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1ー6.甘やかし過ぎもよくないよ

     

「よろしいのですか、アユム様?」

「なにが?」


 ダンジョン探索を始めたサリトスたちをモニタリングしていると、ミツがそんなこと聞いてきた。

 聞いてきたんだけど、質問の意味が良くわからなくて、俺は首を傾げる。


「第一層のフロア1と2は、定期的に形が変わるローグエリアというものにしたのですよね?」

「そうだね」

「あの探索者(シーカー)たちを気に入られたのですから、マッピングはあまり意味がないとか――そういうアドバイスとかしないのかな、と」

「する必要ないよね?」

「え?」


 むしろ、なんでその必要があるのかが分からない。


「でも、女神の腕輪にもマップ機能が……」

「その機能はフロア2をクリアすれば、チュートリアルが発生するようになってるよ。今する必要はないよね?」


 どうにも、俺とミツで何かに対する認識が異なっている気がする。

 あるいはまだ俺の知らないこの世界のルールのようなものがあるのだろうか。


 そこで、ふと思いついたことがあったので、ミツに訊ねてみる。


「もしかして、これまでのダンジョンマスターって贔屓の探索者(シーカー)に、なんかしてた?」

「はい。贔屓された探索者(シーカー)は、面白いくらい探索がうまく進むので、『追い風の祝福』と称されてます」


 贔屓した探索者(シーカー)に、こっそりとアドバイスしたり、トラップを発動させなかったり――などやっているらしい。


「ふむ。

 ミツは――サリトスたちを『追い風』だけでのし上がってきた連中に見えるのか?」


 真っ直ぐにミツを見据えながら問いかける。

 こうやってまじまじ見ると、ミツはマジ美少女だ。

 いやまぁ、今はそういうことをする場合じゃないので、ちゃんとシリアスな顔はしておこう。


「もしミツがそういう風に思っているのだとしたら、それはあいつらに対する侮辱だぞ?」


 サリトスたちの行動。言動。その他諸々。

 それは経験に裏付けされた確かなもの。


 この部屋でモニタリングしているだけでも、それをハッキリと感じ取れるような連中だ。『追い風』なんてなくても、ダンジョン攻略くらいやってのける。


 まだ彼らをモニターしはじめて一日も経ってない。

 だけど、俺の中には、あいつらに対する確かな信頼のようなものが芽生えてる。


「侮辱だなんて――むしろ逆です。

 彼らのような探索者(シーカー)がこの世界には必要です。

 だからこそ生き延びて欲しいのですから」

「ああ――それで、『追い風』か」

「はい」


 なるほど、理解した。

 ミツや、他のダンジョンマスターが彼らを贔屓する理由も分かる。


 だけどそれは――


「過保護すぎるのも虐待だぞ」

「え?」


 思わず呟いた言葉に、ミツはキョトンとした顔で目を瞬いた。


「あいつらみたいな探索者(シーカー)を護りたいのは分かる。

 だけど、露骨に贔屓して護るのは違うって言ってるんだ」


 最初の数回や、数時代に何度か――くらいなら問題なかっただろうけど、ミツの言い方だと、ほとんどのダンジョンマスターが贔屓をしていたことになる。


「もしかしたら……一般の探索者(シーカー)の中には、『追い風』前提の攻略方法とかもあったりするんじゃないのか?」

「そうですね。探索者(シーカー)たちは、『追い風』を得るコトを期待してる者は少なからずいます」

「それはそれでアホらしい」


 『追い風の祝福』なんて言えば聞こえはいいけど、つまるところそれはダンジョンマスターの気まぐれだ。

 探索者(シーカー)全員が得られるものでもないし、得るには運も実力も関係ない。


「そんなものに期待してる時点で、俺から言わせれば三流以下だ」

「そうすると、ほとんどの探索者(シーカー)が三流以下になるかもしれませんが……」

「だから、鍛え直して意識改革するんだろ?

 今まで通りのやり方でダメだったから、俺を呼んだんだろ?

 なら、人間たちだけじゃなくて、鍛える側のミツたちの意識も変えていかないとダメだ」


 あまり表情は変わってないけど、ミツはショックを受けたように固まっている。でも、そんなに驚くことじゃないだろう。


「話を聞く限り、ミツたち御使いや創造主は、試練を与えている様で甘やかしてるっぽいしな」


 ダンジョンの存在が悪いんじゃない。

 人間がダンジョンに頼るのも悪くない。

 だけど現状を聞く限り、この世界の人間はダンジョンを通して、お前たち御使いや、創造主に甘え――いや依存してるように思える


 それは、ダンジョンに依存しているよりもずっと不健全だ。


「だから俺はその依存心を断ち切れるようなダンジョンにできればいいなと思ってる。

 その為にはもっとこの世界のコトを知る必要があるからな。俺に出来ないコト、知らないコトがあった時は、頼らせてもらうからな、ミツ」

「はい!」


 良い返事をするミツにうなずきながら、俺はモニターへと視線を戻す。

 ……戻しながら、思う。




 こんな偉そうなことを口にしてはいるものの、実際のところはどうなんだろうなー……なんて考えているとか、口が裂けても言えない――……。


 まぁでも、『追い風の祝福』って単語は気に入ったので、今後どこかで使おう。




 さてさて。

 俺とミツのやりとりはともかく、サリトスたちの様子は、と――


 気を緩めず、余裕を保ち探索をしているように見える。


 どうやら順調のようだ。

 フロア1には、大したモンスターは配置してないしな。



 基本的にこのフロアに出てくるのは三種類。

 それをちょっとだけ紹介しよう。



 まずは『ジェルラビ』っていう、ウサギ顔のまん丸スライム。

 耳っぽい触手と、尻尾っぽいまん丸触手(?)も付いてる。中々かわいい感じのやつだ。

 見た目もスペックも、いかにもRPGの初戦闘で遭遇するやつっぽいので、採用。

 単体コストは3DP。



 続いて『山賊ゴブリン』。

 ゴブリンの中にはスモールゴブリンという種族がいる。

 普通のゴブリンの平均身長は百五十センチメートルほどらしいんだけど、それよりも小さいサイズで、百三十センチメートルほどの種族なのだそうだ。

 山賊ゴブリンは、そのスモールゴブリンという小型のゴブリンをベースに、毛皮製のノースリーブベストと麻のズボンを身につけさせ、棍棒を装備させた。さらに頭部がモヒカンになっているというこのダンジョンのオリジナルモンスターだ。

 見た目アレンジとかシステム的に可能だったのでやってみた。

 なおベースとなっているスモールゴブリンそのものが、ジェルラビと同ランクのモンスターなので、その強さはお察しである。

 ただ、特定状況下でのみ発動する気配遮断のルーマを取得させているので、油断していると危険なやつだ。

 基本的な単体コストは4DPだけど、アレンジしてるので追加で4DP必要だった。



 最後に『コカヒナス』。

 薄黄色のふわふわな体毛のひよこに、足のないカナヘビみたいな尻尾を伸ばしたモンスター。こいつの最終進化系はいわゆるコカトリスってやつらしい。これはその幼体なんだそうだ。

 メインボディのヒナ部分はふわもこでかわいいし、尻尾の蛇も愛嬌があってなかなかかわいい。

 これでサイズが一抱えほどという大きさでなければ、なおかわいかったかもしれない。

 なお、今の段階だと石化ブレスも、猛毒攻撃もまったく使えないので、つつく、噛む、蹴る――くらいしかできないそうだ。

 攻撃手段だけでなく単純なスペックも低いが、この三匹の中では強さが頭……いや尻尾少し分くらいは飛び出している。

 ポップ率は高めにしてあるけど、スペックが高いので出現時に高確率で居眠りにしておいた。何も考えないでいると、黄色い巨大な毛玉が転がっているようにしか見えないだろう。

 ちなみにこいつの単体コストは5DP。


 まぁどいつもこいつも、いかにもな序盤モンスターで、低コストなやつらである。


 ――そして、当たり前だが、サリトスたちはこの程度のモンスターに遅れを取るような奴らじゃない。


 モンスターを見かけたら、まずフレッドが先制して一撃で撃ち抜く。

 時々、山賊ゴブリンが茂みの影などから飛び出して強襲するが、慌てることもなく、サリトスとディアリナが斬り伏せる。


 弱くて拍子抜けしてるかもしれないけど、まぁ――これからこれから。


 前世のゲーマーとしての知識をふんだんに利用した……この世界においては、このダンジョン独自のアイテムや仕掛けの数々で、楽しませてやるからなッ!

 一見、意味ありそうでカッコ良さげなコト言いつつも、内心はわりと行き当たりばったりだったりしてるアユム。

 そんなアユムのポーカーフェイスにすっかり騙されてるミツ。そして、そろそろお話のストックに追いついてきてしまった現状。

 様々なモノが交差しつつも、次回はフレッド視点でフロア1の攻略道中の予定です。

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