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004 学園の入学試験

 学園の入学試験の日がやって来た。 ソウスケと青竜シエル、アマネと白猫ギンの二人は二匹を伴って試験を受けるべく学園に来ていた。 アマネが言うにはどうやらこの王国の各地から総勢200人以上集まって来ているということだ。 スケジュールは筆記、魔法実技、剣術実技の順で、最後に面談を受けて最終の合否を言い渡される。 合格できれば来月には学園生活と授業が始まるわけだ。


 ソウスケとアマネの身元は、遠くの異国生まれで旅の途中で船が難破したため、単身この国に流れ着いた天涯孤独の身の上で、尚且つ今後はこの国に住みついてこのままこの国に骨を埋める覚悟だという長い設定になっている。 また青竜シエルと白猫ギンは、 ソウスケとアマネの『使い魔』ということで届けられていた。

 願書はアマネに丸投げしてあったのだ。 細かい設定とかが気になるが、今更何を考えた所でどうしようもなかった。


 最初の筆記試験は、この学園の教室で行われた。 学園は石造りの高い天井でヨーロッパの古い佇まいを思い出すようなアーチ型の出入り口と扉が印象的だ。 教室の作りも日本の大学の講義室を一回り大きくしたぐらい広かった。

 筆記試験そのものは、この世界での読み書きと簡単な計算能力を試す問題だけなので、ソウスケ達には楽勝だった。 二人とも余裕で筆記試験を突破できたはずだクリアできたはずだ。


 魔法の実技試験は一人ずつ審査員の前で2種類の魔法を使って見せるというものだ。

 ソウスケとアマネは控室から遠目で他の受験者の魔法実技を眺めていた。 標的に火球を当ててきれいに破壊していた受験者が二人だけいた。 それ以外ははっきり言ってチョロチョロパッパッといった感じだ。 標的に火を着けたり、水を召喚したり、小さな旋風をおこしたりする程度だった。


 ようやくアマネの順番が回ってきた。

 ソウスケは控室から遠巻きではあるがアマネの試験を見学していた。

 だがシエルのほうは落ち着きがなく、控室の中をキョロキョロ見回しながらパタパタと飛んでいた。


 アマネの一階目の試技はファイヤボールを発射し標的の木板を粉砕した。 魔法発動が一瞬の早業で、狙いも正確無比なのは相変わらずだ。


 2回目の試技は、萎れかけた花に回復系魔法を掛けていた。 萎れかけた花がみるみる元気になった。

 実のところアマネは回復系の魔法も得意なのだ。


 試験教官が大きな声で「次231番!」と叫ぶのが聞こえた。 次はソウスケの番である。


 ソウスケは控室を彷徨っていたシエルは放置しておいて、さっさと試験管達の前に出ていった。

 試験官の一人が注意事項を読み上げてから、「始めなさい」と大きな声で号令を掛けた。


 いよいよである。 ソウスケは少し緊張していた。

 ソウスケの1回目の試技はファイヤー・ボールだ。 標的に無難に当てて粉砕した。

 2回目の試技ではアイス・スピアーを発動させた。 標的に氷柱が突き刺さっていた。


 無難に試験を終えた二人は、ほっとしていた。


「さあ、さっさと次行くぞ! 次は剣術の実技試験だ」


 そう言ってソウスケは颯爽と戦闘を歩き出した。


 剣術の実技試験が行われるのはすぐ隣にある教練場だった。

 試験は学園の実技教官と、五分間三本本勝負の試合形式で行われる。

 試験官がその試合の様子を見ていて採点評価するという試験だった。 実際のところ5分間も戦えば実力は十分評価できるという事だろう。

 受験生達は組分けされて、各組が同時進行で対戦始まった。 幸いソウスケとアマネは同じ組で試験を受けることになった。


 ソウスケ達が仮設の控室に入ると試合に使う練習用の木剣が無造作に箱に突っ込まれていた。 好きなものを選べという事だ。 練習用の防具も整理棚に整然と収納されていて自由に借りることができた。

 アマネが選んだのは少し短めの木製の剣を二本だ。 二刀流の女剣士という出立ちが決まっていた。

 ソウスケは少し長めの剣を一本選んだ。 ちょうど日本の木刀サイズだが、剣の反りが無いのがいまいち気に入らなかった。


 各自使うで剣と防具を確認した後、他の受験生の試合を見ながら自分の番が来るのを待った。


 観戦していてすぐに気がついたのは、実技教官と称する対戦相手の中には街の若い衛兵達が混じっているようだ。 防具の下は衛兵の制服が見え隠れしていた。 たぶん試験のためだけの助っ人だろう。


 待つこと一時間ぐらい経っただろうか、ようやくアマネの番が回ってきた。 女性の受験生の相手は女性の教官であった。 少しでも試験を受けやすいようにと細やかな学園側の配慮があるのであろう。

 アマネの相手をする女性教官の装備は、ちょっと忍者っぽい金属プレートの額当て、革製鎧、両手持ちの長剣という具合だった。


「始めっ!」

 

 審判が号令が掛かると同時に、アマネは走りだして二刀の剣を次々に打ち込んでいった。


「カンカン、カン、カン」


 女教官は両手持ちの長剣一本で受け止めていたが、防戦一方だ。

 アマネの剣戟はしばらく休みなく打ち込まれていたが、突然、剣と剣が打ち重なる音が止んだ。

 アマネが息を整えていた。 そして助走を付けながら素早く相手にスピンを掛けながら打ち込みを仕掛けた。


「カカン!カカン!カカン!」回転力と自身の体重を全て剣に載せた重い6連打が打ち込まれていたが教官の剣は辛うじて全てを受け止ていた。

 試合を見ていた試験官達が「おーー」と低く声を上げた。

 女教官はなんとかアマネの連打を受けきっていたが、腕だけではなく足腰の腱が、剣戟を受けて軋んでいるのを感じていた。


 アマネの剣は左右に変幻自在な攻撃を繰り出したかと思うと、次にはスピンを掛けた強烈な連打を打ち込む。

 絶えず動きまわりながら剣を打ち込むアマネの攻撃にたいして、教官のほうは防戦一方となっていた。


「それまで!」


 審判の声が上がった。 試合は時間切れで引き分けであった。


 アマネの相手をしていた女教官が休憩用の席に戻って木剣を置いた時、その自分の掌をみて驚いていた。

 強烈なアマネ連打を受け続けていた剣を握っていたその掌は、赤黒く痣になっていたのだ。

 彼女はもう笑うしかなかった。

「今年の新入生は思ったよりも活きがいい」

 そう言いながら彼女の目がキラリと輝いていた。


 アマネはいつもの溌剌とした笑顔でソウスケのほうに手を振って控室へ戻って行った。


「アマネのやつ、教官を完全圧倒していたぞ」


 次はソウスケの番だ。 アマネの一方的な攻撃をみていたので、既に自信を無くしかけていた。

 だが、うじうじ考えている暇もない。


 ソウスケが前に出ていくと、相手は厳つくて鼻息の荒いマッスルタイプの強面教官が出てきた。

 本職の教官に当たったようだ。

 教官は革製の鎧と金属と革で作られたヘルメットを着用していた。


「始めっ!」


 号令が掛かかった。


 ソウスケは剣を上段で構えて静止し教官を凝視していた。

 右手の観戦席から黄色い声援が掛かった。


「先生~! 頑張って~!」


 声のするほうに気を取られて、教官の目が泳いだのをソウスケは見逃さなかった。


「今だ!」


 と思った瞬間、ソウスケは反射的に踏み込んでいた。

 試験場に「カーン」という金属音が響いた。

 教官のヘルメットにソウスケの剣が打ち込まれていた。教官は微動だにせずそれをマトモに食らったのだ。

 辺が一瞬静まり返った。

 教官はゆっくり両膝を地面について後ろへ仰け反った。


 「1本!」 審判の声が響いた。


 教官は意識朦朧としていた。 ソウスケは「しまった、やり過ぎたかも」そう思った。

 教官は直ぐにヒールを掛けて貰い我に返っていた。

 教官の鼻息はさっきにも増して荒かった。 これは完全に怒らせてしまったパターンに違いなかった。


「始めっ!」


 2本めの試合の合図が掛かった。

 ソウスケは先程と同様に上段に構えて相手を凝視していた。

 今度は教官もよそ見をせずに怒りの形相でにこちらを睨んでいた。


 睨み合いを始めてから長い沈黙が経過していた。 教官の頬を汗が滴り落ちていく瞬間だった。 ほんの一瞬である教官が瞬きをしたのをソウスケは見逃さなかった。 ソウスケはまた反射的に踏み込んで木剣を打ち降ろしていた。


「ゴン!」 さっきよりも鈍い金属音が響いた。


 教官は先程と同じように両膝を地面について後ろへ仰け反っていた。

 だが今度は完全に白目を剥いていた。


 「1本!」 また審判の声が響いた。


 ソウスケはほとんど反射的に相手の一瞬の空きを見逃さずに打ち込んでいた。 しかも連続2回である。 

 どうやらソウスケは学習するという事を知らないようであった。


 ソウスケは「今度こそ、無難に試験を済ませよう」そう自分に言い聞かせたが、所詮は無駄なあがきであった。


 三本目は試合は教官が交代していた。

 装備は先程と同じく革鎧にヘルメットを着けていたが、少し長身で明らかに落ち着き払っている。

 そして強い威圧感を放っている。


「始めっ」 三本目の合図が掛かる。


 ソウスケはサッと上段に構えた。 また上段にである。


 今度の教官はよそ見もしなければ隙も見せなかった。

 この時、ソウスケは今度の相手は先程よりかなり強い。 自分が普通に戦っても全然問題ないだろう。 そんな気持ちを抱いていた。


 静寂が続いた、ソウスケの耳に聞こえているのは相手が息を吸っては吐く呼吸の脈動だけであった。 またその眼は教官の視線を正確に読み取っていた。

 教官が何所へ打ち込んでやろうかと視線を僅かに揺らがせた瞬間だった。


「カーン!」 またソウスケがヘルメットへ打ち込む金属音が響いた。


「1本!」 これでソウスケの三本勝ちが決まった。


 今度の教官はさすがに気を失わ無かったが、ヘルメットを脱いで頭を痛そうに押さえていた。


「参ったなぁ、231番、君はすごいね」教官はそう言いながらソウスケと握手をして戻っていった。



 ソウスケは申し訳なさそうに教練場を後にした。


 この日ソウスケもアマネも気がついてなかったが、教官相手に三本を取ったのはソウスケ一人だけだった。 また教官に一本も取られずに引き分けたのもアマネ一人だけだった。


 ソウスケの試合は素人目には手加減をしてわざと打ち込ませてもらった様にしか見えなくても不思議ではなかった。

 だが実際は試合相手の一瞬の犂を付いて剣を振り降ろしていた。 それ故に対戦相手はほとんど動く事もできずに打ち込まれていたのだ。


 ソウスケは何故こんな事になったのだろうかと考えていた。

 いったい何を間違えたのだろう。

(そう、その原因はシエルだ。 何も言わずに剣術の奥義をその知識をソウスケに転送していたからだ)


 入学したらあの鼻息の荒い教官にたっぷり虐められるに違いない。 そう思ったソウスケは一瞬身震いを感じたが、それ以上は考えるのは止めた。


 あれこれ考えても仕方がない。 あとは出たとこ勝負しかないだろう。

 だが上段で構えるのだけは、当分の間は封印だ。


 試験は全部終った。

 ソウスケはちょっと後悔と不安が顔に過ぎっていたが、アマネはすっかりリラックスしていた。


「試験は全部終ったし、後は面接だけだね。 さあ行っくよん」


 ソウスケとアマネは最後の面接を待つ控え室へ向かった。


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