしれないので、君も付いてくるといい」

「はいッ!」

「あそこなら、私の言うコトを守る限りは比較的安全だ。

 将来、探索者を目指すのであれば、ダンジョンの空気というモノに触れておくのも良い経験だぞ」

「うんッ!」


 元気に返事をするクーリアを見ながら、ベアノフが自身の無精髭を撫でながら、苦笑する。


「あそこのフロア3は、このくらいのガキの教育にはちと良くねぇ気もするがな」

「あー……それは、確かにそうッスね」

「大丈夫なんですか?」


 そんな三人の反応を見ながら、ヴァルトは大丈夫だとハッキリと口にした。


「フロア2でアリアドネロープを使うから問題ない」


 こうして、ベアノフ、ヴァルト、コナ、カルフは、それぞれの目的の為に準備をすると、その日のうちに出発することとなった。


 ちなみに、クーリアの分はヴァルトとコナが調えたのだった。


ベアノフ「よろしくたのむぜッ!」

カルフ「こちらこそよろしくッス!」


コナ「……お腹が……お腹が、なんか……キリキリしてくる……ッ!?」


次回こそ、クーリア編は終わる……予定……終わるといいな……(弱気


それはそれとして――

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カルフに対して不安しかない……ッ!! あと100話おめでとうございます!
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